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MATERIAL FRONTIER ONLINE:スタイリッシュパーリィーの冒険活劇  作者: クマ将軍
『MFO』ダイブスタート! 準備編
7/62

第6話 依頼達成いちっ!

今回はシリアス回。

 あのハプニングから生還した俺は今、依頼主のいる道具屋へと向かっていた。

 件の道具屋があるのは三番街。冒険者手帳を頼りに向かっていくと、何やら物々しいフェンスが三番街に繋がる入り口に鎮座していた。


「え、と……ここから先が三番街、なのか?」


 フェンスの存在に困惑する俺だが、意を決してフェンスに備え付けられている扉を開き中に入る。すると先ほどまで賑やかだった町の風景が段々と廃れていくのが分かる。


「ここが、三番街……? いやでもこれは……」


 俺の認識がおかしいのだろうか。

 だがこれはあまりにも酷い光景だ。これではまるで、スラム街。そうこの荒廃し、人々が道の脇で日々を過ごす光景はスラム街に似ている。


 俺は冒険者手帳を開いてこの国『冒険者の集う国カンレーク』について調べた。


 この手帳によればこの国には一番街、二番街、三番街の計三つの区画がある。外から来た人からはそのまま一番街、二番街、三番街と呼んでいるがこの国に住んでいる人達は違うらしい。


 この国の人々からは一番街は貴族街、二番街は平民街そして最後の三番街はスラム街と呼んでいた。この国に住まう人々はスラム街の人間に対して、決して近づかず、無干渉を貫き、物みたいに扱うという。


 それがこの国の人々の共通認識でありこの国最大の差別。

 唯一、中立組織であるギルドだけがその用語を使わず、依頼でも三番街とだけ記され、スラム街の住人でさえも平等に扱う。

 例えこの国出身のギルド委員が内心どう思うかは関係なく、ギルドだけは平等に接するのだ。


「だがここまでえぐいとは聞いてないぜ……」


 忘れているようだがこのゲームのグラフィックはアニメ調である。実写や現実とは違い、アニメや漫画などの表情の変化は過剰に演出される。

 つまり今俺が歩いている三番街の雰囲気は目に見えて過剰に演出されているのだ。


 目のハイライトを消し、身体の肉を削ぎ落として骨と皮だけにすれば、それは現実以上にガリガリに痩せ細った体と生気の無い目の人々になる。

 更には臭いというものを視覚化し、昼の時刻であろうとも周囲を物理的に暗くすれば、悪臭を撒き散らすスラム街の光景になる。


 誰だここのグラフィックデザインを担当したスタッフ。

 リアルで残酷な現実感から逃れるためにこの二次元のようなゲームを求めたプレイヤーに対して、地獄に叩き落とすような鬼畜の所業だぞこれ。


 偏見や差別は良くないと知ってるし分かるが現代社会に生き、日本という平和な国で育った俺は顔を顰めざるを得なかった。

 βテスターからの情報もない完全初見の光景に俺は面食らうしかない。


「何を思ってスラム街なんか作ったんだ……」


 この時の俺はあくまでゲーム目線で考えていた。

 でも予想以上にここの世界は外見に似合わず現実と同じ残酷な世界であることを、この時の俺は想像していなかったのだ。




 ◇




 暫く歩いていると、寂れた感じの店が見えた。


「えーと……あれが依頼人のいる道具屋かな?」


 どう見てもこれから潰れていく感じの店で本当に人がいるのかと、疑問を思わずにいられない。だが暫く観察していると店の中から一人の少女が出てきた。


「店長~! 私これからお金探してきます……ねっ!?」


 えっと……俺を見た途端悲鳴を上げて後ずさったぞ。小学校高学年ぐらいでヨレヨレな服を着ている少女だが、その様子に結構傷ついた。


「あ、あの……借りたお金は後で返しますから……ど、どうかお引取りを……」

「ちょ、ちょっと待って!? 俺はその、この道具屋の依頼で来た冒険者なんだけど!?」


 すると少女はびっくりする様に硬直し、恐る恐るこちらの様子を伺い始めた。恐らく説得に成功したんだろう。そう思わずにいられない。


「えっ……? 冒険者の方ですか……?」


 よし、大丈夫だ。

 ここまで俺は何も選択肢をミスっていない。

 そう思って俺は口を開き――、


「どうしたのサヤ!? ってお前かこの借金取りがぁ!!」

「え、えぇ……? 何かややこしくなってきたぞ……?」


 今度は道具屋の中から俺と同い年ぐらいの少女が出てきて、誤解が始まった。それどころか俺の弁解が始まらない内に、大股でこっちにやってきた!?


「このクソ野郎!!」

「待って、店長!?」

「ひでぶっ!?」


 背景、俺よりこの世界にやって来ているマイシスターズ。

 この世界の俺では女難の相があるようです、はい。


 それからなんとか誤解を解き、場所は道具屋の中。先ほど俺を打った店長と呼ばれた少女が店員である少女の前に正座されて説教されていた。


「もう! 店長何度言ったら分かるんですか! いきなり手を出すのは良くないって言ったじゃないですか!」


 うんうん言ってやれ言ってやれ。

 でも君も初対面で勘違いしてたことを忘れないでね。


「すみませんでした」


 店長と呼ばれた少女は自分の店員に見事な土下座フォームを披露していた。このフォームの角度、間違いない。恐らく彼女の土下座はこれで初めてじゃないぐらい、全く無駄な動きが無い。

 妹たちを怒らせて何度も土下座を披露した俺が言うんだから間違いない。


 すると説教し終わったのか此方に振り向いてばつが悪そうにする少女。


「あのすみませんでした。いきなり暴力を振るっちゃって」

「いや君は悪くないよ」

「はい悪いのは私です……」


 一気に空気が悪くなった。


「……そ、そうだ俺の名前はキョウ。依頼のアオバ草を持ってきたぜ」


 正座している女性は無視して、俺はストレージの中にある依頼品を取り出す。俺の手に持っている薬草を見ると店員である少女も正座している店長の少女も目を輝かせた。


「やったやったぁ!! これで店を開けれますよ店長!」

「ええ……ついにこの時が来たのね……」


 そんな喜んでいる二人を尻目に俺は店内の様子を見る。

 寂れた外見の割りに中身の内装は整っていて、素人目から見てもセンスのあるデザインをしていた。しかし棚に置いてあるはずの商品は見当たらない。

 先ほどの会話を聞いた限りじゃあ、まだ開店していない様子だ。


 まぁ事情はどうであれ、これで俺の依頼は終わったわけだが……何故か二人の様子を見ていると報酬を貰ってはいさよならと言える空気じゃないな。

 暫く時間が経つと俺の存在に気付いて二人は申し訳なさそうな表情をした。


「あの、すみませんでした! 置き去りにして……」

「本当にごめんなさいね。では改めまして、あたしの名前はアリカ。ここの店長よ。で、この子は……」

「サヤです。この店の店員をしています!」

「よろしくな。それじゃ改めて俺の名前はキョウ、冒険者だ」


 何回目かになるか分からない名乗りだが、これで依頼を進められる。俺は手に持っているアオバ草を突き出すと、サヤが受け取った。


「此方でお預かりいたします! 報酬の回復薬三個は今すぐ作りますのでお待ちください!」

「うんお願いするよ」


 そう言葉を交わすと、サヤはアオバ草を持って店の奥へと消えた。この場に残っているのは店長であるアリカと俺の二人。打った打たれたの経緯があるため妙に気まずい。

 何か話題、話題……そうだ。


「え、えーとここの道具屋なんだが、まだ開店してなかったのか?」

「え、えぇ……ここの立地を見つけて、道具屋を開きたいと準備して来たのはいいんだけど、内装の準備に夢中になってね。肝心の商品を忘れちゃったの」

「マジか……」


 それに商品を仕入れる金は開店する準備に全て費やしたため予算がなく、そのことを見かねた店員のサヤは残り少ないお金でギルドに依頼したというのが経緯らしい。

 まぁ当初の内装は酷い有様で、先に商品を用意しても盗まれる可能性が高いから後回しにしたらしいが、完全に失敗したって感じだな。


 そのような会話を続けていると、サヤがビン三つを抱えて帰って来た。見るからに不安定な歩きだ。俺は急いでサヤの持っているビンを取って、彼女を楽にしてあげた。


「ありがとうございますキョウさん!」

「良いってことよ」

「それ報酬の回復薬なんです。受け取ってください!」

「あぁありがとう」


 そう言われ、差し出されてくる回復薬に手を伸ばすがふと疑問を持った。


「なぁこれって俺が渡した薬草で作ったものなんだろ? これを報酬にするとあんた達の店の商品が少なくならないか?」


 だが俺がそんな疑問を口にすると二人はポカンと固まり、次の瞬間笑った。


「報酬で依頼主を気遣ってくれる冒険者なんて初めて見たわ!」

「キョウさん、問題ないですよ。依頼を果たしてくれた人に礼を尽くすのは当たり前のことです」

「だがそれだとあんた達の店の売り上げが……」

「キョウ」


 そんな俺の疑問を遮ったのはアリカだった。


「あたし達はね、別にお金が欲しくてこの店を開いたわけじゃないの」


 その言葉に、俺は開けかけていた口を閉ざす。


「病気に苦しむ皆を治すために店を開いたんですよ」


 屈託の無い笑顔で笑う二人。

 俺はそんな表情を見て困惑した。


 彼女たちはNPCだ、人じゃない。彼女たちは人を模して作られたAIだ。だが今目の前にいる彼女たちはちゃんと自分の意思を持って行動しているように見える。

 これが予め設定されていた動きによる反応だろうか。俺だって人間に近いAIが出てくるゲームなんて何個もやって来た。


 だが彼女たちはまるで生きているように接して来てくれた。ここまで来ると高水準なAIであると済まされないほどの感情の豊かさと人間特有の暖かさを感じる。

 二百年たった今でも解明されない人間の魂がそこにあるかのような気がして来た。


「まぁ無償でやってもいいけどね……でも店を開けないとあたし達までも危なくなるから――」

「――店長!」


 一瞬彼女たちが見せた憂いの表情。

 その表情の意味を俺は気にせずにはいられなかった。


「それは、一体どういう――」

「おいっ! 開けろクソアマ共っ!!」

『!?』


 俺の言葉を遮るように店のドアを叩く音。

 いや最早これは壊す音に近い。

 するとアリカは俺の手を取って店に連れ出そうとする。


「キョウ! あんたは何処か隠れてて!」

「え、だけど……!!」

「お願い!!」


 アリカの泣きそうな顔を見て息を呑んだ。

 一体誰が、何が、彼女をここまで追い詰めた。


「さっさと開けろよゴラァ!!」


 ドアが吹き飛ばされ、そこに現れたのはガラの悪い三人組。


「はいはーい、これから集金を始めまーす。しっかり金を用意したよなぁ……クソアマ共?」




 ……コイツ等が、彼女達を泣かせた原因か。

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