第9話 再会!
スラム街でのクエストをクリアした俺はスラム街の人々から盛大に持て成された。リアルタイムで作り出される料理の数々。
食材は俺が壊滅させた『赤城の岩壁』が各地で強奪した食糧から持ってきたらしい。
「やっべぇぇぇ!! これうめぇえええ!!」
「そうでしょうそうでしょう。実は私、元は宮廷料理人だったんですよ?」
「何おう? 俺だってなあの有名な高級レストランのシェフだったんだぜ?」
「これだからボンボンのエリート様は……。その点私はあの安い、上手い、安全の食堂に勤めてたからね!」
かつての仕事を自慢し合うスラム街の人たち。その仕事内容のどれもが一流の物ばかりで、彼らが自慢するのも無理はない。
しかしどうしてそのような彼らがスラム街で暮らすことになったのか。聞けば彼らは暗い表情でこの街にやって来た経緯を話し始めた。
「私は……見覚えのない料理を出したことで非難を受け、更にその料理に毒が入っていたことから職場を追放されました……」
「俺は、仲間に騙されて本来発注していないミスリルの剣を勝手に作ったことで追い出された……」
「私の担当じゃないのに、捏造された帳簿の責任が私に降り掛かって……」
揃いも揃って裏切りや詐欺、身に覚えのない責任などで追放されたのだと言う。そういった彼らが夜逃げして集まって出来たのがスラム街らしい。
「一体どうなってるんだこの国……人の思惑が渦巻く魔境みたいだな……」
「昔はそんな酷いもんじゃなかった……今から二十年前、加護持ちの出現で徐々に豊かになって来たこの国はいつの間にか負の感情渦巻く醜い国になってしまったんだ……」
「いや待て、豊かになっていったんだからどうしてそんな事になるんだ?」
この国は他国を繋ぐ所謂中央貿易のような存在であるため、冒険者が集まりやすい環境になっている。その冒険者達の働きによってこの国はそれなりに生活水準が高く、更に加護持ちの出現によって経済成長に拍車を掛けるようになった筈だ。
「それなのに何故?」
「……ストレス、だったんでしょうね……」
「ストレス?」
「冒険者の集うこの国は当時でも世界有数の高度経済成長期に入った国で知られていたの。更に加護持ちが現れてからこの国は急激に成長して、この国に住む人々はその成長に置いてかれないように必死に噛り付いていた」
「でも付いて行けなかった人たちは、俺たちみたいな仕事のできる人間に嫉妬を抱き始めたんだ」
「……だから、陥れたっていうのか?」
とんでもない話だ。
だからこそ人間ってのは恐ろしいと思う。いや、この世界がゲームであると分かる俺からすればこんなプログラムを施した運営の悪辣さに頭を抱えるしかないのだが。
だがここでとある疑問が浮かぶ。
このスラムで生まれた人々を除き、このスラム街に逃げて来た彼らの前職は誰もが一流の仕事に就いていた。しかし俺はこの区画街にやって来た当初、あまりの酷い環境に絶句したのを覚えている。
聞けば建築に関するプロもいたはずで、生活水準も今より上げられるはずだが、どうやらここにも問題があるらしい。
「最初は抜け道を利用して生活環境を改善して来たんだが、それに気付いた奴らが妨害し始めたんだ!」
「それで俺たちを飢え死にさせないよう、下層やら上層やらを格付けて上の格の奴らだけ外の区画と商売できるようにしたんだ」
その言葉を聞いて、アリカとサヤの表情が暗くなった。
そう言えばアリカは下層の生まれでサヤは上層の生まれらしい。だからサヤは一人だけスラム街から出て冒険者ギルドで依頼が出来たんだろう。
「それでも建物をぶっ壊して改修やら家具の作成やらで生活して来たが、今度はどこからか雇ったか分からない『赤城の岩壁』が定期的にやって来て一定の生活水準に落とすよう家財やらを没収して来たんだ」
「そこまでやるのか……」
その他にも別区画がスラム街を差別しているのは、政府がスラム街を必要悪としている事でこの国の不満を全てスラム街に集中させているせいもあるという。
「悪いこと起きれば全部スラム街の所為! 家族が死んだのもスラム街の所為! 所持品が無くなったのもスラム街の所為! どうでもいい事から大きい事まで全てスラム街の所為にしちゃったらね……」
スラム街にいる全員とは言えないが、ここにいる人たちは外に広がっている悪評に反してとてもいい人たちだ。何か俺に出来ることはないのだろうかと考え込むぐらいに、俺は何かこの人たちを救いたいと思っているほどに。
「おいおい、あんたが気に病む必要ねえよ!」
「そうよそうよ! 貴方はあのクソ野郎共を壊滅させたのよ? 食糧もこれだけあるし少なくとも以前よりはマシになったわ!」
「だけど……」
「いいのよキョウ。貴方が私たちをあの連中から助けてくれただけで、とても救われたんだから」
そうアリカが言うが、それでも俺は何か行動したい。目先の問題だけ解決して、後は放置だなんて罪悪感で出来る筈もない。
そんな俺に、機械のような音声のお知らせが来た。
『クエストが発生しました』
『クエスト:スラム街を発展させよう 資金編
進展状況:進行中 現在の資金額5100/500億G
依頼内容:スラム街の人々のために500億Gを集めよう
依頼報酬:スラム街施設の拡張』
……え?
◇
昨日の宴からゲーム内で一日、現実世界で1時間が経った後、俺はスラム街から出て金策に励んでいた。
それは何故か。昨日俺の前に出て来たクエストの達成額はなんと五百億。気の遠くなる金額だ。心が折れそう。
ではその五百億のクエストを放っておいて、他のクエストをやるという案はどうだろうか。いやそれでもスラム街の人たちのためにこなすのは当然として、現実逃避の手段としてのクエストはどうだろうという話だ。気分もリフレッシュ、金もある程度溜まる。やったぜ。
――そんなことを考えていた時期が俺にもありました。
「あの冒険者だ……スラム街の連中を助けたっていう……」
「チッ、なんでスラム街の連中なんか助けたんだよ……」
「聞けばあのスラム街を統治している『赤城の岩壁』さんを壊滅させたらしいぜ?」
「マジかよ、あの人達スラム街の連中を好き勝手させないように動いてくれてたんだろ?」
「ああ……あの冒険者の所為でこれから俺たちの生活が危なくなるな」
気が付けば一日足らずで俺に対する悪評が国中に広がっていた。
どうやらこのゲーム、評判によって利用できる施設のグレードが下がる評判システムみたいな物があり、これにより俺がスラム街以外の施設を使うと他の人たちから宜しくない顔をされるのだ。泣きそう。
「あの……このクエストをお願いします」
「チッ、あーはい分かりました。ではせいぜいくたばって下さいね」
なんという言葉の暴力。
見ての通り、この国出身のギルド委員から露骨に嫌な顔をしてくるのだ。まぁその人の上司が説教して彼の代わりに謝ってくれたから、あまり鬱になっていないのだが。
もうね、早くこの場所から逃げたい。
そしてスラム街を発展させてこいつらに復讐したい。気分は周りの重圧に晒されながら一生懸命に金策する街作りゲームのようだ。
とにかく俺はこのスラム街だった街の方が、お前らよりもずっと裕福だと指を指して腹を抱えながら笑いたい。そのためには俺が五百億貯めなきゃいけないのだが、今の所持金を見てみよう。
【所持金:7100G】
いや無理だろ。五百億という目標のために態々自分の装備代をケチって一日中クエストやってるのに得たのが二千ゴールドとか。
装備代ケチって未だに初期装備だし、一部ギルド委員の嫌がらせによりランクを上げるのも一苦労だし、こんな低ランクの初期装備じゃあ手っ取り早くクエストを終わらせて金を稼ぐというのは無理な話だわ。
(……どうすればいい、どうすれば金を稼げる……?)
「あ、あのー……もしかして私を助けてくれた人ですか?」
「おいどうしたアンジュ?」
「あっサブマス! この人ですよ私を助けてくれたの!」
(人を頼むか? いやしかし評判最悪の俺に協力してくれる奴なんているか?)
「ん? おい、どう見ても初期装備だぞ?」
「あー、確かに初期装備ですね。でもあの時も確か今と変わらないような……」
「この装備のままビッグボアの大群からアンジュを手助けしたってのか?」
(そう言えば明日の献立考えてねーや。適当にあいつらの好物でも作っとけばいいかって……ンンンン、違う! 現実逃避するんじゃねぇ! スラム街の人たちだ、あの人のために金を集めなければぁ!!)
「なんか、頭抱えてもんどりを打っていますね」
「うーん、装備ロストの様子もステータスダウンによる気力低下も見られないな……という事はコイツ、あのビッグボアの大群から生き延びたってのか?」
(よし、銀行だ。銀行にするぞ。先ずは書類を偽装して架空の会社を作り、融資を頼むんだ)
「……なんか、銀行を見てブツブツ言ってますね……」
「間違いねぇ……コイツは追い詰められて最後の手段を取ろうとしている奴の目だ……数々の修羅を見て来た俺が言うんだ間違いない」
「どういう経歴を辿って来たんですかサブマス」
「まぁコイツがこんなに悩めているのなら明日改めて……ん? コイツは……」
計画は完璧だ。後は必要な人材をスカウトして、計画を進める。多少のイレギュラーでも俺の慧眼でスカウトした人材と俺のパーフェクトな計画さえあれば、大金を手に入れられる……ッ!
「やってやるぞ……あぁやってやる! これで屈辱の日々はグェ!?」
「サ、サブマスが殴ったぁ!?」
「おい、正気に戻ったか? 鏡也?」
な、何!?
誰だ俺のリアルネームを知っている奴は!?
いや、まさかこの声は……ッ!
「まさかお前――」
後ろを振り向くと、そこには俺が助けた何時ぞやの少女に顔の知っているローブの男がいた。
「あれ? 知り合いなんですか?」
「まぁ知り合いだが、ゲームの中では知り合ってないな」
すると騒ぎを聞きつけたのか俺たちの周りに人だかりが集まる。
『お、おいあいつって……』
『ああ、Sランクプレイヤーの一人であの有名なギルド、《勝利への架け橋》のサブマスター……』
「ゴッドストレートスマッシュだ。一応初めましてだな」
自己紹介をし、倒れた俺に手を差し伸べてくるイケメンの男こそ俺に『暴走状態』という名前を付け、小中高からの腐れ縁である俺の幼馴染。
「か、神崎直人じゃねえか!?」
「リアルを晒すなや!」
殴られました。解せぬ。
でも二回殴られたのでやり返します、はい。
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次回、ざわ…ざわ…回です。




