第十四話 剣で戦うロボはカッコいい
学校のテストが始まるので次の更新は遅れるかもしれないです。
にしてもそろそろ本当にサブタイトルを考えるのが辛くなってきた。
なんかサブタイトルのノリと本編のノリと会ってないのでいつもサブタイトルを考えるのが地味に大変です。
「な、によこれ......!」
地上の陸路を、エルナの駆る《カトル・シャウラ》は駆ける。現在は水中用装備であるがために装甲などを追加しているので、《カトル・シャウラ》の強みである機動力も半減だ。
後ろからは所属不明機、否、海賊、《Robbery Beast》の機体が迫り来る。振り返り、海賊というワードである人物を思いだし、歯軋りする。
「どうして海賊がここにいるのよ!?」
水中用装備になっている《カトル・シャウラ》の手に装備されている小型のミサイルを構える。向かってくる敵は三機。それらすべてをロックオンする。
「答えろぉ――――!」
トリガーをひく。エルナの叫びと共に、エルナの憎悪と共に、ミサイルが放たれた。
□□□
「くそっ!」
水中の迷路を《オリオン・ベテルギウス》と《カシオペア・シェダル》は進む。背後からは海賊の機体がミサイルを容赦なく放ちながら追撃してくる。
放たれたミサイルを、《レインコート》に装備されてある機関銃で迎撃する。先程からその繰り返しだ。
『誘導されてるな』
「......恐らく」
ディオーネとギルの二人は分かったように視線をモニタ越しに交わすが、必死にミサイルを迎撃する健太郎はそれどころではなかった。
「誘導!? 何処に!?」
『恐らくは海賊の仲間の所じゃないのか。これだけ派手に、堂々としてるんだ。今頃地上でも騒ぎになっているだろう。ならば仲間が動いていても不思議ではないし、水中部隊もこいつらだけじゃないだろう』
「外でもって......」
予選はブロック毎に分けて行われる。これだけのフィールドは一つしか用意出来なかったので、一ブロック毎に順番に行われる。となれば、地上にはまだエルナがいるはずで、ずっとこの海賊たちを探していたエルナからすれば、黙っているわけがない。恐らくは予選用の進む水中用装備のままで。
「まずい! 早く地上に上がらないと!」
『それについては同意見だが......』
《カシオペア・シェダル》もコンテナの両サイドに装備されたミサイルを放つ。だが敵の《カトレア》は手に装備した魔導銃をカウンターで放つ。魔導銃から放たれるのはエネルギーの塊だ。
エネルギーの塊はミサイル群を易々と貫き、《カシオペア・シェダル》の背後にある迷宮の壁に直撃し、爆散する。
『......そう簡単に上げてくれればいいのだがな』
「ッ......!」
浮上しようとすれば間違いなくそこを狙われる。故にまずは目の前の敵を退けなければならない。
「くっ......おおおおおおお!」
健太郎は雄叫びと共に機体を加速させる。同時に《極光布》を前面展開。《カトレア》の放つ魔導銃の攻撃を《極光布》は全て防ぎきる。その光景に驚き、怯んだすきにダガーを構え、《カトレア》の頭部を鷲掴みにし、首を切断した。
動きを止めた《カトレア》の腹部を蹴り飛ばし、後退する。
同時に、《カシオペア・シェダル》の後部腰アーマーから黒い墨のような物が吹き出した。それはすぐに視界を漆黒に染める。これは恐らく水中用の煙幕か何かなのだろう。
『今だ。逃げるぞ。先行してくれ』
言われた通りに健太郎は出力を上げて《カシオペア・シェダル》よりも前に先行する。
「でも、俺達が浮上するぐらいは読んでくるんじゃ......」
『読まれるだろうな』
ギルはあっけなくそう言い切る。だがその瞳は冷静そのもので、逆に健太郎は呆気にとられてしまう。
『そもそも、読まれることが前提だ』
やはりというか、当然というか、煙幕を直後に突き抜けて追撃を重ねてくる《カトレア》を機体は捉える。だが、《オリオン・ベテルギウス》の後方を進んでいた《カシオペア・シェダル》はくるりと後ろを振り返ると、胸部アーマーから閃光が放たれる。水中の薄暗い闇を食い破るように放たれた閃光は、見事に《カトレア》のパイロットの視界を封じるとこに成功した。
その隙を見逃すギルではない。《カシオペア・シェダル》の右手に装備してあった小型の銃剣から弾丸を連射しつつ背中の圧力装置であるランドセルによって加速しながら、左手の手首から肘にかけて装甲の隙間が開き、そこから刃を出現させる。
視界を封じられてまともに身動きがとれない《カトレア》を的確に《カシオペア・シェダル》の左腕の刃が切り裂いた。
爆発と共に水が大きくうねり、動く。それを突き破るようにして二機は加速する。
「第一予選の時も思ったけど、その機体って本当に色々と積んでるな」
『この機体は元々戦闘の為ではなく、《太陽祭で勝つ為の機体》だ。多様な武装があるのは当たり前だ』
言葉を交わしながらも二機はただひたすら水上を目指す。薄暗い水中の中でも徐々に外から差し込む光が強くなってくるのが見えた。水中では所々戦闘のものと思われる爆発音が聞こえてきた。
振り返らずに、ただひたすらに進む。水中の戦闘にも完全に慣れておらず、先程まで逃げることに必死だった自分達が行っても足手まといになるだけで、今出来ることは助けを呼ぶことだけだ。
光が大きくなってきた。
水上に、出る。
「ッ......!?」
健太郎は思わず目を見開いた。ディオーネも息を呑んだ。
二人の眼前で、街が燃えていたのだ。
黒煙は街のあちこちから上がっており、天を衝くような黒き煙を従えるように、空中で一隻の船が鎮座していた。
「なんだよ、これ......」
陸に上がり、周囲を探ろうと動き出そうとした瞬間、コックピット内に通信用のアラームが鳴り響いた。繋いでみると、ウインドウの中に現れたのはテスカだった。
『やっと繋がった!』
「チーフ! 無事ですか!」
『そりゃこっちのセリフだ!』
「こっちは何とか無事です」
と、その時。湖の中から勢いよく何かが飛び出してきた。こんな時に、まるで自分達を追いかけるように飛び出してくるものはひとつしかない。
海賊だ。
「今の所は、ですけどね......!」
□□□
城内MCD格納庫。
既に大半の機体は突如現れた海賊達の迎撃に出撃した。そんな中、フレアは格納されていた一機のMCD、《ハゴコロ》に向かって駆け出していた。
フレアは学生の身でありながら、既に国王の側近としての実力を兼ね備えている。それはMCDの操作技術に関してもそうで、彼女はこの国の国王軍の隊長なのだ。
金色の髪を揺らしながら、フレアは通常では考えられないようなスピードで疾走する。加速魔法の応用で、普段は使わないがこの緊急時ではそうは言ってられないと判断したのだ。
それに彼女にとっての家族であるディオーネの身に何かあったら――――そう考えると速足にならざるを得ない。
「キドさん」
「おおっ、フレア」
「機体整備は?」
「万全だ。いつでもいけるぞ」
「そうですか。ありがとうございます」
キドは国王軍のMCD整備班の中でもベテランで、チーフでもある。フレアとも幼少の頃よりの長い付き合いで、それ以上の言葉は要らなかったし、必要もなかった。
通常の物とは違う、純白の《ハゴコロ》。右膝には《忍》という文字がマーキングされている。これは《ハゴコロ》が開発された《和の国》から伝わってきた文字らしい。
フレアは跳躍し、一気に《ハゴコロ》に乗り込んだ。コックピットハッチを閉じて、機体を起動させる。機体の起動を確認すると、目の前の巨大ハッチが開いた。
「いきます......!」
言うや否やフレアの駆る《ハゴコロ》は跳躍し、紅蓮の炎の舞う街にへと飛び出した。
「ッ......」
瓦礫の中を、純白の《ハゴコロ》は突き進む。既に住民や太陽祭の参加者達は地下のシェルターに避難している。しかし、先程まであれだけ賑わい、人々の笑顔が飛び交っていた場所が既に戦場と化してしまっている。
「酷い......」
見当たるのは残骸のみ。あとは戦闘の音しか聞こえない。まずはディオーネ達がいるであろう湖へと向かう。
だが、《敵》はそう易々と行かせてはくれなかった。
「敵反応......四機!」
警告音。同時にフレアは意識を戦闘の方に切り換える。フレアの目が、普段の穏やかな瞳から戦闘の――――国王軍隊長の物にへと変化する。
「《カトレア》......これだけの数が揃っている所を見ると、裏のルートで大量に仕入れたようですね。それに改造を加えている」
『そうだ』
声。
すると、既にフレアの《ハゴコロ》の回りには四機の《カトレア》が取り囲んでいた。
『純白のハゴコロ......国王軍隊長とお見受けするぜ』
と、周囲を見渡すフレアの耳に入ってきたのは敵パイロットの声だ。声から判断するに三十代前半、といった所だろうか。
「そういう貴方は?」
『俺ァRBのバウンズ・ボーガンだ』
「聞いたことありませんね。そんな悪党の名は」
『こいつぁ手厳しいな』
苦笑する声が、《カトレア》の内の一機から漏れた。
「この辺りは貴方達が?」
『ああそうだ。ちょいと暴れさせてもらったぜ』
「......一応聞いておきますが、何も、何も思わなかったのですか? これだけの事をするのに」
『無いねぇ。むしろ爽快だった。転んだ子供を庇うようにして立ちふさがる母親がいるだろ? 感動的じゃねぇか。泣き叫ぶ子供。子供を抱え、命乞いをしながら必死に逃げる母親』
ぐにゃり、と。
フレアは顔も知らないバウンズの顔が、醜く歪んだような気がした。
『撃ち殺すには最高のシチュエーションじゃねぇかァ』
通信機越しに聞こえてくる不快な笑い声。
それが、フレアの中に存在するある感情を増幅させる。
「そうですか。なら、」
フレアは顔も見えない相手パイロットを睨み付ける。冷徹で冷酷な、戦士の瞳で。
「――――覚悟なさい。あなた方の罪は重い」
『恐いねぇ。流石は国王軍の隊長様だ。それじゃあそろそろ無駄話もここらで終わりにして?』
ギュウン、と、四機の《カトレア》が構えをとる。
『おっぱじめるとしようじゃねぇかぁッッッ!』
四機の《カトレア》が一斉にワイヤーガンを射出する。フレアの《ハゴコロ》は瞬く間に両手両足を縛り付けられた。
『国王軍の隊長様も大したこたぁねぇなぁ!』
高笑いするバウンズ。明らかに勝利を確信したようなその声が、フレアには不快で堪らなかった。
直後に、拘束された《ハゴコロ》の腕と足から刃が出現する。同時にそれは自信を拘束していたワイヤーガンのワイヤーを切り裂き、自力で拘束を解いた。
だがそれで止まらない。
光学迷彩で消えた、かと思うと壁をかけ上がって空中に飛ぶ。
ハゴコロの光学迷彩機能は完全なるステルスを実現するが、その分消費する魔力の両も多い。故にフレアは一瞬だけそれを使用する。
迷彩用の特殊装甲をもつ《ハゴコロ》はその装甲の特殊性故に他のMCDよりも比較的《脆い》。
よって、先程のワイヤーガンによる拘束ですら装甲に異常をきたしかねないのだが、フレアはとっさに拘束部に魔力の膜を走らせ、擬似的な極光布を形成することで機体を守った。故に機体は何の問題もなくフレアの操縦に答える。魔力コントロールではフレアの右に出るものはそうはいない。
バウンズはフレアを見失ったかと思うと、次の瞬間には既に仲間の内の一機が爆発していた。
『なっ!?』
驚き。
だが次の瞬間には既に《ハゴコロ》は消えていた。一瞬だけ迷彩を使用したのだろう。再び姿を見失った。
『また上かっ!』
姿を捉えたかと思うと、《ハゴコロ》は空中にいた。そこに向かって銃を放つ。しかしフレアの操る《ハゴコロ》は体の所々にあるスラスターを状況に合わせて使用することで空中でダンスを踊るように目まぐるしく動き、かわす。
『ば、バウンズさん! 何なんスかあいつはァ!』
仲間の一人が悲鳴のように叫んだ。その直後、その仲間の乗る《カトレア》の頭部とコックピットに《ハゴコロ》が着地した。足裏からは刃が展開されており、容赦なくパイロットごと《カトレア》を貫いた。
『がっ......』
仲間のうめき声のようなものが聞こえたかと思うと、《ハゴコロ》は《カトレア》を踏み台にして跳躍。その後、《カトレア》は爆散した。
――――思い出した。
バウンズは、ここで初めて自分がどんな人物を相手にしているのかを思い出した。
ヒュペリオン王国国王軍隊長、《血染めのフレア》。
純白の機体は隊長機の証。だがひとたび戦場に出れば敵の血で純白の機体を染めながら戦う、ヒュペリオン王国国王軍隊長にして――――天才にして天災。
そんなことを思い出していると、残りの仲間も爆散してしまった。残るのは自分だけだ。《ハゴコロ》の首がぐるりとこちらを向く。まるで獲物を捉えたとでも言いたいように、《ハゴコロ》の両眼がギラリと光った。
敵わない。
直感的にそう思った。
「残るはあなたですね」
『ひっ......』
ヴン、と《ハゴコロ》が消えた。次の瞬間には既に目の前に《ハゴコロ》がいた。
速い。
違う。
確かに速いが、光学迷彩で一瞬だけ消えたから、姿を見失ったから、そう見えただけだ。
何かしなければ。
そう思った瞬間には既に《カトレア》の両腕が切断されていた。次は両脚。必然的に、《カトレア》は地面に倒れる。
殺される。容赦なく。確実に。
《ハゴコロ》は腕を《カトレア》の胸部に向ける。このまま刃を放てば胸部を貫き、そのままその後ろにあるコックピットまで貫けるということだ。
『ま、待ってくれ! 頼む! なんでも、なんでもするからよぉ! だから命だけは! た、助けてくれ!』
「今更命乞いですか?」
『頼む、頼むよぉ』
フレアはまるで汚物を見るかのような目で無様に地に伏す《カトレア》を見据える。
「ではあなた方は一体、何が目的でこんなことを?」
『え、《古代魔力融合炉》搭載機と、もう一つ、この国にある《お宝》を奪うって事しか聞いてねぇんだ!』
「あなたが知っているのはそれだけですか?」
『それだけだ! 頼む! 助けてくれよぉ!』
「そうですか」
フレアは《ハゴコロ》の手を下げる。バウンズがほっとしたのも束の間。ゴツ。と、《カトレア》の胸部を《ハゴコロ》の右足が踏みつけた。足裏からは刃を射出可能の、右足を。
『なっ......ど、どういうことだよおい!』
「どういうこと? これ以上あなたからは必要な情報が得られないので始末しようかと。これ以上、あなたのようなクズがこの国にいること自体が私は腹立たしいのですよ」
『や、約束が違うじゃねぇか!』
「それはおかしいですね。《私が、いつ、あなたを助けるという約束をしましたか》?」
『そん、な......』
バウンズはフレアの逆鱗に触れた。
そもそも、その事自体が間違いであり、彼のこれから終わろうとしている人生最大の失敗なのだ。
『頼む......命だけは......命だけはァ!!』
「では一つお聞きします。貴方は同じように命乞いをした親子を助けましたか?」
『ッ、それ、は......』
この時点で。
バウンズ・ボーガンという男の死は確定した。
「死をもって償いなさい」
《ハゴコロ》の足裏から刃が伸び、易々と《カトレア》の装甲と、コックピットを貫いた。
□□□
「いいねぇいいねぇ」
ヴァイス・サターンは笑っていた。目の前の《パーティ》の光景に。立ち上がる黒煙。鳴り響く戦闘の音。それらが彼にはすべて心地よく、たまらない。
「んじゃあそろそろ俺も出るわ」
『フン。目的は分かっているのだろうな?』
「勿論だ。《古代魔力融合炉》と例のアレの回収だろ?」
わかっていればいい、と、モニタ画面の向こうの男は呟いた。それを確認して、ヴァイスは機体のシステムをチェックする。
システムオールグリーン。
「ヴァイス・サターン、《カトル・セカンド》、出るぞ!」
一匹の蠍が目を覚ます。
全てを破壊するために。




