ガルドの記憶
ガルドの記憶
人間が怖い。
かつて旦那と、まだ出会って間もない頃。
旦那が漏らした一言だった。
旦那は、一人で街を歩きたがらない。
幼い頃、彼も奴隷であり、そして奴隷であると言うだけでさまざまな人間に傷つけられた恐怖が、体に刻まれていた。
奴隷商より、死神より、盗賊より、強盗より、殺人鬼より。
市井の人間が怖い。
彼はそう言った。
壮絶な経験をしてきたのだろう。
事実、彼は街を歩いているだけで顔は青ざめ、手足が震えるほどだった。自らの顔を隠すために、視線を遮るために。外出するときは、彼は欠かさずフードをかぶっていた。
人間が怖い。
そう言っているにも関わらず、旦那は奴隷を買おうとする。
働いて、時には悪事に手を染めてまで、金を貯め、旦那は奴隷を買った。
何が旦那にそうさせるのか。一度聞いたことがあった。
俺の問いに、旦那はこう答えた。
少しでも、彼らを日の当たる場所に連れ出してやりたいんだ、と。
自分は人間が怖いくせに。
一人で街を歩けば、緊張と恐怖で吐きそうになるくせに。
それでも彼らを助けたいんだと。まっすぐな瞳で、そう言った。
その答えで、俺は決心した。
この人の夢に、一生を捧げよう、と。
もう何も残ってない俺の生でも、それでもこの人の為に使おうと。