第十六話 機体強奪→「改修して強化しちゃった♪てへっ☆」なんてことはよくあること
城の地下にあるとある一室。
ここは城内に勤める者ですらその存在を知るものは少ない場所だ。辺りはパイプのようなもので床と壁が埋め尽くされており、それらのパイプはある一つの球体のようなものに繋がっていた。室内は何かの機械音が静かに、そして絶え間なく聞こえてくる。
そんな一室でヘリオスは一人、じっと球体を見つめていた。その瞳は、球体の中に何が入っているのかそ知っているような様子だ。
――――いや、一人ではなかった。
ゴゴン、と重苦しい扉が開き、外からの来訪者が姿を現す。ヘリオスは悲しそうに目を伏せながら、ゆっくりと背後を振り返る。
扉から出てきたのは、ある一人の白衣の男だった。それはヘリオスもよく知っている人物で、だからこそヘリオスは悲しかった。
「やはり、おまえか」
ヘリオスは振り返る前に見せた悲しそうな瞳を心の奥底にしまいこみ、この国を背負う王としての目を向けて、
「デミウルゴス」
侵入者の名を口にした。
その言葉に、白衣の男はニヤリと表情を変える。貴族出身者にして研究者だった者から、この国の裏切り者の顔にへと。
「フッ。こういう状況の時の為にセリフは数百パターン程考えていたのですが、全て無駄だったようですね。残念です。貴女を騙せるか試してみたかったのに」
「ということは認めるのだな? お前があの海賊達を手引きした、裏切り者だということを」
「はい」
デミウルゴスはいとも簡単に、アッサリと認めた。その表情に焦りはない。むしろ、楽しげですらある。
「貴女はてっきり率先して街に出て闘うかと思っていましたが、アテが外れたようです」
「そうしたいのはやまやまで今も体が疼いて仕方がないのだがな。しかし、《これ》をお前に渡すわけにはいかない。お前のようなものに《これ》を渡せばこの街は勿論、下手をすれば世界を滅ぼしかねないからな。だから、待っていた」
そのヘリオスの言葉にデミウルゴスは更に表情を楽しげに歪ませる。瞳は爛々と輝いており、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のようだ。そして箍が外れたかのようにデミウルゴスは叫ぶ。
「素晴らしいっ!」
両手を広げ、声を大にして、叫ぶ。
ヘリオスが知っているデミウルゴスは研究者として粛々と働くタイプで、こんなにも興奮して叫んだところなど見たこともなかった。
「世界を滅ぼしかねない程の力! 素晴らしいじゃあないですか! つまり貴女の後ろにある《それ》は最高の芸術品だ!」
「芸術品、か。《これ》も見る者も見ればそうなるのか」
デミウルゴスの言葉にヘリオスは苦虫を噛み潰したような表情になる。ヘリオスの背後にある《これ》はこの国と世界を滅ぼしかねない力を持つと同時に国と世界を守る力を持っている。
だがそれ以前にヘリオスには《これ》に関しては個人的にある過去を孕んでいる分、芸術品という表現には些か抵抗がある。
「楽しんでいるところ悪いが一つ聞こうか」
「どうぞ」
「......何故、わざわざ《デミウルゴス》を名乗っている?」
「ほぅ? 流石ですね。気づいていたのですか?」
「当然だ。お前のような青臭いガキの魔法が私に通じるとでも?」
デミウルゴスはヘリオスの言葉に追い詰められていく様子など微塵も見せなかった。むしろ追い詰められていくこの状況を楽しんでいる様子すらある。
「お前の一族の本当の名は《シエス》。つまりお前は本来ならばダイダロス・シエスのはずだ。それが何故、わざわざ《大規模魔法術式を組んで全ての記憶と痕跡を書き換えて》まで、デミウルゴスなどという伝説のバケモノの名を騙る?」
その言葉に、デミウルゴスは苦笑する。
「あの術式には研究に研究を重ねて一ヶ月もかけて組んだんですけどねぇ。いや、国全土を覆うには骨が折れましたよ」
「そんな御託はもうどうでもいい。さっさと質問に答えろ」
「おやおや。怖いですねぇ」
いいでしょう。と、デミウルゴスは前置きし、手品の種明かしをするように話し出した。
「私は子供の頃、ある書物を見つけました。それに描かれていたのは伝説のバケモノと伝説の戦士の世界をかけた決死の戦でした。いやぁ、子供心ながらに胸が踊りましたね。大地を割り、天を焼く圧倒的な力。人々はバケモノに恐れ、戦士に感謝と尊敬の念を抱く。まさに神々の決戦。だからね、私は憧れたのですよ。神という絶対的な存在に」
「憧れただと? あんなものにか?」
「ええ。私は神に憧れ、そして神になりたいと思った。神になり、世界を支配する。そして全てを手に入れる。だから私は神の名を名乗りました。......少し子供っぽすぎますかね? まあ、子供の頃からの夢ですから仕方がないですね」
「その夢は......お前の幼少期が原因か?」
「おや、そこまで調べていましたか」
「お前が人の記憶と痕跡を消したのはあの大規模魔法術式が初めてではあるまい? 身寄りのない孤児だったお前は幼少の頃より......いや、生まれつきから《人の記憶を操作する魔法》に長けていた。そしてそれを利用して貴族であるシエスの一族の記憶を操作し、シエスの家の子供として潜り込んだ」
「素晴らしい! 流石ですね! まさかそこまで把握なさっていたとは!」
「気づいたのはつい最近だ。だがまさかこんなことをするとは思わなかったよ」
「本当に貴女はお人好しですねぇ。まあお陰で、こうしてこんなにも楽しい戦場を開く事が出来ました。主催者として感謝しますよ」
にらみ会う二人。
交錯する視線。
「率直にいって、私は貴女の背後にある《それ》が欲しい」
「断る」
「でしょうね。目の前にどれだけの金銀財宝、富と名誉を積まれても、貴女はこの申し出には応じない。いや、そもそも貴女がこの部屋にいる時点で、私の負けだ」
「なら大人しく諦めて焼かれてろ」
その瞬間、ヘリオスの体が紅く燃え上がった。ヘリオスの周囲はそれによって生まれた光が赤々と燃えるように輝いている。
「こんな所でそんな力を使って、この部屋がただで済むと?」
「なめるな。この例え部屋中に焔を撒こうとも、《あれ》を傷つけることなくお前だけを燃やすことは容易い。私が何百年生きていると思ってる? 自分の力もコントロール出来ないわけないだろう」
「ほぅ。流石、伊達に九百年生きてませんね。力のコントロールですか、成る程。《まだそこまでの芸当は私には出来ません》」
「......何......。ッ!」
デミウルゴスの一言に違和感を覚えて、ヘリオスはある一つの結論にたどり着く。なるべくそれが間違っているようにと願いながら、デミウルゴスに焔を放つ。
瞬間、デミウルゴスは血のように紅い焔に巻き込まれ、その身を焼いた。だが、その焔の中から、歓喜に奮えた者の声が響いてきた。
「フッ、フフフフフ、」
「!! 遅かったか......!」
バキンッ! と、魔法を無理矢理砕いたかのような音が響き、ヘリオスの放った焔が四散する。中から現れたのは、漆黒の焔を纏ったデミウルゴスの姿だった。
「あはははははははははははッッッッッッ! 素晴らしいッッッ!!! 本っ当に素晴らしいですよッ! 《デミウルゴスの力は》ッッッ!!!」
「ちぃっ......!」
言うと、デミウルゴスから溢れでる黒い焔は部屋の中に広がっていく。それに呼応するかのようにヘリオスの焔も広がっていく。丁度部屋の中央で、紅い焔と黒い焔が互いを削りあい、せめぎあうかのように激突していた。
「貴女の《太陽の魔法》。その力は《アポロン》から得た力ですよねぇ? ならあとは解るでしょう? 私も貴女と同じですよ」
「貴様......その《黒炎の魔法》......やはり《デミウルゴス》から得た物だな?」
「正解!」
デミウルゴスが右手を前につきだす。すると右手から収束された黒炎がヘリオスに向かって放たれる。ヘリオスはそれを体から迸らせた紅い焔で打ち消し、室内に焔の奔流のようなものが舞い散る。
「ふむ......どうやら力はまだ貴女の方が強いみたいですね」
「どうやってその力を......! 例えデミウルゴスがあったとしても、古代魔力融合炉無しには......!」
「古代魔力融合炉搭載機二号機、でしたか。海賊にもなかなか優秀なパイロットがいましてね? 少し強奪しましたよ。まあ、貴女の仕掛けてくれた魔法のお陰で大惨事でしたが、まあそんなものはある程度の人員を囮にして犠牲にすればいい話です。魔法の切れた後は随分楽でしたよ。ドライヴを手に入れ、デミウルゴスを三分の一程度のパワーですが復活させることが出来ました」
「......二号機に乗っていたパイロットは?」
「? 殺したに決まっているでしょう? いても邪魔ですし」
「てめぇ......」
「ではどうします?」
「決まっているだろう」
ギロリと、ここでヘリオスの目に凄まじいまでの殺気が宿る。それを向けられてもデミウルゴスはびくともしない。それは自らが持っている力に対する絶対的な自信。
「......ぶち殺してやる」
ゴォッッッ! という轟音と共にヘリオスの身から放たれる焔が更により一層、燃え上がる。それはデミウルゴスの黒い焔を容易く押し返していく。
「......!」
ここで初めて、デミウルゴスの表情から笑顔が消えた。完全に余裕を無くしているのだ。
「いいのですか? 私を殺ればデミウルゴスに関する情報が手に入らなくなるかもしれませんよ?」
「情報よりも人命だ。お前を生かしておくわけにはいかない。デミウルゴスならお前を殺したあとにゆっくり探すさ」
ヘリオスとデミウルゴス。
同じ《神》の力を得た者同士でも、二人の間には《能力を得て鍛練した期間が違う》。
時間という埋めようのない差が二人の間にはあった。
「故に出し惜しみはしない。建物はまた建て直せばいい。世界の為に、ここで全力をもってお前を殺す」
紅い焔の勢いが増してゆく。それは徐々にデミウルゴスの放つ黒い焔を食い破り、破壊していく。エネルギーはこのままだと次第に増していき、最終的にはこの均衡はいとも簡単に、そしてあっさりと崩れ去るだろう。
それをデミウルゴスも予感していた。
(このままだとまずいですね......)
デミウルゴスは既に両手を使ってヘリオスの攻撃を防いでいる状態にある。片手を下ろし、反撃に出るだけで、ヘリオスの攻撃は容赦なく黒い焔を覆いつくし、デミウルゴスを焼くだろう。
だがこの均衡はいずれ崩れる。最終的にデミウルゴスはここで死ぬ。
(ならば......!)
デミウルゴスは左手を下ろす。
同時にヘリオスの焔はデミウルゴスの焔を焼く。
しかしそれはデミウルゴスにとっても想定内の事だった。この先のプランも考えてある。しかしそれは彼にとってのある種の賭けだった。
(この世界が私に味方をすれば、私は生き残り、逆に世界が王の味方をすれば、私はここで死ぬ)
世界はどちらの側につくか。
生と死の狭間でデミウルゴスが考えていたのは自身の生死よりも、世界がどちらの側につくかという単純な好奇心だけだ。
そして彼は。
「ヒャハッ!」
その賭けに。
「ッ!」
――――勝った。
「ははははははははははッ!!!!!!」
デミウルゴスの左手から放たれた黒い焔は彼の背後にある壁を破壊し、そして彼はそのまま加速魔法を使って後退する。後退しきる前にデミウルゴスがヘリオス焔で焼かれるか否か。世界はデミウルゴスに味方し、彼は賭けに勝った。
「逃がすかッ!!!」
ヘリオスは追撃をしかけるも、デミウルゴスが壁を破壊した際に発生した爆風でその姿を見失う。
「ちいっ!」
すぐさま爆風を振り払うもほんの数秒のロスが致命的だった。デミウルゴスは去り、そのまま姿をくらました。
悔しげな表情を浮かべるヘリオスだったが、室内に地上からの戦闘の余波が響き渡ってきた事に気づく。
そしてデミウルゴスが三分の一程復活させた神の事もある。
「......」
ヘリオスは静かに背後にある球体に視線を向ける。
そして彼女は、決意する。
□□□
「ああああああああッッッ!」
エルナは雄叫びをあげながらヴァイスの駆る《カトル・セカンド》に向かって《カトル・シャウラ》で大地を疾走する。
右手のレイピアを今までで最速の速度で繰り出す。ヴヴンッ、と刃が空気を切り裂き、勢いよく紫色の蠍に向かって放たれる。
『ハッ!』
だが、ヴァイスの《カトル・セカンド》は頭部を少し右にそらすだけで易々とエルナの一撃を回避した。
「くっ......! このっ!」
エルナは臆することなく次々と攻撃を繰り出していく。しかしその攻撃は虚しく空を切るのみだった。ガードされることすらなく、ただかわされるだけ。
『オイオイ、前とちっとも変わっちゃいねぇじゃねーか。少しは成長してるのかと思ったらよォ』
「ッ......!」
ギリッ。と奥歯を噛み締める。
そう言われても仕方がない。現にエルナの攻撃は一切、ヴァイスに当たってもいないのだから。
『オラッ! 今度はこっちからいくぞ!』
《カトル・セカンド》は跳躍すると、空中で変形する。《カトル・シャウラ》の遥か後方で着地すると、地面を滑るようにしながら《カトル・シャウラ》に向かって加速してくる。
(やはり速い......!)
実際にこうしてこのスピードを目の当たりにすると相手の恐ろしさがよく解る。だが相手がしているのはただ直進することだけだ。
エルナは機体を操り、とっさに直進してくる《カトル・セカンド》の右方向に機体を走らせる。だが、甘かった。
次の瞬間、更に加速した《カトル・セカンド》は尻尾を真横に振るう。それは見事に《カトル・シャウラ》の不意をつく一撃となり、何とかレイピアでガードはしたものの《カトル・シャウラ》の軽量化された機体は大きく吹き飛ばされる形となった。
機動力を重視した為に軽量化されていた《カトル・シャウラ》にとってあの尻尾の重い一撃はかなり大きい。
「ッ!?」
尻尾の凪ぎ払いを受ける直前、エルナは機体を後方に跳ぶ事で勢いを少しでも殺そうとしたが、相手の攻撃の方がワンテンボ速く、勢いを殺しきれずに背後にある民家の建物に激突する。
轟音と共に機体が大きく揺れる。機内にも振動が伝わり、エルナの体も揺れる。衝撃と振動によって意識が持っていかれそうになるが、何とか耐える。
「ぐぅっ!......ッ!」
だが、ゆっくりしている暇はない。ヴァイスは流れるようにして再び次の攻撃に移っていた。
容赦なく右手の剣爪を振るってくる《カトル・セカンド》の一撃を左手の魔法盾で防ぐ。
激突する魔力と魔力。
それによって生まれるスパークが周囲を眩いばかりの光で覆う。
「うっ......!」
『どぉしたどぉしたァ! その程度かァッッッ!?』
「このッ......! なめるなァァァ!」
至近距離まで達した《カトル・セカンド》に対して《カトル・シャウラ》の放った膝蹴りがヒットし、ゴッ。という鈍い音が響く。
機体同士の接触が解けて、ここで初めて《カトル・セカンド》に隙が出来る。
(今......)
ゾクッと首筋に嫌な悪寒が走る。そして浮き出る迷い。本当にこのまま仕掛けてもいいのだろうか。あのヴァイスを相手にこんなチャンスはこないかもしれないのに。
頭ではそれが解っていてもしかし踏み切れない。直感という不安定な思考がエルナの行動を鈍らせる。
それはほんの刹那の時だったが、エルナは自分の直感に従って後退の道を選んだ。
機体の左手を背後にある民家の建物に向け、魔法盾を発動。シールド用に展開された高密度のエネルギーはいとも容易く建物を粉砕する。
この辺りの建物にもう人はいない。その事は確認している。エルナは崩れ去る背後の建物と共に機体を傾けさせる。
と、その時、《カトル・セカンド》の背後から巨大なスラスターと化していたシザースが展開される。アームから伸びた蠍の鋏のようなものがさっきまで――ほんの数秒まえまで《カトル・シャウラ》のいた場所の地面を抉る。
『お? やるじゃねぇか。てっきり今のタイミングで突っ込んできてくれるかと思ったぜ。そうすりゃあ一気に楽にしてやれたのによ』
「ッ......生憎、そんな簡単にやられるわけにはいかないのよ」
そう強がりながらも内心は危なかったとほっと胸を撫で下ろす。この闘いはエルナの現時点での実力では追い付かない部分がある。ならば後は自分の直感や才能に依存して闘わなければならない。
『ハッ! そうこなくっちゃなァ!』
二つの鋏を背中のスラスターモードに戻して《カトル・セカンド》は加速する。《カトル・シャウラ》は後退しつつ魔法盾からエネルギーの散弾を放つ。
だが同じ――いや、それ以上の出力の魔法盾をもつ《カトル・セカンド》にその攻撃は効かない。
それに加えて背中の鋏のスラスターは出力に加えてアームがフレキシブルに可動するので、機動力は《カトル・シャウラ》よりも数段上回っている。
機体性能はあちらの方が数段上であることは間違いない。
強奪後に改修されているから、という事はこの戦場においては言い訳にしかならない。
とはいえ、パイロットとしての実力は悔しい事にエルナよりもヴァイスの方が機体性能の差よりも確実に上だろう。
ならばこの状況で、エルナは何が出来るのか。
(もう、私に出来ることは――――)
この戦場という場所で、最悪の敵を前にエルナの直感が導きだした一つの答え。
「――――ッ!」
エルナは意を決したかのように機体を加速させる。そして《カトル・シャウラ》の左手にある魔力盾を展開。
左手を前につきだし、疾風の如く駆ける。
『あ?』
呆気にとられたようなヴァイスの声。
同時に《カトル・シャウラ》の左手は《カトル・セカンド》の右手の魔力盾と激突する。
だがその激突もすぐに収束する。
《カトル・セカンド》の右手が《カトル・シャウラ》の左手を掴み、そして背中のアームが伸びて鋏が《カトル・シャウラ》の左腕を挟み込む。
右手のレイピアをつきだすも、それはもう一つの鋏で抑えられる。
『なんだよ。最後に何が来るかと思ったらこの程度か? これで終わりか?』
「......!」
『ハッ。もういい。目障りだ、死ね』
ぐしゃっ。
と、《カトル・セカンド》の左手が《カトル・シャウラ》の腹部を貫く。茶番は終いだと言わんばかりに潰すために出力を上げ始めた鋏に挟まれた量腕もメキメキと悲鳴を上げている。機体を貫かれたまま、エルナは微笑む。
「《掴まえた》......!」
『ッ!?』
量腕を抑えた。もう武器は使えないはず。
そう考えたヴァイスだったが、すぐにそれを思い出す。エルナが乗っているのは自身と同じ《カトル》シリーズの機体。
まだ武器は残っている。
(――――尾か!)
気づいた時にはもう遅い。
既にエルナは《カトル・シャウラ》の《尾を使って》、ヴァイスが破壊した味方の残骸にあるブレードを掴みとっていた。
そして尻尾を伸ばしてそれを振るう。
ヴァイスは回避しようとしたがこれだけの拘束を一斉に解くのは少し時間がかかる。
(しまっ――――)
回避は間に合わない。
エルナの放った決死の一撃が、《カトル・セカンド》に放たれた。




