アシュナード・ルーズベルト 二
アシュナード・ルーズベルト 二
「……で、そんなことのためにわざわざ私の部屋に、この変な爺さんを招いたのかしら」
「そうむくれるなよ。まともにそいつと会ったことあるのなんて、お前くらいしか思いつかなかったんだよ」
眠そうにぬいぐるみを抱き寄せると、ウルは半開きの目で、床に座る俺を睨み付ける。
「……乙女の睡眠時間を削りにくるとは、やはり鬼畜ね……ロリに優しくないロリコンだわ」
「ロリコン言うな。アッシュが勘違いしたらどうする」
「その時は誤解が『解けないように』全力を尽くすわ」
「努力の方向性おかしくねえ!?」
深夜にウルの部屋にアッシュを招いたのは俺だ。件の白き者に該当する人物が、ウルの話に出てきたような記憶がある。
そんな話をしたら、アッシュが是非にと頼み込んできて、渋々了承した、というわけだ。
もっとも、事後承諾な上にいつも早寝早起きの彼女からしてみれば、いい迷惑だったわけだけど。
「それで……ウル殿でしたか」
「ウルでいいわ。老人に変にかしこまった言い方されたら気持ち悪いわ」
俺もそうだが、ウルも初対面の人間に対しての警戒心は半端ない。敵意、とまではいかなくとも、アッシュについて面白く思っていないのは確かだろう。
「では……ウル。例の白き者について、知っている限り聞かせてくれまいか」
「……まあ、私も大した話は出来ないけれど」
ウルはそう前置きをすると、かつて自分の身に降りかかった不幸について話し始める。
俺はその様子を黙って聞き、アッシュもまた、真剣な眼差しをウルに向けていた。
「……とまあ、こんなところよ。私が知ってるのは、それだけ」
大した話じゃなかったでしょ? と、肩をすくめながら彼女は薄く笑う。
「……正直、驚きました。奴がこうも、大胆な活動をしていたとは……そして……」
なんと邪悪な。アッシュは憎々し気にそう吐き捨てると、座っていた椅子から立ち上がる。
「つらい話をさせて申し訳ない、ウル……」
「別にいいわよ。今はみんながいるから。平気」
ウルは俺の方を見ると、ニヤッと意地悪く笑う。
「私専属の下僕もいることだしね。寂しくないわ」
「なんで俺を見るんだお前。ちょっとお前も床に座った方がいいんじゃないのかオイ」
俺のツッコミを受けて、ウルは楽しそうにケタケタと笑う。俺は呆れながら、眉間を軽く揉む。
「……仲が良いようで」
「ええ。仲良しよ」
「まあ、……否定はしない」
「ふふ……変わられましたなあ、本当に……」
アッシュはそうつぶやくと、部屋を後にしようとして、振り返る。
「貴重な話を、ありがとうございますソル殿。では、良い夜を」
「うん、おやすみ」
「じゃあね、お爺ちゃん」
そんなやり取りと微笑を交わして、アッシュは隠し部屋から出ていく。
小さな隠し扉を四つん這いで、ほっ、とか、はっ、とか言いながら、何とか部屋を抜け出したようだ。
「……ソル。気付いた?」
「ああ。流石におかしいな」
「よね。普通こんな夜中に、子供の話を聞きたがるなんて。明日にすればいいのに、それをしなかった。……相当の常識外れか……大慌てしてるかのどっちかよ」
「接触してる感じだと、多分後者だな」
アッシュは、白き者、アンノウンについての情報を血眼で探している。そう考えて間違いないだろう。
彼は、結局今まで、アンノウンを探しているということしか明かしていない。その目的も、復讐をにおわせているけど本当かどうかも怪しいものだ。
何もかも遅すぎる。先代が死んでから、何年もしてようやく犯人捜しだなんて。
「……別の目的があるのかもね。それこそ、あの色白イカレ小僧に接触すること自体が、目的なのかも」
「……ジャンに、探りを入れてもらおうか。あんまり仲間を疑うようなことはしたくないけど……」
「しょうがないわよ。だってあのお爺ちゃん、胡散臭すぎるもの」
不覚にも、ウルと同じ感想を抱いていたことに軽く吹き出した。
「何笑ってるのよ、気持ち悪い」
「いや、意外と俺達って、似た者同士だなあと思って」
「……心外だわ」
ウルは少しむくれて見せたが、すぐに笑顔になって俺の背中をバシバシ叩く。
「ほら、いつまでここにいるのよ。さっさと乙女の部屋から出ていきなさい。居心地がいいのは分かるけど」
「へ、すぐ出ていくよ。じゃあ、おやすみウル」
「うん、おやすみなさい」
「……お前か。噂通り、ここにいたのだな」
「……アシュナードか。何故お前がここにいる」
「……私の、思った通りだ。白き者は、私が睨んだ通り『そういう存在』だったよ」
「……誰かから話を聞いたのか」
「ああ……。彼は、白き者は間違いなく竜教団の……」
「……あまりベラベラと喋らない方がいい。どこで誰が聞いているかわからんぞ」
「……『神の使者』だよ」
「……」
「ウルの話を聞いて、私は確信したよ。太陽竜は……願いを叶えてくれる。私達には、必要な存在……」
「……それが望んでない結果を生むと……わかっていても望むのか?」
「無論。彼の願いを叶える力さえあれば……」
「……」
「私の家族も……お前の家族も……全て元通りにできるだろう? ガルド・フェンサー」