第11話 vs大臣ごっ!
◇BATTLE PART
消えた、そう認識した大臣は全力で横に避けるも轟音と共に後ろの壁は粉砕され、その余波により大臣は吹き飛んだ。
「キョウの攻撃を避けた!?」
まさか『暴走状態』の攻撃を避けるとは思っていなかったゴストは驚愕するが、それに対し大臣の表情は苦しげだ。
「この化け物が……!!」
そう舌打ちするようにごちる大臣だが外見なら明らかに大臣の方が化け物である。それでも自身を棚に上げる程、キョウの動きは自身の予想を超えていたのだ。
「動きは見えた、見えたが……出鱈目だ」
キョウの掻き消える動きを見たのはこれで二度目である。だが最初はピコハンとキョウ自身の二重の《挑発》を受けた大臣は冷静さを失っていたため気付くのが遅くなった。
なんてことは無い、キョウは普通に移動しただけである。だがその動く速度がオウガブーストで強化した大臣でさえも辛うじて見抜けるほどの速度なのだ。
「縮地はおろか移動に関する技術もへったくれも無い身体能力だけの速度……!!」
大臣はこの戦いで初めて目の前の男に対し戦慄をした。見るからに動きも、戦術も、才能も並だと記憶をしていた筈だった。
あのSランク冒険者のように奇妙なスキルを持っているわけでもない、あの二挺拳銃を使う少女のように超絶的な才能を持っているわけでもなく、互角に渡り合ったあの少女のように技術を持っているわけでもない。
「なのにこの化け物染みた強さは一体なんだ……!」
何故ここまで別人のように強くなったのか。幾ら疑問を浮かべてもそれに対する答えが得られるわけがなく、それで相手は待ってくれはしない。
「伸びろ、鉄槌」
(仕掛けてくる!!)
スキル名からハンマーが伸びてくると察した大臣は攻撃を受け流すための技を構える、が一向に攻撃が来ない。いや、来ると予想した攻撃が来ないのだ。
「まさか、スキル空打ちによるフェイント――」
気付いた時には既にキョウは大臣の懐に入り、ハンマーを横に構えていた。
「《フルスイング》」
今キョウが持っているハンマーの前の持ち主だった男である故に、その能力もその使い方も知っている。故に次にキョウがすること理解して人間離れした顔を引き攣った。
「《爆ぜろ、鉄槌》!」
フルスイングというアクティブスキルによって遠心力が最大に達した瞬間に『爆ぜろ、鉄槌』による巨大化のコンボは、直撃した大臣の体を宙返りする程の威力を誇っていた。
(私のハンマーに関する知識を逆手に取ったのか……!?)
それだけじゃない。威圧の方向でこの後に来る攻撃の予測を誘導し、何もないところで防御行動を取らされたのだ。ここまで来れば誰でもわかる。キョウの動き方は、高度な駆け引きを使った戦闘の技術だったのだ。
(戦闘の素人だったはずだ……私は流派の師範代だぞ……隠しているのなら私は見抜けていたはずだ)
それでも見抜けなかったのか、とそう考える大臣だが実際は違う。あの時最初に対面したキョウが戦闘の素人なのは間違いなかったのだ。キョウが『暴走状態』になるまでは、ただの素人なのだ。
一方その頃、キョウの脳内にとあるアナウンスが流れていた。
『先程の攻撃を我流・変幻爆砕の技一覧に設定しました』
このフェイントを織り交ぜた攻撃が我流の技に認定されたらしい。なるほどこうして我流の技を増やしていくのかとキョウは考えた。
実はキョウはこの戦いで初めてアナウンスを聞いたのはこれだけではなかった。キョウが『暴走状態』になり、大臣に一撃を食らわせたあと大臣から技術云々と繰り返し怒鳴られ辟易したキョウが冗談で言ったその瞬間、それが現れた。
『条件を満たしています』
『我流・変幻爆砕が承認されました』
『我流・変幻爆砕を習得しました』
『我流の習得を確認しました』
『《称号・流派開祖》を入手しました』
まさか本当に我流を手に入れるとは思わなかったキョウ一瞬真顔になる。
(条件? 条件って何ぞ?)
そう疑問も浮かんだが目の前にいる相手との戦闘で瞬時に消えた。実に戦闘狂らしい思考である。
キョウが疑問を浮かべた条件について、何故キョウは我流を習得するようになったのか説明をしよう。我流を習得するには二つの方法がある。既存の流派を組み合わせるか、自分で編み出すかの二つだ。
ゲームを始めたばかりでかつ早い段階で大臣に追われたキョウでは流派を組み合わせるだけの流派を学んでいはいないため、これは除外。次に後者だがそもそも技を編み出すのには何かしらの既存の技をベースにアレンジをする必要があるのだ。
しかしキョウの場合はベースとなる技も無しに我流の技を編み出せた。つまりキョウの場合は例外だと思うが違う、違うのだ。確かにキョウには戦闘に関する技術を持っていない。現実でも運動に関しては最高でも無いがそれなりに出来る程度だ。それが何故後者の方法が当て嵌まっているのか、それは単にキョウの持つ『暴走状態』が関わっていた。
思考能力に身体能力の強化、それに伴う性格の変化の他に、過去から得た知識や経験から身体を最適に動かす方法を無意識の内に行なうのが『暴走状態』のキョウなのだ。
故に身体の動き一つ一つが達人並みに最適化されていたため、それを技術と判断した『MFO』のシステムが我流の習得条件と見做し、キョウは我流を習得できるようになった。そして、キョウがふざけて我流の名前を名乗ったことで彼は初めて我流を習得できたのだ。
「オラオラまだ行くぞ、早く立てよ大臣!!」
「ガッハ……クソが!!」
左手に鉄槌、右手にピコハンを持ちながら大臣が回復するまで待つキョウ。先ほどの攻撃を受け、もんどりを打った大臣はままならない身体を何とか動かすも思い通りにならない。出来れば使いたくなかったが、そうも言ってられないと思った大臣の固有スキルを発動する。
「《衛兵召集》!!」
これにより大臣の周辺に瞬時に大量の衛兵が現れた。どうやらつい先ほどまで詰所までいたようで、最初の数秒は混乱していたが、大臣が固有スキルで呼んだことに気付いた衛兵は瞬時に臨戦態勢に入った。
「衛兵魔法隊……放てぇっ!!!」
『火の霊獣・サラマンドラの《火球》!!』
数人の魔法師がキョウに向かって魔法を繰り出す。
「《爆ぜろ、鉄槌》!」
だが隊列を組み連携して放った特大な火球をキョウは巨大化したロキの鉄槌で消し潰してしまった。まさか『精霊遺産』とはいえ物理的に魔法を潰したキョウに衛兵達は一瞬うろたえるが、瞬時に次の魔法を構える。だがキョウはハンマーを振り下ろした体勢から一向に変えない。疑問に思う大臣達だが突如として聞こえて来た笑い声に動きを止めた。
「ヒャハハハ……」
「何を笑っている貴様!?」
まるで狂ったかのように笑うキョウに大臣は一歩後ずさる。
「なぁ……おい、それってよぉ……魔法だよな?」
今、キョウの内心は狂が付くほど驚喜していた。実際、キョウがこのゲームを始めて魔法という存在を目撃したのは先程の攻撃以外なかったのだ。彼に『暴走状態』という能力があろうとも曲がりなりにもゲーマーの一人。今の今までが物理的な攻撃やら武侠物に出てくる戦闘しかなかったのだ。
別に魔法職を目指すとかそういうのではない。しかしファンタジーゲームだからこそ、魔法を使いたいというのはキョウとも言わず誰でもそう思っていることである。
それが今では目の前で魔法を行使する存在に出会ったのだ。
正確には出会ってしまった、の方だが。
「魔法を使わせろ、なあ。魔法だ!! 魔法だろう!? なあ魔法だろそれ!!」
「放てぇ!!」
『火の霊獣・サラマンドラの《火球》!!』
「ああ、そうだ。やっぱり魔法だ!! 魔法っていうのは……」
先ほども言ったように『暴走状態』には過去から得た知識や経験から身体を最適に動かす方法を無意識の内に行なう特性がある。そして今見ている光景も既に過去の物になっている。キョウが出来ないはずはなかった。
「こう使うのかぁ!!?」
手の平を突き出し、無意識の内に魔法の起動工程を終わらせ魔方陣を浮かび上がらせたキョウは、己の持つ魔力の半分以上を注ぐ。それによってシステムアシストによりキョウは発動する魔法の名前を脳内にインプットされ、キョウは声高にその魔法を発動した。
「火の霊獣・サラマンドラの《業火》ァァァ!!」
その結果、生まれたのは衛兵魔法隊の使った魔法よりも上の魔法だった。
これは『暴走状態』で10段階アップした状態の魔力の半分を注いだため、システム側が勝手に魔法を強化させたのだ。最早火球の魔法を超え、発動したキョウの魔法は連携で巨大化した火球を飲み込み衛兵の半分を焼いた。
「バ、馬鹿な……魔法だと!?」
「呆けてる場合かぁ?」
「グホォッ!?」
キョウが魔法を使ったことに驚愕した大臣はその一瞬の隙を突かれ、キョウによって天井を突き破り王宮にある最も高い広いバルコニーへと吹っ飛ばされた。
「ここは……上の階層か、クソ……なんという馬鹿力だ……!!」
今いるバルコニーから大臣の執務室までは一階分の階層があったはずだ。だがそれすらも超えてここに届かせるキョウの腕力は最早大臣の想像を超えていた。もし己の身体がオウガの身体能力が無かったとするとゾッとする大臣であった。
「よぉクソ大臣。どうだここの景色は。一番高い所為か夜風が気持ちいいぜ?」
何時の間にかここに上ってきたキョウに驚愕するも、眼下に広がるカンレークの街並みを見る。
夜にも関わらずカンレークの人々は未だに賑わっており、様々な種族が闊歩するこの国は大臣という立場を抜きにしてもかなりいい国だと感じさせた。
――だが、この国には……。
「スラム街があるんだぜ? テメーの所為で」
「そ、れは……」
言いよどむ大臣。これが普段のキョウならば、大臣の今の様子を見るにまだ狂気に陥る前の良心を持っているのかもしれないと思うだろう。良心を持っているのなら説得出来るはずだと思うだろう。
だが今のキョウであれば、やることは一つしかない。
「ッ……!?」
一瞬、何か頭に当たった気がした大臣は床に転がった物を見る。
「ピコピコ……ハンマー……!?」
「まぁ悩むのは俺がテメーをボコした後な」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
どう足掻いてもシリアスになりきれないのはやはり『暴走状態』の特性だろうか。案の定キョウの再三の《挑発》を受けた大臣は激昂状態になり雄たけびを上げた。
激昂した大臣はキョウに向かって腕を振り上げるもキョウは横に構えたロキの鉄槌でその剛腕を弾く。剛腕と鉄槌の応酬。体型的にもキョウの方が不利ではあるが、原理不明の謎腕力を駆使し、オウガとほぼ同等の身体能力を持つ大臣相手に渡り合っている。
数分の時間が過ぎた頃、激昂状態から冷静になった大臣は多少焦りながらも柔力剛流の技を駆使し対抗し始める。
「おいおいやり辛くなっちゃったじゃない……の!」
「そう思うならそれ相応の表情を……ガァアアアアア!!?」
やり辛いと言いながら何故オウガブーストと流派の技の組み合わせに対抗、いや圧倒しているのか。そう思う大臣だが、膝関節の間に深く突き刺さったピコハンの柄により悲鳴をあげた。
「さて、ラストスパートだ!!」
動けない大臣を尻目に、キョウは後方の壁を《パルクール》で駆け上が……いや、傍目からはまるで足だけで駆け上がる奇妙な光景になっている。かなりの速度で上空へと登っていき、やがてそれなりの高度を保ったキョウは壁を蹴りハンマーを構えながら落下し始めた。
「《爆ぜろ》《爆ぜろ》《爆ぜろ》《爆ぜろ》《爆ぜろ》《爆ぜろ》――《爆ぜろ、鉄槌》!!」
その言葉を紡ぐ度にまるで倍々ゲームのようにハンマーが大きくなっていく。やがてそのハンマーの大きさは王宮の半分ぐらいの大きさになり、キョウの体はハンマーの重量により落下し始める。
それをキョウは強引にハンマーを縦回転し、スキルを発動した。
「《アイアンフォール》!!!!」
回転、重量、落下速度により増したそのハンマーの威力はカンレークの国中の大気を震わせる。
「こんな……こんなことが……」
動こうにも膝の怪我によりどこにも動けない大臣はやがて、自身の運命を悟り目を瞑った。




