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MATERIAL FRONTIER ONLINE:スタイリッシュパーリィーの冒険活劇  作者: クマ将軍
『MFO』ダイブスタート! 結成編
24/62

第8話 vs大臣にっ!

お待たせしました。

 ◇BATTLE PART




 アギルーダ・カームセはこの国の大臣である。大臣であるが故に机と面向かって政治を指揮し、国王の代わりとなって国を治め、風貌からしてとても荒事に向いていないということは誰もがそう思っていた。

 ――筈だった。


「避けやがった!?」


 当たれば敵を一撃で粉砕するキョウのハンマーを大臣とは思えない動きで躱したのだ。


「貴様らの仲間が何をやったのかは知らん」


 キョウの攻撃を躱した大臣は瞬時に目を見開いているキョウの懐へと入りこみ、獰猛な笑みを見せながら腕を引いた。


「だがたかがステータスをダウンさせたぐらいで私に勝てると思うなよ!!」


 その言葉と共に大臣の腕がまるで丸太のように膨れ上がる。それでパンチを繰り出そうとしているのが分かるが、回避行動を取るキョウよりも早く、大臣のパンチはキョウの顔面近くにまで迫っていた。


(マズイ……ッ!!)


 だがその窮地を助けたのは妹のライカだ。


「兄さんへの攻撃は私がさせない!!」


 その声と共に横から割って入ってきたライカは、大臣の丸太のような両手に装備している二つのバックラーで拳を受け流す。だが大臣の攻撃を受け流したライカはそのバックラー越しに伝わる強烈な衝撃に顔を歪める。


(文官が繰り出す攻撃とは思えないっ)


 これは詐欺だと内心愚痴るライカ。

 受け流しのタイミングは完璧だ。しかし直撃は免れたものの衝撃で腕にダメージが入り、腕が痺れ次の行動に移行することができない。先程の攻撃だ、ここで更に追撃を許せば無事では済まないだろう。

 それを察知したキョウはライカのいる位置と入れ替わるように腕を引っ張り、すれ違いざまにハンマーを横薙ぎする。


「食らえ!」

「無駄だ! 貴様に当てられる私ではない!」


 キョウの攻撃をいとも容易く回避する大臣。それでもキョウは諦めずに攻撃を繰り出すが、そのどれもが大臣に当たらない。


(目で見て回避、じゃない。これは相手の動きを予測して事前に動いている動き……ッ!!)


 ここでライカは脳裏にとある情報が浮かび上がった。


「先程の攻撃といいこの動き……まさか貴族街にある流派・柔力剛流の技!?」


 あらゆる体術系流派を修めたライカだからこそ気付いた大臣の強さ。その流派は柔の力で相手を封じ、剛の力で相手を粉砕する攻防一体を目的とした流派だったのだ。


「ほう一瞬で我が流派を見抜くとは小娘、只者ではないな」


 感心するように呟く大臣。その得体の知れない何かを感じ取った二人は距離を取る。その姿を見ながら、大臣は本気を出すために構えを取った。


「流派・柔力剛流師範代……アギルーダ・カームセ。これでも元冒険者だ気を抜くなよ?」

「数ある流派で最も有名な流派でありながらその錬度……ただの大臣ではないようですね……!!」

「お前ら完全に別のゲームやってるだろ!?」


 一人だけ流派を学んでいないため状況に着いていけないキョウ。このゲームはファンタジーゲームではないのか。いつから自分は武侠物のゲームをやっていたのかとキョウは頭を抱える。


「そこの小娘はやるようだが、貴様の動きは素人そのものだな。まさか流派を修めていないのか?」

「チッ、こちとらお前に追われてそれどころじゃなかったんだよ!!」

「ハッ、流派とは全ての精霊遺産を十全に扱うための技術だ。やはり貴様にはそのハンマーを扱う資格はないな!」

「そんなもん知るかバカヤロー!!」


 大臣に近付き、ロキの鉄槌を振り被る。


「《爆ぜろ、鉄槌》!!」


 それと同時にロキの鉄槌のスキルを使用。ハンマーは瞬時に大きくなり、大臣へと迫る。しかしそれを予測していた大臣は冷静にバックステップすることで回避。攻撃を繰り出した直後で硬直しているキョウに一瞬で近付き、タックルを決めた。


「ぐぁッ!! ま、まだまだだ! 《伸びろ、鉄槌》!!」


 吹き飛ばされるキョウ。だが悪あがきとしてロキの鉄槌のスキルを使用し、ハンマーの柄を伸ばして大臣に向かって振るう。しかしそれすらも予測していたのだろう。キョウの攻撃を笑い飛ばしながら、大臣はハンマーの打撃部分からズラすように一歩前に進み、柔力剛流の技を使う。


柔力剛流(じゅうりきごうりゅう)、剛腕の技!!」

「なっ!?」


 その言葉と共に大臣の腕が急激に膨れ上がり、大臣はその肥大化した腕で伸びたハンマーの柄を掴んで攻撃を止めて見せたのだ。


「離した方が身の為だぞ!!」


 更に大臣は掴んだハンマーの柄を振るい、逆にキョウの身体を壁に叩き付けようとする。


「うぉおおおおお!?」

「兄さん! クッ!?」

「ガッ! ……すまんライカ……」


 壁に叩き付けられる直前、ライカが壁とのクッションになったキョウを庇ったためダメージは少なく済んだ。見ればキョウのHC(ヒットカラー)は多少減色したもののまだ残っている。ライカも自身がドワーフであるが故に耐久値も桁違いなためキョウの代わりに受けた衝撃も最小限だ。


 ――だが、不覚にもロキの鉄槌を手放してしまった。


「ククク……ロキの鉄槌、確かに返してもらったぞ!」


 そう言って手にしたロキの鉄槌を見ながら笑う大臣。最悪な状況である。キョウの武器は無くなり、代わりに大臣は強力な武器を手に入れてしまった。絶体絶命かとキョウは思ったがライカの表情を見ると彼女は不適に笑っていた。


「さぁこれで後は貴様らを倒すだけ……何!?」


 次の瞬間、大臣の持っているロキの鉄槌が消え、キョウの手元へと返ってきたのだ。


「忘れましたか? 私たち加護持ち(プロテクター)から武器を奪えないということを!」

「……チッ、失念していた……このクソ忌々しい異邦人め……ッ!」


 これは所持者が完全に手放すことを考えない限り戻ってくるという『MFO』の仕様だ。この仕様はプレイヤーに対してのみ適用され、NPCである大臣にはない物だ。つまりこの戦いの中、武器を奪われることは無いと考えた方がいいだろう。

 その事実に今更ながらに気付いたキョウは手元のハンマーを回しながら笑みを浮かべた。だが現状ライカとキョウの二人では大臣の攻防一体の構えを崩すことが出来ない。

 このままではジリ貧かに思えたが、どうやら杞憂のようである。


「《ホーミングバレット》ー!!」


 警備兵を粗方片付けたナナとゴッドストレートスマッシュが加勢に入って来たのだ。


「弾丸程度……ッ!!」


 しかし予想外な事に音速で動く弾丸を大臣は躱したのだ。その超人的な動きを初めて見たゴストは絶句し、焦るようにナナの方へ口を開く。


「お、おいマジか、アイツお前の弾丸を避けたぞ!?」

「あの人は動きはさっきから見てたよー!! だからそのための《ホーミングバレット》ー!」

「チッちょこまかと動く弾だ! だが!!」

「追跡する弾丸まで回避だと!?」


 大臣の動きは予想以上だった。ナナの放つ追跡弾までもが的確に回避されていくのだ。しかしその光景を見てもナナの表情は崩れない。寧ろその動きまでも予想していたかのように、笑みを浮かべる。


「私の弾丸は避けられない……それは今もこれからも!」


 瞬間、ナナが放った追跡弾の数が増加し、また時には姿が消える。その光景に驚愕した大臣は避け切れず、無数の弾丸をその身に受けることとなった。


「何……だと……!?」

「《ファントムバレット》……放った弾丸は必ず撃ち抜くのが遠距離狙撃手シューターの役目だからねー」


 そのスキルは放った弾丸に幻覚を付与するスキルだ。増えるように見えたのも、弾が消えるように見えたのも、全ては本命の弾丸を隠すためである。


「ナナ!」

「ナナちゃん!」

「おい、俺を忘れるんじゃあない」


 ゴッドストレートスマッシュが一人ごちるがこれで形勢逆転だ。ナナの援護射撃により今まで無傷だった大臣に傷を負わせたのだ。例え強くても肉体は人間。あれだけの弾丸を受ければただではすまないだろう。


「クッ……だが弾丸程度、私に……――これは!?」

「無駄だよーん。放った弾丸には更に麻痺を付与する《麻痺弾》が付いてるよーん! それを全弾身体に受ければ後はどうなるか分かるよねー?」


 大臣の身体は動かず、満身創痍の状態だ。キョウ達は大臣を倒しに来たわけではないため、これで実質戦闘は終わりだろう。

 だがそれが行けなかった。キョウ達はそれで一瞬気を緩んでしまったのだ。確実に倒せる筈のチャンスを逃し、大臣にチャンスを譲ってしまったのだ。


柔力剛流(じゅうりきごうりゅう)……剛活性の術ッ」

『!?』


 再度武器を構えるキョウ達だが時は既に遅し。大臣の体がまるで内側から爆発したかのように膨張し、突き刺さっていた弾丸は膨れ上がった筋肉により外へと押し出されたのだ。体自体は元の大きさに戻っているが、一同はあまりの光景に動きを止めてしまった。


「まさかこれを使う羽目になるとはな……」


 そう言って大臣が取り出したのは一つのビン。それをそのまま口に持って行ってしまったため、キョウ達は先程の光景で呆然としていたままで大臣が何を飲んだのかは分からない。そしてそのまま大臣がそのビンの中身を飲み干すのを許してしまった。


「グ、アアアアア……ガアアアアアアアア!!!」


 苦痛の声を上げ、大臣の筋肉はみるみると異常なほど膨れ上がり、大きくなっていく。それを見つめる事しか出来ないキョウ達は、これから始まる二回戦目を予感した。

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