第6話 潜入!
唐突ですがタイトルを変えました。
『マテリアルフロンティアオンライン~スタイリッシュ重視のハンマー使い~』を
『MATERIAL FRONTIER ONLINE:スタイリッシュパーリィーの冒険活劇』に変えました。今後ともよろしくお願いします。
あのゴブリン大量殺戮事件からスラム街に帰ってきた俺達は、アリカたちが営んでいる薬屋の拠点で潜入作戦を練り始める。そこで一番最初に出て来た問題点ってのが、潜入先である王宮のマップだろう。
「王宮のマップが無ければどう潜入するのかも分からんな……」
「なぁゴスト。βテスター組のお前ならそういう手掛かりはないのか?」
「すまないが俺にその心当たりはないな」
曰く王宮内部は機密情報の塊であるため、クエストでやって来たプレイヤーは必ず応接間に通され、王宮の中を自由に行き来することは出来なかったらしい。それに下手に潜入をしてバレようものなら、国を敵に回すためやろうと思ったプレイヤーはいないという。
「だからキョウが初めてだよ、国に喧嘩を売ったプレイヤーは」
「喧嘩売ってないんだっつーの」
「しかしそうなるとどうするのですか? マップが無いと打つ手が無いですよ?」
「いっその事手探りでやる〜?」
「難易度を上げんじゃねぇよ……」
俺は嫌だぞ。言うならば見つかったら即アウトのダンジョンで地形も分からず、常時マッピングしながら手探りで進むようなものだ。なんだそのダンジョン、バランスが悪いっていうレベルじゃねーぞおい。
「お困りのようだな」
「な、あんたは!?」
「誰なんですか兄さん」
「あぁ! スラム街にいるオッサンだ!」
「見れば分かります」
話を聞くと、どうやらオッサンはかつて王宮でこの国全体の地図を管理、担当した部署の責任者だという。しかし例の如く裏切りに遭い、こうしてスラム街に辿り着いたのだ。
「キョウがいなければ俺は今頃『赤城の岩壁』の奴らのせいで死ぬまで地図を作ることになっていた……大臣の野郎、俺を追放した癖に未だに俺を利用するとは……!!」
「それでオッサンがここに来たということは!?」
「そうだ、かつて王宮の地図までも担当したこの俺が手伝いに来た! それに俺だけじゃあねぇぜ!!」
そう言っておっさんは外の方へと指を指す。
それに釣られて外を見るとそこには……。
「キョウーっ!! 俺も手助けするぜ!!」
「アンタには私たちがいるから心配しないで!!」
「あのいけ好かないクソ大臣をボコボコにしてーっ!!」
大臣から謂れもない冤罪を掛けられ、スラム街に逃げ込んだスラム街の住人がいたのだ。
「みんな……!!」
「フッ、なら次に必要なのは潜入関連のスキルだな」
「ゴスト……! お前に任せてもいいか?」
「あぁ、責任を持って俺が教えよう! それと俺の名前はゴッドストレートスマッシュだ!!」
作戦を実行するにあたって志を共にする仲間たちがいる。この事実に俺は改めてこの事態を解決するために決意を強固にし、打倒クソ大臣に向けて着々と準備を進み始めたのだ。
『クエストが発生しました』
『クエスト:大臣を打倒せよ
進展状況:進展中
依頼内容:スラム街の人々たちと協力して、元凶である大臣を打倒しよう。
依頼報酬:???』
◇
作戦当日。
時刻は深夜2時。
俺たちは今、王宮に潜入していた。
「こちらスネーク。王宮の潜入に成功した」
「了解。では手筈通り作戦を開始……スネーク? どうしたスネーク。スネーク? スネェェェぶべら!?」
「はえーよ! ゲームオーバーになるのはえーよ!」
『おい! こっちから音がしたぞ!』
「ちょ、兄さん達! 何をしてるんですか!?」
「やはり馬鹿はシリアスになっても馬鹿なんだねー」
ついノリで某ステルスゲームの名セリフを再現したが、まさかゴストがノッてくれるとは思わなかった。そのせいで危うく冒頭からクエスト失敗の危機に陥りかけたぜ。
そっと息を潜めてジッとする。大丈夫だ、この暗い時間帯の中、影に溶け込めるローブを装備した俺たちに気付くはずがない。
(……よし、行ったな)
ヒヤヒヤしたが、作戦続行だ。
あれから現実時間で言うと三日、ゲーム内時間だと一週間の月日が過ぎた。
その間俺は大臣の追手から逃れるためにスラム街の中へと身を潜んでいた。だがそれでも俺を捕らえるのは時間の問題だ。何せスラム街以外の区画は大臣の物であり、その区画で俺の情報がないということはスラム街に逃げていると大臣じゃなくても容易に想像できる事だろう。
ならば大臣が先に行動に移す前に潜入を開始したのだ。幸いこの一週間はその潜入するための準備も整った。オッサンからマップを貰い、そのマップから潜入方法を導き出し、ゴストの指導で潜入スキルも手に入れた。
「だがまさかこんな方法で潜入するとはなぁ……」
その潜入方法とは、
「ちょゴスト、てめーの所為で取っ掛かり潰れたんだけど!?」
「俺は悪くない、俺は悪くない! あと俺の名前はゴッドストレートスマッシュだ!!」
「ゴストさんは今度からドーナツ抜きですね」
「食った覚えもないし、太った覚えも無いんだけど!?」
「あのさぁー後ろの人のために残しておいて欲しいんだけどー?」
絶賛、壁登り中です。そうです王宮の壁です。
俺達は今、某ナイスバディな探検家や、某異能生存体並のトレジャーハンターか、某暗殺者の信条を掲げてる人達みたいに壁を登っています。
こう、取っ掛かりを見つけてですね……手を伸ばして登るんですよ。
いやぁ夜だからか身体に当たる夜風が気持ちいいですねー。
「いいのか……? この潜入方法はいいのか……!?」
「仕方が無いだろう。マップを見た限り、王宮の内部は万全盤石万歳鉄壁の完全セキュリティだ。それなら無理に中に潜入するよりも王宮の壁を登った方がいい」
「でもさー潜入といえば某蛇の人じゃないのー?」
「潜入、暗殺といえばこれだろ?」
「あの、私たちの目的は大臣に対する交渉なのでは……?」
王宮の内部マップを見たゴストが決めたスキル。それは《軽業》《跳躍》《持久走》《登攀》のスキルをBランク以上にすることで複合生成出来る《パルクール》というスキルだったのだ。このスキルの元となった物は皆さんご存知、フランス発祥の身体能力だけでどんな地形でも動ける技術である。
この一週間、俺達はゴストからこの《パルクール》のスキルを手に入れるために、習得に必要なスキルを鍛えていたのだ。
「まぁ潜入という言葉から連想して思い至った経緯もあるが、実際Sランクプレイヤーの殆どは様々な所に行くためこのスキルを取っている奴が多いんだ」
このスキルを手に入れたプレイヤーは、自身の身体能力にどんな環境でも走破出来る程の身体補正が表れるという。なので足場や出入り口が不安定な事があるダンジョンなどで、道なき道を進むために習得するプレイヤーもいるらしい。
「つまりゴストさんはこれから私たちとパーティ活動するためにこのスキルを取得させたかったのですね」
「とんだツンデレヤローじゃないですかー」
「うるさいぞそこ」
確かにβテストの三年間、コイツはずっと自分の姉と一緒にゲームをやってた筈だ。現実では俺達と親交がある分、ゲームの話題共有が出来なくてずっと寂しかったんだろう。ある意味じゃあ俺よりも正式サービスを待ち望んでいたのはコイツかもしれない。
「ま、やっと正式サービスが来たんだこれからもいっぱい楽しめるぞ?」
「はっ、どうせ俺は寂しがりやだ……っと、着いたぞ」
そう馬鹿話する内にどうやら俺達は大臣が住んでいると思われる部屋の窓に着いたらしい。
「さぁこっからが正念場だ」
「大臣に交渉、ですよね」
「交渉かっこ物理だねー」
「でもこれってボスフラグじゃね?」
スラム街が拡大し続ける元凶と俺との因縁。
そして目の前にはその元凶がいる部屋。
ゲームの終わりにはボスと戦うのが常識だがこれは果たして……。
「兄ちゃんその台詞自体フラグ建ったんですけどー」
「まぁ素直に交渉出来るとは思えないし……」
「やはり戦闘、なんでしょうね」
そんな予感を抱きながら、俺は大臣のいる部屋の窓を開けた。




