第二話 決戦準備
このまま撤退したデミウルゴスを破壊する為に、急きょとして追撃チームを結成することとなった。だが、襲撃直後で都市機能も麻痺している。しかし、それでもやらなければならなかった。
「奴はデミウルゴスをあのままにしておくはずがない。恐らく足りない分の心臓を何かしらの方法で埋めてくるはずだ」
ヘリオスは急遽設けられた技術開発用テントにて、開発チームのリーダーに呟いた。開発チームのリーダーもそれを理解している。
「あれだけの怪物を蘇らせることが出来るのです。それ相応の技術はあるでしょうしね」
「作業の方はどれぐらいかかる?」
「そうですね。突貫で五日ぐらいでしょうか」
「そうか。頼む」
「ええ」
言うと、開発チームのリーダーは手元にあるMCDの強化プランが記録された端末を見る。そこに表示されていたのは<オリオン・ベテルギウス>の強化プランだ。
<古代魔力炉>には三種類の特殊装甲技術が記録されていた。だがここにある新たな開発プランはこの時代の技術を使用して新たに生み出すものである。
相手はデミウルゴス一機だけではない。まだ海賊RBは戦力を温存しているに違いなく、対するこちらの残存する戦力は僅か。
つまり、十機程度の数で大軍に挑まなければならない。相手は大多数の戦力だ。個人の一人一人のレベルを上げる必要がある。パイロットの実力を今すぐに上げるのは難しい。ならばあとは機体の性能を上げるしかない。
最終決戦用装備の開発。
「とはいっても今出来るのは強化された追加装甲を施して武器を持たせるぐらいしかないですけどね」
「仕方があるまい。今のこの状況じゃあな。他の機体は?」
「物資から見てもコイツと同じですよ。追加武装が精いっぱいですよ」
「これが最後の戦いになる。持ちうる限りの資材や装備を存分に使え、使い切るぐらいに」
「承知しました」
「そうか。それで、だ。人手は足りているのか?」
「? ええ、そりゃまあ」
「丁度、将来有望な技術スタッフたちがいるのだが、どうだ?」
ヘリオスが移す視線の先。
そこには幾人かの学生たちがいた。
問題児たちの集まり。第ゼロ科の学生たちが。
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追撃チームに選抜されたのは
健太郎とディオーネ、エルナ、フレア、ガルフォング、ライト・アバンズ、ヴァン・リヒトライド、アイリス・ローエングリン、ギル・ノーラン、そしてヘリオス。
計十人。
つまりたった十機であの伝説の化物に挑まなければならない。
全ての護りを手薄にするわけにはいかない。よって、街の護りも必要になる。現在の都市の状況から考えてみてもこれが今出せる最大の撃墜チームだ。
「たった十機か。この人数で本当に大丈夫なのか?」
待機テントでそうぼやいたのはギル・ノーランである。
そこには今回の追撃チームのヘリオスを除いた全員がいた。
「なんだなんだお前。今更怖気づいたのか?」
「そうじゃない。が、実際不安にもなるだろう、この人数じゃ。それと、お前以外の勇者の子孫とやらはどうした?」
「この街の護衛だってよ。ここにも何があるか解らねェ。だから街を護るための強い戦力が必要だ。それに、この俺様がいればこのチームは十分だぜ」
自信をもっていうヴァンをアイリスが笑う。
「はっ。どうだかな。むしろ不安ぐらいしかないんじゃないか?」
「んだとぉ?」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見て健太郎はため息をつく。出発までは五日ほどあるといったけど、仮にもこれから伝説の化物を追撃するチームの雰囲気には見えない。
「大丈夫なんですかねぇ。これで」
「さあね。でも、どうせ戦いに行かなきゃならないんだから、むしろこれぐらいの雰囲気の方がリラックスできていいんじゃない?」
「そうかもしれないけどさ」
エルナのいう事ももっともだが、緊張感がなさすぎるのではないか、という考えは拭えない。今は各機体をデミウルゴスと闘うための決選用装備を製作中とのことだが、その間はパイロットである自分たちがただ待つことしかできないというのももどかしい。
「そろそろ到着する頃合いのようですね」
と、フレアが時計に視線を移すと呟いた。
――到着? 何が?
そう考える健太郎をよそに、外が少し騒がしくなっているのを耳にする。テントに出てみると地面に影が出来ていた。慌てて上を見上げてみると、そこにあったのは青空ではなく巨大な何かだった。
三角形のようなシルエットの巨大なそれを見て健太郎はポツリと言葉を口にする。
「戦、艦......?」
「そうです」
健太郎の言葉に応えたのはフレアだ。そしてエルナは自身の記憶の中にあるデータベースから眼前に広がる巨大な戦艦を思い出した。
「あれって......ノスタルジアで開発されてた長距離航行用移動ユニット?」
「はい。海賊たちが使っていた戦艦もどうやらあの<トライウィング>から盗んだデータを元に製造されたようです。しかしスピードに関してはこちらが上。これで、デミウルゴスを追います」
健太郎は改めて眼前に広がる巨大な戦艦に目を移し、最後の決戦が確かに迫りつつあるのだと改めて実感した。
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「調整の方はどうなっている?」
「は。順調でございます」
「そうか」
ダイダロスは技術者と言葉をかわすと目の前にある伝説の化物――デミウルゴスに視線を移す。静かに鎮座しているそれの背には、人工的に造られた二つのドライヴが装備され、着々と調整を始めていた。
「どれぐらいで済みそうだ?」
「恐らく一週間はかかるかと」
「ふむ。そうか」
現在、デミウルゴスが収納されているのは首都アポロンから遠く離れた、かつて一つの街があった場所だ。過去に起こった戦争の影響で街は破壊され、今では廃墟と化している。そこが海賊、RBのアジトとなっているのだ。
「仮にノスタルジアで研究されていたあの戦艦を使用していたとしてもここに来るには二日はかかる」
「しかし、奴らはこの場所を知らないのでは?」
「デミウルゴスとアポロは惹かれあっている。向こうもこちらの場所ぐらいは把握しているだろう」
相手の準備にどれだけの時間がかかるのかは解らない。
だがどちらにしても、デミウルゴスが完全体になったその瞬間から再びあの街へと赴き、今度こそアポロと決着をつけ、街にトドメをさすと決めている。
「<次元の穴>の研究は?」
「はい。どうやら<次元の穴>を開くには莫大な魔力が必要なようです。それも、特殊な魔力を持つMCD同士が激突しないと開かない、というぐらいしか解ってはおりませんが」
「それに関しては心配ないだろう。完全体となったデミウルゴスとアポロが激突した時こそ、それが開く。あるいは......」
覚醒を果たした<オリオン・ベテルギウス>と言う名の機体か。
「どちらにしても楽しみだよ」
ダイダロスは笑う。彼にも解っていた。
最後の戦いが近づいてきていることを。




