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太陽のギルド  作者: 三水 歩
光の欠片
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幼い激情

     幼い激情


 「よ、よせウル! やめろ!」

 「放しなさいウィル」


 ウィルの制止を無視するように、ウルは冷め切った感情をその紫の瞳に映しながら、アニスさんを手に持っていた杖で殴りつける。

 小さな悲鳴を上げながら、アニスさんはそれを甘んじて受ける。


 「だから、それをやめろって言ってんだろ!? こいつらを助けるために来たのに、お前が殺すつもりか!」


 ウィルが怒鳴りつけながらウルの右手を掴む。振り下ろそうとした手を止められて、ウルは怒るでもなく、あくまで無感情で言葉を吐き出す。


 「……ああ、いいわねそれ。むしろそっちの方がいいわ」

 「……冗談でも笑えねえぞ、ウル」


 握った手に、力を込めるウィリアム。その表情は、本気で怒っている時のそれだった。


 「……私が冗談で言ってると思ってるの?」


 ウルはウィルの手を振りほどくと、杖を持っていた手を下ろす。


 「こいつが自分勝手なことしなければ、少なくともこんなことにはならなかった。違う?」


 「その現場を見てたわけじゃないから、おいらはなんとも言えない。でも、こんなの間違ってるだろ。少なくとも、兄ちゃんはそんなことしても喜ばない」


 ウィルの言葉に彼女は呆れ、ため息をこぼしながら顔を俯かせる。


 「だから甘いのよ、どいつもこいつも……! 奴隷になる前に解放してやったってのに、こいつらは勝手に逃げ出した。救出したと思ったら、今度はまた村に戻りたいとか言い出して。その通りにしてやったら……このざまよ。誰のせいでこうなったの? こいつらを救う価値はあったの? こいつらを救うのに、今回の代償は必要だったの? ……こいつらさえ、いなければ、ソルは……!」


 広い馬車、ほとんどが子供であるとはいえ。七人も乗り込んだ缶詰状態の馬車の中。その狭い空間に沈黙が横たわる。

 メリーはすっかりおびえ切っており、ホッドに関しても未だうめき声をあげている状態。ウルとウィルもすっかり疲れ切っている。


 静かに息をしながら眠るソルさんに、私は治癒魔法をかけ続ける。


 「……誰が悪いとかじゃないだろ。兄ちゃんがこういう決断をするだろうってのは分かってたことだ。それに全員無傷で帰れるなんて……そんな風に行くわけないことくらい、お前だってわかるだろ?」


 「じゃあ何? 今回のことは仕方なかったって言いたいの?」


 「……反省することはいっぱいあったけど、それでも誰も死ななかったんだ」


 「死ななかったらどうなってもいい、ってことかしら?」


 「そうは言ってねえだろ。イライラしてるからって、周りにあたるなよ。」


 「……」


 「悔しいのはお前だけじゃない。おいらだって死ぬほど後悔してるし、レリィだって、泣き出したいの我慢して治癒魔法かけてんだ。お前ひとりが癇癪起こしても、何も解決しねえだろ」


 ウルは、自分の気持ちを見透かされて、悔しくなったからか。

 あるいは、自分が何もできないことに対する憤りや無力感からか。

 馬車の隅に蹲ると、そのまま膝を抱えて、声を殺して泣き始める。




 「……兄ちゃんの様子は?」


 ウィルは私に近づいて、静かに尋ねる。それに対して、私は小さく首を振ることで応じる。




 正直、容体はよくない。私の力では傷くらいしか治せない。回復魔法の基礎しか押さえていないため、意識を覚醒させたりなどの、そういった精神に干渉するようなものは覚えていない。

 体は回復しているのに。

 起きない理由がわからない。


 「あの……」


 その時、アニスさんが口を開く。


 「ご、ごめんなさい……あの時、ブラッドがいたように見えて……その……」


 ごめんなさい。


 それしか言わない。私は反応することすら億劫で、ひたすらソルさんの治療に専念する。


 「……正直、気にすんなとは言えねえや。少なくとも、おいらはアンタを赦したくねえ。……そう簡単に赦せそうもない」

 「……ごめんなさい」

 「ひとまず、アンタをどうするかとか、そういうのは兄ちゃんに任せる。被害者だし」


 アニスさんは、申し訳なさそうに床にぺたりと座り込んでいる。


 「……レリィは、どう思ってる?」


 ウィルは唐突にそんなことを聞いてくる。私は、目を合わせることもなく考えてることを喋る。


 「……わからないよ。誰のせいか、っていう話をするなら、アニスさんが村に行きたいって言ったのを引き留めずについていった、私とウルにも責任はあるだろうし。そんなことをした自分に対して憤りも感じてる。誰かを責めないと落ち着けないのも分かるつもりだし、赦せないって気持ちも、ないわけじゃないんだけど」


 そこでいったん言葉を切って、ウィルに視線を移す。


 「……今は、ソルさんのためにできることがあるから。……目の前のことを、やらないといけないから」


 そう言って、私は彼の治療に戻る。




 こんな時のために、色んな事を勉強してきたんだ。

 治癒魔法だけじゃなくて、人間の体の構造とか、内臓の位置や働きとか、そういうことを勉強してきた。


 ソルさんの怪我は、一通り治療はできるレベルの怪我だと思った。左腕の骨折はあて木をしておいたし、すり傷や切り傷等の外傷は全部直した。口から出血してたから内臓を少し痛めていたんだろうけど、それも治癒魔法を集中的にかけることでおそらく治療することはできていると思う。

……たぶん、普通ならそろそろ目を覚ましても良いくらいには、的確に治療できてるはず。


 問題があるとすれば、最後のアレ。


 あの黒い光。






 あれが何だったのか、わからないし、どんな影響をソルさんの体に与えているのかは完全に未知数だったけど、


 それでも今は、治療漏れがないか確認しながら、彼の意識の回復を待つしかできない。




 ひたすら、待ち続けた。ガルドさん達が戻ってくるまで、ひたすら。


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