第2話 集合!
『WELCOME TO MATERIAL FRONTIER ONLINE』
『これは世界を構築した精霊達を探す物語』
そんな『MFO』の開始音声が流れ、俺の周りの空間が白くなっていく。
「そういえば、初回に起動したときに見たOPはもう見れないのかな……」
あの幻想的で、涙するほど感動した世界創世の光景を、もう二度と見られないと思った俺は若干気落ちした。
「……もう一度、あの光景を見たいな」
暫くこの白い空間の中を彷徨うと、急に俺の視界は暗くなっていく。
次に目覚めた場所は、硬いベッドの上だった。
「知らない天じょ――」
「あっ! 起きたんですね、キョウさん!」
「……最後まで言わせてくれよ……サヤさんや……」
◇
俺が手に入れたあのハンマー。
ゴスト曰く、あれは世界で数少ないレアアイテム、『精霊遺産』の一つだという。それはかつて世界を構築した精霊が作り上げた精霊武器で、大抵の精霊武器は精霊が行方不明になった瞬間に消えたらしい。
故にマテリアルアーティファクト。
直訳で精霊の遺産。
精霊だから英語でエレメンタルやスピリットとかじゃないの? ってツッコミは無しな。このゲームにおける精霊はマテリアルで統一されてるって言われてるから。話を戻そう。
そして現在、極稀に現存している『精霊遺産』は国が所有すれば繁栄の力となり、冒険者が所有すれば最強の力になると言い伝えられているという。
だがまさかそのようなアイテムをカジノの景品コーナーに置いて客寄せパンダ扱いとか誰が予想できるというのか。
「だがまぁ……今までは大丈夫だったしなぁ」
事実『MFO』のαテストとβテスト合わせて五年間の間誰にも触れさせなかった実績もあったし。
まぁカジノという酔狂な場所、それに加えて冒険心よりも刺激を求める『猛者』なんていうリアルギャンブラーがいるのだ。ハンマーという武器よりも国から援助を受ける方が彼らの利益になるだろう。
だがそれもギャンブラーでもないのに賭け事が異様に強いとあるプレイヤーが手に入れてしまったのだ。つまり俺のことだ。
それからというもの。
怒った大臣により武器や防具を取引する店が俺を拒否し、更には冒険者会館からも追い出され、指名手配犯になった。まさかの悪化である。今では俺を大臣のところに連れて行けば莫大な報酬を貰えるだろう。
そんな訳で、涙目になった俺はサヤとアリカの店に泊まらせて貰ったのだ。
そしてログアウトから戻ってきた俺は店の奥から出ると、店のカウンター付近でコーヒーを飲んでいるゴストの姿を見つけた。
「うーすキョウ。やっと来たか」
「うっす……あれ? いつもお前と一緒にいるアンジュは?」
「いつも一緒にいる訳じゃないが……アイツは今この街にいる生産者たちから教えを請うているよ」
――何なんですかここは!? βテスト時代から蓄積されてきた生産技術と同等、いえそれよりも上の技術を持っている人たちがいっぱいいますよ!?
「だってさ」
「……楽しんでるなぁ」
「そんな事よりも貴方の事よキョウ。まさか大臣と敵対してしまうとはね……」
そう呟くのはこの店の店長を任せているアリカという少女だ。
「まぁスラム街を救った時点でキョウは大臣から睨まれているし、遅かれ早かれこういう状況になってただろうさ」
「あ、あの……それならどうして、そのハンマーを返さないんですか?」
「……まぁ」
サヤの問いに俺は一瞬言葉が詰まった物の、俺は気まずげに今の考えを話す。
確かにハンマーを返せば事態は丸く収まる……保証はないがそれでも今の状況よりはマシになるだろう。実際に返却する案を考えた事もある。いや正確には脳裏に過った、か。
だが未だにハンマーを返却していない状況を見れば分かる通り、俺はその考えを捨てたんだ。
思い出して欲しい。このハンマーを欲しいと願ったあの時の俺の『状態』を。あの時の俺は『暴走状態』じゃなかった。つまりありのままの俺なんだ。暴走もしていない普通の俺が決めたことは最後まで貫き通したかったのだ。
「でもそれが『暴走状態』のお前が決めたことだったら?」
「当然、大臣に自首してハンマーを返すさ」
これまでの経験から俺は、普通の俺と『暴走状態』の俺の行動は別だと考えている。普通の俺の行動で起きた問題ならいざ知らず、『暴走状態』の行動で起きた問題は全力で回避すると決めているんだ。
「ははは……」
「おっとそうだ。こっちに来たら、妹達と連絡する約束してたんだ」
「おっマジか、あいつらもこのゲームやってんのか」
「え? キョウの妄想じゃなかったの?」
「妄想じゃねーよ!?」
なんでアリカは俺の妹の存在を否定しようとしてるの?
「だって、ゴストから」
「ゴッドストレートスマッシュな」
「……ゴッドストレートスマッシュから貴方の妹は美人揃いだって言ってたから」
名前を省略するの許してやれよゴスト。
ってかその発言はなんだ? まさか俺の今の外見から美人な妹がいるっていう想像が出来ないから空想上の妹って思ってるのか……?
「一応俺も中の上ぐらいの評価を受けてるんですが」
「貴方のその微妙なナルシスト発言は置いといて、さっさと妹達に連絡したら?」
辛辣過ぎて涙が出てくる。
『もしもし兄さん?』
「あー俺だよ俺。お前の兄さんだよ」
『俺俺詐欺は受け付けておりませんので』
「プレイヤーネーム出てるよね? 分かってるよね? だから念話消すの止めて!?」
なんだろう、何故今日に限って皆は俺に対する扱いが酷いのか。
そんなことを思い浮かべながら、俺はここの住所を妹達に伝えた。
◇
妹達が来るまでの間、俺はゴストと一緒に現状の整理をすることにした。
「どうやら加護持ち同士の話をするようね。サヤ、私と一緒にアンジュの迎えに行きましょう」
「すまねぇなアリカ」
「いえ、どういたしまして」
そう言って、アリカとサヤは俺たち二人を残して店から出て行った。
「さて、どこから話をしようか」
「一応最初から話すよ」
「オーケー」
そう言って俺はこれまでの状況を語り始める。
チュートリアルをクリアして冒険者会館に転送され、冒険者ギルドに案内された俺はそこで係員からある程度説明を受けて冒険者の登録をする。
ゴスト曰くここまでの流れは一般プレイヤーと同様の流れに沿っているらしい。
「びっくりするほど普通の流れだな」
「まぁそうだな……後は依頼を受けて猪に追い掛けられて、スラム街で問題を起こして、カジノで問題を起こした……と」
「そこからが良く分からんな」
「俺だって分からんよ……」
「俺は最初、お前が何かしら問題を起こして冒険者登録できないままゲームを始めると思ってたよ」
「邪道展開に進み過ぎだろその俺。まぁ確かに『暴走状態』のせいで予想付かない行動するけどよ……でもそれを抜きにしても冒険者登録しないとヤバイだろう?」
「まぁな。お前も分かってる通り、登録しないと街の施設が使えないなど難易度が増すからな。実際βテストの時、試しに冒険者登録をしないプレイヤーがいたらしいが、その後の酷い扱いに耐えかねて冒険者登録をしたらしい」
「つまり大臣から狙われ、街の施設が使えない俺も詰んだって事だな」
「……フッ」
フッ、じゃねぇよ。
今の境遇に思わず鼻で笑いたいのは俺の方だよ。
「流石にこの状況は俺も予想外だからな。笑うしかないさ」
「クソ……俺はただこのハンマーが欲しかっただけなのに……」
「そのハンマーを返す意思があるのなら自首でもして事情を説明すればいいさ。でも無いんだろう? その意思は」
「……当然だ。俺は、俺自身が決めた事は貫き通したい」
でもそのせいで俺は大臣から目の敵にされて辛い状況に陥っている訳だ。だからどうにかしてこの事態を潜り抜けないといけないのだが、いい作戦なんてそう簡単に思いつけようが無い。
「ったく大臣と因縁ありすぎだろう俺……スラム街の時といい、カジノの時といい……いや待てよ?」
大臣、という事はこの国のトップツーだ。
つまりこの国には大臣よりも上の存在がいるって訳だ。
「そうだ、そうだよ! 大臣より上の立場の人に大臣を説得させればいいんだ!! おいゴスト! この国って君主制か? 共和制か? まぁとにかく大臣より上の人がいるんだろう!?」
「……この国は王国、つまり君主制だが……無理だな」
「……え、なんで?」
「残念だが、この国は大臣によって保たれてるんだ。なんせこの国の王様はまだ10歳だからな」
え? ちょっと待って、今何て言った?
――この国の王様はまだ10歳だと?
「β時代から先代の王様は病弱でな……このゲームの正式サービスが始まる前に亡くなって、当時王子だった人が即位したんだ」
「つ、つまりあれか? 幼い王様は政治の世界にまだ不慣れだから、その代わりに大臣が担当しているって言うのか!?」
「有り体に言えばそうだな」
「じゃあ、大臣が実質ナンバーワンの立場ってわけかよ……こんなもん詰んでるじゃねぇか……」
「――いえ、実はそうでもないですよ兄さん」
「そ、その声は!?」
この店のドアから響かせる見知った声が。
「ある人が言いました。『大義があれば何をしても許される』と」
「怖いなその格言。いや待て、お前らは!?」
「大臣に関する情報を集めておきましたよ、兄さん」
「その中に大臣の弱みらしき情報があったよー。曰くその大臣が代わりに担当してからスラム街の人々が急激に増えてきているんだよねー。これって何かあるんじゃねーお兄ちゃーん?」
そこには、キョウの事を兄と呼ぶドワーフとエルフの少女がいたのだ。




