表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第三章 最終決戦編
36/38

第五話 次元の穴

 デミウルゴスの巨体は街の上空に出現した。

 黒炎と共に現れたそれはまさに絶望の象徴といえるものだった。


「早々におでましか」

「焦るなよ」

「わかってるぜ。それぐらい」


 リヒトとアイリスは互いに連携をとりあい、ここから更に激化するであろう戦闘に備えていた。

 デミウルゴスから巨大な閃光が放たれる。ヘリオスが駆るアポロンはその閃光の前に先回りし、太陽の魔法による防御壁を構築する。

 山をも消し去るその一撃を受け止め、そして別方向に弾き飛ばした。

 古代における聖戦がいまここで、再現されてた。


 エルナとライトは進む。自分たちに出来ることはヘリオスが戦いに集中できるようにその露払いをすることだ。

 と、エルナがあるものを捉えた。

 蠍だ。

 黒い、蠍。

 数秒遅れてライトが気づく。


「あれは......!」

「ヴァイスか!」


 ――カトル・シャウラサードスコーピオン。

 更に改良が加えられたのか背中のシザーは合計四つに増えており、大型スラスターも増設されている。

 それは真っ直ぐにこちらに向かっていた。


「あァ⁉ なんだお前らか!」

「ヴァイス!」


 カトル・シャウラとサードスコーピオンが激突する。二本のレイピアといつの間にか装備していたサードスコーピオンのブレードの間に火花が散る。


「お前らよりも俺はあの黒いのと決着をつけにきたんだよ! 邪魔するんじゃねぇ!」

「いかせるわけないでしょ!」


 いくら出力を上昇させたとはいえ、相手も更なる改修が加えられている。

 強大なパワーに弾き飛ばされる形でエルナのカトル・シャウラが後ろにはじけ飛んだ。地面を滑走しながらも体勢を整えて、背中のバックパックに装備された機関銃を連射する。

 それをサードスコーピオンはシザーに新たに搭載された<魔力盾マジックシールド>によって攻撃を遮断。銃弾は一発たりとも届いてはいない。


「ハッ! お前じゃ俺の相手は無理だ!」

「そうね。私一人だったらね」


 言うと。

 サードスコーピオンの背後に現れた<オリオン・リゲル>がサーベルで斬りかかった。ヴァイスも咄嗟に反応するも、<オーロラ・マナ>によって加速力を得た<オリオン・リゲル>の一撃の方が早く、四基あるシザーの内の一機を破壊することに成功する。

 爆発に煽られてサードスコーピオンが大きく後退し、カトル・シャウラとオリオン・リゲルの二機が並び立つ。

「......おもしれぇ!」


 □□□


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アルティメイトギアの竜巻のような一撃が敵部隊を薙ぎ払う。エネルギー消費量は大きいものの、事前にチャージしておいた小型のエネルギーパックが数機装備されているので長期戦は可能だ。

 あの<インフィニティマナドライヴ>のモードが使えればエネルギー問題を気にする必要はないものの、上手く発動することができないので仕方がない。

 フレアはハゴコロの刃を全身に展開し、敵を切り刻みながらヘリオスとデミウルゴスの戦いにも視線を移す。

 デミウルゴスが攻撃を放ち、アポロンがそれを防ぐ。かと思いきや、今度はアポロンが攻撃を放ち、デミウルゴスがそれを防ぐ。

 その繰り返しだった。

 そうしている間にも敵は次々と現れる。

 健太郎たちはそれらを斬り裂き、薙ぎ払い、迎撃していく。


 アポロンとデミウルゴスの戦いは熾烈を極めていた。性能はほぼ互角。あとはパイロットの腕しだい。

 だが、その点においてはヘリオスが優勢に働いているように見えた。

 事実、僅かではあるがヘリオスが圧しているように見えた。

 デミウルゴスは舌打ちしつつ、次々に黒炎を放つ。だが、それらはすべてかわされるか防がれるかのどちらかで決定打が与えられない。

 しかし、決定打が与えられないというのはヘリオスにしても同じであった。更に付け加えるならばこの場においてデミウルゴスを倒せるのはアポロンだけである。

 考えるうちに行動を起こしたのはヘリオスの方だった。アポロンは右手に炎の剣を構成すると、一気に斬りかかってきた。それに対抗すべく黒炎を纏ったレーザーやミサイルを一斉にフルバーストで放つ。

 だが、アポロンはそれらを紙一重で回避し、または炎のシールドで防ぐことで距離を詰めていく。

 突破される。

 そう感じたデミウルゴスは左手に同じように黒炎の剣を構築し、アポロンの剣と激突する。

 大きさや長さは目に見えて違う。

 だが、威力はほぼ互角だった。

 バチバチとスパークが迸り、戦場を覆う。

 大地が裂け、砕け、二機を中心として放射状に広がっていく。

 いったいどうやって決着をつけるつもりなのか。

 前回の戦いではアポロンがデミウルゴスを封印して決着がついたときく。それもアポロンの決死の特攻の結果であり、ようはこの二機では決着はつかないということだ。

 だからこそ、破壊ではなく封印という手段をとったのだ。

 しかし、今は封印に対する耐性がついている。そういうプログラムをダイダロスが組んだ。

 では。

 どうやって決着をつけるのだろうか。

 頭の中で思考を巡らせるダイダロスはふと気づく。コクピット内の計器に目を走らせると、周囲......否、アポロンとデミウルゴスの間の魔力濃度が上昇している。

 アポロンとデミウルゴスの持つドライヴが互いに共鳴し、惹かれあい、そして次元の穴が構成されてゆく。

 空に亀裂が走り、砕け、内部が濁った穴が生まれた。

 中は落雷がおきているのようなスパークが迸っており、まるで――魔法があるこの世界にいる者でさえ――異常な光景に見えた。


「な、なんなんだアレ!?」


 健太郎が叫ぶ。そしてディオーネは空に広がる光景に見覚えがあった。遠い過去の記憶の中にあった。

 顔が浮かぶ。幼少の頃の自分に実験を施した人物の顔。


「......次元の穴」

「次元の、穴?」

「異界を繋ぐ扉......召喚の為に必要な、扉......あの穴の研究を、あの人はしていた......」


 召喚。つまり、健太郎がこの世界にやってきた時に通過したあの光。

 あれと同種のものがあの空の亀裂。


「あの人? あの人って......誰だよ?」

「ダイダ、ロス......私、知ってる。あの人を、知っていた......!」


 過去の記憶がフラッシュバックする。ダイダロスに操作された、書き換えられた記憶が蘇る。

 幼少の頃。

 自分に人体実験を施して次元の穴の研究をしていたのはダイダロスだった。

 その被験体にディオーネが選ばれたのも、次元の穴をコントロールする素質があったから。だからこそ、ディオーネは健太郎を異世界から召喚することが出来た。

 そして、ダイダロスがヘリオスの元に留まっていたのは王家に伝わる召喚魔法の研究。異界を繋ぐための次元の穴の研究の為。


「つまり、要するに?」


 健太郎は視線を空に移す。互いの機体は剣を激突されたまま動かない。


「結局、今回の事だけじゃなくてなにからなにまで全部あいつが黒幕だったってことかよ......!」


 ビキビキと音をたてながら空が砕けてゆく。その下、地上での戦いも激化していた。

 だが、それ以上に伝説の二機の戦いも終盤に入りつつある。

 そのことをなんとなくだが、健太郎は感じていた。

 次で動く。

 そう感じた瞬間、アポロンの機体全体から強大な炎が迸った。それはデミウルゴスの巨体を覆い、包んでゆく。


「! ヘリオス、貴様!」

「気づいたか?」


 ニヤリとヘリオスが笑みを浮かべる。

 それは、巨大な炎の巨人。巨大なアポロンだった。それはデミウルゴスを包み込み、次元に穴へと引き込んでいく。ダイダロスはその瞬間、ヘリオスの狙いに気付く。


「封印が不可能ならば、次元の狭間で一緒に心中しようか......永遠にな」

「貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 引き込まれる。そう思った瞬間にはもう遅かった。強制的に押し込まれる、という方が正しいだろうか。デミウルゴスはもがきながら必死に抗う。だが、まさに命懸けともいうべき最後の炎を燃やしながら巨大な悪魔を次元の穴、永久の棺桶へと引きずり込む。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 黒い炎と赤い炎が絡み合う。

 それらは次元の穴へと吸い込まれ、そして――――消えた。空に広がった亀裂は綺麗に消滅して、訪れたのは呆気ない幕切れ。

 後に残ったのはただ、それだけだった。

 戦闘はまだ続いている。止まらない。互いの将が消えても、それだけが変わらなかった。


「ヘリオス様......」

 フレアが呆然と呟く。

 直後。

 ――空に黒い炎が燃え上がった。

「!」

 驚愕のあまり目を見開く。デミウルゴスの巨体は見えない。だが、あの黒い炎は確かにデミウルゴスのものだ。

 その時、空いっぱいに盛大な高笑いがひろがった。

「ダイダロス......!」

 健太郎が言う。

 直後に、黒い炎の中心に一機のMCDが姿を現した。それは通常サイズの機体で、シルエットはどこかデミウルゴスに似ている。デミウルゴスを通常サイズの人型に洗練すればこんな姿になるのだろう。

 腹部、両手の魔導砲は健在で、赤く光るツインアイがギロリとオリオン・ベテルギウスを睨みつけていた。

「いやぁ、危ない所でしたよ。まさか心中策をとってくるとはね。ダブルユニットシステムを新たに搭載していなければ危ない所でしたよ」

 ニヤリ、と。

 まるで今はここにいないヘリオスに対してお返しだとでもいうように歪な笑みを見せた。

「ダブルユニットシステム......? まさか、デミウルゴスの巨体は外装? いや、外装にした? あの巨体を身代りにして......逃れた、の?」

「なんだよそれ......それじゃあ、ヘリオス様は......」

「無駄死に、というわけですねぇ」

 新たに出現したデミウルゴスの背には<古代魔力炉エンシェントマナドライヴが搭載されていた。黒いオーロラマナを纏い、天に君臨していた。

 アレに対抗できるのは、恐らく同じ<古代魔力炉エンシェントマナドライヴ>を持つ機体だけだろう。

「さて」

 言うと。

 デミウルゴスは動いた。

 フッと黒い炎だけをそこに残して、悪魔が消える。

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。そして結果が現れる。

 <オリオン・ベテルギウス>が知らせる。その反応が示す方向に機体を向けると、そこに広がっていたのは――、


 □□□


 カトル・シャウラ、オリオン・リゲルとサードスコーピオンの戦闘は熾烈を極めていた。サードスコーピオンは二機のシザーを失い、機体の所々にダメージを受けている。

 だがエレナたちもタダではすまなかった。

 機体のところどころにダメージが見られる。

「ハハハハハハハ! 楽しいじゃねぇかオイ!」

「くっ......! あんた、本ッ当に狂ってるわね......!」

 その時。

 黒い炎が三機の周囲を覆った。

「なんだ?」

 ライトが呟くと同時に、ぐしゃり。という音が響く。

「......!」

 デミウルゴスの右腕が、オリオン・リゲルの背部に喰いこんでいた。無残にもパーツが砕け、崩壊している。だがその右手はしっかりとドライヴを掴んでいた。

「ぐ、う?」

「頂きますよ。それは君如きが持つにはとても惜しい代物だ」

 バキバキという音を立てながら、赤や青のコードと共にドライヴが抜き取られた。それはまるで悪魔が人の心臓を抜き取っているようにも見えた。抜き取る際に火花がまるで鮮血の迸っている。

 そのまま純白の機体はくぐもった音をたてて地に倒れ伏す。

「ら、ライトさん!」

「さて、と」

 ドライヴを片手に再び悪魔が消える。気が付けばこの場にいる誰よりも高い位置に悪魔が出現し、右手のドライヴが黒い炎に包まれた。かと思うと、黒い炎に溶けたドライヴはデミウルゴスの胸部に吸い込まれるように消える。

 次の瞬間に、黒い炎が更に力強さを増して燃え上がった。

 その状況に<オリオン・ベテルギウス>が怒りを露わにするかのように魔力の出力を上げる。

「あと、一つ」

「ダイダロス......! お前......ッ!」

「さぁて、そのドライヴも頂きましょうか」


 デミウルゴスとオリオン・ベテルギウス。

 二機のMCDに搭載されたドライヴが共鳴し、インフィニティマナドライヴが発動したことで無限の魔力が溢れだした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ