プロローグ
プロローグ
人類は科学を発展させ、技能を磨き、あらゆるモノを創り、蘇らせた。
しかし皮肉なことに人類を殺せる力を持ったモノはすぐ隣にいた。
そして人類が脅威の存在に気付いた時、人類はそれ以上の、それを殺せるモノを創った。
……ビーーッ……ジジジ…………かんっ……指揮官ッ……応答……願いますっ……
雑音がうるさい。ここ、ジャバウォックの地形は磁気を狂わせるらしいからな……。
男は独りそんなことを考えていたのだが、さっきから室内に広がる無数の画面の一つが暗転したまま変わらずに、部下の声あわただしい声が聞こえてきているので考え事をしている場合ではなくなってきている。面倒だが仕方ないので画面の向こうへどうしたのかと問いかける。
すると、部下の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
「奴らの制御が出来なくなって……指揮官もう駄目です奴らすでに繁殖していましたっ」
後に聞こえたのは悲痛な叫び声と凄まじい唸り声、絶え間なく聞こえる銃声音。
悲惨な悲鳴に耐えられず、俺は無線通話画面を画面上から消し去った。とたんに音が止み、静まり返る室内は不気味ですらあったが、いつまでもボケっと突っ立っているわけにはいかない。部下が伝えてきたことが本当だとしたら、とんでもないことである。まったくとんだことになったと溜息をつき、もう一度無線通話画面を開き、『インビリティ』へと回線をつなげると、すぐ画面には椅子に座った毛先の黒い白髪の長髪を一つ結びにしている男の背が映し出された。
画面に映った男は椅子をくるりと回転させこちらを向き、口を開こうとしたが俺は待ってやるほど気長じゃない。
「報告することがある」
やや御不満気味だが無理矢理口角を上げ楽しそうに問う彼。
「やぁ、指揮官、何かあったのかい?」
「何かあったのかい、じゃねぇよ! テメェ、分かっていながら俺をここに送り込んだんだろ」
俺の文句に満足気な笑みすら浮かべる白髪は「今頃気付いたの。ちゃんと仕事してた?」なんて言う。
「クソ野郎。冗談かましてる暇じゃねぇだろ」
俺が怒鳴った途端、彼はテーブルをバンッと叩き立ちあがり、泣きそうな、怒りのこもった眼で俺を見て言った。
「クソ野郎はどっちだよ! あんなものをお前が提案しなければッ」
逆上した彼を諌めるように俺は淡々と言い放つ。
「しなかったらどうなっていた? 俺たちは死んでいた。お前も、俺も、殺されていた」
それを聞いて彼――もとい俺の親友は、ゆっくりと椅子に腰をおろしながら呟くように問うてきた。
「なぁ、お前さ、地上に戻りたいか?」
俺は微笑み、決まりきった返事を返す。
「お前はどうなんだ。東くんよ」
それに笑った親友は一筋の涙を流し、「っはは……このやり取り、何度目だろうな」と言って回線を切った。
俺は独り、音のない室内で決心する。