第7話 vs大臣いちっ!
今回はゴッドストレートスマッシュ視点です。
◇ SIDE ゴスト
「暗いな……」
王宮の壁から登って侵入してきた俺たちは大臣がいるであろう部屋の窓を開けた。だが先程の言葉の通り、窓を開けた先は暗い。それに『空間把握』のスキルにより地図の内容よりも想像以上に広い空間だと分かる。
「キョウ……なんか変だぞこの部屋……」
感じた違和感を元にパーティーリーダーであるキョウに忠告する。俺のやるべき事はキョウを含めこのパーティを支援し、死なせないこと。しかしSランクに上がり、βテストで一通り探索し尽くしたと思ったがこのクエストの存在は知らなかった。だがそれは当然だろうと俺は思い直した。
このゲームはプレイヤーの行動やNPCの自律した行動からクエストが自動生成される仕様なのだ。例外といえば運営が用意し、ギルドに貼っているクエストぐらいか。
つまり俺が何を言いたいかというとそう、このクエストは俺でさえも予測の付かない物だという事だ。そして案の定、ある男の声が辺りの空間に轟いた。
「レディースアーンジェントルメーン……加護持ちの諸君」
その瞬間、無灯で暗かった部屋が一瞬で明るくなり、一人の男が俺たちを出迎える。俺は知っている。コイツこそこの国の実質の統率者であり、キョウの因縁の相手――。
「私の名前はアギルーダ・カームセ。この国の大臣です」
大臣の正装らしい豪華な服装を着こなし、その顔は整っていながらも胡散臭いと感じさせる容貌。スラム街の住人からはイケメンとか何とか言っていたが、確かにこれは十人中十人はイケメンと呼べるほどのレベルだろう。
「ドーモ、カーマセ=サン。ボウケンシャ=パーティーですー」
「……カーマセではないカームセです」
緊迫感漂うシリアスな空気の中、いきなり葉月の下の妹であるナナが馬鹿なことを言い出した。流石残念少女、兄も兄なら妹も妹だろう。何をやらかすのかハラハラする。
いや待て俺。それよりも気に掛けなくちゃいけないものがあるだろう。そうこの部屋の広さだ。俺は事前に空間把握スキルで部屋の広さを把握していた。だが実際に明かりがついた後の部屋は把握していた部屋よりも狭いのだ。
(俺の空間把握スキルが誤作動を起こした? いや待てこれは……)
マッピングライターであるオッサンから渡された地図には部屋の広さについての情報があった。当然大臣の部屋の広さも資料に載っている。その資料によれば確かに目の前の部屋は情報通りの広さだ。だが『空間把握』で把握したこの部屋の広さはそう、まるで隣の部屋ごとぶち抜いているような――。
「まさか……」
「おや? そこの方はどうやら気付いたようですね」
俺があまりにもキョロキョロしている所為か、大臣にそう聞かれた。
だが気付いただと? もしその言葉が俺の考えていることに対して発したということは。
「マズイ! この部屋は罠だ!!」
『!?』
俺の言葉と共に皆が武器を構えた瞬間、部屋に変化が起きた。
「なっ、部屋が!?」
「――幻か!!」
部屋の左側面にあった壁が消え、部屋一つ分の空間が開いたのだ。そしてその開けた部屋にスラム街の住人が兵士達によって捕らえられていた。まさに俺たちに対する人質だろう。
「み、みんな!?」
予想だにしない光景にキョウが叫ぶ。
注意深くその広がった壁を見れば壁を打ち抜いたかのような痕跡があった。恐らく俺たちを待ち伏せるために自分の部屋の壁を破壊し、スラム街の住人を捕らえ、兵士をそこに待機させた。そしてそれに気付かれないように幻で彼らを隠したのだ。
「スラム街に立て篭もっているということは随分前から知っていましたよ。ええ、知っていました。おっとそこを動かないでください。一歩でも動くと彼らの命は保証しません」
「てめぇ……!!」
演劇するかように解説と脅迫をしてくる大臣に俺達は苛立ちを覚えた。そんな中、捕まっていたスラム街の住人は怒りを露にし、大臣を責め立てた。
「てめぇこの野郎! 先代国王の理念を忘れたのか!?」
先代国王、アーバレスト・カンレークか。
βテスター時代に出会った事のあるNPCだが、大変好感の持てた性格をしていたキャラクターだ。彼は生まれ育った自らの国を誇りに思い、国のために頑張ってきた立派な君主だ。
しかし彼は志半ば、病によってこの世からいなくなったが、彼の理念はこの国の人々へと受け継いだのだ。
――その筈だったのだ。
だが他でもない、幼少の頃から先代国王と交流のあった大臣が先代国王の理念と真逆の事をやるようになったのだ。その筈なのに責め立てられた大臣は、スラム街の人々に対し鼻で笑い飛ばした。
「はっ、この私が先王陛下の理念を忘れるだと!? いいや違うな、私は寧ろ先王陛下の理念を忠実に守っているのだ!! この国を守るために必要な物は結束!! その結束を顧みない貴様らは邪魔なのだ!!」
「わ、私たちだってこの国を豊かにするために頑張ってきたのよ!?」
「だが貴様らのその余計な頑張りが周囲の結束を乱す! 乱せばこの国は荒れる!! 私は先王陛下の守ってきた国を維持するためには結束を乱す貴様らを排除しなければならん!!」
怒鳴りつけるように言葉を発する大臣。
だがこの場にいる誰もがこう思っているだろう。
――あまりに極端すぎると。
「お前……ぐちゃぐちゃと何を言っているかと思えばただ言い訳を並べただけかよ」
「……何?」
だがここで、キョウがイラついた表情で大臣に反論した。
「結束を顧みないあの人たちが悪い? そりゃあお前、あの人たちを纏められないからこうしてるんだろ?」
「なっ、貴様!! つまりこの私のことを無能だと言いたいのか!?」
「言いたいも何も無能だって言ってんだ!! 何が結束だ、何が必要悪だ!! 確かにお前の言う結束は現状を維持できるかもしれない。でもそれだけだ。一歩も進めないただの妥協。お前は結局今の国が変わるのが怖いだけなんだよ!!」
大臣に言葉に対して反論するキョウ。
……フッ、流石俺たちのパーティーリーダーだ。そうだ俺たちは結局大臣が間違ってると思っているからここに来たんだ。それをたかが無能の言い訳で俺たちの目的に揺らぎはない。
――しかし。
(この場の勢いで反論してるけどこれってゲームなんだよねー……)
(冷静に聞くとなんか恥ずかしい気持ちになってきたな……)
(ちゃんと反論した兄さんに失礼ですよ!?)
(ろ、ロールプレイだよコノヤロー!!)
流石にこの流れで雑談するのは無理なので無駄に念話で締まらない会話をする俺達だった。
「変わるのが怖いだと……?」
おっと何やらキョウの反論に食いついてきたようだ。
「は、はは……ああ確かに変わるのが怖い。先王陛下の築き上げてきた国が変化していくのが怖い。だがそれがどうした私の執政でこの国は平和になっているのだ。何も問題なかろう?」
今度は開き直りか?
しかし今度は聞き捨てならんな。
「ハッ、確かにお前のやってきたことは何も問題はない。特に国民に関して言えば。だがこの国を変えようとする人たちを、この国を豊かにしたいという同じ志を抱いている人たちをお前はどうした」
「……」
「お前はその人たちをスラム街に押しやったのだ。手に負えないからとお前は諦めたんだ。一体どの口が、問題ないと言うのだ!!」
俺の反論を聞いた大臣はこちらを睨みつけるばかり。ザマァないな。たかが手に負えないぐらいで諦めることを選んだお前は一生前に進めないだろう。
(ゴストも言うねー!)
(キャーゴスト様カッコイイー!)
(ゴストさんもそういう一面があるのですね……ぷっ)
(……ロールプレイだバカヤロウ)
それと葉月の上の妹よ、お前の兄と違って俺のフォローはないのか? いや無いだろうな。
「……くっ、それでどうする? この私をどうにかしようとするのか? 最初に言っとくがこの私をどうすることも出来んぞ。何せこの国には私以上の手腕を持つ人材はいないのだからな」
また言い訳か? だが確かにコイツ以上にこの国を動かせる程の人材がこの国にいないことだけは確かだ。だが俺達が来たのは別にコイツを倒して代わりに執政しようとは思っていない。
「お前は腐っても有能だからな。俺達がするのは唯一つ、お前の間違った性根を叩き直すだけだ」
キョウがそう締め括る。
ふむ、どうやらお喋りはここまでのようだな。
そろそろ仕掛けるか。
「貴様等が私の性格を叩き直すと? 一体何を――」
――チャリーン……。
一瞬、この部屋に鳴り響く金貨の音。
その音と同時に俺達のスイッチが入った。
「『金剛金塊・投資一つ目、』――」
――課金支援。
「貴様等動くな! この人質がどうなっても……!?」
「出た目は裏、内容は相手の全ステータスを3段階ダウンする。行くぞキョウ!」
「おうよ!」
実はキョウが大臣の言葉に反論し周囲を釘付けにしている間、俺達は事前に念話で作戦会議をしていたのだ。
先ずは俺の流派スキルで相手にデバフもしくは味方にバフを付与する。俺の流派スキルは運によって効果が変わるものが多いからな。出た効果によって対応も変わるがこの場合、相手にデバフが付与されたため相手は自分の身体が重くなったと感じるだろう。
現に俺達の動きに着いて行けないのがその証拠だ。
「《ツインエクスチェンジ:マシンガン》《カーブバレット》ー!」
そしてその間にマシンガンに切り替えたナナがスラム街の住人を拘束している器具を破壊し、彼らの側にいる兵士たちを倒していく。
ん? いや待て、マシンガン? 一秒間に何百発も発射する弾丸一つ一つに曲がる弾道スキルを付与して数分違わず全部の拘束器具を破壊し兵士を倒しただと?
「ありえないだろ……お前は絶対人間じゃない」
「狙撃なら誰にも負けない。何故なら私は遠距離狙撃手だから」
語尾を間延びすることを止めてポーズを決めながら決め台詞を吐くナナ。
流石あの兄の妹。頭がおかしい。
とまぁそういうことがあったがまだ俺の出番は終わっていない。腰にぶら下がっている金貨の入った青い金袋を取り出し空中に金貨をばら撒く。
「『金剛金塊・投資百六十二個目、課金転移』」
するとばら撒かれた金貨が独りでに円を作るように回りだし、円の中に光が生まれた。
「よしお前ら早くこの円を通れ! これでスラム街に戻れるぞ!」
「どういう原理なのそれー!?」
葉月の下の妹が叫ぶが一々構ってられない。というか慣れた。この技を見た誰もがこういう反応するからな。
「ってかそんなG出して金大丈夫なのー?」
「ちゃんと戦闘用と私財用に分けてある。それにこれは特注だから大丈夫だ」
そうこれはランダムで貰えるナガレ特注装備。
大抵は使い捨てのナガレ特注支援アイテムが貰えるが中には装備を貰える奴がいる。その中の一人が俺ということだ。俺が貰ったのはこの青い金袋である『無限財宝アンリミテッド……』なんだっけ。まぁアンリミテッド・ナンチャラだ。名前は長いから忘れた。この金袋の特徴は三分間だけ存在する金を無制限に取り出せることだ。
実に俺好みの装備だ。手に入れた当時俺は小躍りしたもんだ。
「まぁ三分間だけ持続する金だからな。俺が使う我流・金剛金塊の大抵の技は三分間しか維持出来ない」
「人の事言えないよねー。自分も頭おかしいじゃーん」
それはともかく、人質全て解放した。
あとは大臣を抑えている二人の援護に行かないと……。
「……クソ、この騒ぎを聞き付けて兵士が雪崩れ込んで来ているな」
「兄ちゃん達の援護はこの兵士をやっつけないとねー。パパッといきますかー」
そんなこんなで、俺達はボス戦を始めたのだった。




