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王と王妃と側妾  作者: 氷雨
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 当代の彩栄王には、正妃である王妃の他に数多の側妾が後宮に納められているが、そなかでも殊に後宮内で格の高い部屋には、彩栄王の腹違いの妹がその部屋を賜っていた。

 公式には王女になっているが、二つの性をあわせもつ両性であるその王女は、父王の死去の後、兄王の側妾となった。

 元来、彩栄は王族内でのみ、近親婚を認めておりまたその側妾の母の身分が低く、他家に嫁ぐこともなく、腹違いの兄の側妾となった。

 十五の年に側妾になると、直ぐに一人目のそれも王子を産み、さらに翌年王女を産んだ。

 彩栄王が王太子時分に婚姻した王妃には長らく、子がない。王の異母妹とはいえ、たかが側妾風情に先んじて王子を産まれた屈辱に、王妃は震えた。

 そもそも、側妾は両性であることもあり身体が弱い。彩栄王の伽も、体調の優れぬおりには行えないというのに、直ぐに二人も子を授かるとは。

 王妃の頭痛の種は、そればかりでない。

 彩栄王は、色を好み後宮に次々と若く美しい娘らをいれ、彩栄王の寵愛を巡り娘らは研をきそっている。後宮内で、いさかいが絶えず後宮の長である王妃は、そのことにも頭を悩ませていた。

 だが、彩栄王は気まぐれで飽きやすく女らの入れ替わりがとみに激しい。後宮のなかで長らく住まっているのは王妃は勿論のこと、二人の子を産んだ側妾のみだった。

 彩栄王の寵は、非常に移ろいやすく女らのいさかいが絶えない。

 王妃は、後宮内でも格の高い部屋を賜っている側妾を呼び、茶と茶菓子でもてなす。侍女以外の話し相手といえば、この側妾しかいない。

 二人の子の存在と、長らく夫の寵を競っている側妾に嫉妬しないわけではないが、この側妾は、己の分と立場を弁えており王妃わ敬い、そして義理の姉としても慕っている。

 もとが自国の王女でもありまたおそらく、気質のせいか権力に興味は薄く、王妃をたて、常に王妃の後ろに控えている。

 王妃が茶をすすりながら、溜め息をつくと菓子を食べていた側妾が、如何なされました、王妃様と気遣わしげに尋ねる。



「新しくはいった娘のことですよ、朔夜。陛下が宴で見初めた舞姫ということもあって、矜持が高く他の娘とも問題をおこしているのです。あなたのところへはなにもないでしょうね?」



「え?は、はい。王妃様、わざわざ案じてくださってありがとうございます。私のところは何も」




 周りの娘と、くだらないいさかいをおこすあの舞姫も流石に王の異母妹、二人の子を産んだ側妾には無用なちょっかいを出してはいないようだった。



「あなたを案じているわけではありませんよ。あなたになにかあれば、陛下が騒がれます。あなたも陛下の側妾ならば、陛下をお止めすることも覚えなさい」



「わ、私にはそのようなこと。王妃様しか、そのようなことは出来ません」



「だからあなたと陛下を二人にすると心配なのですよ、騒ぎが大きくなりますから」



 王妃が朔夜に二つ目の菓子をすすめたところに、執務を抜けた彩栄王が訪れた。

 案内した侍女を手をふり返した彩栄王は王妃の傍らで茶菓子を食べている側妾を目にとめると、つけつけとした口調で詰問した。



「何故お前が、王妃の室にいる。お前風情がここにはいれるわけがないのだぞ。それに、体調が優れないといって私との伽を断ったのに、呑気に菓子など食べおって」



 上座にすわった彩栄王は、王妃が手ずから淹れた茶をのみ、申し訳なさそうに微笑む側妾にさらに文句をいう。



「他の女どもの相手をしてもよいのに、気が向いてお前の相手をしてやろうと思えば体調など崩しおって」



 気が向いて、と彩栄王は言っているが一月に十日以上伽をさせている頻度を思えば、その言葉の虚偽がわかる。王妃と朔夜の伽の回数はほぼ同じだが、朔夜は体調を崩すことがあって実質的には王妃の方が多い。

 菓子を口にいれながら、彩栄王は側妾の顔色をうかがい、何事かを決めたように頷く。

 すかさず王妃は王を牽制した。



「今朝方、ようやく体調が戻ってきたのですよ。伽はお控えください。朔夜の身体にさわります」



 図星をさされた彩栄王は、王妃を睨みならば他の女のもとに参る、と来たとき同様唐突に部屋を出ていった。

 おろおろと狼狽する朔夜に、茶を淹れてやりながらあなたも体調が優れぬときにはお断りなさい、と王妃はさとした。

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