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第1話 食い意地キャラはトラブルメーカー

 俺たちはもっと気に掛けるべきだった。


 俺たちはもっと気を付けるべきだった。


 俺たちはもっと、もっと気にすればこうなる事はなかったんだ。


「あぁ……そんな、まさか嘘だろ……!!」


 油断していたのだろうか。

 こうなることは想像してしかるべきなのに、ゲームだからといって軽視していたからなんだろうか。

 俺達の不注意で招いたこの出来事は、俺達に対する罰なんだろうか。


「目を……目を開けてくれよ……!!」


 ――サル……ッ!!




 ◇




 事の始まりは今から一時間前に遡る。


 リンシャーク領からのクエスト達成した俺達『マテリアルフロンティアーズ』は、新しい仲間であるエモーショナルモンキーのサルを乗せて車を走らせる。

 やがて草原地帯を抜け、まばらな森の光景が続くその道中に巨大な猪の姿をした魔物を見つける。

 

 猪型の魔物である『ビッグボア』、ソイツはかつて俺とアンジュを群れで追いかけ回した魔物で、攻撃手段は突進のみとなっている。

 幸い今の車の進行方向上に存在しているビッグボアは一体か二体。

 今の俺達にとってビッグボアは単体でも群れでも余裕で対処できる低ランクの魔物だが、俺はここで魔導馬車を停めこのまま降りて戦うとしてもその手間が掛かると考えた。


 そう考えた俺は、


『ぷぎぃ!?』


 そのままアクセルを踏み込みビックボア共を()ねたのであった。


 さて、俺達は食材を手に入れたことだしもう日も暮れている。

 なのでここでキャンプにしようじゃないか。


「……お前、躊躇なく猪を撥ねたよな」

「目の前に肉があったからな」


 流石に現実だと、内蔵やら何やら飛び出して食えるところが無くなってしまうがここはゲームの世界。

 車に撥ねられ死亡したビッグボア二体のドロップが発生するだけで、現場にビッグボア達の悲惨な光景が生まれる事はなくドロップ品である肉にも損傷がない。


「車で撥ねた時点でショッキングな出来事が生まれたと思いますが……」

「猪って食べたことないんだよねー」

「私も……」

「キィ」


 そんな過去のことは忘れよう。

 これは所謂弱肉強食ということで解決だ。


「普通の肉のように調理すればいいんだろうか……」

「取り敢えずまともに料理できるのはキョウだけだから、俺達は周辺に何かあるか探そうか」


 そう言ってゴストは妹達を連れて、周辺にある森の中に入る。

 俺はここで調理か……。


「なんでどいつもこいつも家庭スキルが最低なんだか……」


 そう言いながら俺は、指をスライドさせストレージを開く。

 中にある各種調理アイテムを選んで、外にドラッグすればいきなりその場で調理アイテムが現れた。


「ガスコンロとかあって良かったなーこのゲーム」


 だが現実で料理をした経験があっても、このゲームに存在している俺のステータスに料理スキルはない。

 大抵は食堂での食事で済ましていたため、料理スキルを習得する程の調理回数をこなしていないのだ。


 料理スキルを習得すれば、作る料理に味の補正が掛かりランクが上になればなるほど作った料理にバフ効果が付くのが料理スキルの特徴だ。

 なのでこの旅を通じて料理スキルを習得するのが、パーティーから俺に決められた一つの目標である。


「キィキィ?」

「うお、皆と行かなかったのかサル」


 どうやらサルは俺と一緒にこの場に残ったらしい。

 サルは俺が取り出した調理アイテムの一つであるお玉を持ちながら振り回している。

 恐らく人間の文明器具を見て触れたのが今回で初めてだろうか。

 興味津々な目でお玉以外にもいじり始めるサルを見て、俺はふと自分のステータスが気になった。


「ステータスっと」




 ◇




 NAME:キョウ

 RANK:S

 ROLE:アタッカー

 TRIBE:ヒューマン

 HC:グリーン

 MC:ブルー

 STR:SS

 DEX:B+

 VIT:A

 INT:A-

 AGI:S

 MND:B-

 LUK:D+


【ギルド】

 《マテリアルフロンティアーズ》


【テイムモンスター】

 《魔物:エモーショナルモンキー/サル》NEW!


【流派】

 《我流・変幻爆砕》


【流派スキル】

 《幻惑の槌》

 《跳弾玩具槌(ピコハンリコシェ)

 《幻懐投槌》


【称号】

 《案内人を泣かせた男》《スラム街の救世主》《億万長者》

 《カジノの頂点》《精霊遺産ゲッター》《真面目の証拠》

 《ジェノサイダー》《流派開祖》《マスターウィザード》

 《精霊からの期待》《アップグレーダー》《ストームスターター》

 《土の霊獣ノーマを継ぐ者》《カンレーク国の立役者》

 《リンシャーク伯爵領との絆》NEW!《テイマー》NEW!


【パッシブスタイル】

 《ストームスタイル:C-》

 《ウィザードスタイル:A-》


【スキル】

『パッシブ』

 《パルクール:A-》

 《センスマジック:A-》


『スキルアクティブ』

 《ハンマーシュート:A+》《アイアンフォール:S-》《ドラムハンマー:E-》

 《威圧:S+》《フルスイング:S》《挑発:S+》

 《アースクエイク:C》《デンプシーロール:C-》

 《テイム:E-》NEW!


『魔法アクティブ』

 《サラマンドラの業火:D+》《土の霊獣ノーマの魔法:A+》


『ユニークスキル:???』

 《第一段階:コモンブレイク》

  移行条件:常識の枷を打ち破る決意

  効果内容:プレイヤーの感覚を強化させる


 《第二段階:アクセルアビリティ》NEW!

  移行条件:躊躇わない決意を得ること

  効果内容:プレイヤーの身体能力を強化させる


【装備】

 右手:ナガレ特注ピコピコハンマー

 左手:ロキの鉄槌

 防具:オーガプラントの装備一式

 装飾:-


【所持金:10,200G】




 ◇




「俺はなんてコメントしたら良いんだろう……」

「キィ?」


 先ず俺のステータス部分に変更はない。

 新たに追加された称号やテイムモンスターも、前回のクエストで得た物だろう。


 テイムモンスターはエモーショナルモンキーであるサル。

 そして称号にはテイムを使用したことで得られたテイマーという称号と、リンシャーク領との共闘で得た称号がある。


 だが問題はそこじゃない。


「ユニークスキル……段階(ステージ)が上がっている……だと!?」


 そこには、第一段階であるコモンブレイクの他に第二段階である『アクセルアビリティ』が増えていたのだ。


「躊躇わない決意……」


 心当たりといえば、俺とサルが相手国の軍隊と戦った時であろうか。

 普通なら大群相手に大立ち回り、普通の神経を持っているなら一瞬でも躊躇するというか、逃げると思う。

 だが俺は逃げずに、かつ躊躇せずに相手の懐に入り込んだことでユニークスキルの段階が上がったのだろうか。


「嬉しいような複雑のような……」


 着実に普通から遠のいていく。

 まぁ俺自身が強くなるからいいわけだが、ゴスト達に見られたら嘆く可能性大だな。


「おーい今帰ったぞー」


 ゴストの帰還の声に俺は一瞬ビクッとなった。

 前回第一段階コモンブレイクの時で滅茶苦茶言われたからなぁ。


 そんなゴスト達に俺は口を開いた。


「何かユニークスキルの段階が上がってた」

「な、んな……何ィィィィィィ!!??」


 まぁ今更躊躇して話さないでおくと後々バレた瞬間にショックがデカくなるからな。

 躊躇せずに行こうぜ。どうせ嘆くのは俺じゃないんだし。


 そして俺の話を聞いた皆、というよりもゴストが頭を抱えているのを見ながら、俺は皆が自身のストレージから取り出した食材を見る。


「なんだこれ……なんで明らかに毒々しいキノコとか採取してくるんだ……?」

「あー制御が……秩序が……ん? あぁ葉月の下の妹と姉さんが採ってきたんだそれ」


 ナナとゴマ姉……アンタ達何してくれはんの?


「定番かなーって」

「毒は薬になる……と」


 他人がやる定番は面白いが、自分に関わる物だと全然面白くないってそれ一番言われてるから。

 あと確かに毒は薬にはなるが、俺のパーティで錬金スキルか製薬スキル持ってる奴いないだろ。


「あーもう、まともな食材とごっちゃになると危ないから、食べられる物と食べられないものに分けろよお前ら」

「はいはーい」

「あーもうだから言ったのにナナちゃん……」

「キーキー!」

「手伝ってくれるの……? よろしくね……サルちゃん……」


 未だに頭を抱えているゴストを無視して、我がパーティーの女性陣達はサルと一緒に食材分けをしに行く。

 そんなライカ達の姿を見届けながら、俺は猪の調理方法をネットで探す。


 どうやらログイン機能は使えないままだが、VRPCに直結している機能の一部が使えるようだ。

 ネットの閲覧やVRPCに入れてある音楽プレーヤーを流す事はできるが、こちらから外側に情報を送信することは出来ない。


 つまり助けを呼べないのはいつも通りだ。


 それにこちら(ゲーム)の一年が向こう(現実)の一秒になっているため、情報は更新されないだろう。

 ゲームの中に監禁されてはいるが、ゲームの中で何をするにしても自由というのは、確かにゲームマスターの言っていることは正しいのだろう。


 ――周りに気付かされることも無く助けも来ない中で、この世界を好きなだけ過ごせばいい!


「ここでずっと暮らす……か」


 俺達はプレイヤーで、ここはゲームの世界だから寿命は存在しない。

 恐らく理論上はここで百年千年過ごしてても問題ないのだろう。

 ファンタジー世界で現実と何ら変わらない自由で、人によっては現実世界よりも過ごしやすいと思うのだろう。

 現実の家族には会えないが、まぁ死ぬわけでもない。


「何を考えてるんだ?」


 ネットを閲覧していく内に色んな事を考えていた俺に、悩みから一応の解決を出したゴストから声を掛けられる。


「いや、俺達はいつまでここにいればいいんだろうって考えてた」

「……お前、本当に『暴走状態』になってるのか?」

「いきなり何なのお前……」


 確かに理不尽、傲慢、暴力的という性格になる『暴走状態』といっても悩むことはあると思うぞ。

 それが例えユニークスキルの影響で段階的にステージを踏まなくちゃいけないとはいえ、一応は『暴走状態』だし。


「そうかぁ……あの『暴走状態』に悩み、ね」


 ――弱くなったな。


「ん? 今なんて言った?」

「何でもないさ。さっき疑問の答えとしては、恐らくGMを倒すか、精霊を見つけ出して精霊に何らかの解決方法を聞くか、見つけた精霊をGMにつき出すかの三択が選べるのは知ってるな」

「もちろん」


 だが元凶であるGMを倒せば元の世界に戻れるとは限らないし、見つけた精霊をGMにつき出したも帰れる保証はないし、何よりGM達が精霊を使って何を仕出かすか分からない。


 なので可能性としてはGMと同等かそれ以上の、このゲームに対する管理者権限を持つ精霊に期待するしかないのだ。

 それに精霊眷属である存在達は俺達プレイヤーの味方だし、精霊はGM達と敵対してるし、元の世界に帰れる可能性はこっちの方が高い。


「俺達が何もせずにここでずっと暮らす事は出来る。だがいつまで、というのならそう遠くないと俺は考える」

「なんで?」

「プレイヤーは俺達だけじゃないからさ。一年か二年、もしくは五年先かもしれんが、俺達に帰れる手段はある以上どこかの誰かが必ず元の世界に帰るために行動するだろう」


 それが一体どういう手段で解決するつもりかは分からないが、という一言を残すゴスト。


「だから俺達はいつまでここにいるのかという疑問なら、それはそう遠くないという言葉を出すよ」

「そうか……」

「お前はそう思い悩まなくていいさ。俺達がこの旅に出たきっかけは偶然の積み重ねかも知れんし、流された結果かも知れんが全部が全部、自分の行動を自分で決めた事で今に至るんだ」


 だからこれからもキョウはキョウの決めた事を突き進んで欲しいと、最後に締めてゴストは笑みを浮かべた。


「さて、俺はもう腹が減ったぞ。レパートリーまだ決めてないのか?」

「……そうだな、相談に乗ってくれた礼としてお前のリクエストに答えるよ」

「おっマジか? なら俺はチョコレートパフェが食べたいんだが」

「ビッグボアとアイツらが採取した食材だけでチョコレートパフェとか、無理だろう……」


 何故か菌糸類ばっかり採取しやがって、ファンタジー世界で尚且つ森の中だからってキノコ類とか薬草ばっかり採取しなくていいっつーの。

 鳥が生んだ卵とか無かったのか……。


「そもそもデザート類とか作れる材料ねーよ……」


 ハハハと笑うゴストにつられて俺も笑いかけるがその時、ライカの悲鳴が辺りに響く。


「な、なんだ!?」

「ライカ!? おいお前らどうした!?」


 採取していた食材を分けていた筈の女性陣からの悲鳴。

 敵が現れたのか、もしくは何か問題が起きたのか。


 そんな女性陣の下に俺達が急いで着くとそこには……。


「な……おいまさか……」

「あぁ……そんな、まさか嘘だろ……!!」


 分けていた食材の下で、蹲っているサルの姿がいたのだ。

サブタイでネタバレしていくスタイル。

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