帝都への道中
帝都への道中
ガタゴトと音を響かせながら揺れる荷台。馬車は街道を走っているみたいだったけど、日はとうに沈み、あたりは闇と静寂だけが漂う。
私はそばに居た弟と妹をただ抱きしめていることしかできなかった。
彼らを怖がらせないように。
自分自身が怖くないように。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
まだ7つしか歳を重ねていない小さな妹が、心配そうに私の方を覗き込む。
「うん、大丈夫よ。お姉ちゃんが付いてるからね……」
「……姉さん、これからどうしようか」
弟が、感情の薄い、涙の溜まった瞳で私に問いかける。普段は無口でおとなしいが、それでもとても優しい笑顔を浮かべる弟が、こんなに憔悴しきって、絶望するような表情を浮かべていることに、私はひどく申し訳ない気持ちになる。無力感が私の心を蝕む。泣きながら謝りたい衝動に駆られるけど、今はそんな場合じゃない。一番年上の私がしっかりしなきゃ……。
「……大丈夫だよ、きっと大丈夫。ね? お姉ちゃんを信じて?」
元気づけたくて、何か言いたくて声を発したのに、出てきた言葉は無責任な希望。無理やり安心させようという魂胆が見え見えなその言葉に、自分の力の無さを心の中で嘆く。
「……この人達、何なんだろう……」
「いいひとじゃないの? メリーたちをたすけてくれたんでしょ? アメもくれたよ!」
弟の呟きに、妹が無邪気に答える。
まだ幼いこの子には、何もわからないのかもしれない。父さんと母さんが魔物に食いちぎられて死んだことも、この人たちがおそらく『奴隷商人』と呼ばれる人達だということも、何も。
奴隷にされたら、弟たちはどうなってしまうのだろう。労働力にもならないような年齢だ。殺されてしまうか、もしくは剣奴にされてしまうか。どちらにしても、生き延びるのは難しい状況になってしまった。
私は……多分娼館かどこかに売られるんだろう。女の奴隷の末路は、そういうものだ。そのうち病気になって、衰弱しても客を取らされ続け、そして誰にも看取られることもなく死んでいくんだろう。
……怖い。
怖い怖い怖い。
でも、この恐怖は弟たちにばれてはいけない。ばれたら、泣いて騒ぎ出してしまうかもしれない。そうなったら、あの山賊みたいな体格の男たちから不必要な暴力を振るわれることだろう。幼いこの子たちは、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
無力だ。涙が滲んでくる。
今の私にできそうなことは、この子たちを道中少しでも安心させてあげることだけ。たったそれだけ。なのに、それすらもままならない。
「神様……」
「おいのりするの? メリーもするー!」
「……」
神様でも、悪魔でも。殺人鬼でも魔物でも魔人でもなんでもいい。
だれか、私たちを助けて。
どうか助けてください……。
神様……。