第1話 説教!
説教する回だと思いました? 残念、説教される回でした。
カジノの景品コーナーで置かれていた大臣お気に入りのハンマー。
それは誰もが知っている事実で、絶対にそのハンマーに触れてはならないという了解があった。
それならそれで、どうしてカジノの景品コーナーにあるのか。
集客効果だか何だが知らないが、そのハンマーが他の手に渡る可能性は思い付かなかったのか。
……いやまぁ思ってないだろうな。
後から聞いた話だとあのハンマーはただの飾りで、本命は一位になった特典だと。一位になればあのハンマーをチャレンジャーから守る代わりにこの国で最大限の便宜を図ってくれるという。しかしそれに反してハンマーを交換してしまったら……そのプレイヤーは国家認定の犯罪者になってしまうのだ。
それをカジノランキング登録時に説明を受けた筈なんだけど俺ってばその話を微塵も聞いてなかったね!
つまりはこの俺、葉月鏡也ことプレイヤーネーム『キョウ』はスラム街問題に引き続き、そのハンマーに手を出してしまった事でまたこの国に喧嘩を売ってしまったという事なのだ!
『VRシステム、リンクアウト』
『SEE YOU AGAIN.』
VRヘッドから発せられる機械音を聞きながら起きる。
そして寝起きに一言。
「どうしよう、俺」
「何が、ですか兄さん」
予想外の声に、俺の時が止まった。
俺はまるで出来の悪い機械のように頭を動かし、隣に座っている人物に振り向いた。
そこには誰もが見惚れるほどの笑顔を浮かべているのに、目だけ笑っていないという器用な事をする俺の妹、葉月朱里がいたのだ。
「あ、あああ朱里様ァ!?」
「今更敬語使っても遅いですよ、兄さん」
ヤバい、ヤバい。
朱里が怒っているのは十中八九、待ち合わせの約束をしたのに俺が来なかったことだ。
「兄さん」
「ヒェ!?」
たった一言で一瞬、三途の川が見えるほどのとてつもないプレッシャーに悲鳴を上げる俺。
「何を怯えているのですか兄さん。私は怒ってますよ?」
見ただけで現状を把握しているのに自己申告しなくてもいいじゃないですかやだー。
いやだが待て、俺はドアの隙間でこちらを覗いている存在を見つけた。顔立ちは朱里と似ていながらもその実、思考は俺の『暴走状態』みたく頭のネジが外れている残念妹の葉月七海がいたのだ。
『ヘヘヘ、ヘルプミー七海さんんん!!』
兄のプライドはなんとやら。
俺は威厳もへったくれもなく、七海さんにヘルプの眼差しを送る。
そして七海さんはニッコリと笑みを浮かべた。
『良かろう、では一週間我達の好物を作るがよーい』
『何でもします、何でもしますからぁぁぁ!』
『うむ承ったぞー。そんじゃねー』
あれぇぇぇ!? 助けてくれないのぉぉぉぉ!?
『私は許すけど、別に朱里ちゃんを説得するとは言ってないからねー』
それって詐欺師の手口じゃねーか!
でも逆の立場だったら俺も見殺しにするけどさぁ!?
「七海ちゃんとの会話、終わりましたか?」
流石俺の妹、アイコンタクトもその内容も理解してたようで。
「さぁ兄さん、遅れた理由を聞きましょうか」
「アッハイ」
このあと約一時間もの間、朱里のプレッシャーに耐えながら説明を行った。
◇
「はぁ……私も鬼ではありません。兄さんに『暴走状態』という持病があるのは分かっていましたので多少遅れる覚悟もできてました」
「はいすみませんでした」
「謝れば済む話ではありません! 遅れるなら遅れるでちゃんと連絡してください! こっちはどれだけ心配したことか……」
茶化すような場面ではないが完全にオカンである。
だが朱里の言うように、もし俺も妹から連絡が来ないまま時間が過ぎたら俺も心配する。
要するに全面的に俺が悪いのだ。
言い返す言葉も無く、俺はただ黙って朱里の説教を聞いた。
「はいはーい、朱里ちゃんそこまでー。相変わらずの過保護だねー」
「か、過保護ではありません! これは立派な妹の役目です!」
「そんな役目聞いたこと無いよー。でもそんなことより今日は正式サービスの日なんでしょー? なら説教は後にして、ゲームの話をしようよー」
「む……そうですね。私もかなり言い過ぎました……」
「そんなことは無いんだが……俺が悪いのは事実だし」
「ああもうー! ゲーム以外の話は禁止ー!!」
そんなこともあって、俺達はゲームで起きた事を話した。
そこで分かったのは、どうやら妹達はこのゲーム内時間での三日間、かなりゲームを進めておりなんと流派を一つ習得したのだ。
「いやーてっきりスキルを習う場所かなーと思ったら結構本格的でさー」
「構えや武器の扱い方を実践的に教えて貰いました」
「ああーいいなー……。俺もそんな風にゲームを進めたかったぜ……」
俺の場合は言わずもがな、たった三日で波乱が凝縮された進行だった。
「カジノ!? ま、まさか兄さんはカジノに行ったんですか!? 数々の出禁を食らっているのに!?」
「仕方無かったんだ!! そうじゃないと俺は五百億を貯めれない……! 現実世界で色々やらかしたけどそれでも俺はやめられなかったんだ!!」
「言う事がギャンブル依存症から抜け出させないダメ人間のそれなんだけどー」
「カジノが駄目なら俺は銀行で詐欺を働くしか……ッ!」
「何故そういうぶっ飛んだ思考に!?」
「ところでお兄様」
「お前がお兄様とか気色悪いんだが七海」
「あのさー私達兄妹でしょー? 財産は共有すべきなんじゃないかなー?」
この金はスラム街を復興させるための資金であってお前のために用意したんじゃ……。
「ちょ近い近い!? お前擦り寄って来るんじゃねー!!」
そんな話をして時間が10時を過ぎたため、明日は今度こそ集まる約束をして寝た。
◇
その翌日。
「よし、今日も行きますか!」
朝起きた俺は、毎日の日課である家事をしていた。
俺達の親は今この家にいない。
現在でもラブラブなほど仲のいい夫婦で、毎日が結婚記念日だと抜かしながら旅行に行っているのだ。つまりこの家では基本、俺と妹二人しか住んでおらずしかも家事が出来るのは俺一人だけ。
「ほらーお前ら起きろー!!」
「ふぁいー」
「おはよーお兄ちゃーん」
相変わらず、頭をボサボサにして降りてくる朱里と七海。
女の子がそんなだらしない格好をしている事に普段なら注意をするが、昨日の出来事があるため今日は放っておくことにした。
「お兄ちゃーん、今日のごはんはー?」
「お前のリクエスト通り、二人の好物を作ったぞ」
「兄さん、ありがとうござい……ふぁー……」
「……朱里、お前もう一度顔を洗って来い」
寝起きは本当に駄目駄目だなお前。
そんなこともあり、時刻が昼頃になった所で俺達はゲームを始める準備をした。
今の俺達は先週から夏休みに入っているため、毎日ゲームをしても誰も咎められない。
「兄さん。ちゃんと約束守ってくださいね?」
「おうよ、向こうに着いたらお前等に必ず連絡するよ」
「それじゃーまたねー」
それぞれの部屋に帰り、俺は昨日と同じくカチューシャ型のVRヘッドを装着し仰向けに寝転がる。
「部屋のライトよーし、VRPC電源よーし、VRヘッド固定よーし、寝方バッチシ!」
マニュアル通りの安全確認作業をして俺は漸くVRに入った。
「スタートボタン押しながらーの、『VRシステム、ダイブスタート!』」
音声システムにより、起動するVRヘッド。
すると俺の意識が段々と遠くなっていき、俺は睡眠を始めた。
『WELCOME TO VR-SYSTEM.』
お馴染みのパーソナルルームで、昨日遊んだ『MFO』を起動させようとした所に、ある一通のメールが来ているのに気付く。
「誰からだ? ……なんだ神崎からか」
内容は単なる待ち合わせに関する内容だった。
そういや俺昨日どこでログアウトしたんだっけ……。
そう思いながら俺は今度こそ『MFO』を開始したのだった。
クッソ長い準備編から、ようやく結成編になったクマ将軍です。
今日の話は姉妹回です。
皆さんお察しの通り、朱里と七海はレギュラーキャラでヒロインです。
そんな彼女等がこれからの冒険にどう活躍するのか、お楽しみに!
アンジュ……? 知らない子ですね。
アンジュ「えっ!?」




