第9話 vs大臣さんっ!
◇BOSS EVENT
ナナの援護射撃により満身創痍となった大臣。しかしキョウ達の隙を突いて、とあるアイテムを飲んだ瞬間筋肉が急に膨張し、体格は三メートルを超える大男になった。急激に変化する事態に着いて行けないパーティだが次の瞬間、一同の脳内にとある記録が雪崩れ込んでくる。
「な、なんだ……これ……ッ!?」
キョウが呟くも、脳内に雪崩れ込む記録が止まることはなく、キョウの目の前である男が洞窟にあるアイテムに触れようとしている場面が映し出された。
『精霊眷属のオウガブースト……飲めばたちまちあのオウガ族と同じ身体能力を引き出せるアイテムか……つくづく私は運がいい』
更に目の前の景色は流れ、場面はとある保管庫で大臣がテーブルに置かれている二つのアイテムを見ている光景となった。その記録の中の大臣は何やら覚悟を決めたかのような表情を浮かべていた。
『精霊の力を持ちながら精霊ではない精霊眷属が作り上げたアイテム。それは精霊由来のアイテムよりも酷く不安定で、一回きりがほとんだだがそんなことは関係ない。私はこの国を守らなくてはいけない。いざとなればこの精霊遺産であるハンマーとこの精霊眷属のアイテムを使ってアイツの築き上げてきた国を守るのだ……そこにどのような代償を払おうとも……』
更に場面が代わり、とある部屋の一室の様子を見せられる。
『アイツが死んだ。原因は病の悪化、僅か十歳の王子を残して死んだ』
大臣が悲壮な表情で頭を抱えていた。
『これからは私がまだ未熟な王子の代わりにこの国を導かないといけない。だがアイツの代わりを、この私が勤まるのだろうか』
大臣はこれから先の未来に不安を抱いていた。自身の親友でありこの国の国王の死。名君であり、皆を纏め上げて先頭を進むカリスマ。そのような存在がいなくなり、この国の全てが自分の肩に乗ることになった。それがこれほどまでに重いのかと大臣は気付く。そしてその重みから懸命に耐える。それが余計に重くなることを、大臣は気付かない。
再度場面が代わり、とある貴族が大臣に進言している場面。
『この貴族の報告によると自身の部下が言うことを聞かないから私の権限で飛ばして欲しいという内容だった。この忙しい時期に一体何をやっているのか……』
先代国王が亡くなり、異邦人である加護持ちの数が更に増えてきた頃だ。今やこの国は更なる発展を進んでいた。だがその影では急激な発展に付いて行けず、住民や臣下の衝突が増えてきた。これはその際に、大臣の元へと寄せられた陳情だった。
『今はこのような争いをする場合ではない……なんとかならないものか』
似たような陳情がいくらでもあった。どの陳情も優秀な人間に対する妬みから来るものだ。当然そのような人材を大臣が追放するわけには行かず、大臣は陳情を無視した。そして、とある事件が起きた。
『何!? あの部署の従業員が逃げただと!?』
どうやらその部署に所属している優秀な者が頑張り過ぎて、その者の力量をその部署の標準と勘違いした他の人が大量の仕事を依頼した結果、その仕事の量に付いて行けない従業員が逃げ出したというのだ。
『上手く仕事の管理をすれば良いものを……』
呆れる他ない。だが、似たような案件が立て続けに起き始めた事から大臣は頭を抱えることとなった。その案件のどれもが、優秀な者に付いて行けず問題が起きるというもの。急激な発展でそのような人材が浮き出てきたのは喜ばしいことだが、そのような人材のせいで周囲の足並みが揃わず、余計に仕事に支障が来たす自体にため息しか吐けなかった。
『対応が後手になっている……なんとかしなければ……』
だからこそ、大臣はやってしまった。
『すまないが……もう少し自重をしてくれないか?』
優秀な人材を、自重するように押さえつけたのだ。
確かに上手く制御すればこの国は更に発展する。しかし、大臣には彼らを制御する自信や才能はなく、悪化する現状を元に戻すために、安定を選んだのだ。
『それなのに何故……彼らは止まってくれないのだ?』
足並みを揃えろ。
周りを突き放すな。
自重しろ。
『これ以上の発展は……アイツの作り上げた国が変わる』
変わってしまえば、それなりの才能しかない大臣の手から離れてどこまでも突き進んでいく。突き進んでいけば、守りたいものが消える。消えてしまう。
事実、危うく君主政権を撤廃しようとする事態にまで発展しかけたのだ。歴代国王の紡いだ歴史が変わってゆく時代によって消えるところだった。
だから決意した。
『私は正しい私は正しい違う私は悪くない私は正しい正しいのだこれはアイツが築き上げた物を守るためだ私は正しい私は悪くないそう私は悪くない!!』
追放した。
人の権利を奪った。
必要悪を作り上げた。
『頭が痛い。胸が苦しい。理性ではそれは間違いだと分かる。だが感情が、抑えきれない』
そして目の前にはとある冒険者パーティーの姿があった。この冒険者パーティー、特にそのパーティーに所属している一人の冒険者はここ最近大臣の手を煩わしている存在だ。
『忌々しい忌々しい。排除しなくては。排除しなければ先王陛下の築き上げてきた物が消える』
そして己は絶体絶命の窮地に陥り、打つ手がなくなった。
『ならば……今こそ国を守るためにアレを使うしかない……か、クククハハハ……』
追い詰められた大臣はその手にあの日入手したアイテムを懐から取り出し、それを飲んだのだ。
◇BATTLE PART
気が付けば、先程の記録が終わり現実世界に帰ってきたキョウたち。キョウは自身に起きた状況に混乱し、事態の把握を努めようとパーティーメンバーに声をかけた。
「なぁ見たか!? さっきのあれ!?」
「あぁキョウたちは初めて見たか……これは言うなればボス戦前に流れるボスの回想シーン、だな」
「なんだってそういうものが……」
「この国の周辺のボスしか狩ったことないが、どれも精霊由来の力を使うボスの戦闘前に流れるんだ」
「それって、一体何のために?」
「さぁな、俺には分からない……ただの演出なのか、それとも……」
ここでゴストは言葉を切り、大臣の方へ目を向ける。
キョウたちはゴストの説明した内容は理解できないが、それでも分かるのはこれからようやく本当のボス戦が始まるということである。
「ああ……いいなこれは……身体中に力が漲る……」
例えるならアメコミに出てくる緑色の巨人だろうか。三メートルを超える巨体に、はち切れんばかりの筋肉。流石に体色は緑色ではないが、それでも十分化け物姿である。
「とんだヤンデレな大臣だなおい……どんだけ前国王に一途なんだよ」
これから始まる戦闘に対し、先程の戦闘ではあまり活躍できなかったキョウは自身を鼓舞するように軽口を叩いた。
「…………」
その結果がジッとキョウを見つめる大臣だ。その光景を見て内心やっちまったなと思ったキョウ。どうやら相手のヘイトを集めるスキルを持っているのはこのナガレ特注ピコハンだけではないようだ。
『アクティブスキル《挑発》を手に入れました』
「喧嘩売ってんのか運営!?」
ピコハンの効果と被ったスキルを手に入れたキョウは果たしてそれは一体何の意味があるのだろうかとツッコミを入れた。だが今は戦闘中だ。戦闘中にツッコミを入れたキョウは誰が見ても隙だらけである。そして当然、その隙を逃す大臣ではなかった。
「やばっ!?」
巨体から解き放たれる音速並の剛拳。当たれば確実に木端微塵、ミンチよりも酷いことになるのは想像に容易い。それを回避する術は、今のキョウには持ち合わせていなかった。
「双楯守護、流派複合受け流しの型――『流水無害陣』」
――そう、キョウには。
「ふんっ!」
キョウの前に割って入ったライカは、迫り来る大臣の前で不思議な構えを取る。そしてその構えに大臣の攻撃が触れた瞬間、大臣の攻撃は自然に逸れたのだ。
「――私の攻撃を受け流した……のか?」
そのあまりにも鮮やかな受け流しは、攻撃を受け流された大臣でさえ自身の攻撃が受け流されたとは認識していないほどだ。しかしその反対に攻撃を受け流した筈のライカの表情は険しかった。
「この技を持ってしても手が痺れるなんて……卑怯ですね」
流水無害陣とは、このゲームに登場する体術系流派をほぼ網羅しているライカだからこそ出来た受け流し特化の奥義。相手の攻撃を少しでも触れれば問答無用で受け流すことが出来、それが例え魔法使いの魔法だろうとなんだろうと確実に受け流すことが出来る究極の受け流しの技である。
だがしかし、そのような受け流し技を持ってしても大臣の攻撃を完全に受け流したとは言いづらかった。何故なら手が痺れるというダメージが残ってしまったのだ。
この一瞬の攻防でライカが分かったことは、あの強化された身体でも彼の流派である柔力剛流の技を使えることと、それに合わせてあの人間離れした身体能力のせいで一発の威力がとんでもなくヤバイということだけだ。
「完全に別ゲーだよね!? お前ら完全にファンタジーしてないよね!?」
「その、なんだ……俺達は魔法との縁に恵まれなかっただけだ」
まるでこれが脳筋パーティの末路だといわんばかりの場違い感である。果たしてキョウ達はファンタジー要素を体験することが出来るのだろうか。
「ああ、もーう! 当たっても貫通しても回復するってどういうことなのー!?」
一方ナナはというと、ライカの支援をしていた。だが先程の言葉の通り彼女の放つ弾丸は例え大臣の身体を捉えてもあの鋼鉄並みの筋肉に阻まれ、貫通するようにスキルを発動しても瞬時に回復するという状況にナナは涙目になっていた。
「ほれほれどうした小娘!!」
その間にも大臣はライカに向かってラッシュ攻撃をし、ライカは両腕に装備している手甲型のバックラーを駆使し、対抗していた。だがそれも長くは持たない。例え耐久力に定評のあるドワーフの特徴を持つライカだが所詮はドワーフ、腕力において右に出るものはいないオウガの身体能力を持つ今の大臣に対して体格的にも分が悪いのだ。
「何も戦闘しているのは一人だけじゃねえよ!!」
そう声を上げたのはキョウだ。大臣がライカに気を取られている間にキョウは巨大化したハンマーを大臣へと叩き込もうとした。だが伊達に流派の師範代を務めている大臣ではない。これをあの巨体から考えられない程のスピードで躱す。
「『金剛金塊・投資省略、課金爆弾』!」
だがキョウのハンマーをかわした先にあったのはゴッドストレートスマッシュが用意したバスケットボール並みの大きさを持った赤い金袋。大臣がそれに気付いた瞬間、爆発するように中にある金が弾けたのだ。
「ぐ、おおおお!?」
己に襲い掛かる金の物量。一つ一つ対したダメージはないが一度の衝撃で大量の金が身体中に突き刺さる事態に、大臣はこの戦闘で初めて悲鳴を上げた。
「避けたお返しだ!!」
ゴッドストレートスマッシュの攻撃で怯む大臣の隙を逃さず、頭に巨大化したハンマーを叩き込むキョウ。ハンマーの攻撃を受け、流石の化け物状態の大臣でもかなり効いたようで血を流し吹っ飛んだ。
「よっしゃあ!! クリーンヒットォ!!」
「おい馬鹿気を緩めるな!!」
やはりそこは元冒険者だろうか。例え反撃されても勝ちへの執念は捨てず、尚且つ怪我を負いながらもすぐに突進を繰り出して来たのだ。
ライカはその驚異的な速度とそこから放たれる威力を想像。自身のもう一つの切り札を切る決意をした。
「双楯変形、堅牢形態!」
その掛け声と共に変化する手甲型のバックラー。二つに別れた楯が一つのタワーシールドになったのだ。だがそれだけでは終わらない。ライカは次に己の持つもう一つの奥義を繰り出した。
「堅牢守護、流派複合防御の型――激波不動壁」
それは流水・無害陣と同じくあらゆる流派の防御を組み合わせ、特化した奥義。
あらゆる攻撃を水流の如く相手の攻撃を受け流し、翻弄する双楯・流水状態とは違う真逆の堅牢・激波状態の特徴。それは激流の如く、不動の構えで相手の攻撃を強制的に封じる鉄壁の奥義だったのだ。
そんな奥義でさえも、大臣の攻撃を受け止めきれる自信は――ない。
「そんな楯ごとき、私の強化した柔力剛流に敵うものかぁ!!」
「おっと俺を忘れるな!」
更に膨れ上がった大臣の腕に対し、ゴストは一つの金袋を取り出した。
「『金剛金塊・投資省略、課金防御』!」
ライカのタワーシールドの前に展開される金の壁。
二重に展開された防御壁を見て大臣は……。
「無駄だぁ!!」
更に一歩踏んだ事によって加速し、繰り出された剛腕は一瞬にしてゴストの金の壁を粉砕したのだ。
「何だと!?」
哀れ、ゴッドストレートスマッシュ。自身の技が全く防御に役立たないまま終わり、このまま衝突する大臣の矛とライカの盾。そのあまりの衝撃にライカは悲鳴を上げそうになる。だがライカは後ろにいる仲間を守るために腹に力を込めて、声を張り上げる。
「グッ……アアアアアアア!!」
拮抗するライカの楯と大臣の拳。だが、その拮抗は長く続かず、徐々に大臣の身体が進み始める。
「ヤバイヤバイヤバイよー!?」
まさに絶体絶命。押されていくライカの身体を見て仲間達の顔に悲壮感が漂い始める。だがただ一人、キョウだけは顔にある表情を浮かべていた。この絶体絶命のピンチ、キョウだけは顔に笑みを浮かべていたのだ。
『脳波に異常を感知しました』




