第十八話 立ち回りって難しい
新連載の方が落ち着いてきたので、そろそろこの章のラストに向けて突っ走りたい(願望)。
〈カトル・シャウラ〉の残骸から二機のMCDは離れてゆく。戦局は既に王国側が圧しつつあった。このまま粘れば、恐らく海賊たちに勝てるかもしれない。だが、この健太郎とディオーネの目の前に立ちふさがる男――ヴァイス・サターンだけは止めなければならない。もしこの男を止めることは出来なければ戦局は再び海賊たちの方に流れるだろう。
二人の目の前に立ちふさがるのはそれほどの強さと凶悪性を秘めた男なのだ。
『その機体......あの時の灰色の機体と同じタイプみたいだなァ』
「灰色? 何のことだっ!?」
「まさか......二号機......もしかして、貴方が......!」
『二号機? あァ、そーだったのか。ありゃあ二号機だったのか。まあ、命令されたんでちょっと潰して鹵獲して、後は次元の穴だとか何とかにパイロットと機体諸共ポイしてやったんだけどよォ。アイツは全然、楽しくなかったぜ? 弱くて弱くて思わず欠伸が出ちまった。退屈でよォ。まあ、このパーティが始まってからは好き勝手やらせてもらったぜ? おかげでハイスコアたたき出しちまったよ。自己ベスト更新だ』
激突する二機のダガーと爪剣。〈カトル・セカンド〉の出力が次第に上昇し、〈オリオン・ベテルギウス〉のダガーが圧されはじめた。〈極光魔力〉に対抗出来る程のパワー。これはとても〈魔力融合炉〉一基だけで出るものではない。
『それで、お前らは俺を楽しませてくれるんだろォなァッ!?』
ついに均衡は崩れた。〈オリオン・ベテルギウス〉は弾き飛ばされたかのように近くの民家に激突する。その隙をついて〈カトル・セカンド〉は魔力盾から魔力の弾丸を直接的に放つ。
「がああああああああああああああ!」
機体を動かして回避することは不可能。
よって、〈極光布〉を前面に展開して障壁を造り、防御する。紫色の鮮やかなオーロラに光の矢が次々と突き刺さっては爆発していく。この圧倒的な出力を前にしてディオーネが呟く。
「......〈魔力融合炉〉を二基......いや、それ以上の数を使っている?」
「っ! そんなことが出来るのか!?」
本来ならば〈魔力融合炉〉を一つの機体に複数個使用することは不可能だ。従来までのプログラムでは一つの機体に複数のエネルギーを流し込み、それを同時に制御・操作させることは一人の人間の脳では不可能とされている。一度に二つの物事を同時に行い、考えようとするようなものだ。その上、仮にそれが出来たとしてもそこから更に戦闘をこなさなければならない。
攻撃が止む。その隙をついて立ち上がるが、その瞬間には既に〈カトル・セカンド〉はもう目の前にいた。機体の蹴りを入れられて再び民家に激突する。コックピット内が大きく揺れる。
「ぐぅっ!」
ついに、背中の大型クローで両腕を捕縛される。機体の腕が悲鳴をあげていた。嫌な音が響く。
「......機体制御用のドライヴは一つ。他に小型化させたドライヴ〈一つをそのまま武器のエネルギー源としてのみ〉使用している。......あの大型クローと魔力盾一つにつきドライヴ一つをそのまま使っている? だからこのパワーが実現するのかもしれない」
「武器一つにつきドライヴ一つ? ということはあっちは一機で最低でもドライヴを五つも積んでるのか......かなり贅沢な機体だなオイ」
「ドライヴを小型化させて、機体そのものも極限まで軽量化させてる......防御はシールドで行えばいいし、機動力もあのドライヴ一つをそのまま使った大型クローで底上げすればいい」
「それに、単純に考えてスタミナも通常の機体の五倍か......機体を動かす為のパワーも強化系の魔法を使えば何とかなりそうだし......でも、それだとパイロットにかかる負担もそれなりになるんじゃ?」
健太郎の言葉にディオーネは肯定の意味をこめて頷く。
いくらドライヴを小型化し、武装にのみ使っているといっても、肝心の機体にかかる重量は増える。その分、機体が動くだけでもパワーが必要とされる。だが、この世界にある〈魔法〉ではそれをカバーすることが出来る。とはいえ、機体に魔法をかける際にはパイロットがその魔法を発動させる必要がある。
パイロットが発動させた魔法を機体の増幅器がMCDサイズに適用されるまで増幅する。そして、その魔法の内容は単純であればあるほどパイロットの負担が少ないが、逆に精密な制御を必要とされればされるほど、パイロットにも負担がかかる。
それ故に、実際にMCDにパイロットが魔法を使用して機体を強化するということはあまり行われていない。負担もそうだが、その分機体もかなりの魔力を消費する。武器のエネルギーも考えるとそこまで長期に持続させることは出来ないし、複雑な術式の魔法は増幅器では対応できない場合がある。
この〈カトル・セカンド〉は重量に耐えうる程に機体を魔法によって〈強化〉されている。
それはヴァイス自身の魔法であり、機体制御という精密な制御を要求される以上、負担もかかる。
「......つまり、長期戦闘は難しい」
「エルナの戦いも無駄じゃなかったってことか......けど、コイツももうそれなりに戦闘はしてきているはずだ。それなのに隙を微塵も見せない。スタミナ切れはまだ時間がかかりそうか。それに......」
〈カトル・セカンド〉の両手に光が集約されていく。
――撃ってくる。
どれだけ威力があろうが恐らく〈極光布〉なら防ぐことが出来る。
しかし、それにはエネルギー消費を伴うことになる。
健太郎は機体の残量エネルギーを確認する。もう二割弱しか残っていない。ここに来るまでにかなりの量の戦闘をこなしたのはヴァイスだけではなく、健太郎とディオーネも同じだった。
「エネルギー残量が、もう......!」
焦りが募る。だが、そんな健太郎に反してディオーネの声はあくまでも冷静だ。それが健太郎を落ち着かせる。
「けんたろー」
「わかってる」
選択肢は回避。〈極光布〉を盾にすることで既に体勢は整っている。〈カトル・セカンド〉の両手から巨大な光弾が放たれる。
「っ! おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
残りの〈極光魔力〉を振り絞り、無理やり機体を強化させて大型クローをギリギリのところで振り払う。
跳躍。
天を舞う〈オリオン・ベテルギウス〉。その直後に、少し前に機体があった場所が爆発した。紅蓮の炎を撒き散らし、その部分が消滅していた。そして、〈カトル・セカンド〉の照準は既に空中の〈オリオン・ベテルギウス〉を捉えていた。二撃目が放たれる。目の前から迫りくる光弾が襲う。
もうエネルギーの無駄使いは許されない。
機体を制御し、後方に宙返りをすることでかわす。
着地。
そのタイミングを狙って、今度はシールドから放たれたであろう大量の光の矢が襲い掛かってきた。だが、着地のタイミングで襲ってくるのは百も承知であり、機体を加速移動させて大地を疾走する。疾走したすぐ後の道が次々と爆発していく。
「着地のタイミングを狙うとか、弾数管理なんてな......基礎中の基礎なんだよっ!」
使っているコンソールは確かにアケコンという本来ならばゲームの為のものだ。機体制御だって本人の希望でこのような、ゲーム形式のものとなっている。だが、健太郎は〈目の前のヴァイス・サターンという男のように〉ゲーム気分で戦ってはいない。次々と関係のない人々の命を奪っていく目の前の悪魔に対して、実際に怒りを覚えていた。
だから健太郎は戦う。例え手段や知識はゲームから培ったものであっても、それらをフルに使い、目の前の悪魔を倒すために。
タイミングを見計らって再び跳躍する。高く、高く。勿論、その間にも〈カトル・セカンド〉の連射は続いている。だが、当たらない。ヴァイスの正確な射撃技術をもってしても、攻撃が一つたりとも当たらない。空中でも宙返りや加速移動、更にまるで行動を途中でキャンセルしたかのような動きをして、そこから新たなアクションに繋げるなど、この世界のものとは思えない動きを駆使して次々と攻撃をかわしている。
『っ!? 俺の攻撃が当たらねえ!?』
着地する〈オリオン・ベテルギウス〉。そこを狙って二基の大型クローを使用した光弾を放つ。着地直後に加速移動されてもいいように二方向同時に。だが、〈オリオン・ベテルギウス〉は着地を行わなかった。着地直前で見えない地面か何かを踏むようにして急ジャンプして二つの光弾を回避した。
(着地をずらした......!?)
ジャンプを利用して光弾を飛び越える。だが、〈カトル・セカンド〉は攻撃を放った直後であり、この一瞬の隙は――戦闘では致命的だ。先程のヴァイスとエルナの戦いのように。
「弾は無意味にバラ撒くし、着地ずらしにも簡単に引っかかる。フワステすら出来てねえし、ブースト管理もめちゃくちゃだ。それにな......」
『コイツ......ッ!』
「ハイスコア? 自己ベスト更新? 人の命をなんだと思ってるんだお前は......!」
右腕のアンカーを射出する。〈カトル・セカンド〉の右腕をしっかりと捕縛し、引きよせる。向こうは確かに五基のドライヴを積んでいるのかもしれない。だが、この〈古代魔力融合炉〉を持つ機体のパワーは通常の機体を圧倒的に上回っている。
健太郎の熱い思いに呼応するかのように、〈古代魔力融合炉〉からかつてない程のパワーが出現する。(オリオン・ベテルギウス〉の紫色の両眼から光が迸る。
五基分のドライヴのパワーを圧倒し、〈カトル・セカンド〉が宙に浮きながら〈オリオン・ベテルギウス〉のもとに引き寄せられていく。機体の全身から力強い、紫色の光が迸る。溢れんばかりのその光はやがて右拳に集約していく。
轟!! と、〈オリオン・ベテルギウス〉の両眼が紫色の光が唸るように輝きを増した。
健太郎の思いに応えるように、それは更に力強い輝きを増していく。
「この......ッ! ド素人が――――――――――――――――!」
〈オリオン・ベテルギウス〉の力強い紫色の輝きを纏った右拳が〈カトル・セカンド〉の頭部を捉え――――殴り飛ばした。
文章はやや少な目で更新頻度をあげようと思います。出来ればですが。




