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クエスト進行中 風の導き、突き止め秘境

 精霊様の期待によりサラさん達リンシャーク領からのクエストを受けた俺達。

 俺達は今、サラさんが言う破壊された祠の場所に向かっていた。


 祠の場所は、サラさん達と会話していた所から多少離れたところだった。サラさんからリンシャーク領への地図を貰って別れた後、車で向かうこと三十分。


 そこについたのはなんと森へと続く道。

 カンレーク国から旅立つ前に、世界地図などのあらゆる地図をライカに記憶させた筈だが、ライカ曰くこの辺りに森は無いとのことであった。


「何かきな臭いな……」

「地図に載っていないリンシャーク領に、地図に載っていない祠への道……私達、一体何に関わってしまったのでしょうか……」


 俺達のリンシャーク領に対する疑惑が加速する。

 まぁ依頼を途中で放棄してもいいが、疑惑に対する好奇心に抗うことは出来ないのだ。

 これぞゲーマーの発想。猫をも殺す好奇心の発露。


 それにこれは精霊が勝手に受けた依頼である。

 称号の説明を見れば精霊がプレイヤーに受けてほしい物を勝手に受けると書かれていたため、何故かは知らないが、精霊達はこの依頼を俺達に受けて欲しいと思っているようだ。


「だがまさかキョウの称号にそんな物があるなんてな」

「何もしてないのに勝手にクエストが開始された瞬間、バグが発生したのではと思いました」

「キョウの存在自体……バグの塊……」

「俺のせいじゃないやい」


 幸い仲間達も勝手に開始されたことに、何も思っていない様子だ。

 まぁ断っても断らなくてもさして今後の旅に支障は無いのだ。推奨ランクも出ていないということはシステム的にも俺達の実力でも問題ないということだし。


 それに現状このゲームの絶対的な権限を持っているGM以外で、唯一俺達プレイヤーの味方をしている存在が精霊である。

 彼らか彼女らは分からないが精霊が受けてほしいと思っているのなら、大した事はないだろうと思っているわけである。


 約一名を除いて。


「精霊様のバカヤロー……何でこんな虫エネミーが出てくる依頼を受けたんだバカヤロー……」


 そう、今俺の腕にしがみついてるナナである。


 この森はゴストが事前に調べた結果、主に虫系の魔物が湧くエリアとのこと。

 それを聞いた大の虫嫌いであるナナが、涙目で行かない行かないと喚き、じゃあ車で待機したらと提案したら今度は一人ぼっちはやだという返答が返ってきた。


 それで俺達は急遽ショッピングカードで虫除けスプレーを購入。俺達パーティー全員に吹き掛けた。

 これで虫は寄り付かなくなるが、探索中木々のざわめきやら、虫が逃げる姿やら、突然虫が上から降ってきた事とかナナの精神的ダメージを与える出来事が頻発。

 こうして現在ナナは俺の腕にしがみついてるのであった。


「お兄ちゃん……何か話題振ってー……」

「それで気が紛れるならな。一応空も暗くなってきたし、そこら辺でキャンプをしながら話そう」


 しかし話題か。そうだな、俺が今パッと思い浮かんだ話題が一つあった。

 森の中で開けた場所を探し当て、各自キャンプの準備をする。そして今日の料理人である俺が料理をしながら、適当に座った皆に口を開けた。


「今から十年ぐらい前かな。インディーズから出たVR専用のオンラインゲームがサービス終了したんだ」


 インディーズとは大手とは契約していない個人、もしくは独立企業といった人達の事をそう呼ぶ。

 その一つの企業が、VR向けに作ったオンラインゲームを出した事があった。


「確か名前はヒドゥンフォートレス(隠れた要塞)。自分の要塞を動かしながら、隠れている相手の要塞を暴いて叩くというステルスシミュレーションゲームだった」

「あっそれ俺も知ってる。操作できるのは自分の両腕と、視点を動かす頭だけのゲームだろ?」


 そう言って、自分の腕と頭を動かして実演するゴスト。見てる分には滑稽な姿だが、まぁ操作方法は重ねそんな感じである。


 設定としては自分は機動要塞の艦長で今は戦争の真っ只中。機動要塞の特徴としては、裸眼では確認出来ない隠密機能を持つということ。

 そのため艦長達は育成した部下達からの情報により相手側の要塞の位置を特定する必要があるのだ。


 特定したと思ったらいきなり大砲を撃って攻撃を仕掛ける必要がある。ただし、もし失敗したら相手はこちらの居場所を知り、反撃を食らう可能性もあるという。


「このゲームの必勝法は如何に優秀な部下を育成するかということだな」


 偽の情報をばら蒔き、時にはスパイを送り込んで相手側の状況を把握するという駆け引きが、戦争を終結させ勝利に導くための必勝法である。


「だがまぁ流石に大手企業のサポート無しでオンラインゲームの運営は続かず、サービス終了しちゃったんだよね」

「へー……でもどうして、いきなりそんな話題を出そうと思ったのー?」

「実はこのゲームのとあるボス要塞が手強くてな」


 なんとそのボス要塞、移動しないのである。


 いや要塞が移動しないのは当たり前だが、このゲームの要塞は動く。そんな要塞の中の一つだけ、移動しない要塞があった。

 動かない要塞はただの木偶の坊。当初は楽勝かと思えたが、いざ戦うとなると皆が皆、そのやりづらさに顔をしかめたのだ。


 何せその要塞の周辺に結界が張られており、部下を潜入させることが出来ない。出来ないということは諜報工作もなにも実行出来ないということで、その要塞の周辺を探すしかなくなる。

 そして周辺を探したら何と結界を構成する装置みたいなのが置いてあった。


「それさえ壊せば、あとはボコボコにするだけ。そうその当時のプレイヤーは思ったんだ」


 だが実際はボコボコにされたのはプレイヤー側という笑えない冗談。装置を壊しても結界は僅かにブレるだけで解除はされず、結界を破壊したことで相手側に位置を知られ砲撃を食らうという連鎖。


 それに結界を解除するためには、全部の装置を壊さないと行けないという条件に、プレイヤー達は一斉に顔がひきつったのだ。


「俺がこの話題を思い出したのは、リンシャーク領の状況があの手強い要塞と似てたからなんだ」


 そう言って俺は出来たタマネギスープを皆の皿に移す。そしてパンを配り終えたら、俺は空いてる場所に座ったら、俺達は一斉にいただきますと、言った。


「ズズズ……ふぅ……似たような状況ねぇ?」

「とんだ偶然があるもんだー」

「案外このゲームを作ったスタッフさんの中に、そのヒドゥンフォートレスの方がいるかもしれませんね」

「……まぁそうだね」


 実はまだ皆に言っていない、この話題を思い浮かんだ理由がもう一つあった。ヒドゥンフォートレスというゲームの話題が思い浮かんだ瞬間、一つ思い出したことがあったのだ。


(だがまぁよく考えれば、ライカの言う通り同じスタッフという可能性もあるしな……)


 思い過ごしという事もあるし、ヒドゥンフォートレスはもう十年前にサービス終了している。

 偶然か、同じスタッフかは分からないがこのクエストにも旅にも関係無いし、話は以上にしよう。




 ◇




 翌日の朝。


 俺達は今日も祠に続く道を歩いていた。だが進めば進むほど、森の奥に向かっていく現状に俺達は警戒を強めていた。


「おかしくないですか、兄さん」

「確かにおかしいなこれ」


 盗賊がこの森の奥に根城を作るのだろうか。作るとしてももう少し平原に近い所に作るはずである。

 時刻は朝で天気は良好。なのに奥に行けば行くほど辺りの様子が薄暗くなってくる。


「あのお嬢様一行に嵌められたか……?」


 だがどうして、俺達を罠に嵌めようとするのかは分からない。もしかしたらあのお嬢様一行は妖怪みたいに、人を誘導して襲う人外の者共とか。


「あの王子様系美少女がババアになるとか……」


 そんなふざけた想像を働かせていると、ふと頬に風が当たっていることに気付く。


「これは……」

「どうしたキョウ?」


 風は前から吹いている。まるで己の位置を報せるかのように、微弱ながらもこちらに吹いていた。


「多分、祠は近いかもしれない」


 十年前、サービス終了間際で遊んだあのゲームを思い出す。あの例の動かない要塞の周辺を探していた部下からの報告に『風が吹いていた』と聞かされた事があった。

 何故そのような報告が為されたのか、疑問に思った俺は風を頼りに道を進めと命令した記憶がある。

 その時、部下からの様子をモニターで見れる装置を購入していた俺は、部下が木々を掻き分けて風が吹いている方向に進んでいる様子を見ていた。


 風を頼りに道を進む。奥に行けば行くほど風の強さが増していく。そして風の鳴き声が聞こえてきたら、今このように。


「……あった」


 洞穴みたいな場所の入り口に、原型が留めていない祠を見つけたのだ。

 どうやら風というのはこの洞穴の奥から吹いているようで、風の鳴き声は洞穴を通じて強烈な猛風が吹き出ているからだった。


「見つけたっちゃあ見つけたが、風が強くて修理できないな……」

「多分あの風自体が祠を守る役目になっているんだろう」


 呟いたゴストの言葉に心当たりのある俺が反射的に答えた。


「でもどうして盗賊達は態々あの祠を壊すような事を? どう見ても壊すメリットなんて無いような……」


 ライカから疑問の声が出る。


 その時、俺達の死角を突くように茂みから何かが襲い掛かってきた。

 狙いは先程呟いたライカ。俺達は何一つ反応できなかったが、あらゆる防御系の流派を学んだライカだけが、反射的に防御出来た。


「大丈夫かライカ!?」

「狙われたのが私で良かったです……ですがこれは……っ!?」


 続く何かからの攻撃を弾いて距離を置くライカ。その時ようやく俺達も武器を構え終える。


「あれは……サル? それともゴリラ?」


 俺達に攻撃してきた相手は、サルに似た外見の魔物だった。しかし大きさはゴリラとほぼ同じ大きさで、そのサルの両腕は丸太並みにでかかったのだ。


「あれは……エモーショナルモンキー……」


 ゴマ姉が呟く。


 実は俺もあの魔物について知っていた。きっかけとしては、あのチュートリアルの最後で挑んだ死に戻り体験で、数々の魔物に襲われた時だ。

 その内の一体にあの魔物がいた。名前はエモーショナルモンキー。周囲の感情を読み取って身体変化を行う子ザル(・・・)の魔物だ。

 子ザルの状態は普通のサルと同等の力を持っているが、身体変化をすれば話は別である。


 その力は感情の度合いによって、ドラゴンをも吹き飛ばす力を持つ。

 同士討ちを狙って試した俺が言うんだから間違いない。だからこそ今の状況に俺は冷や汗を禁じえないのだ。


「既に身体変化が行われている……」


 あのような身体変化後の外見は見たことがあった。あの如何にもな攻撃特化の外見。理性を感じる様子もなく、威嚇しながらこちらを睨むその姿、それは。


「『怒り』だ。周囲の怒りの感情を読み取って、怒っているんだ……」


 それもかなり激しく。


 だとしたら怒りの大元はかなりのお冠である。果たしてその怒りは、俺達がここの縄張りに来たことなのか、既に怒っていたか。


 もしくは祠に関係している事なのか。


 考えればキリがないが、少なくとも今のこの状況は大変ピンチであることが分かる。


「すみませんナナちゃん、ヒールをお願いします」


 何故なら防御においてこのパーティの右に出るものがいないライカだが、先程のエモーショナルモンキーの一撃により、腕をやられていたらしい。

 オーガブーストを飲んで、オーガとほぼ同じ力を発揮した大臣相手でも手が痺れた程度で済んでいるあのライカがである。


「やるっきゃないか……」


 こうして俺達は、カンレーク国から出てから初めての強敵との対決が始まったのである。

エモーショナルモンキー。


普段は子ザルのような可愛らしい姿だが、周囲の感情を読み取って身体変化を行う魔物である。

読み取った感情の度合いによってはドラゴンをも吹き飛ばす力を持つ貴重な存在。


魔物キャッチコピー全集では、感情の体現者であり代弁者と書かれている。

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