第二十話 初期の機体の方が強かったりする場合もある
首都アポロン北部。
均衡していた戦場のバランスも、一機の悪魔の出現によって崩れつつあった。存在しただけで、兵たちの心に絶望が植えつけられる。均衡していたバランスも脆く、ついには崩れ去る。海賊たちの攻撃がより一層、激しさを増した。
ここの防衛網ももう限界だ。
そんな時、空中から一筋の閃光が舞い降りる。
それは的確にカトレアを撃ちぬき、爆散させていく。一つ、また一つと。舞い降りる閃光は次々とこの国を脅かそうとしている者たちを裁くかのように敵を薙ぎ払っていく。
兵たちはその閃光の発射源を見た。
そこに在ったのは――人型のシルエット。背中には鳥のような翼をもち、手にはくの字に折れ曲がったブーメランのような刃がついた長距離狙撃銃。
背中の翼のようなものはブースターで、逆光のせいか黒く見えたその機体そのものは黒色の鋭角的なフォルムをしている。体中には動力パイプのようなチューブが所々に張り巡らされている。
クレーエ・アルカウス。
それが、この機体の名だった。
機体は地上からの攻撃を気にも留めず、ただ優雅にその翼を動かすことで次々とその攻撃を回避していく。そして一点の隙を見つけて再びライフルから閃光を放つ。
次に、胸部装甲が開き、その中からガトリング砲の砲身が展開される。地上の海賊たちがぎょっ、としたのもつかの間。その瞬間に、スナイパーライフルも含めた銃火器の一斉射撃が始まった。
大量に侵攻していたカトレアの部隊が殲滅されてゆく。
後に残ったのは、ただの残骸だけだった。
その様子を見ながら、翼をもった機体はそのまま空中を飛行しながらどこかへと飛び去った。あれは紛れもない、実用化がまだ完全になされていないというフライトユニット。
呆然とした兵たちは後に「勇者の子孫が援軍にやってきた」という情報を得て確信する。
あれも、あの機体も、その一つなのだろうと。
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変化は確かに起こっていた。それをダイダロスはハッキリと自覚する。視認する。
圧し返しかけた戦局も、既に王国側に再び圧倒されかけて......いや、これはもう完全に圧倒されている。
現れた勇者たちの子孫によって。
異世界召喚によってこの世界に召喚された勇者たち。彼らは最後までこの世界で生き、死んでいった。常に歴史の節目に現れてはその度にこの世界を救ってきた。
その勇者たちの血と意志を受け継いだ者たち。
「ちぃっ。まさか、こんな所まで勇者たちに邪魔されるとは......」
ダイダロスでさえ知りえなかった。勇者間召喚魔法。それを発動したのがヘリオスだと言うのならば、つまり、彼女は。
その時だった。
この街の地下から、巨大なエネルギー反応が現れたのは。
「っ!」
同時に都市機能が一気にダウンする。街中のエネルギー供給がストップし、次に地盤が揺れた。城の敷地内。円形の広場が崩れ去り、紅い何かが飛び出してきた。
巨大な灼熱のエネルギーの塊が、デミウルゴスの前に立ちはだかる。
全長約十五メートルの機体のボディカラーは白と赤。
背中には八本の剣のようなウイングが展開している。そこから紅蓮の――太陽のようなエネルギーが円形に迸るように放たれている。
両眼の瞳が赤く輝き、デミウルゴスを睨むように威圧感を放っていた。
「これは......」
ダイダロスが呟く。同時に、デミウルゴスのコクピット内部が反応を見せた。強奪した<古代魔力炉>が反応を見せるようにして輝きを放つ。デミウルゴスという古代機体が、目の前の太陽のようなMCDを警戒しているのだ。
「まさか......その機体は......!」
ダイダロスは知っていた。自身の目の前に立ちはだかるその機体の名を。
――アポロン。
第一世代MCDアポロン。
かつてこの世界を救った勇者が搭乗していたとされている伝説の機体。
「それが現れたということは、貴女が動き出したということですか」
ダイダロスは言う。
彼はあの機体に誰が乗っているのかを知っていた。
九百年の時を生きる程の寿命と魔力を持つ、彼の知る限りの最高最強の存在にしてこの国の王。
「ヘリオス様」
轟!! と、アポロンの背中の太陽から炎が迸る。それは同時に街中に放たれ、海賊の機体のみを焼き払う。一撃で、街中の脅威を殲滅してしまった。太陽の魔法に焼き尽くされた海賊たちの機体は一遍も残っていない。
アポロンの両眼が光る。
そして今度は、太陽の魔法がデミウルゴスの方へと向けられた。灼熱の炎がデミウルゴスを襲う。それを黒い炎で迎撃する。
紅蓮の炎と漆黒の炎。
両者の激突はこの世界中の大気を揺らした。
□□□
「あれは......あの機体は?」
地上では、残存する部隊が空中での二つの伝説級の機体の対決を傍観していた。どちらも既存する機体のパワーを遥かに上回っている。
「......ヘリオス様の機体」
静かに呟くディオーネに健太郎は驚愕する。
「ヘリオス様の!?」
「あの機体はこの街中にエネルギーを供給する為に地下に封印されていた......<無限魔力炉>搭載機」
「それって......!」
ディオーネは静かに頷く。健太郎の中にある予想を肯定するかのように。
「ヘリオス様は......この世界に初めて召喚された勇者。MCDはもともと、ヘリオス様が開発したもの」
街中で戦闘を行っていた兵も、そして勇者の子孫たちも、この伝説の二機の戦闘を眺める。
それはまさに、古代に繰り広げられた聖戦の再現のように思えた。
アポロンが炎を振るう。それをデミウルゴスが黒い炎で迎撃し、肩から黒い炎を纏ったミサイルや腕から多段の閃光を放つ。アポロンは飛翔し、高速の速さで旋回する。ミサイルや閃光はそれを追いかける。あるタイミングで振り返ったアポロンが右手のライフルを連射し、それらを全て撃ち落とす。
パワーは完全にアポロンが圧倒していた。
三つ揃ってこそ真の力を発揮するデミウルゴス。過去にはそれら全て揃ってもなお、アポロンと引き分けた。
「やはり今のままでは勝てません、か......成程」
デミウルゴスが機体の角度を傾ける。腹部の一つの山をも消飛ばす威力の大型砲を首都へと向けた。
「っ!」
街中に戦慄が走る。
腹部の大型砲にエネルギーが迸る。
「やはりこちらを狙わせてもらいましょうかねぇ!」
閃光が、放たれた。
山をも消飛ばす一撃。直撃はこの街の消滅を意味する。
だが、気が付いた時にはもう、目の前にアポロンが回り込んでいた。太陽の魔法による防壁を張り巡らせ、街への攻撃を完全にシャットアウトする。爆発が巻き起こる。視界が真っ白になる。巨大な轟音が辺りに響き渡り、街周辺の大地が裂け、崩壊してゆく。
「うおっ!?」
コクピット内部にも衝撃は伝わってきた。周囲の何機かが衝撃に負けてバランスを崩していく。だが、これだけでは終わらなかった。
デミウルゴスは肩のミサイルと腕の魔導砲が一斉に放たれる。爆発は次々と起こり、太陽の魔法の障壁によって放たれる。だがこの間にデミウルゴスは上昇していく。
ダイダロスは街を護ることに徹しているヘリオスを見下ろしながら呟く。
「貴女の弱点は女王としての義務。その街、世界こそが貴方の弱点だ」
こうして史上最悪の太陽祭は終結した。
だが、世界を駆けた決戦はここから始まる。
こっちに改訂版を移して二章も書き直すか?
次から新章です。




