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太陽のギルド  作者: 三水 歩
太陽のギルド
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傭兵

     傭兵


 ウィリアムと共に装備類を調達して家に帰るころには、日はすっかり傾き、あたりは薄暗くなっていた。帝都の西側は居住区なので、高い建物はさほど立ち並んでいない。そのため、夕日が通りの向こうの城壁へ沈んでいくのもはっきりと見て取れる。


 そんな薄赤く染まる空の下、俺たちは険悪な雰囲気で歩き続けていた。


 「なあなあ、兄ちゃん。悪かったよ、機嫌直してくれよ。そんな顔してたら、おいらがウルやレリィに怒られちまうよ」

 「……」

 「なあ、悪かったって。ちょっとレリィのことでからかっただけじゃんかよー……」

 「『ちょっと』だって? ウィリアム、お前レリィの前だとか、他の人たちの前であんなこと言ったらぶっ飛ばすからな」

 「だからぁ、謝ってんじゃんかよ。ていうか、なんでそんなに怒ってるのか理解できないんだけどさあ」

 「理解できないだと? お前なあ、俺は周りからなんて言われようが我慢できる。ロリコンだとか鬼畜だとか、ヘタレだとかクズとかダメ人間だとか、生きてる価値がないとか、そんな暴言はいくらでも我慢できる。奴隷の時はもっとひどいことも言われたし、名前すら呼んでもらえなかった。でもな、レリィのことをそんな風に言うことだけは許さん。あの子が誤解されるような発言を、平然と受け流すことなんて、俺にはできない」

 「だから、何が兄ちゃんをそんなに怒らせてるのかがわかんねえんだって。おいら、レリィが兄ちゃんに異性として好意を寄せてるって話をしただけだろ?」

 「まだいうかお前は。あの子はまだ子供なんだぞ。恋愛云々は早すぎる。仮に好意があったとして、それはただ単に俺に助けられたことから来る感謝の気持ちだろ。それをそんな風に言いふらして、あの子が普通に恋愛できなくなるかもしれないだろ」

 「だからなんでそうなるのさ」

 「『レリィが俺に惚れてる』なんてデマが回ったら、あの子に寄り付く男がいなくなるだろ」

 「わっかんないなあ。だからさあ、大丈夫だって」

 「何が大丈夫なもんか。いいかウィリアム。この話はもう二度と……」


 「あ、お帰りなさいソルさん。ウィル。」


 いつまで続くか分からない言い争いをしていたら、いつの間にか家に到着していたらしい。レリィが少しばかり浮かない顔で、それでも笑顔を浮かべながら俺たちに駆け寄ってくる。


 「ああ、帰ったよ。ただいま」

 「はい、お帰りなさい」

 「……ウィリアム、さっきの話は二度とするなよ」

 「……わかったよ」


 ウィリアムに念を押して、俺はレリィに向き直る。

 やっぱり、浮かない顔をしている。普段なら、俺とウィリアムのやり取りを見て何かあったのかと尋ねてきそうなものだけれど。


 「レリィ、何かあったのか?」

 「え? あ、はい。実は……」


 レリィは少しばかり俯くと、呟くように言葉を紡ぐ。


 「……ホッド君のことなんです」

 「ホッドの?」

 「あの、彼、私達やソルさんにも内緒で、えーと……戦闘訓練していたみたいで……あ、と言っても素振りしてただけなんですけど、その……少し気になって」

 「そうなのか。それで?」

 「えーと、上手く言えないんですけど……彼の訓練しているところを見てると、こう……胸の奥がざわつくような……締め付けられるような……変な感じがしたんです」


 俺はそんな言葉を聞いて、ウィリアムと顔を見合わせる。

 ウィリアムは今の話を聞いて、俺と同じような感想を抱いたらしい。俺も半信半疑だが。


 レリィはホッドに好意を寄せている。


 「ほらな、ウィリアム。俺が言った通りだったろ?」

 「マジかよ……」


 そうか。レリィはまだ子供だと思っていたけど。そうだよな、もう十三歳だもんな。恋ぐらい普通にするか。そこに関しては俺も見立てが甘かったとは思う。しかし、ウィリアムが変な噂を立てる前にレリィの気持ちをはっきりさせられてよかった。


 「それで、どうしたんだ?」

 「その、ホッド君の訓練を、見てもらえませんか? もしくは……やめさせてほしいんです」

 「……え?」

 「見てて思ったんです。不安になるような、怖いような。そんな感じで、なんていうか……とにかく、見てて苦しかったんです。だから……」


 ん?

 もしかして、俺たちは何か盛大に勘違いしてたのか?

 俺はてっきり、レリィが初めての恋という奴で戸惑ってるのかと思ってたのだけど。どうやら今の話は違ったらしい。

 そう思ってたら、ウィリアムがとんでもないことを口走った。


 「あれ、今のってレリィがホッドのことを好きって話じゃないのか?」

 「え?」

 「おまっ」


 バカ! ウィリアムバカ! 今のは違うだろ! 俺でも話の流れ違うなって思ってたんだぞ!? 本人を前にしてそんなことを言う奴があるか!


 「やだな、違うよ。私が好きなのはソルさ……」

 「ん?」

 「あ、違っ! え、えっと、そ、そさ、そるさ、そ、そ……そ、そう! ソルサーティア様だよ! し、知らない!?」


 全く聞き覚えの無い名前にぽかんとする俺とウィリアム。


 「えーと、……誰?」

 「えー!? ソルさんも知らないんですか!? や、やだなあ、童話に出てくる王子様ですよー! す、すっごくカッコいいんですから!」

 「へえ、そうなのか。今度読んでみようかな。なんていう本なんだ?」

 「あうあああ!? でもでも! その本ってもうないんですよねえ! やー困ったなあ! ソルさんとウィリアムにも見せてあげたかったなあ!」

 「そんなに貴重な本だったのか。うーん。気になるなあ」

 「あー……おいらは分かったよ、うん」


 ウィリアムが何やらレリィに生暖かい視線を送っている。レリィはなぜか変な汗を掻いてびしょびしょになっている。


 「ソルサーティア様すげえカッコいいよなあ。うん」

 「えぅ……へあ?」


 目を白黒させながら、レリィは狼狽えている。


 「あれだよな、すげえ優しくて強くてカッコいい人だろ? 王国を追放された王子様が町の人たちからのいじめに耐えて、持ち前の勇気と知恵をもって悪い奴を倒していって、自分の国を取り戻す。んで、かわいそうな女の子には優しく手を差し伸べて、困ってる人たちを助けちゃう的なアレだろ? うんうん、『わかってる』」

 「なんだその聖人」

 「でも誰にでも優しいからちょっとヤキモキしちゃうよなぁ」

 「ウィルゥぅぅ! あんまり喋んないで!?」

 「いやあ、おいらも大好きだからさあ、『ソルサーティア様』」


 ウィリアムが、まるでウルのように口角を吊り上げ、不快な笑みを浮かべている。


 「なんだ、お前その話知ってたのか? なあ、俺にも教えてくれないか?」

 「あー。長くなるからな。無理」

 「即答かよ!?」


 なんだ、さっきのことでへそ曲げてんのか?


 「……ふん、まあいいさ。今度図書館に行って調べる」

 「ああ、自分で読んだ方がいいよ、うん。物語の続きは兄ちゃんしか作れないからさ」

 「? どういう意味だ?」

 「たまには読むんじゃなくて書いてみてもいいんじゃない? ってこと」

 「ふーん……俺には時々、お前の言ってることの意味が分からなくなるよ」


 なんで急に本を書く話になったんだ。わからん。


 「えっと、そうじゃなくて! ホッド君ですよホッド君! どうするんですか、ソルサーティ……ソルさん」

 「なんで今ソルサーティア様を呼んだんだ?」

「あう、単なる間違いです、忘れてください……」


 首を傾げる俺と、いやらしい笑顔を浮かべるウィリアムと、真っ赤なレリィ。




 どうする、と言われてもなあ。そう様子を見てみないことには何とも言えないし、どうしたもんか。


 「とりあえず、明日にでも一緒に訓練誘ってみるか?」

 「えー。それおいらの訓練時間が減るじゃんかよ」

 「まあそう言うな。ホッドも一緒に訓練するようになったら、ウィリアムは今度から兄弟子だぞ?」

 「……兄、弟子?」


 どうやらまんざらでもないらしい。気持ち悪い笑顔から、なんだか幸せそうな笑顔に切り替わるウィリアム。

 単純な男だな。故に、嫌いじゃないけどな。


 「とりあえず、そんなわけで。後でホッドに会ったら……」

 「あーいたいたあ! 勇者君だあ!」




 全く聞き覚えの無い女性の声と、走って接近してくる音に、俺は反射的にレリィを庇いながら数歩分横に移動する。


 先ほど俺が立っていた場所に、女性が飛び込み、盛大に地面に激突した。そのまま転がると、今度はむくりと起き上がって俺の方にずかずかと歩いてくる。


 俺は腰のダガーに手をかける。


 「なあーんで! 避けるのよ!」

 「突進してきたら誰だって避けるだろう。……誰だ、お前は」

 「やん、怖い顔も意外とステキー! かわいい!」

 「……」

 「……って、アレ? もしかして本気で怒ってるの? ……そんなに私のこと嫌い?」


 金属性の胸当てをした女性は、なれなれしく俺に話しかけてくる。

 何者だ。目的は何だ。今の様子だと、標的は俺だったようだが……。

 横目でちらりと二人を見るが、どうやらウィリアムもレリィも知らない女性らしい。彼女の行動、言動に唖然としている。

 謎の女をよく観察すると、腰に矢筒を、背中には大弓が。どうやら、弓を扱う人物らしいが……。


 「なーに? そんなにじろじろ見て? もしかして、私の体に興味おあり?」


 口元に指をあてて、体を色っぽくくねらせる。俺はそんな女の動きを鼻で笑い飛ばす。


 「冗談は顔だけにしとけ。……もう一度聞くぞ。誰だお前は」

 「私がブスだって言いたいわけ!?」

 「……時間の無駄か。これ以上絡んでくるつもりなら……!」


 俺は腰のダガーを抜き放とうとしたその時。焦ったような、少しばかり野太い声が聞こえてくる。


 「まてまてまてまてまってえええええいい!」


 遠くから、重々しい鎧の音を響かせながら、今度は男が走ってくる。


 「今度は何だ!?」

 「とおおおおおお!」

 「ぎゃふん!?」




 男が女にドロップキックをかますのを、俺たち三人は唖然として眺める。

 何事もなかったように男が立ち上がり、鎧に付いた砂や土を払い落す。


 「これはこれは、勇者殿。失礼いたしたな。この発情した猫みたいな女はリディア。我はバリスと申す。以後、お見知りおきを」

 「……なんなんだ、アンタら?」


 俺はダガーを構えながら問いかける。次から次へと増えやがって。

 バリスと名乗った全身鎧の男は、きょとんとした顔をしている。


 ……喋り方こそ古臭いが、意外に若い顔つきをしている。


 「……もしや、ジャン殿から聞いておられないのか?」

 「……ジャン? ……あんたら、もしかして例の……傭兵団の?」

 「左様。先ほどはリディアが失礼をば……ほら、貴公も謝らぬか!」


 変なしゃべり方をするバリスと名乗る男は、先ほどの肌の露出の多い女性ことリディアに、謝罪を促そうとする。が。


 「お、おぅ……待って……腰を打って……あうぅ……」




 なんとも情けない姿で地面に転がる傭兵に、俺たちはため息を吐いた。


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