第13話 カジノロワイヤルよんっ!
長い間お待たせしました。
それからというもの、キョウはアオギとの勝負で負け続けていた。
「フラッシュ」
「同じくフラッシュ」
まるでおちょくっているかのように毎回出る役はキョウと同じなものばかり。
「ストレート……ッ!」
「同じくストレート」
だが役は同じだとしてもそのカードに描かれている絵は毎回アオギの方が上だった。
ポーカーにおける絵柄の強さはご存知の通り、Aから始まりK、Q、Jという順番で一番弱い数字が二だ。つまり、同じ役を出していてもそこに描かれている絵柄によって同じ役の中で強さが決まるということ。
「フォーカード!!」
「同じくフォーカード。おっとまたこっちの方が上だな」
キョウが負け続けていても事前に稼いだお陰か、まだ余裕で次の勝負に挑むことが出来る程のチップを所持している。
そして幸か不幸か、アオギもまた上乗せベットをする時は毎回千ベットをするだけなので余計に勝負が長引いているが、かといってこのまま負け続けると何も得られないままやがて転落するのだ。
他の冒険者と同じ地獄へと。
(一体何が起きてんだ……)
この予想外の展開にキョウは気付かない。
この勝負を始める前に感じていたあの余裕が薄れているということに。
◇SIDE ゴッドストレートスマッシュ(ゴスト)
「ちょ、ちょっとサブマス!? キョウさん負け続けてますよ!?」
キョウの後ろで観戦しているギャラリーに混じって、アンジュと俺は今起きている状況に焦っていた。
「ああ……確かにマズイ……」
「ですよね!? は、早く止めないと……ッ!」
よほど気が動転しているのか、アンジュは咄嗟にその様な言葉を言い放った。
確かに自分の友人がこのような危機的状況に陥ったら、誰もが止めるように動くだろう。
だがこの勝負は謂わば博打の勝負。
勝てば天国、負ければ地獄。
それを覚悟しているからこそ、アイツらはそうやって賭けを行なっているんだ。
「それにこの勝負の勝利条件はどちらか一方のチップを無くせば勝ちなんだ。今更止めても取り合ってくれないだろうな」
「そ、そんなぁ……」
「だが、それよりも……」
俺もアンジュと同じ、今起きている状況に対して焦っていた。
だが俺が気がかりなのはこの勝負の行方では無く別の方。
キョウの身に起きていることだった。
(この勝負を始める前に、確かにあったあの余裕が感じられない……。そして机の下で無意識にやっている貧乏揺すり……これは間違いなくあいつが焦っている証拠……ッ!)
だがそれは勝負に負け続けていれば誰もが陥る現象。
普通の人間として何一つ異常は無いのだ。
そう普通の人間としては。
「まさかキョウ……『暴走状態』が消えかけているのか……ッ!?」
「ば、バーサクモード?」
しまった、俺が呟いたことを聞かれたか。
本来キョウの性格について誰にも話すつもりは無かったため一瞬言葉に詰まるが、彼女なら大丈夫だろう。
「……ああ、キョウには生まれつきある能力、いや正確に言えばある性格があるんだ」
「それがさっき言ったバーサクモードですか?」
「本人が興奮、もしくはそれに類似する感情を抱いた時に現れるもう一つの性格。それは、現れると同時に本人のタガが外れ、普段過ごしているあいつとは思えないほどの力を発揮するんだ」
言うなればこれは『脳内のリミッター解除』。
身体能力が上がるだけではなく、過去から得た知識や経験から身体を最適に動かす方法を無意識の内に行ない、その思考能力や記憶力は最早超人の域になる。
但しその副作用なのか、その性格のときのキョウは、普段彼の事を見知っている人達からは、通常では考えられない程の異常な陽気さ、余裕、態度、行動を取るようになるのだ。
だから『暴走状態』と、俺が名付けた。
その異常な力に対応するためなのか、もしくはその力から持たされる圧倒的な万能感によってからなのか『暴走状態』時のキョウは、普段の彼とは思えない行動をするのだ。
だがこれはあくまで科学目線の意見。
「キョウの『暴走状態』には科学では説明しきれない所が多いんだ」
その一つが事ギャンブルにおいてある意味、最も有効な能力。
キョウの『暴走状態』が消え始めたのは恐らく、アオギがキョウの手札を言い当てた所からだろう。
あの時フルハウスとアオギに言い当てられた予想外の一言によってキョウの『暴走状態』が揺れ、そして追い討ちを掛けるようにアオギの勝利となった最初の1ゲーム目で既に『暴走状態』を維持するための興奮が急速に沈静化していったのだ。
(だけど、アオギが勝った時のキョウは特段感情に揺れが見当たらなかった。もしかしてキョウ……お前は自分が負けることを悟っていたのか? 悟っていたからこそ『暴走状態』が薄くなっていったんだな?)
『暴走状態』に冷静さはいらない。
馬鹿をやるほど、常識を否定するような行動こそが『暴走状態』を発現、維持する力になる。
「キョウ……頼むから余計な考えをするなよ?」
◇SIDE アオギ
(所詮、こんなものか)
今の心情を表すならそう、失望だ。
大したイカサマも、高等なスキルも何も使ってはいないにも関わらずこの勝率。
久しぶりに刺激的な賭けが出来ると思ったあの高揚はもうなくなっていた。
「……ッ、ノーペア……」
ここまで、一定の役以上を出してきたキョウがまさかの役なし。
キョウを見るアオギの目には、もはやそこら辺にいる有象無象を見るような目をしていた。
「……そうか」
これまでキョウが出してきた役はどれも低い確率で出る高い役ばかり。
いきなり最初のラウンドでフルハウスを出してきたのは流石のアオギも驚愕した。
――だが、言ってしまえばそれだけだった。
イカサマを行った形跡も無く、こちらを動揺させる話術も無い。
何か策を練っているのでは、と疑問を抱くも何もアクションが無かった。
あまつさえこちらが多少のスキルを使っただけで驚愕し、アオギがスキルを使用した事に気付かず対処も何も無いまま負け続けている。
(奴の目には俺と同じ刺激を求めている目だった……だった筈だ)
勝負が始まる前までは、コイツの溢れんばかりの余裕と身体から溢れ出る底なしの強者のオーラにアオギの心には歓喜と畏れが芽生えた。
最もそんな感情、今目の前にいる弱者の姿を見た瞬間に消え去ってしまった。
勝負が始まる前の勢いは何処に行ったのか。
あの運のいい引きは何処に行ったのか。
アオギの目の前にいるキョウの姿は。
――まるで素人そのものではないか。
最早、時間の無駄。
今までは千ベットにレイズすることで勝負を楽しもうとしたが今はもうどうでもよくなった。
「レイズ、五万ベット」
『ざわ・・・ざわ・・・』
ざわつくギャラリー。
アオギが上乗せしたのは千チップの五十倍、ギャラリーは確実にアオギが勝ちに行くつもりだと理解した。
だがそれではダメだ。
僅かに己に畏怖を抱かせた相手には相応の御礼が必要。
これからやるのはじっくりと、じわじわと、奴を地獄に叩き落す。
かなりの勢いで減っていくチップに相手を焦らせ、何も考えず、混乱していく頭で地獄に叩き落すのだ。
今、アオギの手札にはスペードの三、ダイヤのQ、ハートのJ、クローバーの五、そしてハートのKがある。
言うまでもなく、役無しのブタだ。
勿論これは既にディーラーと交換した後の手札でこのまま勝負すれば両者役無しで引き分けだ。
(やっぱり、これが俺の運命か)
アオギは相変わらずの引きの悪さを見て内心自嘲する。
これがアオギにとって普通の引きなのだ。
運から見放され、毎回貧乏くじを引くのがアオギにとっての普通。
だから運に左右されない、己の技術のみで勝利を、栄光をもぎ取る。
(《エクスチェンジ》を発動。対象はハートのJとハートのK以外の手持ちカード)
本来エクスチェンジの使い方は戦闘中に手持ちの武器とストレージ内の武器を一瞬の内に交換するアクティブスキルだ。
だが対象が自身だけと、一瞬と言っても一秒ぐらいのタイムラグが生じるのがこのスキルの欠点。そんな欠点があるスキルをこのポーカーで使うとその数瞬のタイムラグにより相手に気付かれるのが大半だ。
だがそこはカジノランキング一位に立っているアオギ。
勿論その欠点の事は百も承知なのだ。
欠点もありギャンブルに不向きなスキルなため、誰も使わないスキル。
――だからお前等は運に見放されている俺以下なんだよ。
「もう遊びは止めだ」
低い声音で呟くアオギの言葉。
だがそれは全てを惹きつける宣言で彼こそがカジノの頂点であること認識させる呟き。
「なぁ新入り。お前、楽に逝けると思うなよ?」
キョウも含めて、アオギの目から逸らすことが出来ない。
これがアオギの狙いだ。話術や気迫で周囲の視線を本命から外す技術。
アオギの手持ちはもう揃った。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
頂点は圧倒的な力の差を目の前にいる新入りに叩き付けたのだ。
インフルやらなんやらで遅くなりました、クマ将軍です。
勢いのまま書いてて自分で分からなくなりました。
これポーカーやったことある人でも
矛盾ありすぎて訳分かんなくなってますねはい。
そして最後に
Q.これもう主人公アオギでいいんじゃね?
A.いいえ、主人公の出番は次回からです。(多分次回で最後です)




