表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽のギルド  作者: 三水 歩
光の欠片
42/115

幽霊少女 ウル 一

     幽霊少女 ウル 一


 私の家は、比較的周りの人達と比べると裕福だった。一族の人は皆、魔法の技術に長け、優秀な魔術師になっていった。


 二人の兄と、三人の姉はそれぞれの才能を生かすために、いろんな国へと旅立った。長女は治癒が得意だったから、教会の真似事みたいに人を癒す仕事に腐心した。次女は傭兵のグループに混ざり、街の平和を守っている。兄二人は、共に競い合うように王宮魔術師をめざし、見事二人ともその夢をかなえた。一番歳の近い三女は、私と一緒に居たいからと、家の仕事を継ぐことを選んだ。


 父さんは、魔道具の売買で生計を立てていた。霊薬、術符、呪文書など、たくさんの物を作っては売っていた。

 お母さんは、あまり魔法が得意じゃなかったけど、いつも幸せそうにお父さんと仕事をしていた。

 帝都では、あまり魔法を使う人達がいないから、魔道具は大層売れた。本来魔法を使えない人でも、うちの魔道具を使えば簡単に魔法を使えるようになる。


 だから、うちは大金持ちだった。そのうち大きな土地を買って、家を建ててそこに住み始めた。すごく誇らしかった。自分の家族が自慢で、自分もその中に居られることがすごく特別なことのような気がして、とてもとても誇らしかった。




 ある時、白い髪の小さな子供が家を訪ねてきた。私と同じくらいの歳だっただろうか。両親と何かを話していた。でも突然、父さんが怒ったように叫んだ。


 「今すぐこの家から出て行け! 二度とウルに近づくな!」


 今でも覚えている。私がいたずらしてもそこまで怒ったことはない。なのに、今にもその子に掴みかかりそうな勢いだった。

 その子はすぐに家からいなくなったけど、父さんはその後もずっとピリピリしていた。

それから数日して。


 私の家は戦場になった。


 言葉通りの意味。怒号が飛び交い、死体が連なる。

 地獄だった。小さい私には何が起きてるのかわからなかった。

 「ウル、大丈夫。お姉ちゃんが付いてるからね」

 そう言って、ずっと抱きしめてもらっていたのを覚えている。


 でも、どうしても安心できなかった。

 お父さんが怖くて。お母さんが心配で。

 どんな魔物に襲われてるのかとか、兵隊さんは何をしているのかとか。いろいろ考えたけど、何もわからないままだったのが不安だった。

 

 だから私は、こっそり見に行った。

 出て行ってしまった。

 隠し部屋から。


 そこにいたのは、魔物でもなんでもない、街の人たち。

 目は虚ろで、何を考えているのかわからないような表情。

 昨日の朝挨拶したはずの隣の家のおじさん。

 大通りでよく会う近所のおばさん。

 一昨日一緒に遊んでくれたお兄さん。

 その他にも、知らない大人の人もたくさんいた。

 みんな同じ目をしていた。


 それが、とても怖かった。


 なんでみんな、無表情なんだろう。

 なんで父さんみたいに怒ってないんだろう。

 なんで母さんみたいに叫んでないんだろう。

 なんで姉さんみたいに震えてないんだろう。

 なんで、私みたいに泣いたりしてないんだろう。


 ありえないものを見てしまった。見ちゃいけないものを見てしまった。そんな気持ちになった。

 お父さんに見つかったら叱られる。馬鹿な私はそんなことくらいしか考えていなかった。

 でも、隠し部屋に戻る途中で、父さんに見つかってしまった。


 叱られる。そう思った。


 でも、言われたのは。


 「ウル、逃げろオォーーー!」


 振り向いたら、そこには血まみれの人がいた。

包丁を持って。

他のみんなと同じ目をして。


 私は気づかなかった。いつの間にか叫び声が聞こえなくなっていたことに。





















 いたのは、お母さんだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ