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MATERIAL FRONTIER ONLINE:スタイリッシュパーリィーの冒険活劇  作者: クマ将軍
第一章 冒険者の集う国カンレーク
32/62

第2話 中央広場にて

お待たせしました。

 イベント、その言葉を聞いた俺達プレイヤーは動揺した。

 何せログアウトという異常事態だ。それが他でもないGMら運営側が意図的に起こしたそれを単なるイベント、そう言ったのだ。そのあまりの言い様に怒りを抱いたのは俺一人だけではなく、この場にいるプレイヤーは一斉に目の前にいる黒いローブの五人にブーイングを浴びせた。


『ふざけんな!』

『俺達をログアウトさせろ!!』

『裁判沙汰じゃ済まなくなるぞ!!』


 口々に罵声を浴びせるプレイヤーの勢いは徐々に増し始め、プレイヤーが暴れようとした瞬間。


「黙れ」


 代表である男がそう呟いた言葉と共に、プレイヤーの口が強制的に閉じた・・・


『……ッ!!』

『~ッ!!!!!』


 どれ程の力を入れようとも閉じられた口は開くことも発することも出来ないその異常な出来事によりプレイヤー達は改めて今目の前いる人物達は誰なのか理解する。

 目の前にいるのはこのゲームを開発した人間で、謂わば『MFO』という世界を作った神。

 その絶対的な支配力にいちプレイヤーは対抗出来ない上位の存在。


 それがゲームマスター、運営が用意した運営のアバターキャラ。


「このイベントを受けるも受けないも貴方達の勝手ですが……貴方達はログアウトが出来ないことをお忘れなく。別に自由がないというわけではありませんよ? 貴方達はこの世界を自由に暮らせばいいでしょう。海も空も大地も、剣も魔法も機械も、この世界にはそれがある」


 そう両腕を広げ演説するGMの男。


「しかしこっちでの一年は向こうでの一秒! 周りに気付かされることも無く助けも来ない中で、この世界を好きなだけ過ごせばいい!」


 それはプレイヤーの思考を白く染め上げるほどの強烈な言葉だった。

 プレイヤーはログアウトが出来ず、GMが用意したイベントを進めない限り元に戻れないどころか下手すれば永久にこの世界に囚われることになる。最早拒否権はないに等しいと、暗にそう言ったのだ。


「お前らプレイヤーに求めるのはたった一つ……」


 そして口を開けない広場のプレイヤー達に現れるクエストウィンドウ。

 そこにはたった一行だけこう書かれていた。


『消えた精霊を探し出せ』


 それは『MFO』開始時に流れたこのゲームの目的。

 しかし精霊をメインテーマとしたゲームなのにα、βのテスト期間を受けても精霊の謎は未だに解明されない『MFO』最大の謎。解明されないというのも精霊に関する資料や関連するアイテムがあるのに、肝心の精霊に直接関係するクエストは一向に見つけられないのだ。


 その精霊の謎をGMは解き明かせというのだ。


 だがGMが出したイベントの内容や行動はどうもチグハグに感じる。

 自分達が作ったゲームなのに、何故プレイヤーに精霊を探させるのか。

 何故GMは精霊を探すというためだけにここまでするのか。


 しかしそんな疑問を考える余地は無く、GMはまるで己の役割を終えたと言う様に上空へと浮かび上がり消えようとしていた。

 プレイヤー達に一方的に告げて、プレイヤー達に発言させることを禁止して、何も碌に説明しないまま去ろうとしているこの理不尽に、俺達は黙って見ているしかない。

 だが本当にそれでいいのか?

 理不尽に自分達の都合で周りを振り回しているのを、俺は許せるのか?


『プレイヤーの感情が一定数の数値に到達しました』

『ユニークスキル:???の第一段階に移行します』


 気付けば俺はピコピコハンマーを取り出して真ん中にいるGMの男にぶん投げていた。


「ッス!!」


 だがGMの男に届く前にもう一人の黒いローブを纏った男に叩き落とされた。


「まだ何か用か?」


 そう言うGMのリーダーだが不幸なことに俺は口を開けられない。だから俺は、相手に分かるようにジェスチャーをした。中指を立てて、こっちに降りろというジェスチャーを。


「威勢がいいプレイヤーがいたものだな。……アラキ、お前が相手をしてやれ」

「分かったッス」


 そう言うとアラキと呼ばれたGMが空けた広場の中央に降り、自分のローブを脱ぎ捨てた。そこには頭に赤いリーゼントに赤い拳闘士みたいな服装など赤を基調とした小柄の男性がいた。


「さぁ威勢の良いプレイヤーさん出てくるッスよ」


 手招きしてピコハンを投げた俺だけではなく周りのプレイヤーにも挑発するアラキ。どうやらここで一辺に不満のあるプレイヤー全員を相手にするらしい。


 アラキの挑発を買ったのは俺を含めてざっと百五十人前後。対する相手はたった一人だ。

 因みにそれ以外のプレイヤーはGMの男が使った口を封じる力に怖がってかなりスペースを空けて傍観するつもりらしい。まぁ一部のプレイヤーは俺の親友と妹達みたいに普通に傍観しようとしている奴もいるがな。


「とりあえず今の所はこれぐらいッスね」


 しかしこれぐらいの人数相手にアラキは焦った様子は見受けられない。これは油断か、それとも余裕の表れなのか……。


 人数を確認したアラキは何やら指を動かし、時間的に一分ぐらいで動かし終わると俺の前に『GMネーム:アラキから決闘の申し込みが来ました』というメッセージが出た。

 俺は初めて見るが多分これがプレイヤー同士で戦う決闘システムだろう。画面には『受ける』か『受けない』というボタンがある。『受ける』を押せば決闘の始まりだ。


 当然、俺が押すのは『受ける』のボタンだ。


 周りを見れば皆が皆『受ける』というボタンを押していた。『受ける』ボタンが押されていくほど俺の前に出ている待機画面には味方陣営の数が増えていくのがわかる。

 総数百五十六人がアラキと対峙するプレイヤーの人数だ。数だけ見れば圧倒的にプレイヤーの有利に思える。だがその場にいるプレイヤー誰もが緊張した面持ちでアラキというGMを睨んでいた。


 何せ相手はゲームの開発者である人間だ。何をしてくるのかも分からない。そんな現状の中GM相手に油断しているプレイヤーはいないだろう。


「ではプレイヤー側百五十六名と俺一人での決闘を始める。決闘内容はチーム戦、どちらの陣営が全滅したほうが負けッス。おっと始める前に貴方達の口を自由にするッスよ」


 パチン、と指を鳴らした瞬間俺は自分の口を動かす感覚が戻ったような感じがした。事実、実際に声を出してる奴もいるし口をパクパクしてる奴もいるから本当に口の自由が戻ったのだろう。


「……それでは、始めるとしましょうッスかね」


 そして始まる決闘のカウントダウン。

 空中に浮かぶ十の数字が徐々に減っていくのを見る俺に一人の男が聞いてきた。


「なぁお前さん、あの赤い武器を投げたプレイヤーだろ」

「お、おう? ……まぁそうだが」

「……ありがとな。あの場で突っ立ってるだけしかなかった俺いや俺達にGMをボコす機会を与えたお前には感謝してもしきれねぇ……」

「い、いやそれはいいんだがそれ以上は言っちゃいけない」

「俺、この騒動を解決したら現実で待ってるあいつに言いたいことがあるんだ……」

「いや、言っちゃ駄目だって」


 見れば俺の周りにいるプレイヤーは口々にフラグが立つようなヤバイ台詞を呟いているのが聞こえる。これはアカン。これから起きる出来事が手に取るように分かる。


「それじゃあ決闘の始まりッス」

「ッ!!」


 ヤバイ。フラグを呟きまくってるプレイヤーに気を取られすぎてカウントがゼロになっているのに気付かなかった。俺は急いで武器を構えてアラキのいる方向に目を向けるが……。


「――いない!?」

「ぶげらぁっ!?」


 右方向からプレイヤーの悲鳴が聞こえる。まさかもう攻撃を始めているのか。悲鳴があった方向に顔を向けるとプレイヤーが空を飛んでいる光景が入った。一瞬呆然とするがあれはアラキにぶっ飛ばされているだけだと気付き、気を取り直してアラキの姿を追う。


 だが見えない。いやプレイヤーが吹っ飛ばされる前に一瞬プレイヤーの前に現れてプレイヤーを吹っ飛ばした次の瞬間に消えたのだ。


「姿を捉えきれないほどの速度で移動してるのか!」

「あぁ!? お前さん何で分かるんだ!?」

「はぁ? いやあのGMが攻撃する瞬間に姿が見えるだろ!?」

「俺にはアイツらが勝手に吹っ飛んでるようにしか見えないぞ!」


 なんだと?一体どういうことだ。何故俺だけ見えて、この死亡フラグを言った男は見えない?まさかあの速度に着いて来れないのか?


「アンタ……目が良いッスね」


 俺が思考に入ろうとした瞬間、死亡フラグの男がいた筈の場所にあの男の声が聞こえた。

 我に帰ってその場所に目を向けると、死亡フラグの男を素手・・で吹っ飛ばしたアラキの姿がいた。


「だが所詮はただのプレイヤーの一人ッス!!」


 気が付くとアラキは俺の間合いに入り、俺のに向かって右ストレートを繰り出そうとしているアラキの姿が……。





 なんでそれが見えてるんだ?


「――避けた?」


 アラキの驚愕を含めた声が聞こえる。俺の身体は勝手にアイツの右ストレートを顔を逸らしてかわしていたのだ。『暴走状態バーサクモード』ではない、普通の俺が……だ。


 我に帰ると俺の目の前には驚愕の顔をしているアラキの顔が、それが何故か周りの光景と同じようにゆっくりになっていって、俺はそのまま……無意識の内にロキの鉄槌を手放し、握り締めた拳をアイツの突き出した右ストレートに被せて左ストレートを放つ。

 所謂、クロスカウンター。相手の勢いを利用して顔面に放ったそれは、それまでプレイヤーを空に吹っ飛ばしたアラキを……逆に吹っ飛ばしたのだ。


「グッ……舐めるなッス!!」


 しかし伊達にGMの一人ではなかった。吹っ飛ばされても尚空中で体勢を立て直して地面に着地したアラキ。だが勢いよく良い物が入ったのかは分からないが、アラキの顔は直視するのが憚れるほど酷い有様だ。……ってかマジで『前が見えねェ』レベルの陥没具合だよこれ。

 そう思ったが……。


「なっ反則だろそれ!?」


 アラキのミンチより酷い顔が徐々に元に戻っていったのだ。


「フーン……プレイヤーネーム:キョウ、ッスか。アンタ面白いッスね」


 ……どうやら、まだ決闘は終わらないらしい。

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