死に際して
話が長く続くかは運次第です。
俺の名前は日下部。
今さっき階段から滑って落ちて死んだ。
そして今神様と話している。
白髪の混じり始めた七三分けの髪、糊のきいた執事服。ごく普通の人である。
「やあ、君は死んだのかな?」
「はい。階段から落ちました。」
「そうか、不運だったね。」
「はい。」
「君は、少し感情が薄いようだね。どうしてかな?」
「わかりません。俺は、喜怒哀楽の喜と楽が欠如し、残る二つも段々薄くなってきています。」
「大変だね。」
「はい。」
「………。」
「………。」
「君は転生と転移どちらが良いかね?」 「では、転移で。」 「必要な物は、有るかい?」
「服を下さい。」
「珍しいね、服を要求されるのは2000年振りだ。」
「種類は任せます。あっちに跳ばすときに着替えをすませて下さい。」
「他には?」
「ありません。」
「そうかい。わかったよ。あちらに行くに従って何か言い残す事は?」
「富士山を噴火させて置いてくれますか?」
「わかったよ。また会う日まで。さよなら。」
「また会う日まで。その時はお世話になります。」
そして、旅立って行った。 目が覚めると、森の中だった。
「ついに自由か。」 感情が一部欠落し、残りの感情も薄くなり始めたので感動もクソも無いが、実感はわいてきた。
気になる服装だが、喪服のようなスーツ姿。ハンカチやネクタイ、インナー、パンツ、靴、薄い布地の手袋も黒。靴は黒革の頑丈なブーツ。つま先は鋼板入りだ。
ふと、脇に転がっているナイフが目についた。手にとってみると、下に手紙が置いてあった。
『日下部君へ。 君には餞別として折れず、鈍らず、傷が付かず、とても鋭いナイフ、この世界の七大神器の一つ「惨刀・悲哀」をあげよう。それと、そのスーツだけど、少し細身に仕立て直してあるイギリス製の最高級品だよ。更に素材はアリアドネの糸繭から生み出された絶対に燃えず、どんな刃も通さない仕様で、神の加護を付けたから毎日深夜零時には糊のきいた新品の状態に戻る。ナイフは刀の文字道理最大で日本刀サイズ、最小でキーホルダーサイズまで変化は可能だよ。
では、また会う日まで。』
次回投稿は期待しないで下さい。