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異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第二章 太陽祭編
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第十九話 共同作業です

 〈オリオン・ベテルギウス〉の右拳が、確かに〈カトル・セカンド〉を捉えた。その瞬間、機体に伝わってくる衝撃に健太郎は確かにこの戦いが......自らの命を懸けて行われているものだと実感する。だが、目の前の男は、ヴァイス・サターンはそれを知りながらもなお、ゲーム感覚で人を殺している。

 人殺しというゲームにおいて、〈楽しいか楽しくないか〉。

 彼が求めているのはそれだけだ。

 健太郎は確かにゲーム知識で戦っている。ゲーム技術で戦っている。だが、この戦いそのものとゲームだとは思わない。王国の者たちも......そして、その思想に理解は出来ないだろうが海賊たちですら、自らの命を懸けて戦っている。


「ゲーム感覚っつーのならよ、お前はまだまだ勉強不足だぜ。wikiでも見て出直してこい」


 一歩、踏み出す。そして、加速する。今の〈オリオン・ベテルギウス〉は通常のMCDではありえない程のパワーを発揮している。

 ディオーネは驚愕していた。あまり表情を変えることのない彼女だが、今においてはそれも当てはまらなかった。それは表情においてはほんのわずかな変化だったが、だが彼女の心の中は驚きで満ちていた。

 健太郎のこの成長速度と、このドライヴのパワーに。

 かつてエルナはヴァイスと戦った場合、健太郎とディオーネでは勝てないと言い切った。確かにあの時点で――もっと言えばついさっきまでならば健太郎の技術でも勝てなかっただろう。だが、皮肉にもこの街でのいくつもの戦闘が、健太郎を加速的に成長させた。

 健太郎は加速魔法を使って脳の信号を加速させ、結果的に反応速度・操作速度を加速させている。だが脳の動きを加速させるということがどうやら〈学習〉という行為すらも加速させてしまったらしい。勿論、本来ならば不可能だ。だがこの命を懸けた極限の状況下で、極限までの集中力を発揮した健太郎に結果的にそのような現象をもたらしてしまったようだ。

 本人の素質もあったのだろうが、ヴァイスと戦うまでに繰り返してきた戦闘によって、驚異的なスピードで学習と成長を繰り返すことになり、健太郎はこの短時間で飛躍的に成長した。ヴァイスを圧倒出来る程に。

 そして、もう一つ。

 この〈古代魔力融合炉エンシェント・マナドライヴ〉については未だ謎が多い。だがしかし、今、機体が引き出している出力パワーは想定されていたものを大きく上回っている。数値で言えば十倍以上、だろうか。

 健太郎の心に呼応するように、確かに機体のパワーは格段に上昇している。先程までエネルギー切れ間近だったのに、それがなかったかのようにエネルギーは全快し......いや、全快どころか〈上回っている〉。そして、機体を普段から制御にほぼ徹しているディオーネだからこそ解る。確かに機体のパワーはすさまじい。だが、こんなものではないはずだと、彼女は思っていた。

 恐らく〈古代魔力融合炉エンシェント・マナドライヴ〉の力を引き出す鍵は〈人の心〉。健太郎のヴァイスに対する怒りといった感情の高ぶりがこの機体の秘められた力を引き出した。

 だが、この力を完全(・・)に引き出せてはいない。

 この力は更に進化する。無限の力を引き出す可能性を秘めている。だがそれが引き出せない。それが引き出せれば、ヴァイスだって倒せるのに。

 ――なぜ?

 その答えはすぐに出た。

 ――私の、せい?

 ディオーネは自分の、いや、人間の心というものが解らない。解らなくなってしまった。

 思い出すのは幼少の頃の記憶。〈古代魔力融合炉エンシェント・マナドライヴ〉の謎を解くために、謎に包まれたままのドライヴのブラックボックスそのものを直接、脳内に刻み込まれた。その時の後遺症で人としての感情が希薄になった。

 感情。

 想い。

 思い。

 心。

 人としての――心。

 それがこの機体の力を引き出している。だが、二人で操るこの機体の真の力を引き出すにはディオーネの持つ〈心〉が必要だ。

 だが、実験によって感情が希薄になってしまった彼女ではそれも難しい。ならばいっそのこと、自分がこの機体から降りてしまえばいいのではないか。そんな考えがふと脳裏を過る。


 ――私は、必要とされていない?


 優勢である今の状況とは裏腹に、ディオーネの心は沈んでいく。健太郎の急すぎる成長が、皮肉にもディオーネの心を乱していた。もう健太郎は自分を必要としていないのではないか。少し前のディオーネならばこれだけで動揺はしなかっただろう。自分が必要とされなくなったらなったで黙ってそれを受け入れるだろう。だが、今は違う。何故か、自分の心が健太郎と一緒にいられないことを拒んでいるようにも思えた。いや、実際に拒んでいた。それは、一緒にいられなくなるのは嫌だと思った。

 機体の光が沈んでいく。ディオーネの心のように。


「いくぜ、ディオーネ」


 だが、そんなディオーネの考えを振り払うかのように、健太郎の声がディオーネを優しく包み込む。

 自分の自身の存在の肯定。

 健太郎は自分を必要としてくれている。

 そう、思えるようになった。


「――うん」


 頷く。もう、迷いはない。

 その時、二人の想いは重なった。

 再び機体からより一層の光が迸る。


 二人の想いが重なったことで無限のエネルギーを得た〈オリオン・ベテルギウス〉は今、覚醒した。


『イイねェ......イイよォ! 最ッッッ高だぜお前らァァァァァァ!』


 〈カトル・セカンド〉が大地を疾走する。背中の大型クローを全て推力に回し、ヴァイスの咆哮と共に、両手の剣爪ブレードクローに〈魔力盾マジックシールド〉を展開。合計十本の巨大な光の爪が広がった。先程とは比べものにならないぐらいのスピードに加え、リーチも広がった。リーチという点だけでは〈オリオン・ベテルギウス〉を大きく上回っている。

 〈カトル・セカンド〉が腕を振るう。〈オリオン・ベテルギウス〉はバックしながら加速する。するとすぐそばの地面が大きく抉れた。


「っ! 速い!」

『ホラホラホラァ! もっと俺を楽しませてくれよッッッ!!』


 まるで竜巻のように〈カトル・セカンド〉の周囲に触れるもの全てが破壊されていく。あの巨大な光の爪が展開されたことにより、リーチが一気に五、六倍は増えた。初めからそれを使わなかったということはあの技はエネルギー消費が大きいということ。

 いくらドライヴまるまる一つを使っていると言っても、あくまでもエネルギーは有限だ。時間はそう限られていないはず。下がって時間を稼ぐか。健太郎はそんなことを考えたが、その瞬間に光の爪が斬撃を飛ばしてきた。


「っ!」


 いきなり襲い掛かる光の刃。だが、今の健太郎とディオーネには見えていた。

 無限のエネルギーを得たオーロラを纏い、刃を防ぐ。機体のパワーは既に比べものにならない。光の刃は連続して飛んでくる。

 だが、かといって、油断は出来ない。あの光の刃の竜巻に不用意に近づけば一瞬で殺られる。このオーロラもあくまでも装甲から引き出されているものであって、関節部を狙われれば簡単に突破される。それで恐らく二号機は敗北したのだろう。


「けんたろー......私なら、見える。あの光の刃の軌道が。私がポイントを合わせる。だから」

「わかった。それなら俺が、あの刃を受け止める。ディオーネを、信じるよ」

「......うん。ありがとう」


 この状況下でも、二人の心は穏やかだった。負ける気が一切しない。あの悪魔を止めることが出来る。そんな確信と自信に満ち溢れていた。

 機体を加速させる。前面にオーロラを纏い、光の刃を防ぎ、接近していく。実際に近づいてみるとその光の刃の嵐はまるで機体の腕が何本もあるかのように見えた。両手にダガーを展開し、神々しい輝きを放つ〈極光魔力オーロラマナ〉を纏う。


「......っ」


 ディオーネは今、かつてない程までに集中していた。光の刃の軌道を見る、見切る。そして、スローモーションのように流れる時の中、瞬時に機体のコックピット内のディスプレイにポイントを転送・表示させる。次は、健太郎が加速の魔法によって一瞬の内に表示された攻撃ポイントに向かってコマンドを実行する。

 ほんの一瞬。

 刹那の瞬間。

 二人の心は完全にシンクロし、完璧な反撃を生み出した。

 両手のダガーは、あの竜巻のように荒れ狂う〈カトル・セカンド〉の爪を確かに捉え、そして――切断した。

 ヴァイスからすれば何が起こったのか解らなかっただろう。突然、見切るのは不可能と思われていたスピードの攻撃を見切り、そして武器を切断された。


『なッ......!』


 本来ならば防御用であるシールドのエネルギーをそのまま攻撃に転用した高出力の爪剣ブレードクロー。いうなれば、盾を切断されたようなもので、それほどのエネルギーを今、相手は纏っているのだ。背中の大型クローは推進力にまわしていたのでガードは間に合わない。


(なら――――)


 ヴァイスの思考は、先程の追い詰められたエルナとそっくりだった。


「――尾、だろ?」

『っ!』


 その考えも完全に読まれていた。背後の尾を振るう。だがそれも一瞬にして切断された。機体の反応速度、駆動速度も今となっては段違いに上がっている。もはやヴァイスに捉えられるほどのものではなくなった。


(これが......伝説の〈古代魔力融合炉エンシェント・マナドライヴ〉の力だってのかよ!?)


 次に、右腕ごと背中の大型クローも一つ破壊された。次に左腕。そして、その背中にある大型クローも。機体が損傷していく。かつてない程に。ヴァイス・サターンは追い詰められていた。


「終わりだ、ヴァイス・サターン......!」


 最後の一撃が放たれる。いや、放たれようとした。だがその瞬間、ドス黒い〈何か〉が真横から来るような気がした。背筋が凍る感覚。急いでその場から離れる。ヴァイスの目の前に――それこそ、先程まで機体オリオン・ベテルギウスがあったところに、赤黒い閃光が走った。

 その閃光は遠方まで伸びていく。

 それは街を分断するように大地を焼くと、その先にある、更に遠方にある山の大地を削り取った。同時に爆発が起きる。


「なっ......!?」


 健太郎は驚愕のあまり目を見開いた。

 先程まで景色としてそこにあった山が一つ......消滅している。あるのはただ、燃え盛る紅蓮の炎のみ。


「山が......消えた? 消し飛ばされた?」


 そして、その閃光の発射地点に視線をむける。


「っ!?」


 そこに存在していたのは、巨大な〈悪意〉の塊。

 全長百二十メートルの、MCDとしては規格外としか言いようのない巨大な人型のシルエット。

 両肩には巨大なミサイルランチャー。両腕には巨大な射撃系武装があり、胸部には巨大な砲門。恐らくあの砲門が先程、山を消飛ばしたものに違いない。

 ディオーネは頭の中にある刻み込まれたデータから、〈アレ〉がなんなのか解っていた。健太郎も、実際に見たことはないが、それがなんなのか、その悪意の塊が一体なんなのか、直感的に理解した。

 デミウルゴス。

 古代の世界を滅ぼしかけたと言われる悪魔。

 それが目覚め、この世界に現れたのだ。



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