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メイン 7 イカサマ寿司踊り

「あーあー♪ 俺もドーナツ食べたかったんだけどなー♪ それなーのにー♪ あーそれなのにー♪ 雨の中お仕事ですよー全くー♪」


「……サジさん、変な歌歌わないで下さいよ。サジさんだって見たでしょ? 箱五つですよ? そうそう無くなりゃしませんよ」


「いやいや、わかんねぇぜ? なんせモモコとシヅルだからな。お前等落した後に直で戻っても残ってるか疑わしいよ」


 まぁ、そうだな。サジさんの言いも尤もだ。桃子さんと志弦さん。ドーナツの事となれば、あればあるだけ食べるだろう。


「で、鴉は何枚交換すんの?」

「ん? あぁ、俺は三枚で」


 俺は手札から三枚を伏せた状態で捨て札にすると、ニコが三枚のカードを山札から俺に配ってくれる。

 出来たのはキングと4のツーペア。

 なかなかの手だな。


「一発勝負で良いんだよな?」


 確認の意味を込めて黒腕とニコの二人に問うと、「ま、最初に一発勝負って言ったしな」と黒腕。「二戦もやる時間無いだろ?」とニコ。既に黒腕とニコも手札交換を済ませている。


「そんじゃま、一発勝負で恨みっこ無しだな」


 初めの取り決めからそういう話で決まっていた。それは全員でちゃんと納得して進められていた事。


 なので、俺等は三人で一斉に手札を公開した。

 先に言った通り、それは恨みっこ無しだ。


「キングと4のツーペア」

「クイーンと7のツーペア」

「4から8のストレートフラッシュ」


 俺と黒腕の手札のどっこいどっこいさ加減に比べ、ニコの役だけ強さの次元が三つ程違っていた……。


「……ニコ、てめぇイカサマか?」


「は? そんな訳ないだろ。大体ぼく三枚交換したし、ちゃんと黒腕からカード貰ったじゃんか」


 黒腕のいちゃもんに尤もらしい答えで返すニコ。何も言い返せずに黒腕はただ

「ぐぐぅ…」と喉を唸らせるだけだった。


「今日の飯は黒腕の奢りな。ご馳走さん」


「焼肉とか久し振りだなぁ。ありがとう黒腕。ぼく沢山食べるよ。」


「バカじゃねぇの! 奢りは良いとして焼肉とかバカじゃねぇの! ふざけんなお前等、精々が回ってる寿司だっつーの!」


「じゃあ今日は回る寿司だな」

「じゃあ今日は回ってる寿司だね」


「ぐっ…、くそぅ…。良い、だろう…。今日は回る寿司じゃああぁあああ! 寿司食いに行くぞぉっ!」

「あぁ、御馳走様だな黒腕」

「ぼくは回ってない寿司でも良かったんだけどね黒腕」


 流石にニコの言いには苦言を呈したけれど、自ら言った手前引くに引けず、黒腕はそれを決心した様に今晩の回転寿司の奢りを承諾した。まぁ、最初にそういう取り決めでポーカーの一発勝負をしていたのだから、それは納まる所に納まった感じではある。適当に三人で寿司踊りと称して騒いでいると、操縦席のサジさんから後方三人に「盛り上がってるところ申し訳ないけど」と声が掛かった。声質の感じから、流石に俺等も騒ぐのを止める。


「六メートル級が一体に五メートル級が二体だよな? そんで、その五メートル級の一体のところに来たんだけど、誰が最初に下りるね?」


「五メートルの方ね。俺先行って良いかニコ?」


「あぁ、お先どうぞ。ぼくは後の方をどうにかするよ」


 そんじゃお言葉に甘えて。

 黒腕はそう言ってヘリコプターの搭乗口を開放した。


 外は少量の雨に降られていて、少しばかり俺等に不利な状況となっている。その量の多い少ないに関わらず、降水は何にしたって俺等に有利には働かない。


「じゃあ、サクッと終わしてくっから、さっさと帰って寿司食いに行こうぜ」


「んぁ。奢りで食うなら何でも美味いけど寿司となれば格別だかんな。俺等もさっさと終わらすよ。五時には『特境省』出られる様にしよう」


「寿司食べるのなんて久し振りだなぁ。楽しみにしてるからなるべく無傷で戻って来てくれよ? お金出す人がいないとか何にも面白くないからね」


 はいはい。適当に気を付けますよっと。

 黒腕はそう言ってヘリコプターから飛び降りて行った。


 雨中を颯爽と飛び回るヘリコプター。その機内に残されたのは、俺とニコと、操縦者であるサジさんの三人。


「スバルは良いとしてさ、コウスケはもう少し言葉を選べないもんかね?」

 黒腕が先に行ってしまったので、二人で出来るトランプゲームでもやろうと俺がカードの束をシャッフルしていたら、声の感じで表情も読み取れそうなサジさんの言葉が操縦席からニコに向けられた。その表情はきっと苦笑いになっている事だろう。


「選ぶって、何がですか?」


「いやさ、これから戦地に赴く友人によ、多少なりともの気遣いくらいはしてやっても良いんじゃねぇの? って事だよ」


 奥さんもいて、お子さんもいて、俺等の倍くらい人生経験積んでるサジさんから見たら、ニコが掛けた黒腕への言葉は随分と素っ気なく聞こえたかも知れない。


 だけど黒腕は、あれで良いんだ。


 俺もニコも、そして言葉を掛けられた黒腕すらも、それは重々理解している事。分かっている事だ。


「っはは。サジさん、良いんですよ。カズヒロはあれで。あいつ感動しぃだから、変に優しい言葉とか気遣いの言葉とか掛けちゃうと泣いちゃうんですよ。だから、軽い言葉でサッと送り出してやった方が良いんです。あいつの為にもね」


 言うと、ニコはその俺の言葉に続いて「寿司が楽しみなのも事実ですしね」と言いを吐いた。一応それなりの言葉をと思って繕った言葉だったのだけど、ニコの一言で見事に台無しだ。


「ふーん、そんなもんかね。俺には良く分かんねぇけどさ、そーゆーの。ふっははっ」それで納得したのか、サジさんはそう言ってヘリの操縦に意識を戻すと、

「着いたぞ、二体目の五メートル級」と、俺等に二ヵ所目の現地到着を告げた。


「着いたってよニコ」

「ん。そんじゃ、ちょっと行ってくるわ」


『特境省』を出る前に、黒腕とニコが二体の五メートル級を、俺が六メートル級を相手にすると取り決めが成された。自らで志願した六メートル級の相手。今出てきてる奴が昨日の奴だという確証は無いが、それでも昨日の奴も今日の奴も六メートル級。昨日安西さんに遭遇してアメタマを取り逃がしたのが心残りだ。せめて今日の六メートル級は確実に落そう。


 ニコはソファーから立ち上がると、軽く柔軟体操をするように各関節部を回し慣らしてから搭乗口に立った。搭乗口は黒腕が出て行った時の状態で解放されたままになっていたが、サジさんが『夏』を張ってくれているので機内に雨が入って来る事は無い。


「なぁニコ」

「んぁ? なんよ?」


 今まさに意気込み勇んで飛び降りようといったところで、俺はニコに声を掛けた。悪いとは思ったが、気になったのは仕様がない。


「お前さ、さっきのストレートフラッシュ、本当にイカサマだったんか?」


 ただ単に気になっただけだ。ニコならまぁ、それくらいの事をやろうと思えば簡単にやってのけるだろう。しかし、やろうと思えば出来るという事は、やる気がなければしない訳で……。俺が知りたいのは興味本位の真実だ。イカサマしたならどうだとか、イカサマしてないのならこうだとか、結果がどちらだったところでニコをどうこうしようという訳じゃない。


 知りたいのは、興味本位からイカサマをしたかどうかの有無のみ。


 問うと、ニコは一瞬『意味が分からない』と言いたげな顔で眉を寄せていたけど、直ぐに「あぁ」と、一言呟いて薄く笑った。


「あれがイカサマかって? はは、よく言うよ。ぼくがイカサマやるとしたら鴉をブタにする様に配るくらいしか機会がないだろ。期待にはそえないけど、イカサマはやってないよ。ありゃあ純正のストレートフラッシュだ。だから、今日の寿司は黒腕の奢りで美味しく頂くって訳」


 それじゃあ行ってくるわ。

 ニコは俺に返答する間を与えずにそこまで言うと、少しの助走をつけて搭乗口から飛び降りて行った。


 ……まぁ、ニコがそう言うんならそうなんだろうよ。


「サジさーん、今のどう思いますかー?」


「あぁ? 知らねぇよ。コウスケがそう言ってんだからイカサマしてねぇんじゃなぇの? ま、俺はイカサマしてたと思うけどね。普通にポーカーやっててストレートフラッシュなんて出ねぇよ。出てもフルハウスまでだろうな」

「……そうですよねぇ」


 残念ながら、俺もサジさんと同意見だ。普通にポーカーやっててストレートフラッシュなんて出る訳がない。


「サジさんはポーカーやっててスゲー強い役とか作った事ありますか?」


「あぁ? っはは、何だよ急によぉ?」


 ……まぁ、確かに急な話ではある。が、サジさんはその問いに対して「まぁ、作った事あるっちゃあ作った事あるな。」と、こちらを向かないままで、笑いを交えながら答えた。


「ロイヤルストレートフラーッシュ。っはは、スゲぇだろ?」


「……それはイカサマでですか?」


「さぁ、どうだろうなぁあ。イカサマはしたかも知れないし、してないかも知れない。っつーかな、ポーカーってそういうのを掛け引きするゲームでもある訳じゃんか? 数こなして、相手の顔色窺って、自信があれば勝負すりゃあ良いし、そうじゃなけりゃあ降りる事だって出来る。だから、今お前等がやってたような一発勝負みたいなのは、本来ゲームとして成立してねぇんだよ。完全に配牌された時点の運任せだろ? それじゃあ、確実に勝つにゃあイカサマするしかねぇよ。っつーか、一発勝負っつー時点でイカサマを念頭に置けなかった奴の負けだな」


 想定出来る内の答えだったけれど、サジさんが其処まで軽く言いを吐くとは予測していなかった。否定こそしないまでも、まさか真直ぐにイカサマを肯定されるとは考えてもいなかったから。


「意外ですね、サジさんはイカサマ肯定派ですか?」


「肯定もなにも、それも戦術の一部だって事だよ。ポーカーフェイスってやつがあるだろ? あれだってそもそも相手を騙す為のイカサマの手段の一つだよ。俺はあんましアメタマとか『夏』使う奴とかとやり合った事ねぇけどさ、それにしたって相手の出方窺って、そんで手段を問わずに落すもんだろ? もっと身近なもんだと野球とかサッカーだってそうだろうに。如何に相手に手の内見せないで騙すかだよ。戦術ってやつは」


「……そーゆーもんですかね?」


「そーゆーもんだよ」


 サジさんは豪快に「はっはっはっはー」と笑い、俺はソファーに深く体重を落とした。


 サジさんの言っている事は分からなくも無い。というか、相対する者がいて、それと自分が敵対している場合、こちらが取り得る最良の手法はサジさんの言っていたそれだと思う。如何に相手を騙し、如何に自分は騙されないか、だ。流石は自分の倍以上長く生きている人間の言葉。言葉の重みと信憑性が段違い。


「ところでよ、今のお前等三人のポーカー一発勝負。お前はイカサマしてたのか?」


「俺ですか? してませんよ、イカサマ。完全に運任せでした。」


「最初の手札は何だった?」


「最初ですか? 覚えてませんけど、とりあえず4のペアがあったんで、それを残して三枚交換です」


「で、結果がキングと4のツーペアと?」


「そうっすよ。何かおかしいですか?」


「いんや、何にも」


 恐らく、サジさんは今の俺等のポーカー一発勝負に何かしらの当たりを付けた様だ。その証拠として、サジさんの言った『いんや、何にも』。その言いの語尾が上機嫌そうに上がっていたから。きっと今のサジさんの表情は、ニヤニヤといやらしい笑みになっている事だろう。もしくは、その漏れ出る笑いを堪えているかのどちらかだ。


「っと、おら、スバル。到着したぜ、六メートル級」

「……はいはい、了解しましたよ。っと」


 いましがたのポーカー一発勝負。結果は別に不満ではない。過程はどうあれ俺は勝ちを手にしている。今日の寿司は黒腕の奢りだ。だけど、サジさんの見解には少しモヤモヤとした感じが残された。イカサマの肯定は問題ではない。仮にニコがイカサマしていても、同じく仮に黒腕がイカサマをしていたとしても、それ等は然したる問題じゃあないだろう。ただ一つ、何か真実の当たりを付けたであろうサジさんが、それを他言せずに一人で内々に納めようとしているのに、俺はモヤモヤする。何かを知っているなら教えてくれても良いのにとも思う……。とは言っても、だ。きっとサジさんは教えちゃあくれないだろう。『自分でそれなりの答えを出すから面白いんだ』とか言ってはぐらかされるに決まっているから。


「サジさん、今度俺にイカサマのやり方教えて下さいよ」


 言ってみるが、返ってくる答えの大方の予想は付いていた。


「嫌だよバァカ。そんなもん自分で探すか独自に発見しろ。その方が面白いに決まってんだからさ」


 ……ほらな、予想通りだ。


「そんじゃ、行ってきますよ」

「あぁ、気ぃ付けて行ってこいよ」


 雨はそんなに強く降っている方じゃない。


 本降りになる前にアメタマを落そう。っつーか、本降りなんかにさせやしない。まやかしでの本降りは非常に厄介だ。


 サジさんの言葉を背中で受けて、ヘリコプターから飛び降りると同時に、搭乗口の扉を閉める。


 最後に出る奴が扉を閉める。


 それは、人生経験がまだ豊富というほど生きていない十五歳の俺でも分かる、数ある常識の中の一つだ。







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