表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽のギルド  作者: 三水 歩
光の欠片
66/115

日常へ 五

     日常へ 五


 「ご迷惑をおかけしました」


 朝食の席で、レリィがそんなことを突然言い出す。


 「えっと……どうした、急に?」

 「いえ……今回、私が混乱していたせいで、皆さんに迷惑をかけてしまったことが……申し訳なくて」

 「なに言ってるんだよ。そんなの、気にしてないって。なあ、みんな?」


 俺はほかの三人にそう呼びかけるが、ガルドも、ウィリアムも、ウルでさえも返事をしない。


 「えーと、みんな?」


 妙な空気に、少しだけ冷や汗が流れる。なんだなんだ、どうしたんだ皆?


 しばらくの沈黙の後、食器を置いて、ガルドが口を開く。


 「……それで? レリィはその後、どうするんだ?」


 ガルドが何を言っているのか俺には分からない。でも何か、彼女を咎めるような色が混じっていたのは、流石の俺でも感じ取れた。


 「どうするもなにも、反省してるんだし……そもそも、レリィは悪くないだろ? 悪いのは、レリィにそういう想いをさせた奴等で……」

 「旦那。俺はレリィに聞いてるんです」

 「……」


 ガルドも、ウィリアムと似たような意見なんだろうか。

 確かに、助けを求められていないのに助けてやろうなんて、傲慢なのかもしれない。でも、彼女は奴隷だったんだ。俺と同じような目に、遭ってしまったんだ。

 俺自身、今はそこまで抵抗とかはない。でもそれは、ヴァンやセシールや、ガルドやジョルジュやジャンが、そばに居て、助けてくれたからだ。それが無かったら、俺だって今のレリィと同じような状況だったかもしれないんだ。

 俺のことをどうこう言うのは構わない。でも、今回のことでレリィが責められることなんて、あっちゃダメだろ。


 「でもガルドッ……!」

 「ソルさん」


 ガルドに食って掛かろうとする俺は、その声で制止させられる。レリィの方を見ると、彼女は微笑む。


 「大丈夫ですから。私に、話させてください」

 「でも……」

 「大丈夫ですから。……信じてください。ね?」


 そう言う彼女に、俺はそれ以上何も言えなくなる。レリィは、口元を引き締めると、ガルドに向き直る。


 「……ガルドさん、ウィリアム。お願いがあるの。迷惑かけた上に、お願いをするなんて、厚かましいと思われるかもしれないけど……」


 ガルドとウィリアムは、名指しされたことで少しだけ姿勢を正す。


 「私、男の人とも普通に話せるようになりたい。ちゃんと、お話しできるようになりたいんです。だから、その……」


 目を逸らしかけるレリィ。でも、それではいけないと自分を叱咤するように、一度強く目を瞑り、再び二人を見据える。


 「だ、だから! これから、いっぱい話しかけてほしいんです! 私、まだ、ソルさんとしか上手くお話しできないから……その……」


 レリィがそこまで言って。

 ウィリアムが、にこりと笑う。


 「おう、おいらは構わないぜ」

 「……ホント?」

 「嘘ついてどうすんだよ。ガルドのおっちゃんも、構わねえよな?」

 「ああ。もちろんだ。……やっと、前に進む決心がついたんだな」


 そう言って、ガルドもわずかに微笑む。微笑むというには不器用な笑い方ではあったけど、それは間違いなくガルドの心からの笑顔だった。


 「じゃ、じゃあ!」

 「ま、おいら言っておくけど結構おしゃべりだからな? 覚悟しておけよ、レリィ」

 「う、うん!」

 「まあ、今まで少し遠慮していた部分もあるからな。積極的に話しかけるようにしよう」

 「あ、ありがとうございます!」


 そう言って、笑顔になるみんなを俺は眺める。


 ああ、なるほど。ガルドも、ウィリアムも。

 レリィの口から、それを言わせたかったのか。

 彼女の意志で何かをしようと言い出すのを、待っていたのか。

 別にレリィが嫌いになったわけじゃなかったんだ。そのことに、俺は安堵のため息を漏らす。


 しかし、それと同時に申し訳なさのようなものもこみ上げる。

 もしかしたら、今まで俺が彼女の為にと思ってやってきたことは、彼女が前に進もうとするのを妨げていたのではないだろうか、と。

 もしそうだったとしたら、俺は……。


 「ソルさんも、ありがとうございます」


 笑顔のレリィが、俺の目の前に立ってそんなことを言う。


 「ソルさんが、私の背中を押してくれたんです」

 「……俺が?」

 「はい! いつでも、ソルさんが付いていてくれるから、私、勇気を出さなきゃって。そう思えたんです。だから……ありがとうございます」


 満面の笑みで、そんなことを言ってくれるレリィ。


 ……全く、レリィにはかなわないな。

 落ち込みそうになった瞬間に、心を救われてしまった。

 変わらなきゃと思いながらも、それでも変わり切れてない自分がいる。でも、彼女と一緒なら。一緒に変わっていけるかもな。


 「こっちこそ、レリィには助けられてばっかりだよ。……ありがとうな」

 「あ、いえ、そんな……いえ、どういたしまして」


 そう言って、少しだけ照れくさそうにするレリィ。


 「さてと、それじゃあ飯に戻ろうぜ。おいらもう腹減って腹減って……」

 「ウィリアム、お前は食い過ぎだ。少し抑えろ」

 「何言ってんだよおっちゃん。朝食はガッツリ食べないと、だぜ。な、兄ちゃん!」

 「ああ、そうだな。たくさん食わないと、大きくなれないからな!」

 「ホラ、兄ちゃんだってこう言ってるぜ?」

 「……はあ。旦那も控えてください」

 「えー? ……でもウルの方が食ってるぜ?」

 「ちょっと、唐突に私を巻き込むんじゃないわよ」

 「……太るぞウル」

 「うるさいおっさん。私はもっと大きくなるのよ。……育ち盛りなんだから」


 いつもの風景が流れていく。やっと、前みたいに。いや、前以上に楽しくなりそうだ。

 思わず口角を釣り上げる俺の隣で、レリィもまた微笑む。


 今はもう、一人じゃない。俺も、レリィも。


 たくさんの仲間と、きっと変わっていけると。


 そう信じながら、俺達は日常へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ