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MATERIAL FRONTIER ONLINE:スタイリッシュパーリィーの冒険活劇  作者: クマ将軍
第一章 冒険者の集う国カンレーク
37/62

第7話 精霊とは

 ◇SIDE キョウ




 NPCとはノンプレイヤーキャラクターの略でとどのつまり、そのキャラクターを操作している人がいないキャラクターで、主にプレイヤーを導く役目を持ったキャラクター達の総称だ。そしてプレイヤーを製作者が定めた目的へと導くための見えるフラグ管理システムなのだ。

 極端な話、ゲームの世界で自由に動き回るプレイヤーをゲームの本来の目的へと導く製作者の歯車というのがNPCの存在意義なのだ。


 そして、本来NPCとは今いる世界観を壊さないために俺達プレイヤーがいる現実世界についての発言、所謂メタ発言は一部そういう仕様のゲームを除き、一切しない。

 それは現在のVRシステムにより高度に成長したAIを持つNPCであっても例外は無い。受け答えやプレイヤーの行動によって変化しようとも、製作者側が設定した目的を主に動いているだけに過ぎない。


 そこに自我も、意思も存在しない。

 その筈なのに、目の前にいる大臣はこの世界観ゲームには存在しない用語を言ってきたのだ。

 はっきりと、GMという用語を。


「貴方方が言いたいことはわかります。NPCである私が何故、GMという用語を知っているのかと」


 その言葉に俺達は絶句した。

 勿論理由は先程大臣が発言した内容にだ。その内容を表す意味として大臣は自分が一体何者なのか、この世界は一体なんなのかという事を理解しているということだった。


「あれは……GMがログアウトという事件を起こした後でした」

「ログアウト不能事件の後……」


 ライカが確認するように呟いた。


「その瞬間、恐らくですがこの世界に存在する各国の王や部族の長などが私と同じように世界に関する本来の知識がインストールされたのです」

「インストール……された? 一体誰に?」

「さぁ……それは私にも分かりません。ただ知識をインストールされた結果、GMの目的や黒いモヤの正体、そして精霊に関すること以外全ての事柄を理解した……ということです」


 だがそれはおかしい。

 この世界の仕組みをインストールされたということは、このゲームのシステム側からされたということ。そしてシステムを操作することが出来る人物といえばGMかその運営だけだ。だがPLを陥れたGMが一体何故?


「どうやら貴方達は心当たりがあるようですね」

「は?」


 そう言った大臣の視線はゴストとその姉であるグレース姉に向けられていた。


「ゴスト……? グレース姉? 心当たりって一体……」

「区切りがついたら話そうと思っていた。……覚えているか? あの時、大臣の身体から黒いモヤが現れ俺が何をしたのか」


 あの時は、黒いモヤが現れた瞬間俺とナナ、そしてライカの三人はまるで恐怖が引き出されているかのような感覚が表れ、身体の自由も感じられなくなり、意識が朦朧としていたためあまり詳しいことを覚えていない。

 ただ分かるのはあの状況でゴストただ一人だけが動くことが出来、光の放流が俺達を包み込んだということだけだ。


「そうか……そこまで覚えているのか」

「ゴッドストレートスマッシュ……話すの?」

「口止めされてようが、今は緊急事態だ。協力者は多いに越したことはないし……俺も、ちゃんと聞きたいことがあるしな」


 そうしてゴストが懐から取り出したのは青い金袋。

 確か青い金袋はチュートリアルで貰ったアイテムで効果は、三分間だけ存在するゴールドを取り出せるという効果だったはずだ。


「聞いてるだろ? アウルム」

『ふむ、確かに緊急事態だ。それに……こちらも確かめたいことがある』

「な、何だ!?」


 見慣れない声が聞こえた瞬間青い金袋から光が発せられ、金袋と光が分離したのだ。

 そして分離した光が一つの形に纏まっていき、そこに現れたのは……。


『我が名はアウルム。ゴッドストレートスマッシュの盟友にして、金を司る精霊眷属だ』


 長い金色の髪を一纏めにしたポニーテールの女の子。だが彼女の大きさは手の平大の人形サイズで、まるでファンタジー物に出てくる妖精みたいな感じだったのだ。

 そんな彼女が腕を組みをそのツリ目がちな目で俺達を見回しているそこに俺は彼女の外見が非常に可愛らしい姿をしていることに気付く。


「……あっヤバ」

『むぎゅ!?』

「……やはり、精霊眷属はどれも可愛い……」


 だが時既に遅し、可愛いという事はグレース姉の性癖に突き刺さる訳で……。

 気が付けば残像を残す勢いでアウルムを掴まえるグレース姉。

 姉貴……やはりこんな状況でも自身のペースを貫くのか……。


『キャッ!? ななな何を触っておるのだ貴様!?』

「全身金ピカな服装……目に悪い……急いで脱がせないと……」


 グヘヘヘ……と涎を垂らす変態クレイジーに先程までのシリアスはどこ行ったのか、今この場所にはアウルムの悲鳴と変態の奇声が轟いていた。

 そして暫くすると。


『もういやじゃ~!! あるじ~!! たすけてくれ~!!』


 完全に涙目ってか泣いてゴストに助けを求めていた。

 最早最初の頃の威厳は消えうせている。これは酷い。


 それを見かねたゴストはナナに目を向けた。


「ナナ……頼む」

「あいあいさー」


 黄色の銃弾を装填したナナは今暴走している変態に銃口を向けて撃った。


「フッ……ビーストを舐めるな……」


 あの変態、暴走中でも化け物並みの反射神経を発揮して後ろからの銃弾を回避しやがったぞ。

 だが弾丸を回避されたナナはというと、未だに不適に笑っていた。


「残念、実は当たるんだなこれがー。何故なら私は遠距離狙撃手シューターだから」


 変態が回避した弾丸は途中で消え、もう一つの弾丸が変態の背中に現れたのだ。


「ギャフ……!?」

「放った弾丸は『麻痺弾』。それを『ファントムバレット』でフェイントしたのさー!」

「アバババババババ……」

『あるじ~!!』

「おーよしよし、変態さんはもういなくなったからな~大丈夫だぞ~」

「何だこれ……」




 ◇




『うぐ、えぐ……せ、精霊眷属はじゃな、ぐす……その名の通り、うぅ……精霊の力を持った眷族達の……ぐす……呼称なのだ……うぇえええ』

「大丈夫ですよアウルムちゃん。変態は牢屋に行きましたからね」

「それに『麻痺弾』五発もぶち込んでおいたから安心してねー!」

「哀れ……もしない姉貴、これからの事は任せろ」

「お、そうだな」

「あの……話を進めてもいいですか?」

「……お、そうだな」


 いらない茶番を経て、ようやく持ち直したアウルムから精霊眷属の事、そして黒いモヤの事について教えられた。

 先ず初めに説明しなければならないのは精霊とは何かということだ。

 今の俺達がこの世界ゲームにおいて知っている精霊についての情報は、二つ。


 一つはこの『マテリアス』という世界を構築したということ。

 世界を構築したという事実は非常にスケールの大きい話だが、アウルムに確認したところ事実だという。ゲームを始めた時に流れた、世界に万物を溢れさせるというオープニングがまさにそれだという。


 そして二つ目。

 精霊は今、消えているということ。

 プレイヤー達の見解では何も無い世界に万物を溢れさせたことで力を失い消えたのではないかという説がある。実際あのオープニングの光景では世界を構築する度に一人、また一人で精霊が消えていったのだ。

 精霊が消えているという話を聞いたアウルムの表情が悲しげな表情を浮かべていた事から、アウルムは精霊たちがいなくなった事で寂しい思いをしたのだろう。


 以上が今俺達が知っている精霊という存在だ。

 だが逆に言えば俺達が知っている情報といえばその二つでしかない。

 精霊眷属という存在、精霊遺産というアイテム。

 精霊が関わっているであろう存在や場所、精霊遺産の説明文から精霊が何をしていたか等窺い知る事が出来る。それに曖昧だが地域ごとに精霊の資料もあるのだ。


 だが精霊が消えたのなら探し出すための手がかりは? 精霊はどこにいるのか、今何をしているのか。精霊がいた時代は? それは何年前なのか?

 そんな情報は何一つ残っていない。それが現段階で分かっている精霊についての情報だ。


「それでも……何かしらの情報は持っている筈だろ?」

「……どうしてそう思うんだキョウ」

「このハンマーだよ」

「それは……『ロキの鉄槌』……」


 大臣が複雑そうな表情で名前を呟くが無視だ。

 俺がみんなに知って欲しいのはこの『ロキの鉄槌』が作り出された経緯だ。


「このハンマーのフレーバーテキストには『悪戯を司る精霊ロキがある日、何を思ったのか今までの悪戯心や不真面目さを完全に封じて真剣に、真面目に作った』ってのがあるんだ」

「兄さん、つまりそれは……」

「そう、フレーバーテキストに何かしら書いてあるんだろうって」

「それをβテスター時代を生きて、幾つかの『精霊遺産』を手に入れているだろうゴストが、それに気付かない筈が無いってわけかー」


 ナナの言う通りだ。

 雰囲気作りのための説明が多いフレーバーテキストだが、中には様々なアイテムのフレーバーテキストを繋ぎ合わせると世界観の裏設定とかが理解できる物が多いんだ。


「……正解だ。そう、俺たちはある程度精霊についての情報を知っている。……大した情報じゃないがな」

『分かっている事と言えば、精霊には我ら精霊眷属のようにそれぞれ司っている概念……それも遥かに巨大な力があるということ。そして消えた時期が今から五年ぐらい前だろうか』

「五年ぐらい前……結構最近だな」

『その五年は、お主たち現実世界での五年という但し書きがあるがな』

「あっ、そうですね……あちらの五年はこのゲームにおける五年とは限らない……」


 ライカが時間についてそう呟く。

 そうだ、確かこのゲーム内での一日は現実世界では一時間の経過になっているんだ。今ではGMによってゲーム内での一年は現実世界での一秒に圧縮されている訳だが。


『それに加え、昔の経過時間は一日一時間ではなかった。一年一秒という今の時間圧縮よりも遥かに圧縮された時間故に、この世界で精霊の消えた時期という物は分からないままだ。まぁこれが消えた時期に対してこの世界における歴史的時系列の矛盾点解消のための設定と言われれば、そうかもしれんが』

「じゃあどうやって、消えたのが現実世界での五年前って分かったんだ?」

『そう、書いてあったのだ』


 その言葉を聞いた俺たちは混乱した。


「書いてあった……って?」

『主たちプレイヤーがやってきて暫く経った後に、ある精霊遺跡を見つけ、その奥にある石板にこう書かれていたのを見つけた』


 ――その日、表の世界から異邦人(きた)る。

 ――その日こそが、我らの願いを託す日だ。


「どう言う事だよ?」

「表の世界……つまり私たちが住んでいる現実世界……という事でしょうか」

『そうだ。恐らくプレイヤーたちが初めてこの世界にやってくるαテストの日と精霊が消えた日は同じだったのだ』

「同じだったのに精霊眷属とプレイヤーとの邂逅がズレたのは、この世界側の時間圧縮のせいだったのか」


 そこでようやく精霊眷属たちは、精霊が消えた時期が現実世界でのαテスト開始時期と同じである事を知ったのか。


「ふーんそれじゃあアウルムちゃんたち精霊眷属は生まれてからどれぐらい経ったか分かるのー?」

『随分昔の事だと思う。目覚めた瞬間、自身が精霊眷属である事と力の使い方に関する知識、精霊がこの世界を構築した光景、そして精霊に対する敬愛心だけしか持ち合わせていなかった。今思えば、生まれてからプレイヤーという存在と出会うまでの長い年月を経験しなかったら、我ら精霊眷属は良いように扱われていたかもしれん』

「良いように……とは?」

『生まれたばかりの精霊眷属は自我が未発達だからな。主と同じプレイヤーという存在を悪しく言うつもりは無いが、恐らく道具として生きていく事になる未来があったかもしれん』


 そう考えると、その強烈な時間差は不幸中の幸いだったのだろう。


『長い年月を掛け、自我や知識が発達し、我が主を含めたプレイヤーと出会った。そして我ら精霊眷属の宿命について理解したのだ』

「精霊眷属の、宿命?」


 俺の発した疑問に対し、ゴストがアウルムの代わりに答えた。


「あの黒いモヤの正体。それは悪霊と呼ばれる存在で、精霊眷属はその悪霊を倒すために存在しているらしい」


 悪霊……その言葉を聞いた俺は、あの広場で戦ったGMの一人、アラキの持つ青い炎を纏ったフェニックスを思い出した。

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