第12話 新しい国
その翌日、俺を含めたいつものパーティと何故か大臣が三番街の入り口に立っていた。
「どうして大臣が?」
「大事な日と聞いたので」
まぁこれから独立する三番街に住む人が、明日は大事な日と言ったら為政者である大臣にとっては確かめずにはいられないだろうな。
だがそれはまぁいい。問題はコイツだ。
「香織姉まで何でいるの?」
「女の子が明日は大事な日(意味深)だと言ったのを聞いて」
「帰れ」
そもそも一体どうやって王宮の牢屋を抜け出してきたのか。
妹達も香織姉の登場により俺の後ろで震えている。
もしこれでアリカ達が来たらと思うと俺も震えてきた。
「あっキョウさんだー!!」
言った傍からサヤが手を振ってこちらにやって来た。
その後ろに苦笑しながらアリカも着いて来る。
でもちょっとフラグ回収早すぎませんかね?
「ムッ……中々将来有望な娘だ……」
「おっさんか」
ほら見ろ、変態クレイジーサイコレズの口から涎が垂れているぞ。
しかもハッハッハと息を荒くしてる。おっさんじゃなく犬だったか。
「皆やっと来たのね! あら? そちらの人は初めてよね?」
「私の名前はゴッドグレードスマッシャー……ぜひ貴女の名前を教えて欲しい……」
「あ、あの近いんですけど……キャ!?」
アリカにグッと迫りあまつさえ、彼女のお尻に触る変態。
「お触り禁止ー! 麻痺弾ー!」
その変態の行為を見かねたナナは変態に麻痺弾を食らわすも伊達にトッププレイヤーを名乗っていなかった。
「ふっ……残像だ……」
自身の種族特有の身のこなしで回避する変態。だがその瞬間、土で出来た巨大な壁が変態の四方から出現し、最後は上部に蓋する様に壁が作られ、そこには立方体の土の牢獄が出来上がる。
「土の霊獣・ノーマの《牢壁》」
「アッー……!」
予め変態が着地する所を予測した俺は事前に魔法を発動し、変態の動きを封じた所で変態の暴走は終結したのであった。
「キョウ……交友関係はちゃんと考えたほうがいいよ……?」
「すまん……俺の姉が……」
「あぁ通りで名前が似てるかと思った……」
あの変態の身内ということで、僅かにゴストから後ずさるアリカ。
そんなアリカの様子を見てゴストは顔を引きつった。
「あの……皆さん、そろそろ本題に行きませんか?」
俺達の様子を見たライカが疲れた様子で言う。
うん、俺も思ったところだよ。
「アリカ、約束通り来たぞ。一体何があるんだ?」
「ふふふ……取りあえずこっちに来て!」
そう言ってアリカ達は俺達を連れて三番街の中に入った。
「あの……拘束するにしてもせめて空気が入る穴を……」
「酸欠になってろ」
◇
アリカ達に連れてこられた俺達が着いたのは、一つの工房だった。
俺が記憶している三番街には工房なんて大掛かりな施設は無かったはずだ。
そういえばここに来るまでの途中、周りの建物も俺が記憶している廃墟みたいな感じではなかった。
まるで、他の区画にいるみたいな町並みだったのだ。
「これが……一流の職人の力か」
「凄いでしょ? 大臣が三番街の封鎖を解除したその日に取り掛かったんだよ?」
聞けば、三番街に通報された職人はいつか来る自由の日のために企画書を練っていたらしい。
そして俺が大臣を倒して大臣が封鎖を解いたその日、昔の伝を辿って素材を調達して来たというのだ。
「だが何が何でも早すぎないか? 大臣の下に三番街の皆が独立に関する報告を聞いたのは昨日だぞ?」
つまり大臣を倒して次の日にGMの敵対宣言。
恐らくその日の内に大臣は、三番街の封鎖を解除した。
時間にして僅か二日。昨日今日でここまでの町並みを作ってきたというわけである。
「皆寝ずに働いているの。疲労した分はこちらで調合した活性薬で補っているわ」
「そこまで急ぐものなのか?」
「長年……という割には結構短い年月だったけど、ここに追放された皆の悲願なの」
「…………」
大臣が無言です。結構根が深いことで改めて自分の罪を認識したらしい。
「さてもうすぐ着くよ」
「ここは……まさかカンレーク工房の魔導具開発部門!?」
「それを参考に建てた物だがね」
「あ、貴女は……」
「おお! マルダの婆ちゃん!」
マルダ・アルミスト。ベルドのおっさんと同じかつてカンレーク工房に勤めていたお婆ちゃんだ。
専門は魔導具開発で、国の電灯やら人々に役立つ物を作り出す部門の部長をしていた凄い人である。
「久しぶりねキョウちゃん。……それと大臣もね」
「……久しぶりです」
一瞬の静粛、見れば大臣も顔に冷や汗をかいていた。
まぁベルドのおっさんと違って、マルダの婆ちゃんは常に笑みを絶やさない人だからね。
一体いつも何を考えているのかは分からない。俺も分からない。お腹が痛くなってきた。
「さぁキョウちゃんこちらにいらっしゃい。話はアリカちゃんから聞いたよ」
「お、おう……分かった」
「多分若い頃は美人だったに違いない……」
あれ?香織姉アンタいつの間に土の牢壁から出てきたん?
そんなこともあって、俺達に変態が加わって一緒にマルダの婆ちゃんの後についていった。
そして漸く着いた先には、一つのテーブルとその上に何やら手の平大の長方形の物体が置かれていた。
「これが私達魔導具開発部門が作り上げた貴重なカードね」
だがカードと呼ぶには結構分厚いな。スマホぐらいか?
俺が観察している事に気付いたマルダの婆ちゃんはそのカードを手にとって俺に手渡してきた。
「仮名だけど、その子の名前はショッピングカード」
「ショッピングカード?」
「そうよ。これから国となる三番街と買い物できる魔導具なの」
「へーこれが魔導具……いや待てよ?」
「これから国となる三番街……ですか?」
ライカが俺の代わりに質問をする。そう俺が違和感を覚えたのはその単語だ。
三番街の皆はこれから国を出て独立する筈だ。だがその言葉を聞けばまるで、今いるこの三番街が独立国になるみたいな解釈になる。皆はこの国から出るはずじゃなかったのか?
「あらあら……どうやらアリカちゃんの悪戯は成功したようね」
「へへへ……ごめんね?」
「アリカ、一体どういうことだ?」
「ん~私もどう説明すればいいかは分からないし、マルダさん頼んだ!」
「はいはい、と言ってもこれは見たほうがビックリするでしょうね」
結局マルダの婆ちゃんは何も説明しなかった。
代わりに俺達を外に連れて行くようにアリカに頼んだだけだった。
ただマルダの婆ちゃんが別れ際に放ったその一言は、俺達の頭の中から離れなかった。
「私達はこの大陸有数の職人。その凄さを魅せてあげるわね」
その発言の意味を、これから俺達が知ることとなる。
◇
「さーて着いたわよー!」
「着いたって……ここは三番街の入り口じゃないか」
アリカ達が連れてきた場所。それはなんてことのない、三番街の入り口だった。
「まぁまぁキョウさん~これはサプライズですよ~!」
「サヤまで……」
大体サプライズと明言しちゃったらその時点でサプライズではなくなるんじゃ。
そう思った俺達の横にアリカは何やら耳に手を当てて誰かと話していた。
よーく見ると小さい機械がアリカの指に取り付いている。
あれは通信に関する魔導具だろうか。
「うん、うん分かった。キョウ達はもうちょっと後ろに下がって」
「お、おう?」
言われたとおりに後ろに下がる俺達。
「よーしそこでストップ! そこなら安全だよ」
「安全って何!?」
これから一体何が起きるのか不安になる俺達。
アリカとサヤは、俺の横に来て微笑みかける。
「ありがとねキョウ」
「ありがとうございますキョウさん!」
「おいおいいきなりなんだよ」
「私達はね、捨て子なんだ」
いきなりの身の上話に俺は一瞬目を見開くも黙って聞くことにした。
「サヤも一緒で、私達は三番街で暮らすことになったの。そこで何とか生きていくうちに、サヤが病気になって、酷い高熱で、私は何も出来ることは無かった」
「だが現に今もサヤは生きている」
「そう生きている。一人のお婆ちゃんが助けに来てくれてね。名前はパルナ・ケイル」
「パルナ・ケイル……!?」
大臣がその名前を聞いた瞬間、驚きの声を上げた。
大臣が反応するその名前。その関係性に、俺は気付いた。
「幸か不幸か王宮から追放されたお婆ちゃんは、途方にくれた私を見つけてくれてね。サヤを治したの」
「それから私達と店長はパルナお婆ちゃんと一緒に暮らして薬草について学んだんだよ!」
元気に笑うサヤを見ると無性に抱きつきたくなるのは異常でしょうか?
少なくとも俺は父性から来るもので、息を荒くしている香織姉は異常ですね。
「最期までお婆ちゃんは言っていたよ。私がいないことで患者は大丈夫なのかと」
「…………」
「別に大臣を責めているわけじゃないよ。結果的に見れば、お婆ちゃんを三番街に追放してなかったら私達はここにいないしね」
それでも大臣は何も言わない。確かにパルナさんを追放してなかったら、二人は今頃いなかったかもしれない。だが追放した結果、パルナさんがいない事でこれまで病気に掛かり死んでいった人たちもいるのだ。
だから敢えて言わない。いや言えない。何を言っても何も慰めにもならないことが分かっているから。
「さてそろそろだね!」
「一体何が始まるんです?」
「ビックリするもの! 私達がどうして身の上話をしたと思う?」
これから別れ離れになるかもしれないから話した?
少なくとも俺には分からない。その様子の俺を見てアリカ達は微笑んだ。
「キョウが来る前の夢。それは三番街の住民を助けること」
「でもキョウさんが来て全てが変わりました。勿論私たちの夢も!」
「今の私達の夢はスラム街を失くすこと! 二度と私達みたいな捨て子がいないように!」
だがそれは無理な話だろう。国があり、社会がある中で、人々の間には貧富の溝がある。
それを一体どうやって失くすのだろうか。
「勿論キョウさんが思っている通り失くすのは不可能です」
「だから物理的にね!」
「え!?」
瞬間、地面から大きい揺れが起きた。
そう認識した瞬間、目の前に現れたのは巨大な壁。
「これは……!?」
「三番街が……浮いている……?」
そう三番街という場所全体が、かなりの勢いで上昇していったのだ。
だがそれだけではない。その地面の下から、なんと足が出てきたのだ。
「足……?」
三番街の地面から生えている足が地面の上に突き刺さり、まるで三番街という名の大地を支えている様に立っていた。
「なんだ……これ……!?」
あまりに巨大な四本の足。それは、さながら大地を歩く陸亀のよう。
そして俺は思い出した。どうしてこれから国を出て独立するのに、態々三番街の住居を建て直しているのかを。どうして、工房を三番街の中に設置しているのかを。
「これが、私達が独立する国」
俺はあの時別れ際に放ったマルダの婆ちゃんの言葉を思い出した。
――私達はこの大陸有数の職人。その凄さを魅せてあげるわね。
「これは……そういうことだったのか……!!」
「冒険者を支援するため、私達が作った移動する独立工房国――」
――スラムドッグ・キャラバン。
それが、目の前に存在する新しい国の名前。
その国は……巨大な四本の足で移動する巨大な工房だったのだ。
スキル説明
魔法名 :土の霊獣・ノーマの《牢壁》
習得条件:同属性の《土壁》を習得していること
効果範囲:術者のINTとMND依存
効果 :術者が指定した場所に土の牢壁を作り、対象を閉じ込める。
出現する牢壁の形状は術者の自由。
出現する牢壁の強度は術者の魔力依存。
但し、術者が地面に足をついていないと発動しない。




