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太陽のギルド  作者: 三水 歩
光の欠片
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ウル・ナミラ

      ウル・ナミラ


 目を覚ました俺の視界に、見慣れた天井が映る。

 上体を起こしてあたりを見回す。ベッドの側には、レリィが椅子に座りながら眠っていた。


 あれ、なんで俺、この家に戻って来てるんだ? 確か、ウルと一緒にいて、彼女を抱えて窓から……


 そこまで思い出して、俺は頭を強く打ったことを思い出した。すぐに後頭部に手をやり、負傷した部分を触る。

 だが、そこにあるのはいつもの感触。短い毛が手の中でチクチクと主張しているだけだった。おかしいな、確かにぶつけたと思ったのに。……意外と大した怪我じゃなかったのかな?


 そんなことを考えながら、俺はベッドからもそもそと抜け出す。寝ているレリィを起こさないように毛布を掛けてやり、忍び足で部屋から抜け出す。


 居間に出ると、ガルドが驚いたようにこちらを見る。


 「! ……旦那」

 「えっと、おはようガルド。ちょっと色々聞きたいことあるんだけど、いいか?」

 「……ええ。俺も、旦那に言いたいことがあるんで」

 「? そっか」


 そんなやり取りをして、俺はテーブルを挟んでガルドの対面に座る。


 「えっと、さ。俺、なんで家に帰ってきてるんだ? 屋敷にいたよな?」

 「……意識不明の重体だったからですよ。あの時の旦那、死んでいましたから」

 「お、おう。そんなにひどかったのか。でも、その割に怪我とかもしてないんだけどさ。もしかして、結構長い間眠ってたのか、俺?」

 「……そうですね」


 そういうと、ガルドは指を三本立てて、俺に見せる。


 「三日も寝てたのか!? うーん。まあでも、怪我も大したことなくてよかったよ……」

 「三週間」


 ガルドが、俺の言葉を遮るように話しだす。


 「旦那は、三週間意識が戻らなかったんです。あの日、中庭に落ちた時から」

 「さん……!?」


 言葉を失う。そんな馬鹿な。それだけの間、俺は目を覚まさずにずっと眠りこけてたって言うのか?


 「いくらなんでも、それは……」

 「本当です。そして、そうなった原因も本人から聞きました。……あの時、付いて行くべきだった……」

 「いやいや、そんな馬鹿な。三週間も寝てたら体もどこか調子悪くなるんじゃないか? 飯も食ってないわりには、俺結構元気だぜ?」

 「……それなら、レリィに感謝するといいですよ。アイツ、ずっと旦那の側で、覚えたての治癒魔法を掛け続けていたんですから」


 治癒魔法って、腹減りも抑えられるのか? そんな疑問が湧いたけど、それ以上に気になったのは。


 「……レリィが、魔法を?」

 「そうです。前からあの子、勉強していたようですよ? そのおかげで習得したんでしょうね。夜も寝ないで、ずっと魔法を掛け続けていましたよ」

 「……」

 「それだけじゃありません。図書館からいろんな本を借りてきて、ありとあらゆるおまじないも試していました。……夜もほとんど寝ずに、三週間もです」

 「……」

 「正直、見ていられませんでしたよ。日に日にやつれていくのを見るのは」

 

 そう言うガルドの頬も、心なしかこけているように見えた。目の下には隈ができていて、彼もまた、ほとんど寝ていないのだろう。


 「……ごめん、心配かけた」

 「……」

 

 ガルドは、返事をせずに俺を睨んでいる。その眼光に気おされ、俺は思わず目を逸らす。


 「旦那。これだけは言っておきます」


 ガルドは、席を立つと俺の方を睨んだまま、口を真一文字に結ぶ。鋭い視線をぶつけながら、しかしその目は少しうるんでいるようにも見える。


 「旦那がどう思っているのかわかりませんが、これだけは言わせてください。旦那が死んだら、泣く人がいるんです。夜も眠れないで、何かしてあげたいと思う人がいる。助けたいと奔走する人もいれば、いろんな人から力を借りて何とかしようと躍起になってくれる人がいます。旦那は、いろんな人の心に影響を与えている人です。旦那が、旦那自身をどう思っているかは、俺達にはわかりません。自分の命の価値を、どう思っているのかもわかりません。でも……」


 ガルドは、自らの目からこぼれる涙を親指で拭う。


 「金輪際、自分の命を削ってまで、誰かを助けようとしないでください。旦那が死んだら……俺たちは……」


 ガルドの肩が震える。いい大人が、みっともなく嗚咽を漏らしながら、泣いている。

 いつでも凛々しくて、毅然としていて、冷静に周りを見てくれていた頼れる兄貴分だった男は、見る影もないくらいにボロボロと涙をこぼす。




 俺は、失念していた。

 ガルドも、一度奪われた人間だったということを。

 そんな彼に対して、家族と同じような気持ちを自分に抱かせ、そしてまた失わせてしまうところだった。

 それが、どれだけ残酷なことか。


 「……すまない」

 「……いえ、こちらこそすみません。」


 俺は辺りを見回す。その行動に、ガルドが気づいて声をかける。


 「あの小娘なら、外に居ますよ」

 「……う、うん」

 「……行ってきてやったらどうですか? ……心配なんでしょう?」

 「……悪いな」


 そう言って、俺は玄関を開ける。






 家の前は、いつもの薄汚れた路地と、風に乗って飛んできたゴミが転がるだけで、何も変わり映えの無い、いつもの風景。


 「いるんだろ、ウル。出てきてくれないか」


 俺は一見誰もいない路地に向かって声をかける。

 返事は返ってこない。気配すら感じない。

 もういないのか。はたまた、出てくる気がないのか。


 「もう一回だけ言うぞ。出てこいウル。話をしよう」


 その声掛けから十数秒。建物の陰から、半透明の少女が出てくる。いや、半分なんてものじゃない。よく目を凝らして、そこに女の子がいると教えてもらわなければ、見間違いで済ましてしまうくらいに薄い、透明な、少女。


 その透明の少女と目が合い、俺はほっと息をつく。


 「よかった、まだいたんだな。ちょっと話をしよう」

 「……」

 「場所はどこがいいかな……家の中はレリィが寝てるし、あんまり人通りの多いところは嫌だしな……図書館とか……だめだな。あそこは入館時間と退館時間書かなきゃいけないし、ウルは今透明だしな。うーん、他ってなると……」

 「ねえ」


 ウルの、か細い声が聞こえた気がした。消え入りそうな、意識してないと本当に聞きそびれてしまいそうな、弱々しい声が、今確かに聞こえた。


 「なんでなの?」

 「何が?」

 「怒らないの?」

 「何をだ?」

 「……私の事」

 「……」


 ウルが何を指してそんなことを言っているのか、俺はきちんと理解していた。

 彼女が、俺を殺そうとしたこと。

 そのことに関して、彼女は俺が怒ってないかを尋ねた。それだけの事。

 その問いに対して、俺は。


 「怒ってるよ」

 「……」

 「全く、話し合いの途中で相手を殺そうとするなんて卑怯だろ? そんなことばっかしてると友達できないぜ? まあ、俺も友達は少ない方だけどな」

 「……」

 「……せっかく、人の少ない静かなところで叱ろうと思ってたのに」


 ウルは、相変わらずこっちを見ている。文字通り透けているその姿は、今にも消えてしまいそうだった。


 「……そうよね。それを聞いて、安心したわ。これで私は、悪者のまま消えられる……」

 「でもな、ウル。俺はお前に感謝もしてるんだ」


 彼女の声を遮って、俺はさらに言葉を続ける。


 「殺そうとしたあと、瀕死の俺を助けてくれたの、ウルだろ? ありがとうな。正直、ウルがいなかったら助からなかったらしいじゃないか」

 「何を……言ってるの?」

 「お礼だよ。助けてくれて、ありがとうって言ってるんだ」

 「……だから、どうしてそうなるのよ。私がお前を殺そうとした張本人なのよ? なのに、そんな人間に感謝するなんて、どうかしてるわ」

 「そうかもな。でも、それでも俺はお前に感謝してる」


 半透明の少女は、その顔に戸惑いを浮かべて狼狽える。


 「俺は、小さい頃奴隷だったって言ったろ? その時はさ。誰かに何かしてもらえることなんてなかった。いつだって傷つけられてばっかりで、与えられることなんて一つもなかった。だからかな。俺の為に、誰かが何かをしてくれるのが、嬉しい」


 とても単純な理由。ゆえに、俺の中に力強く根付く。たとえそれがうっとうしいと思われても、知ったことか。

 俺という人間は、ソルという男は、こういう考え方をする人間なんだ。


 「でも私は、お前を殺した。……一度殺した……」

 「そうか。それでも、お前はその後心変わりして俺を助けてくれた。それで十分だ」

 「それだって! 助けたことだってお前の為じゃないのよ!」


 こらえきれず、少女はとうとう叫び声を上げる。その紫紺の瞳には、大粒の雫が浮かぶ。


 「自分が人殺しになるのが嫌で! 途中で怖気づいただけで! お前の為になんてこれっぽっちも思ってないのよ! 散々人を、この力で消してきた癖に……人の生を消してきた癖に! 命を奪うことが……それがどんなに残酷なことだったか忘れてて! お前の血を見て、それを思い出して……気持ち悪くなって! そんな気持ちが嫌になっただけで! 気まぐれなのよ! ただの気まぐれでお前を助けただけで、私は……!」

 「それがどうした」


 俺がそういうと、ウルは目を見開いて俺の方を見る。


 「ウルは今、俺を殺したいと思うか? 消したいと思うか?」


 その質問に、少女は静かに首を振る。目は、逸らさずに。


 「じゃあ、いいんだよ。お前がこれ以上人殺ししなくなって、人を消さないって心に決めてくれたんなら。あとはしっかり反省して、ごめんなさいって言ってくれればいい。俺は赦す。それでも、お前の気持ちが収まんないなら、叱ってやる。怒ってやる。ぶん殴ってやる。その方がお前が楽になるっていうんなら、いくらでも罰してやるよ。なんなら俺が今まで受けた仕打ちの中でもとっておきの奴を味わわせてやってもいい」


 ウルは目を伏せる。涙は、頬を伝い地面に吸い込まれていく。肩を震わせて、何度もしゃくりあげながら、なんとか俺の目を見る。


 「だから……どうしてお前は、そうやって全部、受け入れられるのよ……どうして、お前は……そんなことだから、私は、お前がまぶしくて……羨ましくて……! どうして、どうして……!」

 「教えてほしいか?」


 俺はにやっと笑う。別に、大した理由でもなんでもない。簡単なことだ。


 「ただ単に、俺がそうやって周りの人に赦してもらった。いろんなひどいことをしても、俺の味方でいてくれる人がいた。俺を支えてくれた人がいた。だったら、一人ぐらいいてもいいじゃないか。お前の味方になってくれる人がいてもさ。……俺がそんなふうにお前に優しくできるのは、いままで誰かが俺に優しくしてくれたからだ」

 「……そんな、理由なの?」

 「単純だろ?」


 誰もかれもが、そんなふうに考えることなんてできない。もちろん俺だって怒るときは怒る。レリィやガルドがケルヴィンにやられたときは、危なくアイツを殺してしまうほどに怒り狂った。

 でも、あの時殺してしまっていたら。きっと俺は、後悔していた。レリィが赦してやってくれと、そう言ってくれなかったら、俺は今も闇に心を静めたままだっただろう。


 「……なあ、ウル。お前はさっき、俺の事まぶしいって言ったよな? 羨ましいって。でもさ。何も俺は一人でこうなったんじゃない。誰かに助けてもらって、ようやくこうして立っていられる。ただそれだけのことなんだ。お前が思うほど輝かしい人間じゃないし、お前が思っているほど救われてない人間じゃないんだ。」


 だって、俺はもう。

 救ってもらったんだから。


 ヴァンに。

セシールに。

ジャンに。

ジョルジュに。

 ガルドに。

レリィに。


 いろんな人に、助けられてるんだから。


 「……でも、私は……人を……消した。人を、殺した……」

 「ウル」


 俺は、半透明の彼女に近づいていき、その手を取る。

 少女はビクリと肩を震わせ、俺の方を不安そうに見つめていた。


 「俺たちの活動に、加わらないか?」

 「……え?」

 「お前の気持ちも、分からないでもない。罪の意識が消えないのもわかるつもりだし、自分が消えてしまえばいいって考えちまうのもすげえ良くわかる。でもさ、それだと何も始まらない。何も終わらない。どこにもつながらないんだよ」


 かつて、同じようなことをして、同じような思いをして、同じような気持ちを抱いて、同じようにこの世から消えようとした。

 これ以上生きていたくないと、本気で思って、殺してくれと頼んだ。

 でも、それではだめだと、あのハーフエルフは言った。


 再び他人と関わるのが怖くなって、拒絶しようとした。

それでもあの小さな少女は、絶対俺を離さないと言った。


 こんなふうに叱ってくれて、こんなふうに受け止めてくれて、俺は幸せ者だ。


 でもそれも、生きていればこそ。


 なんとか前を振り向かせてもらって、ここまで来たからこそ得ることのできた物なんだ。だから、こんな小さな少女が、自分の生に見切りをつけてしまうのは、まだ早い。


 「私がいたって、何が変わるもんか。きっとまた、同じことを繰り返すのよ」

 「違うな。お前はもう二度と他人を消したりしない。そしてきっと、いろんな人の役に立てる日が来る。俺が保証する」

 「何を根拠に……」

 「お前はもう改心してる。俺を助けてくれたのが、その証拠だ」

 「……馬鹿じゃないの。私がいたって、どうしようもないじゃない。アンタが欲しいのは、私じゃなくてあの家でしょう」

 「見くびるなよ。お前のこと、結構気に入ってるんだぜ?」

 「……たとえば?」

 「お前と話してるのは面白い。イジリ甲斐がある。いちいちリアクションしてくれるのが心地いい。本音をズバズバ言ってくれるのは助かる。あと、コレ予想だけどお前、痛いの苦手だろ? そんでもって、他の人にそういう痛い目あわすのも、あんまり好きじゃないだろ? じゃなきゃそこまで追い詰められたりしないだろうしな。そういうところ、全部ひっくるめて、さ」

 「……全体的にどうしようもない理由で勧誘してないかしら……?」

 「自分が落ち込んでんのに、そうやってツッコミ入れてくれるとこも好きだぜ」


 ウルは、少しだけ俯いて目を閉じる。


 わずかに、その口元がほころんだような気がした。






 「……ふん。変態」

 「えっ、なんで!?」


 半透明から実体を取り戻した少女からのまさかの罵倒に、開いた口が塞がらない。


 「本音で罵られるのが好きだとか、少女を弄るのが好きだとか、よくもまあそんなことを平然と言えるわね」

 「違うよ!? そういう意味で言ったんじゃないよ俺!?」

 「わかってるわよ。ちゃんと伝わってるわ」

 

 少女は、今度こそはっきりと微笑む。涙を流したまま。

 不謹慎ながら、それはとてもきれいだと思った。


 「ごめんね、ソル。それから……ありがとう。……しばらく世話してあげるわ」

 「おお、よろしくたの……ん?」


 あれ。今世話してあげるって言ったかこの子。


 「罪滅ぼしするって言ってるの。お前と、いろんな人たちに。お前の、世界中の人達を助ける活動に、協力するわ」

 「ああ、うん。……うん?」

 「とりあえず家を貸してあげるから、それでお前への罪滅ぼしは良しとして……」

 「え、ウルの方でそれ決めちゃうの? 良しとしちゃうの?」

 「いいでしょ。お前大して怒ってないんだし」

 「いや、それはそうなんだけど……なんていうか自由だなオイ」

 「ふふ、そういうところも好きなんでしょ?」


 いたずらっぽく、それでいて悪い笑顔で、少女は口角を釣り上げる。美人が台無しだ。

 いや、ウルの言うとおり怒りはもう収まってるけど。そうだけども。ウルの言う通りなんだけど……なんか釈然としねえ。


 「世界中の人を笑顔にする、かあ。素敵な活動よね。私にできるかしら」

 「あれ、さっきも言ってたけど俺そんなデカい規模の話してたっけ!?」

 「似たようなもんでしょ。全奴隷解放も、世界平和も。この際奴隷だけじゃなくて困ってる人みんな助けるわよ」

 「ええ……罪滅ぼしのスケールがでけえ……」

 「……それくらいのことを、してしまったのよ。私は……」

 「……ウル……」


 彼女なりに、罪滅ぼしの仕方を考えた、ということなのだろうか。自分なりの方法を考えて、それをやりたいと思って、そのために行動しようとしてるのだろうか。


 だったら、それを応援しないわけにはいかないな。

 俺は彼女に右手を差し出す。


 「そうだな。一緒に頑張ろう。改めて自己紹介しておくよ。ソル・ブライトだ。よろしくな、ウル」

 「ウル・ナミラよ。そうね、後ろ暗い残忍な過去を持つ者同士、仲良くしましょう。そして世界に平穏を……」

 「……すげえ嫌な関係だな。とても世界平和を目指す集団とは思えねえ……」


 固い握手を交わしたものの、何やら悪人の密約めいていてすごく嫌だなコレ。ウルの言い回しもなんか悪役っぽい。




 「……話はまとまりましたか?」

 「! ガルド……」


 いつの間にか、玄関の前にガルドが立っていた。ドアに背を預けて、腕を組んでいる。

 伸びきった無精ひげ越しに、彼があきれ顔を浮かべているのが良くわかる。大きなため息をつきながら、俺に話しかけてくる。


 「旦那のことだから、その少女を仲間にするとか言い出すと思ってましたが……まさかホントに仲間になるとは」

 「えっと、まあ、これからよろしくな」

 「はあ……さっきの俺の話、ちゃんと聞いてたんですかね……」

 「う、うん。もちろん。……気を付けるよ……」


 やれやれ、と言ってガルドは頭を振ると、目つきを鋭くしてウルの方を睨みつける。


 「……ウル、とか言ったな」


 ガルドが、ドアから離れ、ウルの元に近づく。お互いの身長差があるせいで、ガルドの腰くらいにウルの頭がくる。こうしてみると、レリィの方がウルより大きいらしい。


 「旦那は赦したかもしれねえが、俺はまだお前のことを赦すつもりはねえぞ。今度妙な真似をしたら……」

 「いいわ。その時は容赦なく叩き潰せばいい」


 そんな言葉に、ガルドも一瞬面食らったようで言葉に詰まる。


 「それに、私が改心したかどうかは、これからの行いを見て決めるがいいわ。それで納得いかなかったら、煮るなり焼くなり、どうぞご自由に」

 「……いいだろう、その言葉、覚えておけ」

 「忘れるもんですか」


 ……すげえ。

 あれだけガルドに凄まれてるのに対等に渡り合ってる。

 ウルの肝っ玉のデカさには改めて驚かされた。


 話し合い(睨み合い)が終わり、二人は互いに手を差し伸べ、そして握手を交わす。なんだかんだでうまくいって良かったと思う。正直、ガルドはウルをぶっ飛ばすかと思ったけど、その心配もなさそうだ。


 「ところで旦那」


 二人の様子を見て、安心しきってた俺に声がかかる。ガルドが少し神妙な面持ちで俺に告げる。


 「レリィになんて説明する気ですか? ……あの子、相当ウルに対して怒ってましたよ?」

 「……」


 言われて、考えて、絶句した。




 どうしよう。なんて説明しよう。下手なことを言ったら、レリィに嫌われるかもしれない。

 途方に暮れる俺を、ウルがケタケタ笑いながら楽しそうに眺めていた。


 くそ、やっぱりこいつ殴っておけばよかったかな……。


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