第5話 後始末!
『クエスト:ゴブリンの集落を壊滅せよ
進展状況:クリア 33/3
依頼内容:定期討伐です。増えてきたゴブリンの集落を三つ壊滅してください。冒険者ギルドより
推奨ランク:Cランク相当の6人パーティ推奨
依頼報酬:一人当たり5000Gの報酬』
「やりすぎじゃね?」
「お前もな」
ゴブリンの集落クエストは順調だった。
いや順調すぎたのだ。遠距離攻撃に置いて無類の強さを誇るナナ、タンクとして異常な適性を見せるライカ、頭のおかしい方法で支援をしてくれるゴスト、そして『暴走状態』の俺。
俺が言うのもなんだが噛み合いすぎたのだ。
それぞれの役割に被りはなく、尚且つそのどれもが高水準の力量を持ったプレイヤーだ。俺が言うのもなんだが。
「いや、まさかライカとナナがここまで頼もしいとは思わなかったぞ」
「ふふーんもっと褒めてくれたまへ〜」
「リアルの動きで行けるのなら、当然のことまでです」
ゴストとはこれまで幾つかのゲームを一緒にプレイしたことがあるから、アイツのプレイヤースキルは分かっていた。いや、このゲームにおける支援の力量は分からなかったが、それでもアイツがどう動くかは熟知しているつもりだ。
しかしライカとナナは違う。ナナはシューティングゲームばかりでライカはそもそもゲームに興味がなく、こうして二人揃って同じゲームをやるというのは初めてだ。その上でこの殲滅速度だ。
兄妹だから息が合うのか、それともこの二人が上手いのかは分からないが、結果として全てのゴブリンの集落がマップから消えたのだから、俺たちのパーティーは非常に噛み合っているのだ。
「しかし俺らβテスター組でもこの殲滅速度というのは中々いないぞ。いるとすれば互いの動きを熟知している仲良しパーティーぐらいか」
「ゴストの――」
「ゴッドストレートスマッシュ」
「……アシスタントであるゴッドストレートスマッシュの支援で周囲の状況を把握し、バフとデバフでサポートして」
「ディフェンダーの私は相手の動きを封じ、アタッカーである兄さんに誘導」
「俺はその誘導された奴を叩きのめして――」
「ナナは兄ちゃんが殺し損ねた奴らを撃って撃って撃ちまくるー!」
「つまり俺らはそのβテスター組の仲良しパーティーと引けを取らない連携スキルを持っているってことだ」
各自の役割を確認し合う俺たちの表情はどこか楽しげで、これからこの最高にスタイリッシュなパーティーと冒険するのだと思うと変な高揚が止まらない。
それでもふと、現実に戻る瞬間ってのがある。それは俺たちの後ろに積み重なっているゴブリンの無数の死体だ。なるべく見ないようにしてきたが、流石にスルーすることは出来なくなった。
「……このゴブリンの群れをどうするかにゃー?」
開口一番ツッコミを入れたのはナナだった。その一言で俺たちの空気が数段重くなったような気がする。何せ俺達はこの後、このゴブリンの死体の山から相当分の討伐の証明部位を集めなければならないのだ。
「なぁゴスト……」
「ゴッドストレートスマッシュだ……俺でも無理だぞ?」
「なぁこれ、当初の依頼された分だけでも持って帰れないのか?」
「それでもいいが、その分報酬が減るぞ」
まぁ当たり前っちゃあ当たり前か。
しかしここまで討伐したのに依頼された分の討伐部位のみ集めるってのは、中々に気落ちするものがあるな。例えると宝の山を見つけたのに、一握りの財宝だけ持って帰るようなものだ。ゴブリンを宝の山とするのは些か汚いが。
「とにかく一旦休憩をしませんか?」
「あーそうだな……」
ふー、一旦この惨状から離れて少し休憩しよう。少し、いやかなりの悪臭で正気値が下がりそうな場所だが無駄に時間を費やして休憩する場所を探すよりかはいいだろう。
俺とゴストはこれからの方針と、ナナは周囲の散策。そしてライカはステータスの把握と各々自由に休憩をしていた所、ふと自身のステータスを見ていた朱里が驚いた声を出した。
「ん? どうしたライカ?」
「ステータスに……その、《ジェノサイダー》っていう称号が……」
『…………』
その言葉を聞いた俺達は、途中から帰還したナナと一緒に自分たちのステータスを開く。
そこには……。
NAME:キョウ
RANK:E-
ROLE:アタッカー
TRIBE:ヒューマン
HC:グリーン
MC:ブルー
STR:S+
DEX:C-
VIT:B
INT:D
AGI:B
MND:D
LUK:D+
【称号】
《初心者》《ハンマービギナー》《案内人を泣かせた男》
《インファイトルーキー》《スラム街の救世主》
《億万長者》《カジノの頂点》《精霊遺産ゲッター》
《真面目の証拠》《ジェノサイダー》NEW!
【パッシブスタイル】
《ハンマースタイル:B+》(UP!)
《インファイタースタイル:B-》(UP!)
【スキル】
『パッシブ』
《跳躍:A-》《軽業:A》《持久走:B》
『アクティブ』
《ハンマースロー:B》《アイアンフォール:B》(UP!)《ドラムハンマー:E-》
《威圧:A》《フルスイング:B+》NEW!
【装備】
右手:ナガレ特注ピコピコハンマー
左手:ロキの鉄槌
防具:初心者用皮装備一式
装飾:-
【所持金:50,000,007,100G】
そこには確かに朱里が言った《ジェノサイダー》という称号があったのだ。
まぁ他にもスキルとかステータスも上がっているが今はスルーだ。
「これってもしかしなくてもゴブリンを全滅させた所為じゃね?」
「そうだな……」
誰も反論する気力も無く項垂れる俺達。
ジェノサイダーを意味するのは虐殺者。これから推測するに俺達が過剰なまでにゴブリンの集落を殲滅をしたためこの称号を得たということだ。
「お兄ちゃんならともかく、まさか私達もゲットしてるとはねー」
「俺ならともかくって何だともかくって」
殲滅量なら俺だが、お前達も一緒にパーティに入ってるから同罪ということだろ。そうでなきゃパーティ全員に称号がつくなんて事、有り得ないからな。
「……この惨状で忘れてたがそういや、冒険者ギルドで倒した魔物を処理してくれるサービスあったような……」
『……』
お前何故今このタイミングでそれを言った?
そもそも今の今まで何故そのサービスを忘れていた?
ジェノサイダーとかいう物騒な称号やゴブリンの部位討伐証明の問題で疲労していた精神がお前の発言のせいで余計に疲れたんだが。
「お、おい待て、お前らどこに行くつもりだ?」
「何って帰るところなんですが」
「帰るってこの死体の山はどうする!?」
「てめーで面倒見やがれー?」
「何故に疑問系……?」
「ゴスト……俺達はもう帰るから、一人でギルドの皆さんと一緒にこのゴブリンの山を処理してくれ」
「その処理手続きクソ面倒なんだが……いやすまない、反省しているから戻ってくれないか? 俺を一人にしないでくれ! おい聞いているのかお前ら!? おーい!!!」
◇
「えー集落一つにゴブリンの数が200匹、その集落を33個壊滅って33!? え、何コレ!?」
「主任ー、集落の一つ一つに宝を発見しましたー」
「宝ぁ!? うわー何コレ業物あるよコレ。これら全部数えて計算するとか……」
「主任ー、集落から……」
「シャラァァァァップ!! え、何? 過労死させたいの私を過労死させたいの、ねぇ!? まさかとは思うけど私を過労死させて代わりに主任に就きたいの? バーカーめーが!! なれるものなら、なって見せなさいよぉぉぉぉ!! 私の代わりに計算してくださいよぉぉぉ!! もう計算したくないよぉ……やだよぉ……一体どこの誰がこんな惨状を引き起こしたのよ……え? 何? 集落からゴブリンメイジやゴブリンキングも出て来たって? え? それじゃあまた計算し直し? ……グハァ!!」
「主任!?」
「おいやべーよ主任、血ィ吐き出してぶっ倒れたぞおい」
「そうか……だが仕方がないんだ」
「でもよ、泡吐いて白目になってんぞおい」
「仕方がない、これも仕事なのだから……」
「いや目の前で血反吐を吐くぐらい仕事をする光景を見せられるとこっちの罪悪感がヤベェんだよ。いっそのこと必要分の討伐証明さえ貰えればいいんじゃないか?」
「馬鹿野郎!!」
え、ちょ、え?
いきなり大声出されてビビったんですけど。
「お前は分からないのか!? 申請手続きの時に俺はこの惨状のことを伝えた! 彼らは顔を引き攣らせたがそれでもやって来た!! つまり彼らは自分が倒れることを承知でやって来たんだ!! お前はそんな彼らの覚悟を踏み躙るつもりか!!」
「え、は?」
「は? じゃないが!!」
「えと、すみません……」
「そこはすみませんじゃないだろう!?」
「そうだよね彼らにありがとうだよね!?」
クッソ面倒臭いんだけどこの人。
俺が理解を示してくれたと分かるとゴストは「全く……」と言いながら座り直した。いやでも何で俺ここまで説教を受けなくちゃいけないの?
これは俺が悪いのか?
いやでも主任の表情が真っ青だぞ。そんな彼らを苦痛から解放しようとするのは俺の身勝手な考えだろうか。だが一応でもこれは彼らの仕事で……。
妙に釈然としない俺はゴストの方を見るとゴストの表情が緩んでは引き締め、緩んでは引き締めを繰り返している様子が見えた。
「……ゴスト?」
「なんだキョウ。それと俺の名前はゴッドストレートスマッシュだ」
「いや、さっきからお前変な顔になってんぞ」
「おっと……俺もまだまだだな……」
そう言ってまた気を引き締めたが、それでも度々ゴストの表情が緩んでいくのを見逃さない。一体何がゴストをそのようにさせるのか、俺はコイツの見つめている先を見ると……。
「……いやお前、どこを見てんのさ……」
「どこって、未来をさ」
未来と呼ぶゴストが見ていた光景。そこには主任たちが必死な表情でゴブリンどもが貯めていた宝の山を計算している光景があった。
「……まさかあのゴブリンどもが貯めていた宝の山か?」
「そうだ宝の山だ……つまり未来と言っても差し支えないだろう。これから俺の手に渡るという輝かしい未来が待っていると思うと……ぐへへ」
さっきまで我慢していた顔の緩みがみるみるとだらしない感じになって行く。その様子を俺は白い目でしか見れなかった。
「俺を止めた時の力説は報酬アップのためか……!!」
「ふ、ふふ……あれは一体どれぐらい価値があるんだろうか……!」
「コイツはクセェ……ゴブリンどもの悪臭に混じって、ゲロ以下の欲望の臭いがプンプンするぜ……ッ!!」
「兄ちゃんたちあそこで何の茶番をやってるのかなー」
「はぁ……ナナちゃん、アレは無視して私達はあっちで潜入に関する作戦を練りましょうか」
「OK牧場ー!」
こうして、パーティの戦力を無事(?)確認できた俺達は今日一日、大臣のいる王宮へ潜入するための作戦を練り始めたのだった。
果たしてこの回は必要だったのかと思う、クマ将軍です。




