幕間 アンジュのセカンドターニングポイント
大変お待たせいたしました!!
大学生活やらなんやらで大変遅れました。
時間の都合が出来たため、更新を再開します。
あの日、キョウとか言う一人の男との出会いにより、私の人生は変わってしまいました。
「そうは言っても、空気並から並の存在感になっただけじゃない」
「あはは、貴女は一体何を言っているのですか? 私の存在感は人並み以上ですよ?」
意味深なモノローグで、あたかも私がこの物語のヒロインであると認識させる作戦が阻止されました。
私の作戦を阻止したアリカは、この三番街に店を構えている道具屋の店長です。
といっても彼女達を救ってくれたお婆さんの影響で、現在の品物は薬品関係が多いのが現状です。
そんな彼女の店に、私は寝泊りをしながら三番街にいる職人に師事している日々を続けています。
まぁ、私自身未だに何を専門に生産をしたいか分からないため、将来の事を考えながら職人達の助手をしているのが正しいのですが。
さて私の事はどうでもいいのです。
今は私の事を空気並の存在感と言ってくれやがったアリカに突っ込みを入れたいです。
確かに私の存在感は、実の母から「本当にアンタの影、薄いわね~」と言われたほどですが、今は違います。
職人の方々はちゃんと私の名前を覚えてくれていますし、ちゃんと私がやって来たということにも気付いて挨拶をくれるのです。
「いや、それが普通だから。普通の存在感だから」
アリカの話をスルーして、私が今に至るまでの話をしましょう。
ことの始まりは、私がビッグボアの群れに追われていた所からでした。
通常ビックボアという猪型の魔物は群れから逸れていて、基本は一体だけいるというのが殆どです。
そんなビックボアですが、何故に群れに至ったのか。
最初のきっかけは、まぁ認めたくないのですが全ては、私の影が薄いということからでした。
つまり野生動物であっても私に気付かず、私自身も生産依頼に必要な薬草に夢中になっていたのです。
気付いた時にはビッグボアのお尻にぶつかってしまいました。
後に分かったことなんですが冒険者手帳に載っている魔物のページ説明には、ビッグボアは自身の後ろに生物がいることに不快感を感じます。
理由としてはビッグボアの攻撃手段が長い牙を活かした突進攻撃なので、前方向に対する絶対的な自信があるのです。
そのため、自分の死角である後方に何かがいることに、不快感を示すようになったそうです。
とまぁその様な理由から、私は激怒したビッグボアに追いかけられていた訳です。
この時のビックボアは一体だけでしたが、私はこのビックボアのあまりにもな頭の悪さ……もとい敵に対する執着心の強さを舐めていました。
ビックボアは、どんなことであっても止まりません。
それが、その斜線上に他のビッグボアがいてもです。
そして被害を受けたビッグボアは、自身に突進してきたビッグボアを追いかけ、また他のビッグボアに追突して、追いかけて……そして気付くと私の背後にはビッグボアの群れがいました。
本当に何の冗談なのかと。
一体私が何をしたと。
悪い行いをしても誰にも気付かれない為、必然的に良い行いをしてきた私が何故こうなるかと。
そう思っていた私ですが、逃げている先にとある男性プレイヤーがいました。
この時の私は焦っていたのかその人の装備が初心者用の装備であることに気付かず助けてと、お願いしてしまったのです。
これが私とキョウの出会い。
初心者装備を纏い、武器はピコピコハンマーというふざけた装備をしていた初心者プレイヤー。
カジノの猛者相手に圧倒する程の運を持ち、GM相手に互角の戦いを繰り広げる戦闘センス。
そんな彼と出会ったことによって、私は三番街に住む職人さん達と知り合えたのです。
「おーいアンジュー。ちと頼みたいことがあるんじゃがー?」
「あ、はーい分かりましたー」
「それじゃ、頑張ってねアンジュ。私は薬を作りに行くから」
「分かりました。それじゃ常識を捨てに行きますよ!」
「いや、常識は捨てないでよ?」
でも常識を捨てないと彼ら職人に着いていけませんから無理な話です。
そんなこんなで親方の頼まれ事を済まして来た私は今、魔導具工房の開発部屋にいます。
どうやらここ最近この魔導具工房を中心に三番街の職人達が動いている様子なので、私はなるべくこの場所に足を運んで助手のような仕事をしているのです。
案の定そこには慌しく何かを開発している人たちがいました。
「おぉ譲ちゃん! 丁度良いところに来たな。頼みたいことがあるんだが」
「親方! もしかしていつものあれですか?」
「そうだ。マルダの奴が待ってるぞ」
「はい!」
親方の頼まれ事を受けた私は、さっそく親方の後に着いて行きます。
暫く歩くとそこは実験室と書かれた部屋。
私が言ったいつもの事とは師匠達が開発した魔導具の実験に参加するという物でした。
「あらアンジュちゃん。さっそくだけどこれを使ってみてくれない?」
「マルダ師匠! 分かりました、任せてください」
私が師匠と呼ぶお婆ちゃんの名前はマルダ・アルミスト。
かつてカンレーク工房の魔導具開発部門の部長をしていたとても偉い人らしいです。
「それじゃ俺は用事があるから、頼んだぜ」
私達の様子を見た親方はそう言って実験室から出て行きました。
それと同時にマルダ師匠が私に一つの魔導具を手渡してくれます。
それは長さ十五センチ、幅七センチ、厚さ一センチ位で手に収まる黒い長方形の物体です。
分かり易く、似たようなものを例えるとスマホで言えば想像しやすいと思います。
「これは便宜上ショッピングカードと呼んでる物よ。素材が少なかったから苦労したわ」
「ショッピング……カードですか? それにしても分厚くないですか?」
私の持ってるカードのイメージは、あのプラスチックの薄い長方形です。
しかし、このショッピングカードという物は一般的なプラスチックみたいな感触ではなく、表面に細かい凸凹みたいな物があり、滑りにくく、傷がつきにくそうな感触をしています。
マルダ師匠に聞くとこれはシボ加工というものだと教わりましたが、私には分かりませんでした。
「実際に使うとなるとカードとは程遠いものになるけどね。これから使い方を教えるから、教えた通りにやってみてね」
先ず始めに教えられたのは、このショッピングカードの起動方法でした。
やり方はこのカードの長い両端の所を持って左右に引っ張ります。
するとカードの中程の所から左右に別れる様に展開され、中から一つの球状のような物体が現れました。
『ようこそ、スラムドッグキャラバン・コネクトショッピングへ』
「え、えぇ!?」
驚くことに、そのカードの中央にあった球状の物体から光が出て、上空にホログラムが投影されたのです。
先ず始めに出た画面は、画面中央に刺々しい首輪を破壊するボロボロな狼のロゴと共に上記の音声が流れました。
暫くすると画面が変わりそこには普段から見慣れた画面が現れました。
「って、これオンラインショッピングじゃん!?」
「オンラインショッピング? もしかして加護者の世界にはこれと同じような物があるの?」
「え、えーと……もしかしてこれって、この画面から商品を選ぶと選んだ商品が送られてくる……って感じですかね……?」
「あら、偶然とはいえ本当に加護者の世界と同じ技術を作ったわけね……」
いやいや感心しないでください。
まさかこのゲームの世界で、オンラインショッピングのような画面が見られるとは思いませんでした。
幾ら剣と魔法と機械のファンタジーと言ってもこれは最先端過ぎなのではないでしょうか。
「だけど違う点といえば、商品を選ぶと『送られてくる』のではなく『転送されてくる』のだけどね」
……最先端どころでは無かったようです。
軽くオーバーテクノロジーです。
アリカ、私は早くももう常識を捨てる羽目になりました。
そんな私の様子を他所にマルダ師匠はショッピングに関する方法を教えてくれました。
どうやら私の役目はこの機能のテスターみたいです。
操作方法は二通りあり、一つは直接ホログラム内の画面を触って動かす方法と、音声で動かす方法の二つです。
ここは日頃からVRシステムを触っているのでスムーズに動かせます。
私は後者の方法を選び、商品は実験室にあるガラクタを選びました。
すると数分もしない内に浮いた状態でガラクタが転送されてきました。
そうやって何回か繰り返し、不便だったところマルダ師匠に言います。
その際、改良する過程を私に説明しています。
マルダ師匠は使用者目線で不便だと思った箇所を改良し、私は技術の説明を受ける。一石二鳥ですね。
「――これで取りあえず問題は無いと思います」
「ありがとうね、アンジュちゃん」
「いえ、大丈夫ですよ。私も勉強になりました」
「それではこれを元に量産するわ。アンジュちゃんはどうするの?」
「……もう少し見学していきます」
量産という言葉を聞いて、ちょっと間が空きましたが勉強だと思い見学することにしました。
「そう。……貴方、完成品が出来たからこれを量産して」
「あっはい、これの量産ですか。しかし材料が無いので数個しか出来ないと思いますが」
「今の所、信頼した者しか渡さないから問題ないわ」
さてこれから伝えるのはこの世界、というよりもこの三番街にいる職人の異常な光景です。
この世界は、元の現実世界みたく機械で一個一個量産するっていう技術はありません。
しかし無いからと言って別に、量産技術が無いわけではありません。
機械で一個一個量産する技術が古いだけなのです。
「マルダ・アルミスト魔導具工房長のショッピングカード(仮)の当時の作製手順を基に、残りの材料を指定して量産します。残り材料の数から計算して、作れるのは五枚ぐらいです。マルダさん、確認を」
「確認したわ。指定する量産数は五枚全部にして頂戴」
「量産数を五枚に指定します」
今私の目の前で、マルダ師匠達が机に浮かぶホログラムに何やら入力しています。
上空に浮かぶホログラムという時点で突っ込みを入れたいのですが、それは初見の時にやりました。
五枚に指定、という言葉を画面に入力すると他の机に置かれた素材が淡く輝きます。
恐らく、あれがショッピングカードを作るのに必要な素材なんでしょう。
「それでは量産開始します」
それと同時に素材が浮かび上がり、ホログラムで出来たマルダ師匠の両手が五箇所同時に正確且つ、かなりの速度で素材を加工していきます。
そうです、これがこの三番街にいる職人の異常。
彼は完成品を作るまでの工程を自分でやりますが、完成品が出来た際、それを量産するためとある魔導具を用いて作ります。
これが、マルダ師匠が作った世界にたった二つしかないと言われる量産専用魔導具、ジェミニクリエイトです。
これのお陰で、凄腕職人しか作れなかった超高性能の魔導具を、素材と作製手順のデータがある限り量産出来るという代物です。
そんな魔導具ですがマルダ師匠によると悪用されないよう、マルダ師匠の確認許可を取らないと量産出来ない設定になっています。つまりもう一個あるカンレーク工房のジェミニ・クリエイトは利用出来ないというわけですね。
気が付くともう作業が終わり素材が置かれていた机には例のショッピングカード五枚が置かれていました。
それを手に取り確認するマルダ師匠。
暫くするとそのショッピングカードを置き「問題ないわ」と言います。
「アンジュちゃん。ありがとうね」
「いえ、私も勉強になりました」
所で、私は一つ気になった所がありました。
「……あっそういえば、ショッピングカードを起動した時に出たスラムドッグキャラバンって何なんですか?」
少なくとも、私がここの人たちに師事を受けていた間はこういうロゴは見かけませんでした。
一体いつの間にああいうロゴが出来上がったのでしょう?
「ふむ、そうさね……ねぇアンジュちゃん。貴女私達と一緒に来る覚悟はある?」
「はえ?」
一緒に来る……覚悟?覚悟も何も、私はここの人たちの弟子です。
師匠がどこに行くにしても、弟子である私も一緒に行くべきなんじゃないでしょうか。
「これから説明するのは新たな国の建国。アンジュちゃんは今は未熟な卵だけど、一流の職人達から教えを受けているわ。きっと将来的には優秀な職人の一人になれるかもしれないわね」
「で、でも私は将来何の生産をやるか決めていません。今だって、取りあえず色んな生産を学んで何かをやるのか悩んでいるんです。そんな中途半端な私が、優秀な職人になれるだなんて……」
建国、という言葉に疑問を抱きましたが、恐らくマルダ師匠が聞いたのはそれじゃない。
重要なのは、私が一職人として、彼らに着いていく事。それに覚悟はあるのか。
恐らく、私はその道の職人には敵わないのでしょう。
色んな技術を扱う職人はいつも、一芸に特化した職人には足元には及ばないのです。
そんな私が一緒に着いて行ったら、他の職人さんの足手纏いになるのと思います。
「ねぇアンジュちゃん。貴女はこれらの魔導具のこと、どう思う?」
「魔導具……ですか? それは勿論、凄い代物だと思いますけど……」
「魔導具はね……色んな技術や知識が集大成して出来た物なの」
言うなれば、ゲーム制作みたいな物でしょうか。
ゲーム制作には、プログラマーがいて、デザイナーがいて、シナリオプランナーがいて、音楽を扱う人たちもいて、色んな業種の人達が一つの作品を作り上げる……というのをどこかの雑誌で読みました。
「貴女は色んな職人の助手になって、色んな知識や経験を得た。それでも、貴女はどの専門にも染まらなかった。それはそれでかなり凄いことなのよ? つまり貴女はどこからでも着手できる。枠を超えて色んな知識や技術を使えて、貴女一人で完結できるの」
私はただ単に驚きました。
まさかマルダ師匠がここまで私の事を評価してくれるなんて思っても見ませんでした。
「ど、どうして」
「私はもう年でね……後継を探していたのよ」
その言葉を聞いた私の思考は真っ白になりました。
つまり、それは……。
「私の正式な弟子になってみない? その上で聞くわ。私と一緒に来る覚悟はある?」
その言葉を聞いた私は、最早悩むこともありませんでした。
――これが、私の二つ目の分岐点。
帰ってきました、クマ将軍です。
全編改稿しようか、修正しようか悩みましたが結局このまま進めます。
今でもブックマークを付けて待っている方達のためにも、完結まで進めたいと思います。
これからもよろしくお願いします!
あと、本日二話投稿です。




