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メイン 2 奥海昴も戸惑う。


「もしもし、モモコさんですか?」


「はいはーい、モモコさんですよー。っていうかさー、『もしもしモモコさん』って、なんかそういう番組のコーナーみたいだよね。って事は、スバルくんはリスナーって事になるのかな? いやー、ついに私も固定ファンが付く程の人気になったか。ついに私がラジオDJだって事がばれてしまったのね。まいっちゃうねぇ、どうもどうも」


「そんな事よりですね、今ってまだ『特境省』にいます?」


「あれあれ、ノリが悪いねぇこの子は。そんなんじゃあ女の子にモテモテになれないわよぉ? ……って、まぁ良いわ。まだ『特境省』にいるけど? っていうか、私達はもう殆ど住み込みみたいなもんだからね。いつでも駐在しておりますわよん。そんで、どうしたの? 何かしら御用?」


「すみません、夕方のアメタマ逃がしちゃいました」


「ふふん、知ってるわよー。反応をモニターしてたもん」


「あと、女の子に見られました」


「それも知ってるわ。なんせモニターしてたからね」


「それでですね、ちょっと、申請無しに『夏』を使い過ぎちゃったんですが……」


「そーれーもー、知ってるのよー。なんせモニターしてたんだからねっ! 連絡おっせーんだよ奥海昴! はい、今何時か答えてみる! ハリーハリー! ハリーアップ奥海昴っ! いーまーはーなーんーじーでーすーかー? はい、そこのバカ! 電話口のそこのバカっ! さくっと時間をご確認して答えてみろやっ!」


「……八時を過ぎたところです」


「そうよねぇー、八時を過ぎたところよねー。で? そんで? アメタマ逃がしちゃって目撃者に女の子がいちゃって『夏』を使い過ぎちゃったのはいつ頃の事よ? 何時頃の事よ? ん? んん? 答えてみぃ? んんん?」


「……えっと、四時……、くらいの時間、ですかねぇ……」


「はーい! 大体正解でーす! 私は優しいので多少の誤差は大目に見る事にしていまーす! 因みに分数までの正確な時刻は現在が八時六分で件の女の子がきみ等を目撃してしまったと思われる時刻が三時四十四分できみが『夏』を『使い過ぎちゃった』と思われる時刻が三時四十七分でアメタマを逃がしたと思われる時刻つまりモニターから反応が消えた時刻も同じく三時四十七分でーす! 四時から八時の間の四時間君は何をしていたのでしょうか? 『私』は『君』に『問おう』じゃないか? どうだーい? お答え願えますかーい?」


 語尾を間延びさせてふざけた調子に捲し立てる。

 静かに怒る感じも怖いのに普通に怒っても怖いとか……、この人はオールラウンダーか……。


「……いや、そりゃあ何て言うか……。俺にとっちゃあこれは初めて経験する事ですし、目撃された時の対応も一応講習は受けてましたけどね。それでも、まさか自分がそれをやるとは微塵にも思ってませんでしたから……。俺だってテンパりはしますよ……」


「ふーん、じゃあ君は四時間もずっとテンパってたって事になるのね? それは流石に長すぎるんじゃないの?」


「…………知人だったんですよ」


 言うと、電話口の向こうにいる桃子さんの空気が変わった。


「同じ高校で、同じ学年で、同じクラスで、隣の席の奴だったんです。そりゃあ『黒腕』も『ニコ』も同じ高校ですけど、俺等は言っちゃうと『特境省』の計らいで同じ高校に進学させられたようなもんですし。だから、これから夏に深く関わろうっていう奴がですよ? 同じ高校で、同じ学年で、同じクラスで、隣の席の奴だったら、俺だって動揺くらいしますよ。……っつーか、動揺くらいさせて下さい。四時間ってのは長過ぎたかも知んないですけど、俺もそれくらいの複雑な心境をしてるしナイーブな心の持ち主って事ですよ。広い心でのご理解を、お願いしたいです……」


「……はぁ。で、その女の子に声は掛けたの?」


 必死の説明が効を奏したのか、桃子さんはタメ息を吐いたものの、口調を通常のものに戻してくれた。一安心、とはいかないまでも、これでこっちも落ち着いて言葉を発せられる。この人の張り詰める空気の感覚は苦手だ。普段の調子が調子なだけに、いざ上から叩き付けられる様に怒られるとどうしたって萎縮してしまう。


「……はい、その場で声掛けて、一応、明日そっちに連れて行く事にしています。つーかその件で電話したのがそもそもなんですけど、明日って誰か講習出来る人いますか?」


「あぁ、それは大丈夫。私がやるわよ。明日もずっと『特境省』に居るし」


「……モモコさんもシヅルさんも休み取れてるんですか?」


「休みー? ふふっ、ちゃんと取れてるわよ。私もシヅルも」


「休みとか出掛ける予定あるんですか……?」


「失礼ね! ちゃんと出掛ける予定くらいあるわよ。申請無しでスバルくんが『夏』を『使い過ぎちゃった』事とかのフォローすんの私達なんだからね? 全く、労いの一つでも頂けるのが良い男だと思うのよ私は」


「……何が食べたいんですか?」


「そんなー、いいわよ別にドーナツなんてー」


「……明日買ってからお伺いします」


「ふふっ、楽しみに待ってるわ」


 桃子さんは楽しそうに笑うが、「で、それはまぁ良いとしてなんだけどね」と、声から少しふざけた感じを抜き、代わりに真剣みを加えて先を続けた。


「その明日の講習の準備もしておくんだけどね、その不運にもきみとアメタマに遭遇しちゃった女の子、どんな感じの子かな?」


「どんな感じって……、普通の感じの子ですよ。可愛らしい感じの」


「もっと詳しく、何もかも。君が知ってる限りで良いから」



 …………。



「……名前は『アンザイハルマ』。安心の『安』に東西南北の『西』で『安西』。春夏秋冬の『春』に真心の『真』で『春真』。背丈は百五十あるかないかくらいで、全体的に細身な感じ。多分あれはボブヘアーっつーんですかね、そんな感じの髪型です。そんで、確か今年の春にこっちに引っ越して来た筈です。入学式からいましたけど、確か編入生扱いですね」


「あらー、名前に季節が入ってるじゃない。そしたらその子は遺伝性かも知れないわねぇ。私もやりがいがあるわ」


 何が嬉しいのか、モモコさんは声のトーンを一つ上げた。


「……何のやりがいがあるんですか?」


「えー、そうねぇ、薬物とかだったら嫌じゃない。やっぱり育てるんだったら遺伝か自然発生が良いわよ。薬物の子って好きじゃないのよねぇ。なーんか色々達観してる感じがしてさ。うふふ、楽しみだわー。ゾクゾクしてくるわね」


 ……一応上司に当たる人なのだが、この人のテンションと感情の起伏とか、ツボとか性癖には、時々付いていけない……。正直呆れもしたりする……。まぁ、根っこが良い人で信頼が置ける人なのは確かなのだが……。


「ん、分かった。そしたらねぇ、そのままでちょっと待っててね」


 そう言って桃子さんは電話を脇に置いたのだろう、電話口に人の気配が消え、代わりにカタカタというキータッチの音が聞こえて来た。今の情報を何かに入力しているのか、もしくは何かを検索しているのか。


 待つ事一分ほど、携帯電話の向こうに人の気配が再び現れ、「お待たせー」という桃子さんの声が聞こえて来た。


「今きみのケータイにー、件の安西春真ちゃんのケータイメールのアドレス送ったから。それで一応フォローのメールでも送っといて。『今日の事は誰にも言っちゃあ駄目だよ』とか、『とりあえず安心しなさい』とか、そんな感じの事で良いや」


 見ると、俺の携帯電話にモモコさんからの新着メールが届いていた。開いてみると、そこには見慣れないメールアドレスが添付してある……。


「……どうやって見付けて来たんですか?」


「んふふ。それは、ヒ・ミ・ツ・よ❤」


「……合法じゃないですよね?」


「それもヒミツ。っていうかね、こんな世間様とは掛け離れてしまったお仕事に合法性を求められてもねぇー。私も困ってしまうよ。合法の反対は非合法だけど、そのまた反対は合法に戻ってくるのよ?」


「だから何ですか? 意味分かんないですよ……」


「つーまーりー、表立って活動してない私達が行う非合法は、結局私達にとって合法って事。意味は分かっても分かんなくても良いわよ。言ってるうちに私も意味が分かんなくなってきてるから」


「……このアドレス、本当に彼女のケータイの奴ですか?」


「うん、大丈夫よ。確かな筋から拾ってきたから」


「それってもしかして……」


「お、察しが良いわねぇ。多分御察しの通りケータイ会社よ」


「……機種もメーカーも契約社も言って無いのに、そんなん良く分かりましたね……」


 ものの一分弱で……。


「そりゃあねぇ、もうここに勤めて十年程経ちますから。それに科学技術の粋を集めた我が国家のテクノロジーですから。足跡も痕跡も残さないし、向こうさんは不正に入られた事にも気付いちゃいないわよ」


「……モモコさん内側から国家を突き崩せるんじゃないですか?」


「っははは。国家は無理よー。気に入らない企業は三つくらいぶっ潰してやったけどね。あぁ、これは内緒よ? 『特境省』内だから多分通話記録残ってると思うけど」


 ……誰だよ、信頼が置けるのは確かだとか言った奴は……。


 ……あと、誰だよ、科学技術が進歩してないとか言った奴は……。


「まぁいいや。そんじゃあ私は、その安西さんの講習用の資料作りやって、明日の検査室の予約取っとくから、明日よろしくね」


「はい、それでお願いします」


「あと、きみが今日使い過ぎたとか言ってる『夏』の方にも根回ししとくから」


「……はい、重ね重ねよろしくお願いします……」


「はははっ、冗談よ。っていうかね、おかしな事と言えばおかしな事だし、こっちに都合の良い事と言えば都合の良い事なんだけどさぁ――」


「? なんですか?」


 問うと、桃子さんは少しだけ唸る様に喉元を鳴らせてから、「んとねぇ」と、目に見えて眉間に皺が寄っているだろう表情を連想させる声色を発し、先に続けた。


「スバルくんが使い過ぎたって言ってる『夏』なんだけどさ、なんだろうね、こっちで手回しするまでも無く、もう適量で保たれてるのよ」


 ……んん?


「……どういう事です?」


「さぁ? さっぱり分かんないけど、きみが使った分だけ作られてるって事で良いのかな? こういう事も例が無い訳じゃないんだけど、流石に前例の件数が少ないからね。今年はそっち方面でも動いてもらうかも知れないから。その積りで」


「そっち方面っていうと?」


「地域地層と地域気候の洗い出しかな」


 ……まぁた七面倒臭そうな事で。


 意地悪く電話の向こうで笑いを漏らすと、桃子さんは「それじゃあ明日よろしくね」とこちらに告げ、忙しそうに通話が切られた。多分、本当に忙しいのだろう。……というか、俺が忙しくさせたに違いない。なので、せめて情報を専門とする方々に負担を掛けないよう、俺は桃子さんの指示通り、安西さんにメールを打っておく事にしよう。



 ……にしたって、これはどうやってアドレス入手の言い訳をすれば良いんだ……?




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