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異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第二章 太陽祭編
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第十七話 ガチタンはロマン

 首都アポロン中央付近。

 ここは特に海賊たちの侵攻が激しかった。それもそのはずで、中央には城がある。つまりはこの国の中枢。だが、護衛隊も黙っているわけではない。ここにはシェルターも集中しているので、主力の防御特化系のMCDを多く配置していた。

 〈トパーズ・シルト〉。

 この黄土色の重装甲機はヒュペリオン王国が誇る完全防御特化型MCDだ。最大の特徴はエッジが鋭く研がれた大盾だ。この大盾には〈ノスタルジア〉で試作された〈魔力盾マジックシールド〉が搭載されており、物理、エネルギー、両方に耐性を持つ。更に本来武装搭載箇所にあたる部分ほぼ全てに追加装甲やエネルギーパックを搭載しており、機体としてのスタミナも高い。

 故に、長時間の拠点防衛にはもってこいの機体といえる。

 ただし、射撃系武装は肩にある牽制程度の機関銃しかない。

 確かに武装は極端だが、実はこの戦争において防御に回らざるを得ないヒュペリオン王国側を支えているのはこの〈トパーズ・シルト〉である。もし、この機体が開発されていなければ、あっという間にヒュペリオン王国は海賊たちに殲滅されていたのかもしれない。


「戦列を崩すな! 堪えろ!」


 十数機ある〈トパーズ・シルト〉の内の一機に、この小隊の隊長であるガルフォング・スタンクロイツは味方に指示を出しつつ、自身も敵の攻撃に必死に耐えていた。相手のカトレア集団はなかなかこのガルフォングの率いる小隊の壁が崩せずに苛立ちを感じているようだ。

 そこで、とうとう痺れを切らした二機のカトレアが〈トパーズ・シルト〉の部隊に特攻をしかける。相手に大した射撃武器がないから突破は楽なのだろうとふんだのかもしれない。

 だが、ガルフォングはその相手の)を見逃さなかった。いや、この時を、この瞬間を待っていた。ガルフォングの戦闘スタイルはいわゆる〈相手の隙を突く〉戦い方だ。大盾の向こうでいつも虎視眈々とチャンスを狙い、チャンスが訪れればそこを突く。それが彼の戦い方。そんな戦い方をするガルフォングが、こんなチャンスを見逃すはずもない。

 魔導銃マジック・ライフルを連射しながら突破しようとするカトレアに大盾を文字通り盾にしながらチャージをしかける。突然の行動に不意を突かれたカトレアはそのまま大盾にはじき出される。だがそれでは終わらない。


「ぬるいわッ!!」


 大盾が中央から二つに分離し、右腕、左腕に大型のブレードと化した盾が装着される。そのブレードの先端を容赦なくカトレアの内の一機に突き刺し、至近距離から肩部にある機関銃マシンガンを連射する。カトレアの装甲は曲形になっているが、流石に至近距離で連射されればひとたまりにもない。蜂の巣にされたカトレアは派手に爆散したかと思うと、ガルフォングの操る〈トパーズ・シルト〉は次の獲物を補足する。もう一機特攻を仕掛けてくるカトレアに対して、分離していた大盾を再び合体させ、チャージをしかける。

 〈トパーズ・シルト〉の動きは確かに遅い。だが、敵の機動力と自身の機体のスペックを理解し、計算し、予測するガルフォングはカトレアの動きも計算し、予測することで的確にチャージを決める。相手はチャージを受けることは覚悟していたかのように至近距離でがむしゃらに銃を乱射してくるが、〈トパーズ・シルト〉の装甲と防御力の前には無意味に等しい。

 盾を再び分離。しかし今度は完全に分離させるのではなく、中央に空いた隙間に〈トパーズ・シルト〉の右腕をねじ込む。相手は何がしたいのか解らなかったのだろう。

 その瞬間、〈トパーズ・シルト〉の腕とブレードの接続部に仕掛けられていたパイルバンカーを放つ。鈍い音と共に、金属製の杭がカトレアの胸部に容赦なく撃ち込まれ、コックピットをも貫く。爆発と共に機体にもそれが降りかかるが、至近距離の爆発程度で崩れるやわな設計はされていない。至近距離で敵が爆発することなど、初めから考えられてこの機体は製作されている。

 防御特化型MCDで二機のカトレアを撃破。

 一瞬とはいえ、戦列を崩してまでそれを行ったガルフォングの行為は相手に対する抑止力となる。目の前で防御型MCD一機に二機を一度に破壊されてしまえば、敵もそう簡単に接近するわけにもいかなくなった。今のガルフォングの行為は間違いなく敵の抑止に繋がった。

 だが、それも長くはもたないだろう。時間をかければかけるほど、敵の増援はやってくる。そうなればいくらこの防御特化の小隊でも不利だ。

 しかし、他の味方も今は手が離せない。ギリギリの所で均衡を保っているこの戦場は増援はあまり期待出来ない。


「さて、どうするか......」


 この状況下においても冷静な思考をもつ彼は考える。思考をめぐらせる。だが、味方の増援がなければどうしてもこの状況を突破することは出来ない。

 その時。

 空中から機体反応を確認する。

 味方か、と思ったが、反応がたった一機しかない。新手か、それとも味方か。だが例え仮に味方だったとしても一機だけでは期待は出来ない。そんなことを思った直後だった。空中から放たれた一発の銃弾が、カトレアの部隊を薙ぎ払う。


「なっ!?」


 たった一撃で敵の戦列が崩れた。かと思うと、空中から飛来した黒い機体はカトレアの部隊に単独で突撃する。


「援護も無しに!? 無茶だ、戻れ!」


 ガルフォングの忠告も無視して黒い機体――〈オリオン・ベテルギウス〉は加速する。目の前に鮮やかな紫色のオーロラが展開される。なんだあれは。そう思った直後、オーロラは敵の射撃を全て完璧に遮断する。そして、左腕のからアンカーを射出し、複数いるカトレアの内の一機を引き寄せる。頭部を右手のダガーで潰し、更に踏み台にして飛ぶ。

 空中から再び飛来した〈オリオン・ベテルギウス〉は敵の部隊のど真ん中に着地すると同時に両手のダガーを振るい、一度に四機のカトレアを殲滅する。

 だがそれだけでは止まらない。オーロラを機体に纏い、〈オリオン・ベテルギウス〉は加速する。あのオーロラは防御だけではなく、機体の機動力すらも強化している。

 一機、二機、三機......と、次々と敵を薙ぎ払い、殲滅する。

 十数機いたカトレアはものの一分もしない内に全滅した。


『後は頼みます!』

『......ガルフォングさん。ここはお願いします』


 〈オリオン・ベテルギウス〉のパイロット二人はそれだけ言うと、再び別の戦場を目指して飛翔する。


 ガルフォングは知る由もなかったが、〈オリオン・ベテルギウス〉は確かに、たった一機で、この戦場の戦局を変え始めていた。




 □□□

 



「これでッ......!」


 エルナが決死の一撃を放つ。〈カトル・シャウラ〉の尾という特殊なギミックを使った。一撃。相手ヴァイスの不意をつく事が出来た。

 これで、止める。

 あの悪魔を。

 エルナの放った決死の一撃が、〈カトル・セカンド〉のボディを傷つける――――、


「甘ぇッッッ!!!」


 ――――事は、なかった。

 そもそも、〈カトル・セカンド〉は元をただせば〈カトル・シャウラ〉の同型機だ。〈セカンド〉はあくまでもそれを改修したに過ぎず、元の機体についていた機能も残されている。例えば、〈魔力盾マジックシールド〉であったり、例えば、〈尾〉であったり。

 ヴァイスのした事は簡単だ。

 エルナと同じように、機体カトル・セカンドの尾を使って〈カトル・シャウラ〉の一撃を防御する。ギィィィンッ......! と辺りに鈍い音が響き渡った。

 それはもう、攻撃が失敗したといってもいいだろう。

 だが、それでもエルナは諦めなかった。

 剣が激突したと同時にそれを離す。そして今度は直接〈尾〉で攻撃を試みる。だが、ヴァイス程の相手にもう今更・・その攻撃は通じない。ヴァイスにとっては一撃を防いだその一瞬さえあればいい。すぐさま〈カトル・シャウラ〉の腹部から手を抜いて、手のひらにある〈魔力盾マジックシールド〉で尾を防御する。

 光の盾と尾が激突し、周囲にスパークが発生した。その光は、エルナの攻撃が完全に失敗した事を示している。だが、それでもエルナは諦めない。諦めるわけにはいかなかった。しかし、そんなエルナを無情にもヴァイスの牙が襲う。

 もう遊びは終わりだと言わんばかりに瞬時に〈カトル・シャウラ〉の両腕が切断された。腹部の損傷も激しい。もはや、機体が形を留めていること自体が奇跡だった。両腕が爆発したと同時に機体が吹き飛ばされ、再び街の民家に激突した。衝撃でコックピット内が激しく揺れる。


(駄目だ......私じゃ、勝てない......)


 既にエルナの心は折れかけていた。もういつ折れてもおかしくない。だが、折れない。折れるわけにはいかないからだ。目の前で死んでいった者たちの為にも、エルナはこの悪魔に屈するわけにはいかないからだ。


(まだ......まだ、何か......)

 

 自分に出来ることを模索する。だが意思に反して体が、何より機体が動いてくれない。〈カトル・シャウラ〉は既に限界だった。


「お願い......動いて......!」


 操縦桿を動かすも、機体は反応してくれない。目の前から〈カトル・セカンド〉が迫る。エルナにトドメを刺すために。


「動いてよっ......! 負けるわけにはいかないの! お願い! 動いて!」


 最後まで諦めなかった。だが、死を覚悟した。どうやらヴァイスは機体の手で直接コックピットを抉り取るらしい。いとも簡単にMCDの腕を切断する爪が、迫る。

 その時。

 それは、きた。

 来てくれた。


「――――エルナっ!」

「っ!」


 空を見上げる。すると、空中から何かが飛来してくる。あれはMCDだ。漆黒のロングコートのような装甲。まるで帽子を被っているかのような特徴的な頭部。間違いない。〈オリオン・ベテルギウス〉。


「遅いわよ......バカ」


 呟くと、エルナは力が抜けたように気を失った。死への緊張感と最後の攻防で張りつめていた糸が一気に切れてしまったのだろう。ヴァイスは新たに登場した獲物に歓迎の狂気の笑みを向けた。


『お前らが来たか。丁度いい、目の前のオモチャが壊れた所なんだ。相手してもらおうかァッ!』

「ヴァイス・サターン!」


 近くにエルナの機体があるので威力の高いリボルバーガンは使えない。よって、ダガーを展開して〈オリオン・ベテルギウス〉は〈カトル・セカンド〉に向かって加速する。激突するダガーと剣爪ブレードクロー。魔力が迸る二機の武装は激突すると同時に激しいスパークを起こす。


『わざわざ俺を楽しませに来たのか? ご苦労なこった!!』

「ふざけるな! 俺たちはお前を止めにきたんだ!」

「......貴方は許さない」


 〈オリオン・ベテルギウス〉は機体の出力を上昇させる。激突した状態でエルナからヴァイスを引き離す為に〈カトル・セカンド〉を押し出していく。


 戦場は変わり、漆黒の騎士と悪魔の蠍の戦いが、始まる。


 

今回登場した〈トパーズ・シルト〉と「ガルフォング・スタンクロイツ」は「天口 幸人」さんが考えてくださったものです。


天口 幸人さん、ありがとうございました!


ガチタンはロマン





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