陽射しの中で
陽射しの中で
朝、目が覚めて。
目の前に、彼の寝顔があることに驚いて。続けて自分が昨日、泣きながら眠ったことを思い出す。
でも同時に、すごく無防備に眠るその人の顔を見ていると、とても愛おしく感じた。
そのまま眠ったふりをしながら、もう少し彼の寝顔を見ていようと思えた。
泣き疲れて眠ってしまった私を、彼は起こさないようにベッドまで運んでくれたのだろう。そして彼は、そのまま離れることもなく、ずっと私の側に居てくれたんだ。
繋がれた手を見て、私は彼の手をそっとなでる。
ごつごつしてて、大きくて。でもちょっとだけ細くて、きれいな手だなと思った。
頼り甲斐があるような無いような。でも、優しさははっきりと伝わってくる。現にその手は、一晩中私の手を握っていてくれたんだから。
服を着たまま寝ていたせいで、疲れが抜けきっていないような気がするけど、今の私はそれ以上に幸福感に包まれていた。
この人に助けてもらえたことが、嬉しくて。
この人に大切だと言ってもらえて、嬉しくて。
この人を好きになれて、とても幸せだと思った。
うっすらと目を細めて、彼の寝顔を堪能する。そう言えば、彼が寝ているところを見たことはなかったな。
繋げていない方の手で、彼の頬に触れる。そのまま何度もすりすりと頬を撫でて、そのまま顎の方に手を運ぶ。
少しだけ生えたあごひげが、チクチクと掌を刺す。その感触で、初めて彼にあごひげが生えていたんだなあ、などとどうでもいいことを考えて、また一つ彼のことを知れた気がして、少し嬉しくなる。
もう一度、彼の手を取り、まじまじと見つめる。爪を眺めてみたり、つついてみたり。彼の手を頬に持って来たりして、しばしその手を弄ぶ。
全然違うけど、お父さんの手みたいだな、なんてことを思う。
お父さんの手は、もっとガサガサしてて、大きくて、いかにも男らしいと言った感じだったけど。
でも、似てる。
雰囲気、とでもいうのか。あるいは、その手のぬくもりか。もしかしたら、その優しさか。
守ってくれる。この人は、私を守ってくれる。
きっと私が、彼の役に立とうが立つまいが、彼は私を優しく守ってくれるだろう。私が傷つかないように、私が悲しまないように。
お父さんのように、無条件の優しさを、愛情を、この人は与えてくれるだろう。
何もしなくとも、彼は私の味方でい続けてくれるだろう。
でも。
それじゃ嫌。
私は、変わらないといけない。
彼が私のおかげで変われたと言った。そう言ってくれた。
ならば、私も変わらないといけない。彼のおかげで成長できたと、胸を張って言い切らないといけない。そうでなければならない。そうありたいと願う。
ガルドさんが言っていた。自分がどうしたいかは、自分で決めろと。
私は、もう答えを知っていたんだろう。今では、何をどうしたいか。その心は一点の曇りもなく、私の決意を映す。
もう迷惑を掛けないように。この体質を何とかするために、私は頑張らないといけない。具体的なことは、まだ考えてないけど、何かしなくてはいけない。そう思った。
今は無理でも。いつかこの人が困ったときに、少しでも支えてあげられるようになってあげたい。そのために、頑張らないと。
「……スー……スー……」
そんな私の気持ちなんて、知る由もなく。
彼は無防備に、幸せそうに、眠っている。
……少しだけ。
もう少しだけ、このままでも……。
そのぬくもりを忘れないように、私は両手でギュッと彼の手を握る。そしてまた、その手を弄ぶ。自分の頭に持って来たり、頬ずりしたり。
いつしか、私は再び眠りに落ちてしまった。
彼を恐れる心は、いつの間にか消えていた。そう確信した。
この手はもう、震えてなどいなかったのだから。