第3話 チュートリアルスタート!
「いいか!? 今後あたしに質問する時は言葉の最初と最後にサーを付けろ!」
ナガレさんが意味の分からないことを俺に命令する。
「え? えーとナガレさん?」
「貴様! 言葉の最初と最後にサーを付けろと言ったはずだぞ!」
「ぶべっ!?」
訳も分からず混乱しているといきなり棒で殴られ、HCを見るとグリーンからイエローに変化した。
「これでダメージに関するチュートリアルは終わったな。次!」
「さっきの攻撃ってチュートリアルなの!?」
「貴様! 言葉の最初と最後にサーを付けろと」
「サー! これってチュートリアルなんですか!? サー!」
「そうだ! これから戦闘に関するチュートリアルを始めるぞ!」
アイテムとかメニューとかのチュートリアルをすっ飛ばしていきなり戦闘という展開に驚く俺を無視して、ナガレ(さん付けは止めた)は武器を渡して来た。
「この武器を手に、あそこの魔物を倒せ!」
指を指した先には一匹のウサギが鎮座していた。
ウサギの頭上に浮いてある名前を見ると『ラビットロケット』と表示されている。体が普通のウサギより一回りデカイこと以外に外見は普通のウサギと変わらない魔物だ。
それに何だろうか。モフモフな体毛に目をウルっとさせている様子のウサギに戦意が薄れてきた。
「さ、サー! 本当にあそこのウサギを殺ればいいんですか!? サー!」
「そうだ! 分かったらとっとと殺れ!」
いやいやいや、いきなり可愛いウサギを倒せというのか貴女は。こんな理不尽を運営がいきなり用意するはずが……。
「…………」
「…………」
この養豚場の豚を見るかのような目はマジな奴だ。
恐らくあのウサギを倒さなければ次に倒される標的は魔物ではなく、俺かもしれないという気配さえ感じる。そう直感した俺は、ウサギの可愛さよりも己の身の可愛さ故に急いであのウサギに向かおうとするが、ふとナガレから手渡されてきた武器を見る。
「…………」
それは赤い形状をした武器だった。
手に打ち付けると当然のように鳴る軽快な音。
大きさも程よく相手を叩き付けるのにうってつけな大きさだ。
それを人はピコピコハンマーと呼ぶ。
「おいどうした、馬の糞よ」
「付き合い――」
ピッチャー、キョウ選手!振りかぶって~。
「きれるかァァァッ!!」
ふざけたピコピコハンマーを相手の顔面にシュゥゥゥーッ!!
「ふぎゃ!?」
超!エキサイティン!!
『ハンマーの初回使用を確認しました』
『パッシブスタイル《ハンマースタイル》を入手しました』
『ハンマーでの投擲を確認しました』
『アクティブスキル《ハンマースロー》を入手しました』
「な、何をする貴様!?」
そこで俺はナガレの顔面に当たって空中へバウンドしたピコピコハンマーに向かって跳躍ゥ!!
『一定距離への跳躍を確認しました』
『パッシブスキル《跳躍》を入手しました』
俺は空中で回転し華麗にピコピコハンマーを掴み、勢い良くナガレに向かって振り下ろすッ!!
『曲芸的な運動を確認しました』
『パッシブスキル《軽業》を入手しました』
『空中でのハンマーの使用を確認しました』
『アクティブスキル《アイアンフォール》を入手しました』
新しく手に入れた力を声高く叫べ俺。
ゲットしたスキルの名前を相手に分からせるよう宣言しろ!
「《アイアンフォォォルッ》!!!!」
瞬間、スキル発動を示す甲高い音が発され、俺の手に持ってるピコピコハンマーに勢いが増していく。だが残念かな、勢いが増してもこのピコハンにダメージはない。
だがしかしッ、例えそうだとしてもッ!!
俺にはこのピコハンをナガレにぶつけなければならないッ!!
「光になれえぇぇぇぇぇ!」
ピコォッ!!!だがしかしダメージはない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「ちょ、やめて! 痛くないけど精神的に辛い!」
だがそれでも俺は殴るのをやめなかった。
反動で浮き上がったピコピコハンマーをそのままナガレに向かって連続で叩きつける。
ピコピコピコピコピコパコピコピコピコ!!
『ハンマーでの連続叩き付けを確認しました』
『アクティブスキル《ドラムハンマー》を入手しました』
「ふははははは!! この音色こそが貴様を地獄へと導く終末の音と思いながら聞き続けろォ!!」
◇
「ふぐっ……ぐすっ……ごぺんなじゃい……もうじまぜんがら……」
「あ、いや……こちらこそごめんなさい……」
俺がキレたという事もあるがまさか『暴走状態』になっているとは気付かなかった。
その結果が今のナガレの姿だ。
はっきり言うと俺はあまり『暴走状態』について良い思い出はない。
言動は常に相手を見下し、もしくはふざけたことを抜かし、その態度は傲慢とも慢心とも取れる行いをする。そしてやかましいほどにウザくなる。
その所為で相手は逆上し俺に突っかかってくるがその先が『暴走状態』の怖いところだ。
ぶっちゃけ『暴走状態』の俺はかなり強い。
その強さは襲い掛かってきた不良の軍団を俺一人で倒すほどだ。
タガが外れた状態だと診断した医者によると、これは過去に見た映画やアニメ、漫画、ゲーム等の動きを再現しているという。
また動きを再現するのではなく、あらゆる状況を把握する思考能力等も上昇しているらしく適切なタイミングに適切な技等を放つためその動きはまさに一騎当千だと言われた。
これのお陰で今まで突っかかってきた数々の悪党共――何故か逆上して襲い掛かってくるのは悪党だけだった――を返り討ちにしてきたのだ。
元はと言えばナガレの所為だがこの状況を見ると本当に最悪な気分になる。確かに言動はふざけてるが女性を泣かせたとか男として最低である。言動はふざけてるが。
「まぁ過ぎたことはいいや」
「いや立ち直り早いな!?」
ナガレは秒で物の見事に立ち直った。
それもナガレは先程の光景は無かったかのように、まるで成長した教え子に向けるような眼差しで俺を見つめてると来た。
「さて戦闘に関するチュートリアルだが……もうあたしからは何も教えることは無い」
さっき泣いていた人が何を偉そうに師匠ヅラしてるんだ。
「それでは最後のチュートリアルだ」
「いや待って、もう最後? メニューとかアイテムとかさっき無意識に使ったスキルとかそういうチュートリアルは!?」
正直に言って初回のゲームは必ずチュートリアルをやる派だがこんな途切れ途切れなチュートリアルははっきり言って不満だ。
この先、ゲームを進行するなら試行錯誤で進めるのもいいがある程度はサクサク行きたいのだ俺は。たまにあるチュートリアルやヘルプで改めて気付くような仕様も先に知りたいのだ俺は。
「…………」
え?何その『めんどいからパスしたい』みたいな表情は。
「ひっ!?」
おっと無意識の内にピコピコハンマーを握ってた。
どうやらナガレはこのピコピコハンマーにトラウマを持ってるらしい。
まぁ持たせたのは俺の所為なんだけどな。
「し、仕方ねえな! ほら教えてやるよ先ずはメニューからだ!」
「何故上から目線なんだ……」
◇
あの後俺はナガレからやっとまともなチュートリアルを受けた。
先ずはメニュー。
頭の中でメニューと念じてステータスを見る時と同じ、空中で指先を下にスライドすると出てきた。
メニューには上から順に、
ステータス
スキル
クエスト
ストレージ
マップ
コミュニティ
システム
の7つの項目がある。
最もこれらは態々メニューを開かなくとも出したい項目を頭で念じて先程やったように下へスライドすればショートカットできる仕様になっている。
後はアイテムの使い方や装備についてとかも教えられたがまぁ、現実世界と同じように使うのがほとんどだから割愛だ。
「さてこれで大抵の使い方は理解できたな」
「ありがとうございましたー」
「細かいところはヘルプを見てくれ、そしてどうしても理解できなかったら運営に聞け。いいな?」
「分かりました」
「オッケー、それじゃ次で最後だ」
やっと最後か。
いらないネタのお陰でここまで来るのに時間掛かったな。
いや、待てよ?何か忘れてないか?
「最後にやるチュートリアルはこれだ」
感じる違和感に頭を捻る俺を余所に指を鳴らすナガレ。
指を鳴らすと同時に俺は絶句することになる。そうだ、俺は忘れていた。このようなファンタジーゲームのメインとして戦闘システムがあったことに。
「ん? どうしたそんな著名人の石膏みたいな顔をして」
すまないが例えが分からないものはやめてほしい。
まぁそれもそのはず、俺の前に数え切れない大小様々な魔物の大群が現れたのだ。
「な、ナガレさん? これは一体……」
「これか? これはな、見ての通り魔物だ」
「そんなことは分かってんだよ! 何であんな魔物の大群がいるんだよ!」
見ればドラゴンらしき魔物もいるし!
「そんなもんチュートリアルに決まっているだろ?」
ん?何この人今チュートリアルって言った?
え、これチュートリアルなの?
まさか、この大量の魔物相手に戦闘のチュートリアルをするのか?
「最後のチュートリアル……それは」
「……それは?」
「死に戻りだ」
「いや戦闘じゃないんかーい!」
次回は始まりの街編開始、クマ将軍です。
【現在の『キョウ』のステータス】
NAME:キョウ
RANK:―
ROLE:―
TRIBE:ヒューマン
HC:グリーン
MC:ブルー
STR:D-
DEX:D-
VIT:D-
INT:D-
AGI:D-
MND:D-
LUK:D+
【称号】
《初心者》《ハンマービギナー》《案内人を泣かせた男》
【パッシブスタイル】
《ハンマースタイル》
【スキル】
『パッシブ』
《跳躍》《軽業》
『アクティブ』
《ハンマースロー》《アイアンフォール》《ドラムハンマー》
【装備】
右手:ナガレ特注ピコピコハンマー
左手:-
防具:初心者用皮装備一式
装飾:-
以下用語説明。
パッシブスタイル
スタイルに対応する動きをする時、ステータスに補正を掛けるスキル。
パッシブスキル
取得するだけで継続的に効果を持続させることが出来るスキル。
アクティブスキル
任意のタイミングで発動させる事の出来るスキル。
Q.『暴走状態』ってどう見分けるの?
A.普通の口調が普通の状態です。『暴走状態』はヤケに口調がハイテンションになっています。