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異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第一章 異世界召喚編
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第六話 重武装には男のロマンが詰まってる

 第三科と第零科の対決の日がついにやってきた。

 場所は都外にある荒野だ。外には魔獣や魔人の危険もあるので本来ならばMCD同士の模擬戦で使うための《闘技場》があるが、第三科たっての希望で荒野での対決になった。

 第三科の生徒曰く、「闘技場を吹き飛ばしてしまうかもしれないので」らしい。そのコメントに少々イラッときた(金銭的な意味で)第零科の面々だったが、逆に「ブチ殺す!」とモチベーションを上昇させていた。技量はあっても喧嘩沙汰で第零科に転科する羽目になった生徒が多い第零科らしいモチベーションの上昇のさせ方だったが。

 まずは魔獣、魔人の危険性が無い事を確認し、第三科、第零科の拠点となる特設テントを設けたりなど、着々と準備は進んでいった。

 その対決自体に国王陛下も観覧しに来るという事で(そもそも仕込んだのがヘリオスなのだが)ただの一学園内の生徒同士の対決とは思えないぐらいの規模になった。

 都内には屋台なども多く催されて活気が溢れていた。今やちょっとしたお祭り騒ぎである。これを気に一儲けしようと意気込んでいる者も多く、どうやら前々から宣伝されていたようだ。

 更に対決の様子は都内に設置された巨大ホロモニターで観る事も可能だ。


「な、何か......とんでもない事になってきたッスね......」

「喋ってる暇があるなら手ェ動かせ!」

「は、はいィ!」


 特設テントの中では第零科の面々が最後の対決前の微調整を始めていた。本当はすぐ終わるはずだったのだが、対決前にして不備が見つかったのである。


「ああ、畜生! 昨晩は完璧だと思ってたのによォ!」

「喋ってる暇があるんなら手を動かすんじゃなかったのか!」

「愚痴ぐらい言わせろ!」

「......まあ、気持ちは分かるが。というより、昨日はもう何をやってるか分からないような状態だったからな」


 と、愚痴を言ったり聞いたりしたいるのはテスカとクロードである。第零科には五年生がいない。なので四年生の中でもかなりの腕を持っているこの二人が中心となって第零科は回っているが、そんな二人が思わず愚痴を溢したくなるぐらいの状況である。

 機体の方はもうラグもなく完璧な状態だ(強いてあげるなら機体の装備を付け加える余裕がなかった事が悔やまれるが)。しかし、この殺人的な忙しさとなるきっかけになった《秘密兵器》が不調を起こしたのだ。忙しく動きまわるテスカに健太郎は問いかける。


「何とかなりそうですか」

「何とかするのは当たり前だ。......が、対決には間に合わんだろうな。何とか調整が済み次第出す」

「分かりました。頼みます」


 特設テントの外に顔を出す。荒野には既に第三科のMCD、《カリナス・ミアプラキドゥス》が方膝をついた姿勢で鎮座していた。

 既に技量スタッフによる整備が終わり、いつでも起動出来る準備が整っている。このような重武装型はゲームの中で何度でも見たことがあるというのに、実物(・・)を目の前にしてみるとかなりの迫力に圧倒されそうになった。


「おいおい、早くしてくれないかなぁ」


 と、第零科の特設テントの前にやってきて近くの技術スタッフにそう言ったのは第三科の生徒のバーネットだ。その後ろから他の第三科の生徒もついてくる。

 バーネットは貴族出身者で、支給された《カリナス・カノープス》に対して金に物をいわせて強化させまくった張本人にして、今回の対決における《カリナス・ミアプラキドゥス》のパイロットでもある。

 どうやら今回、第三科のMCDに対して金を積んで強化させたのも恩義を無理矢理作って自分がパイロットになるためだったらしい。テスカなどそれを知った瞬間に呆れるあまり「要するに俺達は貴族様のお遊びの相手ってわけか」という感想を漏らした。


「落ちこぼれ連中は準備もロクに出来ないのかい?」

「全くですよバーネットさん」


 ワザワザそんな事を言いに来たのか、と内心思った健太郎だったが、実際にまだ完全に準備が出来ていないので反論は出来ない。


「何を作っているのか知らないが、どうせ負けて木っ端微塵になるのによくそこまでするねえ」

「全くですよ」

「本当に、落ちこぼれ連中の考える事には理解出来ませんよ」

「まだ負けたわけじゃないだろ」


 流石にムッとして口を挟んだ健太郎に気づいたバーネットは健太郎を見るなり怪訝そうな顔をした。対する健太郎は「俺ってこんな風に誰かに何か言い返すようなやつだったっけ」と内心苦笑する。どうやらこの世界に来て一ヶ月程で体育会系のノリの第零科の雰囲気にかなりあてられたらしい。


「おいお前、口のききかたに気を付けろ落ちこぼれ」

「で、誰なんだコイツは」

「お前の戦う相手だよ」


 健太郎の言葉にバーネットは嫌らしく口の端を歪めた。それからニヤニヤと心の底からバカにしたような表情をして健太郎を眺めている。


「ほう、お前が......ん、待てよ。じゃあお前があの《壁面激突事件》を起こした、あの?」

「そうです、コイツが、あの......」


 今ではもうそんなヘマをしない(ハズ)健太郎だが、あの黒歴史を持ってこられるグサッとくる。バーネット達はそんな健太郎を見てゲラゲラと大爆笑し始めた。


「アッハッハッハッハッ! じ、冗談だろ!? お、お前みたいなやつが僕と戦う? もう面白すぎて腹が痛いよ!」

「う、うるせえな、今はあんなヘマしねえよ!」


 反論するも説得力は皆無である。


「あ、やばいこれ。腹が痛すぎてやばい。ちょっ、誰か助けてこれ」

「バーネットさん、大丈夫ですか!」

「テメェ! 覚えてろよ!」


 バーネットの笑いも当然止まる事なく、ゲラゲラと腹を抱えて大笑いしながら側近二人が雑魚キャラのような捨て台詞を残して第三科の特設テントにへと戻っていった。


「......結局あいつ、何しに来たんだ?」


 と、健太郎は涙目になりながら、そしてバーネットを恨みながら特設テントの中に戻った。



 □□□



 結局、《秘密兵器》の調整は間に合わなかった。取りあえず調整は進めて、戦闘中だとしても調整が済み次第出す、という方向が決定した。

 第零科の《カリナス・カノープス》と第三科の《カリナス・ミアプラキドゥス》が起動する。

 方膝をついた待機姿勢から立ち上がり、両者共に両眼(アイカメラ)が互いを睨み付ける。

 すると、空中に巨大なホロモニターが表示された。その画面の中にはヘリオスか映っており、その綺麗な紅色の眼でモニターの外を見ていた。


「これより、第零科と第三科の模擬戦を始める。双方、日頃の学習の成果を存分に発揮してくれ」


 ヘリオスのアニメ声 (というよりもロリボイス)に一々幸せな気分になりながらも、着々と近づく模擬戦......いや、第零科にとっての決戦に健太郎の心は確かに震えていた。


「......けんたろー、大丈夫?」

「うん。土井丈夫」

「......土井って誰? 丈夫な人?」

「あの、今のちょっと噛んだだけだから。丈夫な土井君はこの世にいないから。だからやめて。なんか余計恥ずかしいから、マジで」


 ヘリオスが最小限の挨拶を済ませると、空中のホロモニターがカウントダウンを始めた。

 それにつれて都内も盛り上がっていき、第零科にも、そして健太郎にも緊張が走る。そんな健太郎の肩に、ディオーネは手を置いた。


「......けんたろー。私も、出来るだけ力になる」

「......ありがとう。それじゃ、宜しく」

「うん」


 カウントが零となり――――模擬戦開始の合図のアラームが荒野に鳴り響いた。


 こうして、第零科にとっての決戦が始まった。



 □□□



 アラームが鳴り響いたと同時に、先に動いたのは第三科の《カリナス・ミアプラキドゥス》だった。ガトリングガンの銃口を第零科の《カリナス・カノープス》に向け、すぐさま弾丸をばら蒔いてくる。


「さっそくか!」


 健太郎もそれに対応するようにステップコマンドで冷静に放たれた弾丸に対処していく。ガトリングガンは実弾で、肩に装備しているパックからベルト給弾していく仕組みになっている。

 つまり限りがあるという事であり、健太郎はガトリングガンが魔力供給式の武装でなかった事に感謝した。

 健太郎とディオーネの駆る《カリナス・カノープス》に与えられた装備は魔導銃(ライフル)と実弾の撃てる銃、(シールド)、そして近接戦用の(ブレード)のみである。相手の重装備に比べると心もとないが、迫り来る猛攻に対して健太郎は、


(弾切れ起こしたら降参してくれたらいいんだけどな)


 などと内心呟く余裕がある。

 健太郎はステップで的確に相手の攻撃をかわしていた。今のところ何の問題もない。

 魔導銃(ライフル)は使えるが、出来るだけ魔力(エネルギー)は温存しておきたいので牽制程度にしかまだ使っていない。

 本格的に使うのは後半だ。もしくはせめて、《秘密兵器》が登場するまでは温存しておかなければならない。


「チッ、ちょこまかと!」


 《壁面激突事件》を起こした張本人とは思えない動きをされ、予想外の展開になったバーネットは舌打ちをしながらミサイルポットから多数のミサイルを撃ち始めた。

 一気に勝負を決めるつもりなのだろう。


「ディオーネ、ミサイルをターゲットに!」

「了解」


 ディオーネが機体内のホロキーボードに指を華麗に滑らせると機体が敵機ではなく放たれたミサイル一つ一つにロックオンしていく。

 やはりある程度ホーミング性能のあるミサイルは避けるのが難しく、実弾の銃で応戦する。しかしこちらの銃は向こうのようにベルト給弾出来る物ではない。ミサイル一発に対して弾丸一発が限度だ。

 射撃、加速、射撃、加速を繰り返し、的確にミサイルを迎撃していく事に成功する。


「よし、これならいける......!」

「次が来る。気をつけて」


 後部座席のディオーネが警告すると同時に、《カリナス・ミアプラキドゥス》が動き出した。地上走行用装備である《ランナーホイール》を使い、《カリナス・カノープス》の周囲をぐるぐると囲むように走行(はし)りながら、銃口を《カリナス・カノープス》に向けていた。

 《ランナーホイール》とは、MCDの足につけるタイヤのような物だ。使用時には踵にスライドさせてあるホイールが足に移行し、重装備MCDでもそれなりのスピードを出すことが可能である。

 ただしこれには魔力を消費しながら稼働するというデメリットも存在する。

 更に第三科の《カリナス・ミアプラキドゥス》は同じく魔力を消費する魔導砲も装備しているので、合計すれば魔力(エネルギー)の消費は半端ではない。第零科が漬け込む隙があるとすればそこだが、第三科もそこまでバカではない。エネルギー問題を解決する為にエネルギーパックを背後に積んでいる。

 ぐるぐると囲むように走りながら回っていた《カリナス・ミアプラキドゥス》はミサイルとガトリングガンによる射撃を開始した。取り囲むようにして放たれた攻撃に対して周囲が塞がっており、連続して放たれる猛攻に迎撃は間に合わない。選んだ回避コースは必然と上しかなかった。

 しかし、それこそがバーネットの狙いだった。

 予め予測してあったコースに健太郎が逃げた為に、実弾では迎撃不可能の魔導砲からの一撃を放つ。


「ッ......!」


 放たれた魔力の塊に対して健太郎は素早くコマンドを入力。すると《カリナス・カノープス》は宙返りを決め、放たれた魔力の塊を避けるきる事に成功する。


「な、何だあの動きは!?」


 流石のバーネットもこれには驚く。それどころか、健太郎は知るよしもないが第三科の生徒や都内で模擬戦を観戦していた者達も口々に「おおっ」と思わず呟いてしまった程だ。

 動きが一瞬硬直した隙を見逃さず、健太郎は魔導銃による射撃を加える。放たれた数本の光の矢は真っ直ぐに《カリナス・ミアプラキドゥス》へと突き進み、隙を突いた攻撃は《カリナス・ミアプラキドゥス》の右手のガトリングガンのベルトを切断し、更に手からガトリングガンを弾き飛ばした。


「よし!」

「図に乗るなよ......この落ちこぼれがァ!」

「ッ!?」


 次の瞬間、バーネットの駆る《カリナス・ミアプラキドゥス》は《ランナーホイール》を使って加速しながら《カリナス・カノープス》に突進攻撃を仕掛けてきた。

 これには流石の健太郎も予想外の出来事だが、地面に着地した《カリナス・カノープス》は魔導銃と実弾銃でただ突進してくるだけの《カリナス・ミアプラキドゥス》を狙い撃ちにする。

 しかし、重装備戦用である《カリナス・ミアプラキドゥス》の重装甲を《カリナス・カノープス》のライフルで仕留めきる事は困難だった。


(スーパーアーマー!? いや、厳密には違うがこれは......ッ!)


 その前に明らかに《カリナス・カノープス》の機動力よりも明らかに速い《ランナーホイール》の加速によって近づいた《カリナス・ミアプラキドゥス》がその巨体を利用したタックルで《カリナス・カノープス》を突き飛ばした。


「ぐあッ......!」

「うっ......!」


 ゲームでは感じる事のない生の衝撃に耐えながらも必死で歯を食い縛る健太郎。しかしコックピットでは警告音が響き渡り、目の前には今にも魔導砲を撃たんとする《カリナス・ミアプラキドゥス》の姿があった。


「随分、手間をかけさせやがって......これで終わりだ落ちこぼれ!」



 □□□



「調整、終わりましたッ!」


 技術スタッフの誰かの声が特設テントの中に響き渡った。同時にテスカが声を張り上げる。


「よォし! さっそく出すぞ! 準備急げ!」


 テスカはホロモニターに眼をやる。今まさに健太郎の駆る《カリナス・カノープス》に対してバーネットの駆る《カリナス・ミアプラキドゥス》が《ランナーホイール》の加速力で迫らんとする所だった。


「我ながら中々良いタイミングだな」

「それと同時にかなり危なっかしいタイミングだけどね」


 テスカとクロードは互いにニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべながら、ホロモニターに眼を向けていた。


「準備完了です!」

「よォし! 遠隔コントロールはディオーネに任せろ!」


 特設テントの入り口が開かれ、《秘密兵器》が表にその姿を表してゆく。


「――――《シュトルム/トルンプフ》、発進!」





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