第11話 カジノロワイヤルにっ!
お待たせしました。
カジノに入り、展示されている景品コーナーを見た。
そして、展示されている景品の一つを見て俺は目を奪われたのだ。
それを見た瞬間、俺はこの『武器』を使って敵をなぎ倒す空想をした。
それほどまでに俺は展示されているこの景品に心を奪われた。
だがこの『武器』を手に入れるには莫大なチップを稼がないといけない。
それほどまでに目の前にある景品は価値が高かったのだ。
今の俺にはスラム街を発展させるという目的がある。
それをこの景品のために使うとなると俺はスラム街を救う金を諦めざるを得ない。
駄目だ。それは駄目な考えだ。
「あぁ、でも」
それでも俺は、目の前の状況を景品から離れることが出来なかった。
久しぶりに湧いてくる強烈な『欲しい』という欲求。
もしも、もしも俺がスラム街を救う金額を用意できて尚且つあの景品を手に持つ未来を求めるなら。それは当然こんな一回や二回の生半可な稼ぎじゃ届かない。
もっと、もっと稼ぐ必要がある。
自然とその武器に向かって手を伸ばす俺。
未だ届かない距離にある『それ』。
「決めた」
俺は今からスラム街を発展させる金を稼ぎ、尚且つ目の前の景品を手に入れるほどの金を稼ぐ。
「待ってろ……絶対に手に入れてみせる」
二兎を追う者は一兎をも得ずという諺がある。
それは二つ同時に得ようとするも最終的に何も得られないという意味の諺だ。
正しく今の俺の状態だ。
そう『今の俺』ならば。
俺の『何か』が外れる気がした。
視界はクリアになっていき、俺の心に余裕が溢れてくる。
口角がつりあがっていくのが感じる。
周りの世界が楽しく思えてくる。
「荒稼ぎ、しましょうかねえ……ハハ!」
『再度、脳波に異常を感知しました』
『ユニークスキルの申請確認中……』
『ユニークスキルの取得、失敗しました』
◇SIDE OTHERS
カジノカンレークの二階には、認められた人物でしか入れない部屋がある。
通称『VIPルーム』と呼ばれるその部屋。
その部屋はこの国の王族を始め、『冒険者が集う街カンレーク』の貴族達と猛者の中でカジノランキング五位以内の人物でしか入れない場所である。
そんな煌びやかな部屋の一室にて一つのテーブルを四人の男が取り囲んでいた。
だがその場にある空気は何故か重苦しく、ある一人の男を除いて全員が顔を青ざめていた。
「り、リーチ……」
「ロン」
『ひいっ!?』
こんな空気を生み出したその男が一手挙動を用いる毎に部屋の中にいる全員が悲鳴を上げる。
今この部屋にいるのはテーブルを囲んでいる四人だけではなかった。
この麻雀を見学している人が五人。
そしてその部屋の片隅には十人を超える男達が一枚の下着だけ残し白目を剥きながら転がっていた。
『ざわ・・・ざわ・・・』
ざわめく部屋の住人達。
当然だ。何せ、今先程勝った男はこれまで一度も敗北を味わっていないのだ。
このVIPルームは権力だけで入ることは許されない。
もし、入れたとしてもそいつはもう二度と元の栄光を取り戻すことは出来ないだろう。
理由は簡単、実力無き者は強者によって搾取されるということ。
当然の帰結だ。
故に、このVIPルームに入るには並み居るギャンブラーを蹴散らす実力を持たなければならないのだ。
裏を返せば、この部屋にいる全員はかなりの強さを持っているということ。
そんな強豪達から一度も敗北を許さずに圧倒的な強さで勝利した男がいた。
周囲の人々が戦慄している中、一人の執事がその男に耳打ちをした。
「……何? 怒涛の勢いで連勝している奴がいるだと?」
「如何致しましょう?」
執事の質問に男は笑みを浮かべた。
「当然、やることは一つだけだ」
するとその男は席を立ち、執事から手渡されたマントを羽織る。
「大臣から承った依頼のためにそいつの連勝を阻止する」
彼こそがこのカジノのランキング一位を務めている史上最強の男、アオギ。
彼がいる限り、このカジノから『ジャックポット』を得ることは出来ない。
「さぁ案内しろ、その連勝している奴に。キョウという輩に」
ここに二人の男が合間見える。
「そいつを、地獄へと叩き込んでやる」
それを知らないキョウは、今現在怒涛の勢いで勝ち上がっていった。
数々のギャンブラーを下し、カジノの猛者でさえもキョウの元で敗れ去っていく。
勝ち上がった結果、今現在のキョウのカジノランキングは六位だ。
カジノランキングとは今現在カジノで稼いでいるギャンブラーの番付をしているシステムで、このカジノで賭けをやる時は必ず参加しなければいけない。
そしてカジノランキングに参加したプレイヤー全員、カジノランキング一位を目指して競う。より高みへ、より頂上へ。金や名声のためにではない。より激しい刺激を求めるために、狂人たちは一位を目指すのだ。
『やったぞ! 俺が賭けたあのプレイヤーのお陰でボロ儲けだ!』
対して一位を目指さないその他の有象無象の凡人どもはランキングに載っているプレイヤーに対して金を賭けることができる。
そのプレイヤーが勝てば勝つほどそのプレイヤーに賭けた見学者は賭けた分だけ、倍にされて返ってくるシステムだ。
その他にもランキングで勝ち進めば進むほどプレイヤーのチップの損失が多くなる代わりにより稼ぎやすくなるよう、カジノ側から便宜を図ってくれる特典がある。
その中で、カジノランキング二位に上り詰めたプレイヤーはカジノがこれまで溜め込んだ大量のチップ、通称『ジャックポット』を賭けてカジノランキング一位と勝負する事が出来る。
勝てば莫大な報酬が、負ければランキング最下位に転落する条件付きという過酷なプレッシャーの中で、ランキング一位という猛者の中の猛者が相手をするため、未だに誰も『ジャックポット』を申し込んだ者も手に入れた者もいない。
――今日までは。
◇SIDE ゴッドストレートスマッシュ(ゴスト)
順調に勝ち上がっているキョウを見て、アンジュと俺は真剣な表情で話し合っていた。
「これでキョウのランキングは六位か……」
「まさか低ランクの内に十番代のランキング保持者を選んで行くとは……」
「仕方がない。一刻も早く稼がなきゃいけないキョウはこれが最善で最速の近道なのだから」
「それでもこの方法は非常識過ぎます!」
アンジュが声を張り上げて俺に詰め寄る。
さっき俺が語った最速の近道、それは始めたばかりでカジノランキング最下位の状態のキョウを上位の相手、つまり十位以内のランカーと勝負し稼ぐというものだ。
下の者が上に勝てば上のランクを奪うランキングの仕様は、まさに今のキョウにとって最善のやり方。それと同時に非常識なやり方でもある。
それに上位ランクと戦うには上位ランクと同等のチップを持たないといけないし、そのためにはカジノから借金をする必要もある。
当然、その状態で負ければ待つのは奈落の底だ。
「ここまで勝ち進んでいくのは確かに異常です。サブマスが言ってたキョウさんの天才的な勝負強さも理解できます。しかし、もし万が一キョウさんが負ければ一巻の終わりなんですよ!?」
いつこの奇跡の連勝が終わるかも分からない。
そうアンジュが懸念するのも無理はない。
ただ俺が言えるのは子のたった一言だけだ。
「勝てばいいだけの話だよ」
「それは参加していないサブマスだからこそ言える台詞です!」
「信じろとは言わん。だが心配もするな。あいつに勝負に関する勝敗なんぞあってないようなものだ」
「どうして、どうしてそんな自信を持って……」
「それじゃ聞くが一本の線だけ引いているあみだくじと複雑に絡まったあみだくじ、どっちのあみだくじが望むゴールに辿りつくと思う?」
「何故そんな分かりきってる問題を……?」
「―――つまりはそういうことだ」
キョウのいる次元と、ギャンブラー共がいる次元は違うのだ。
俺が言い終わったと同時にまた一つ勝負が終わり、歓声が湧く。
そして同時に驚愕を含んだ声も轟いた。
ギャラリーの視線は今、執事を伴って二階から降りてきている一人の男へと向けられていたのだ。
「漸く来たか……アオギ」
「アオギ? サブマス、その人は一体……」
「アイツはこのカジノの頂点に立つ男にしてカジノランキング一位『無敗』のアオギだ」
「知っているんですか……?」
「当然だ。アイツはβテストの時、まだ初心者だったコマさんを相手に無理難題な条件を吹っ掛けた上で賭け事をして、コマさんを破滅に追いやったんだ」
「何をしているんですかコマさん!? ってかこのゲームをやってたんですかあの人!?」
「頼むぞキョウ……コマさんの仇を討てるのはお前しかいない……ッ!!」
「まさかその理由でキョウさんを巻き込んだんですか……?」
アンジュのツッコミを無視して俺は事の成り行きを見守る。すると案の定アオギの目的はキョウだったみたいで、二階から降りてきたアオギは連勝しているキョウの元へと近づいてくる。
「よぉ、随分勝ってるじゃねーか新入り」
「運が良かったんだよ。アンタはどうだ? 勝ってるか?」
それがこの二人が最初に交わした言葉。
キョウはカジノランキングに登録した際、一位であるこの男の顔写真も見たはずだ。だからこそ頂点に立つその男に対して物怖じせず挑発を挑発で返すこの会話に周囲は一歩、二人から後退する。
「ほう、俺に勝ってるか? って聞くとは野暮な話だぜ新入り……」
するとアオギの後ろに控えている執事が何処から持ってきたか分からない大仰な椅子を用意し、アオギはキョウが座っているテーブルの対面に座る。
「俺はここで一位をやってる、アオギって言うんだ。ヨロシク」
「どうも、これから一位になるキョウだ。よろしく」
『ざわ・・・ざわ・・・』
傲岸不遜なその物言いにどよめくカジノ店内。
そんなキョウにアオギは目を鋭くさせ、笑みを浮かべた。
「ふむ、なるほど話は早いな」
「俺は一位になって膨大な金を手に入れる。そしてそっち恐らく俺の連戦を止めるために来たんだろう? ならやる事は一つだ」
「その気概、実にいい。なら負ければ地獄の底であると、それも理解してるんだろうな?」
まるで脅すように言葉を出すアオギ。
見れば周りのギャラリーも気付かぬ内に喉を鳴らす。
だがキョウは、余裕の表情でアオギへと見返した。
「お前は知らないがもう地獄の真っ只中にいるんだ。あとは駆け上がるだけさ」
「よろしい、なら始めようか」
――ここに、カジノ史上最強の男と規格外ギャンブラーの戦いが始まった。
初めに言いますが、作者はギャンブル分かりません。
ルールも全く分かりません。
それなのにどうしてやろうと思ったの? だって?
そんなもんやりたかったに決まっているだろ!
ですので次回からは作者のやりたい放題にします。




