クエスト進行中 エモーショナルモンキーとの対決
遅れました。
「金剛金塊・投資一つ目、課金支援!」
ゴストの一ゴールドが手から空中に弾ける。
やがて地面に落ちたその金貨の面は『表』。
「三分味方強化だ!」
『おう!』
先ずはゴストの支援。
本来通貨であるゴールドを支援に回すという頭のおかしい戦い方をするゴストだが、その支援効果は実に有用な物であった。
原理は分からないが、出た金貨の出目が表だった場合、パーティーに入っている俺達の身体能力が飛躍的に上昇をするというのがこの技の効果である。
「キィィィィィィ!!」
俺達が何かしている事に気付いたのか、エモーショナルモンキーは奇声を上げながらライカに向かって攻撃を仕掛ける。
このまま行けば先程と同じくライカの腕に怪我が生まれるだろう。
だがライカには、二度目の失態を犯さない。
「ふぅ……」
独特な構えを取り、そして緊張する気持ちを落ち着かせ、相手の動きを見極める。
相手の動きに合わせて威力を受け流すライカのその構え方の名は。
「双楯守護・流派複合:受け流しの型――」
この状態のライカに攻撃してきた相手は問答無用で無力化され、次に流水の如く流れをあるがままに受け流す流派複合の技の奥義が発動する。
「――『流水・無害陣』」
エモーショナルモンキーがその構えを取っていたライカに腕を振り下ろしたその瞬間。
「ギャッ!?」
ライカはその丸太並みの太さを持つエモーショナルモンキーの攻撃を完璧に受け流したのだ。
ライカは様々な流派の良いところを組み合わせて二つのモードに切り替える戦い方を持っていて、その内の一つとして双楯守護と呼ばれるライカが編み出したその独自の技は、主に物理的な挙動をする敵に対し効果を発揮するパーティー向きのスタイルだ。
そして双楯守護の形態は、何も相手の攻撃を受け流すだけの技ではない。
「爆ぜよ、鉄槌!」
双楯守護のもう一つの役割、それは味方が攻撃しやすい位置まで敵を誘導することである。
そしてライカが誘導させた先にはロキの鉄槌を大きくさせ、ホームラン打法の構えに入っていた俺がいた。
「『フルスイング』!」
タイミングを取り計らい大きく振りかぶる。
そしてこちらに誘導されたエモーショナルモンキーを下からのアッパーで上にかちあげた。
「グェッ!?」
空中でジタバタと、痛みにもがくエモーショナルモンキー。
その隙に、次の連携が行われる。
「『麻痺弾』ー!!」
次に空中でもがくエモーショナルモンキーに麻痺弾を撃ち込むナナ。
これによりエモーショナルモンキーは麻痺で身体が痺れ、無抵抗のまま飛ばされた先には、既に空中に飛んでいたゴマ姉の姿があった。
ゴマ姉の戦い方は、獣人系猫族特有の身のこなしと、驚異的な脚力により生まれる変幻自在の槍さばき。
ただそれでもステータス面や装備の差によって純粋な一撃の火力においては俺よりも下である。
「『ランサーフォール』……!!」
それが普通の槍であれば。
――キュイィィィィン。
槍の先端がドリルのように回転を始める。
ゴマ姉の持つ武器は槍の先端が回転する機械式螺旋槍、それはそこから繰り出される回転式の槍による多段ヒットが売りの機械仕掛けの武器であった。
これが、ゴマ姉が俺達パーティーのもう一人のアタッカーとして君臨する理由。
一撃一撃を連続で与えるえげつない攻撃力の持ち主がエモーショナルモンキーに牙をむいた。
「キャアアアアア!!?」
空から堕ちる二匹の獣。
ランサーフォールの一撃を受けたエモーショナルモンキーは、次に来るドリルランスの肉をえぐり込む回転に悲鳴を上げながら、ゴマ姉と一緒に堕ちていく。
これが俺達『マテリアルフロンティアーズ』の定番コンボであり、これを受けた魔物はすべからく倒れる必殺の連携。
名付けて『連携・滅殺の乙型マイギルドの本気編・ストレートクラッシャー』。
勿論名付けは神崎姉弟である。
「よし! 連携・滅殺の乙型マイギルドの本気編・ストレートクラッシャーがもろに当たったぞ!」
「連携・滅殺の乙型マイギルドの本気編・ストレートクラッシャー……相手は死ぬ……」
何とかその名付けを阻止しようと色々してきたけどダメだったよ。
まさか既に連携技を考えていて、提案された時に既にこの名前だったとは……。
「キ、キィ……」
だがその連携を技を受けながらも、ふらふらと呻きながら起き上がってくるエモーショナルモンキーに神崎姉弟は驚愕の顔を浮かべる。
「ば、馬鹿な!? 連携・滅殺の乙型マイギルドの本気編・ストレートクラッシャーを受けて倒れないだと!?」
「このエモーショナルモンキー……かなりの強敵……。連携・滅殺の乙型マイギルドの本気編・ストレートクラッシャーでも倒れないぐらいの激情を……相当誰かさんから影響を受けてる……」
うん、俺達の連携でも倒れない事は確かに驚愕に値するけど、一々長い上にダサい名称をフルネームで言うの止めろ。
シリアスな空気が薄れていくだろ。
「グ、キ……キ、キィ……」
ほら見ろ、腹にデカい穴を開けているにも関わらず、それを物ともしない動きで奴さんがまたこちらに攻撃を仕掛けてきたじゃないか。
恐らくこれはゴマ姉に繋げるための麻痺弾がここに来て怪我の痛みを麻痺させているのかもしれない。
そうでなくとも今のコイツには怒りでアドレナリンが分泌しているのかもしれない。
「略して『ギルドストレート』という提案をばー」
「却下」
「却下……」
「お兄ちゃんコイツら撃っていーいー?」
「お前ら相当余裕あるな!? っと『ハンマーシュート』!」
「ありがとうございます兄さん!」
こんな状況だというのにコイツら一体何をしているんだ。
クールタイムが無いゲームシステムとはいえ、スタミナや魔力の残量と使用者のコンディションがスキルの発動を左右するこのゲームで、流石に怪我をしている上で奥義を連発するほどの余裕はライカにはない。
ライカが危ない状況を見越して俺はピコハンを投げて、相手のヘイトをこちらに向けさせる。
そして気付いたときには、エモーショナルモンキーは俺の懐に入っていた。
理由は分かる。エモーショナルモンキーが、俺の一瞬の空白を突いたのだ。
通常では、一瞬の空白を突くにしてもタイミングを計る必要があるし、どんな達人でも相手の空白を突くにはそれなりのタイミングを計る必要がある。
しかしヘイトが俺に向いたと同時に目の前のエモーショナルモンキーは一瞬で俺の空白を見抜き、迷わずに行動したのだ。
単に相手の一瞬の隙を突くことに慣れている訳ではない。
それで失敗を恐れないという訳ではなく、ただコイツには躊躇が無い。
怒りで理性が失っているんだ。
既に相手はその丸太並の腕を振りかぶろうとしているのが分かる。
だがそれでも俺のユニークスキルで感覚を強化されていたからか、俺はそれを反射的に掻い潜って回避し、すれ違い様に俺はハンマーを相手に叩き込む。
凄い、ここまで俺勘で動いちゃってるよ。
「ギャッ!?」
そして怯んだ隙に、左右のハンマーを逆手に持ちかえる。
「『デンプシーロール』!」
右、左、右、左とエモーショナルモンキーの身体に叩き込まれる二つのハンマー。
ピコハンに威力はないが衝撃があるため、体勢を立て直そうとする所を叩き込み、次に身体をひねり右の鉄槌を叩き込む。
やがて頃合いを見計り左のピコハンを叩き込んだ後、俺は右の鉄槌を大きくさせ『フルスイング』を叩き込んだ。
「クリーンヒットォ!」
「ギッ……!」
エモーショナルモンキーは吹き飛び、そのまま茂みに落ちた。
それを見た俺は、大きくなっている鉄槌を杖代わりに身体を支えながら息を整える。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「やりましたね、兄さん」
「ヤバく、ね……? ここまでの俺の流れ完璧じゃない……?」
「あれ? エモーショナルモンキーがいないな」
「一体……いつの間に……」
「そこのクレイジーネーミングセンスの姉弟ー。まだ話終わってないぞー」
「俺の活躍見てないとか……お前ら後で校舎裏な……」
現実で色々問題が発生しておりまして、遅くなりました。
あとやっぱりスマホで執筆は慣れませんね。
タイピング速度とモチベーションが半分まで下がりましたよ。




