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異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第一章 異世界召喚編
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第四話 秘密兵器、その名はアケコン

 後日、健太郎はオメテオトル魔導学園に転入生として学園に通う事となった。異世界からやってきた者という事は黙っておく形となっているが。

 本来、異世界召喚の魔法は王族にしか使えない物とされていた。しかし、ディオーネは独学でそれを実現させてしまった。これは、健太郎が思っている事以上に重大な事実だったらしく(ヘリオス達の反応からしてあまりそうとは思えなかったのだが)、技術の流出を防ぐ為に箝口令が出た上に健太郎はその正体を隠す事となってしまった。

 ディオーネやあの時あの場所にいたヘリオス達以外に健太郎の事を知っているのはせいぜいハルトやテスカぐらいだろう。無論、その二人にも箝口令は適用されているが。

 健太郎は知る人の滅多にいない上に独自の文化を持つ異国、《ニホン》から来た転入生という設定だ。しかし、黒髪で大丈夫なのだろうかという心配もあったが、どうやらこの世界では黒髪はそう珍しくないらしい。

 というのも、この世界の何処かに《和の国》という国があり、その国の人々は黒髪で、中にはワザワザ黒髪に染める人もいるようだ。しかもその《和の国》というのも約五百年前のこの世界に召喚された者が興した国らしい。

 授業など殆ど無いような第零科では早速、健太郎のMCDの操縦訓練を行うために着々と準備が進められていた。テスカとハルト、そして他の生徒達は集まって国王軍から支給された量産型第九世代MCD、《カリナス・カノープス》の整備を行っていた。


「いやぁ、まさかこうなるとは思わなかったッスよ」

「確かに予算はアホみたいに増えたが......まさか他の科の奴と戦う事になるとはな......」


 既にその通知は学園側にも来ており、今や第零科は色々な意味で注目の的だ。同時に、健太郎の耳にすらも第零科を嘲笑する声が聞こえてくるぐらいである。特に貴族の家の学生などはその傾向が強い。


「でもよかったじゃないッスか! 国王軍から直接

、新品の量産機を支給されるなんて!」

「とはいえレンタルだ。改造の許可は出ていても、結局負ければ返さなきゃならんしな」

「......勝てますかね?」

「......勝てると思うか?」


 そもそも健太郎はいくら異世界から召喚された

者とはいえ、MCDに関しては素人である。そもそも、MCDパイロットになるにはまず学ばなければならない事が健太郎にはまだまだある。

 本来ならばパイロット科に入って一から学ぶべきなのだが、一ヶ月ではそんな時間も到底無い。


(くそっ、ヘリオス様はどうしてこんな無茶苦茶な条件を......やはり俺達みたいな落ちこぼれをバカにしてるのか?)


 テスカの頭の中にそんな考えがよぎる。そう考えるしかないような状況だ。確かにここは問題児の集まりだ。しかし、ここにいるメンバーは皆、情熱だけは他の科の生徒には負けていないとテスカは思っている(その情熱がありすぎてここに集められたのだが)。

 と、頭の中で悩むテスカの前に、ミーティングルームから出てきた、学園の制服に身を包んだ健太郎が現れた。後からディオーネもついてくる。


「健太郎? どうした。今日はディオーネと一緒にMCDの勉強じゃなかったのか」

「......ああ、うん。その事なんてすけど......」

「まさかもう全て理解したとかいうバカな事を言うんじゃないだろうな。普通の生徒は二年はみっちりと勉強してるんだぞ」

「......うん。まあ、結果的に言えば全部理解してました」

「......ッ!? な、にィ!?」


 第零科以外にオメテオトル魔導学園には魔法学、MCD工学の二つから派生し、MCD科の場合は第一MCDパイロット科、第一MCD技術科、第二MCDパイロット科、第二MCD技術科、第三MCDパイロット科、第三MCD技術科、そして第零MCD科がある。

 パイロット科、技術科と別れているが、パイロット科は文字通りMCDパイロットを育成する為の学科であり、技術科は技術スタッフを育成する科だ。

 パイロット科、技術科と別れてはいるが、この二つは総称して例えば第一なら《第一科》、第二なら《第二科》、第三なら《第三科》と呼ばれている(第零科だけは例外でパイロット科、技術科という風に別れておらず第零MCD科と呼ぶ)。

 科に関係なく、新入生は一年生から二年生までMCDの知識、操縦に関する知識を二年間で学ぶ。それが《普通》だ。


(なのに何故? しかも《理解していた》? 初めから? ......いや......)


 何故ヘリオスが一ヶ月などという無茶なリミットを出したのか。これで合点がいく。

 テスカは健太郎からディオーネとの《刻印》による情報の一部共有化の話を聞いていた。それによってこの世界の言語が解ると。《つまりはそういう事だ》。《刻印》による情報の一部共有化。つまり、《ディオーネの持つMCDの知識を健太郎は共有している》。しかもディオーネの持つMCDに関する知識となるとこの学園の生徒など比にならない。国王軍直属の技術スタッフにも匹敵する。その情報を一部とはいえ共有化しているとなるとたかだか学生が学ぶ二年分の知識など容易い事だろう。


(ヘリオス様はこの事を見越して......?)


 だとすれば、ヘリオスはこの《ゲーム》が成り立つと確信しているという事になる。

 まず第零科に必要なのは《実績》だ。今回のヘリオスから提案されてゲームはかなりのチャンスだ。後は健太郎が何処まで出来るかだが、歴代の異世界召喚された者達はMCDに関しては確かな実績を残してきた。ようやくテスカにも希望が見えてきた。


「知識はなんとかなったとして......後は操縦か......」


 ディオーネもMCDの操縦を出来なくもない。とはいえ、ディオーネの場合は重要な技術スタッフの一員だし、テスト時もデータ取りに専念すると言っていたし、テスカにとってもそちらの方がありがたいのでパイロットの経験が不足している。不足している情報を共有しても不足しているのは変わらない。


「......よし、じゃあ取りあえず動かしてみるか」


 機体の整備が終わると、今度は健太郎の操縦訓練が始まった。機体を実験場まで移送し、健太郎がコックピットに乗りこみ、機体を起動させる。

 健太郎が乗るのはヒュペリオン王国国王軍第九世代量産型MCD、《カリナス・カノープス》だ。

 量産型MCDはいくつかあるが、この《カリナス・カノープス》はその中でも最もバランスの良い機体とされている。

 また、第九世代MCD全ての基礎ともいえる機体だ。それ故に扱いやすく、パーツの幅も広く、他のMCDとの互換性も持ち合わせている。

 頭部カメラは両眼(ツインアイ)で、後はシンプルな人型のボディ。やや細身なのは《カリナス・カノープス》はここから追加装甲を装備する事を前提にしたMCDであり、本体そのものは《骨組み》とでも呼ぶべき状態だ。

 

「おおっ......!」


 MCD(ロボット)のコックピットの中に実際に入ってみると、健太郎は思わず声を漏らす。


(感動だ......今まではゲーム画面かせいぜいゲーセンの筐体ぐらいでしか見ることの出来なかったコックピットが、ついに現実に......!)


 全方位モニターに操縦捍その他諸々......コックピットのあらゆる場所をペタペタと触りまわり、それが一通り終わった後、改めて目的を思い出す。

 そのタイミングを見計らったかのようにコックピット内にホロパネルが表示された。画面から顔を覗かせているのはテスカだ。


『それじゃあ、まずはちょっと歩いてみてくれ。《知識》はあるから、やり方は解るな?』

「は、はいっ。何となく、動かし方とかは頭の中に浮かんでます」

「よし、じゃあ少し歩いてみろ」


 実験場は四方が全て装甲板に囲まれており、広さはサイズが全長十五メートル程あるMCDが多少は暴れまわれるぐらいはある。

 もし仮に何かミスをしてしまっても派手な被害になる事はない。

 コックピットの中から他の科の生徒が転入生の実力はどんなもんかと見学しにきているのが見えた。その顔に浮かぶ嘲笑すらもハッキリと。


(見てろよ......)


 まだこの学園に来て一日も経っていないが、この《第零科》が学園内でどんな風に思われているかは何となくは解った。その評価を吹き飛ばす為にもここはビシッと決めなければならない。

 健太郎はテスカの合図で《カリナス・カノープス》を動かした。


「うおおおおおおおおッ!」


 ――――次の瞬間、《カリナス・カノープス》は実験場の装甲板に勢いよく激突し、大の字に倒れ、ゴツッ、メキッ、ぐしゃあっ、という音が響き渡ったと同時に、嘲笑と大爆笑の渦が実験場を包み込んだ。



 □□□



「なんでいきなりフルスロットルで壁に激突してんだ!?」


 笑いが収まり、他の科の生徒が去った後、《カリナス・カノープス》のコックピットから降りた健太郎を待っていたのはテスカによるツッコミだった。

 テスカを除く技術スタッフ達はやや笑っていた。


「まったく、何を考えているんだ」

「いや、そのちょ―――っとだけ出力をミスったといいますかなんというか......」

「はぁ......この先が思いやられるな......」

「まぁまぁチーフ」

「今のは結構面白かったですよ」

「いやぁ、久々に良い物を見せてもらった」

「お前ら......第零科の運命がかかってるんだぞ......?」


 技術スタッフの危機感の薄さに危機感を抱きながらも、健太郎はいくら知識があるとはいえ今日がMCDの操縦は初めてである。これぐらいの事で責めても仕方がない。

 そもそもよく考えてみれば健太郎には《知識》はあっても《理解》しているわけではないのだ。むしろ、壁に激突したとはいえ直進させただけでも誉めるべきだろう。


「うーん......なんというか、まだあの操縦捍に慣れないんですよね......」

「そりゃそうだろ。まだ一回乗っただけなんだからな」

「でもせっかくロボットに乗ったんだから操縦捍を使いたいけど、今回は状況が状況だし......」

「じゃあ、何か健太郎なりに使いやすくて、使い慣れてて制御がきく物、何か無いんスか?」

「使いやすくて、使い慣れてて制御がきく物......あっ」


 しばらく思案した健太郎は突如何かを閃いたように《ミーティングルーム》にへと駆け出していった。一体何事だとテスカやハルト達、技術スタッフの面々が呆気に取られている間に戻ってきた健太郎の手には黒い板のような物が握られていた。何やらスティックのような物やボタンがいくつか付いてあるそれは今までテスカ達が見たことの無い物だ。健太郎が自分の世界から持ち込んできた物なのだろう。


「健太郎......なんだ、それは」


 テスカが皆を代表して健太郎に問う。

 対する健太郎はニヤリと勝利を確信したような笑みを浮かべていた。


「これぞ俺の秘密兵器―――《アケコン》だ!」

「あ、あけこん? なんだそれは」

「―――《アーケードスタイルコントローラー》。通称、《アケコン》。家庭用ゲーム機でアーケードゲームの雰囲気に近づける為に作られたコントローラーの事」


 と、テスカの疑問に淀みなく答えたのはディオーネだ。ハルトは目を丸くして耳打ちでディオーネに問う。


「ディオーネさん、知ってたんスか?」

「......健太郎との《刻印》による情報の一部共有」


 健太郎がディオーネの持つこの世界の情報を一部共有出来るのに対し、ディオーネも健太郎の持つ情報を一部共有出来る。とはいえ、言語以外に関しては完全にどうでもいい情報しかディオーネは共有出来ていないのだが。


「で、そのアケコン? がどうしたんだ」

「このアケコンは今まで俺と苦楽を共にしてきたいわば俺の魂......つまりこれこそが、俺の最も《使いやすくて、使い慣れてて制御がきく物》なんですよ! だからチーフ! この俺の魂のアケコンをMCDに組み込んでください! これさえあれば俺、絶対にそこらの学生なんかには負けない自信があります!」


 この自信は全国大会優勝からの物だけではなく、これまでの健太郎のゲーム経験によるものだ。伊達に長年ゲームセンターに通って全国大会優勝はしていない。

ゲーム関係になると無駄に情熱的になる健太郎の迫力にややテスカは苦笑する。


「まあ......お前が使いやすいならいいが......しかし、たったそれだけのボタンだと制御が追いつかないぞ?」


 問題はそこだ。いくら使いやすいとはいえ、MCDが制御出来なければ意味はない。たった四つのボタンと一つのスティックではMCDは到底制御しきれない。


「......細かい制御は私がする」

「なら、コックピットを複座式に変えなきゃならないッスね」

「あと、ボタンをどうやって使うかだな」

「出来るだけこの形を崩さないようにしないといけませんね」


 一つの突破口が見えれば後は溢れるように意見が出てきた。かくして、《アケコン対応型カリナス・カノープス》の開発が始まった。





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