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太陽のギルド  作者: 三水 歩
奴隷少女
1/115

奴隷少女 一

ファンタジーものを書きたいと常々思っていたので書き溜めた分を投稿。背景描写とか心理描写とか、甘い部分がたくさんありますが、読んでいただければ幸いです。至らない点があれば、指摘していただけると作者はうれしいです。

     太陽のギルド


 私の肩に置かれた手は、今まで触れたどの人のものよりも優しくて、力強くて。

 でも少し震えていて、この人も人間なんだと思えた。

 私と同じ、人間なんだと。


     一


 午前中ということもあり、まだ静けさに包まれる町の中。中央通の噴水広場を囲むように存在する繁華街。そのきらびやかな町並みにはひどく似つかわしくないオンボロの酒場。酒場と呼ぶのも怪しく思える。そういう外観の建物。いっそスラム街に建っていた方がまだしっくりくるようなボロさに、町の人はここに近づこうとさえしない。


 「久々にここに来やしたが……相変わらずオンボロですね、旦那。」

 「そうだねガルド。あと、旦那は止めてくれよ。俺よりずっと年上なんだからさ」


 はたから見れば、厳つい中年男性が青年に敬語を使うという何とも不思議な光景だ。もっとも、それは平和な一般市民の持つ感性でものを言わせれば、の話だが。それはともかく、何度もこうやって旦那と呼ぶことを拒否してきたのに、ガルドの奴は一向にやめてくれない。

 俺のそんな悩みなど知らない風な様子で、ガルドは話す。


 「……それにしても、今回はいつもより資金が少ないですが……大丈夫ですか?」

 「まあ……何とかなるだろ。噂によると今日のは『大安売り』らしいからな」


 かなり適当な考えではあるが、まあ何とかなるもんは何とかなるだろう。


 「とりあえず、入ろう」

 「了解です」

 俺たちは酒場の扉を開く。中は昼間なのもあり、酒場とは思えない静けさで、おまけに少し薄暗いのも手伝い、何とも言えない物々しい雰囲気を出している。四角い机一つにつき椅子は4つ。それが8つあるだけの質素な酒場だ。カウンターにもいくつか席があるが、それも大した数ではない。最大で四十人ほどしか入れない比較的小規模な酒場だ。

 俺たちの姿を認めるなり、カウンターの向こうにいた痩せぎすの男がこちらに声をかけてくる。


 「いらっしゃい。今日は何の用だい?」


 一見、酒場の雰囲気と、この顔色の悪い男のひきつった笑顔のせいで、悪人だと決めつける人が多いが、話してみるとこれがなかなか悪くない男で、面倒見がいい。俺も何度もお世話になっている。


 「……今日の奴隷市場はどこで開かれるんだ?」


 その言葉に、店主は少し驚いたように声を出す。


 「ソル、お前……また奴隷を買おうってのかい? 懲りないねえ、なにがしたいんだか……。つい先日逃げられたばかりなんだろう? 奴隷に逃げられるなんて、相当の間抜けじゃねえか」

 「……おい店主。旦那にあまり無礼なことは言うなよ」


 店主が俺を馬鹿にしたが、ガルドがそれに食って掛かる。


 「あーはいはい。ご主人様を侮辱して悪かったよ。この通りだ」


 ガルドの言葉など一切気にしていないように、肩をすくめてそう言った後、店主はジョッキを二つ差し出す。そして中に透明な液体が注ぎ込まれていく。


 「朝から酒を飲みに来たわけじゃないよ、ジョルジュ。俺の目的は最初に話しただろ?今回の奴隷市場はどこで開かれるのかを聞きたいんだ」


 俺がそう言うとジョルジュ……店主は首を横に振る。


 「バーカ。誰がただ酒させるかよ。新しい製法で作った水だ。ジュースや酒に交ぜるためのもんなんだが、これがなかなか不思議なもんでな。口の中で泡立つんだ」

 「水が泡立つ? 不思議なもんだな……ま、全部済んだら飲んでみるよ」

 「……つれないねえ……」


 ジョルジュはオレンジのジュースが入った瓶を彼の後ろの棚から取り出す。透明な水にそれを混ぜ、一気に飲み干す。が、飲みきれずに途中で残し、顔をこれまでに見たことないくらいにしかめる。


 「くあぁ! 効くぜえ……げっぷ」


 大きなげっぷをして、まじめな顔に切り替える。そして一枚の紙を俺たちの前に差し出す。


 「……今回も情報は入ってる。日時は今日の正午。スラム街にある娼館の隣の大きな建物の中で、オークション形式で行われる。入場条件は……喜べ。今回は庶民階級でも入れるぜ」


 そう言ってジョルジュは奴隷市場の案内をびりっと引き裂く。


 「全く……てめえらのためだけにこんな案内状を収集しなけりゃならねえ俺の気持ちにもなりやがれ。こんなの見られたら世間からなんて言われるか……」

 「いつも助かってるよ。ありがとう」


 俺はジョルジュに情報料を支払う。金貨一枚。ちなみに金貨一枚で銀貨百枚、銅貨なら千枚分の価値がある。金貨一枚あれば、質素に暮らせば一日はもつぐらいの金額になる。


 「へへ、まいど。……言っとくけどぼったくりじゃねえぞ? むしろこのくらいの情報料じゃあ俺の利益なんざ出てねえんだからな」

 「だが客集めにはなっているのだろう? 我々からも無償で情報を貰えるんだからな」

 「まあな」


 ガルドの言葉にへへへっと笑うジョルジュに軽く手を振り、俺たちは酒場を後にする。


 「また夜に来るよ。まあ、うまくいけばだけど」

 「健闘を祈るぜ、ソル。じゃあな」


 そんなやり取りを交わし、俺は酒場を出る。





 

「スラム街か……あまり行きたくないな……」

 「……何かあれば、オレが盾になります。旦那は奴隷の売買にだけ集中してください」

 「ああ、ありがとう。よろしく頼む」


 俺たちはスラム街へと入る。ぼろぼろの服を着た人。地べたに寝ころび、生きているのか死んでいるのかもわからない人。昼間だというのに娼館からは男の声と女の悲鳴のような声も聞こえる。しかしそんな街の様子とは似つかわしくない、真新しくきらびやかな服を着こなす人も何人か見られる。心なしかいつもよりも一般市民層の人間が多いようにも感じられる。


 「……彼らも、奴隷の買い付けを……?」


 少し落ち込んだような口調になるガルド。


 「……そうでないことを祈りたいな……。いこうか、ガルド」


 お互いに不安と不快な気持ちを抱え、俺たちは奴隷のオークションが行われるという場所まで来た。


 「……よし、行くか」


 意を決して、俺は扉を開けた。


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