捨てられた僕
ザァザァと降り続ける雨の音。
小走りで駆けていく足音。
場所は無人の小さな小屋がある森の入り口。
この森は、Sランクの冒険者や魔法使いでも滅多に入ることのない、一度迷い込んだら出ることは出来ずまた高ランクの魔物がぎっしり詰まった場所だった。
置いていったのではなく捨てられたのであろう彼は綺麗な布に包まった1歳にも満たない小さな赤ん坊だった。
このままでは死んでしまうだろうということは誰の目から見てもはっきりしていた。
だが、当の本人はそう気にしていなかった。
なぜなら、彼には前世の記憶があったからだ。
楽観視していたのではない、状況を理解できなかったのだ。
妹に殺され死んだと思いきや変な声のする場所に寝っころがって、それなのに気がつくと転生していたようだったからだ。
転生したからには自分の身分を知り、その上で不自由をしない程度の能力を身に着けて自由に生きようと将来を考えながらやっとハイハイが出来るくらいに成長したとき、なぜか布にくるまれて謝られながら置いていかれたのだから頭が追いつかないのも無理はない。
△×△×△×△×△×△×△×△×△×△×△×△×△×△×△×
にゃあという声が聞こえたとき、僕は鳥肌がたって背中がぞわりとした。
恐る恐る横を見てみるとそこには巨大な猫が立っていた。
こちらを、まるで餌を見るような目で見ていたことから食われると思い、急いで布をとって全力で逃げた。
といっても、赤ん坊のハイハイなんぞで猫から逃げることが出来るとは思っていないが。
それでも食われるのだけは嫌だったので必死に足と手を動かした。
後ろを見て見えなかったので、もういないと安心したその瞬間前を向くとそこには先程の巨大な猫がいた。
「あぁぅう…」
僕は全てを諦めた。
もう終わりなのだ。
ここで食われてハイさよならというわけなのだ。
(…それでも、もっと生きたかったな。こんなわけのわからない森に来て何をすれって言うんだよ)
そんなとき、近くから声が聞こえてきた。
「…人種の子供か?何故こんなところに…」
声の主であろうあの女の人が今の僕にとってはまるで神様にも見えた。
「ミィア、こいつを家に連れて帰る。…捨てられてしまったのであろう。それに今日の晩飯を楽しみにしといてくれ」
(こ、この人は猫側の人だった!?それに、晩飯!??食われるの僕?)
「ちょ、あっえうあちゃい」(ちょ、まってください)
「ん?新しい言葉か…?最近の人間はそんな言葉を使うのだな」
「いえ、ほうぇはあぃんえう」(いえ、そうではないんです)
「ほう?家に砲はあるんですかって?ないんだな、すまないよ」
「あ、あぃうえぇ…」もうどうでもよくなった。
どうやらこの人は悪い人ではないようだ。
それに転生したといえ体は子供、このままここにいても何も良いことがない。
僕の生みの親、というか母は僕のこと捨てたみたいだしとりあえずこの人についていくことにしよう。
「はは、私の名前はメノウだ。…わからなかったかな?まあ、仕方ないか。こんなに小さいんだからな」
「ミャオゥ…」
メノウさん…覚えておかなくては。
メノウさんは僕を抱きかかえたまま森の中を一度も立ち止まらず歩いていった。
ミィアと呼ばれたデカ猫もメノウさんの後ろからついてきて、その姿はとても凛々しく頼もしかった。
何がなんだかよくわからないが、結局良い方向に転んだようなのでよしとしよう。
それでもこれからどうなってしまうのだろうか…。




