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異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第二章 太陽祭編
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第十二話 ロボは二号機とか三号機とか作っとけ

始めは悪ノリでつけてたサブタイトルですが、そろそろ話の展開的に考えるのがきつくなってきた今日この頃。

「トレード?」


 ヴァイスの放った一言は何の事はない。《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》の価値を知っていればごくごく自然で当然の事だった。

 ただ、本来ならば《たった一人の人質》ではこんなトレードは成り立たない。相手が学生だからこそ成り立つ余地のあるトレード。そこを突かれた。


「ああ、そうだ。正当な取引(トレード)だよ」

「どこが正当なんだよ畜生」


 健太郎は拳を握り締める。目の前で倒れているハルトは体を鎖で拘束されたまま動かない。恐らく気絶させられているのだろう。


「お約束だけどよォ、もしこのよーきゅーが呑めない場合は......分かってるよなァ?」


 ヴァイスは黒い衣の内側から取り出したカットラスの先端をハルトの首筋に向ける。いつでも命は奪える、というサインだろう。


「お、前......!」

「けんたろー、落ち着いて」

「分かってるけど......!」


 目の前のヴァイスからは相手の命を奪うことに関して何の躊躇いもない事が伺える。ずっと一緒に過ごしてきたエルナすら殺そうとした男だ。

 いざとなれば、健太郎達が本当に動こうとすれば容赦なくハルトの命を奪う。ヴァイス・サターンという男を間近で見て、見たからこそ健太郎はそのことを確信出来た。

 実践経験は先程の黒いフードの男達との戦闘ぐらいしかない。あとはせいぜい第零科の面々との日々のちょっとした喧嘩ぐらいしかない。言ってしまえば実践に関しては素人で、そんな健太郎が動いても確実にハルトが殺される。それでトレードが出来なくなると分かってても、目の前のヴァイス・サターンという男はハルトを容赦なく殺す。

 だから、動けない。


「お前らさ、無防備過ぎるんだよ」


 ヴァイスは頭をガリガリとかきながら呆れたように言う。


「《古代魔力融合炉(アレ)》がどれだけの価値があるのか本当に分かっているのか? 本来なら俺達がこうする前にもっと他のやつに盗られててもおかしくなかったんだぜ? いや、そもそも」


 ヴァイスはすっ、と目を細めて、その鋭い眼光で健太郎とディオーネを見据える。


「《古代魔力融合炉(アレ)》は本来、こんなちっぽけなチップで成り立つトレードじゃねぇ。本来ならば、《国単位でのトレードになったはずだ》」

「く、国?」


 健太郎はヴァイスの突然の言葉に呆気にとられた。確かに《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》が価値ある物だとは思っているが、まさか国単位での価値があるとは思えなかったからだ。


「《古代魔力融合炉(アレ)》に関する記録は殆どが歴史から消滅している。故に存在すら知るやつらは限られている。けどな、よく考えてもみろ。複合獣型級ビーストクラスの魔獣の一撃を軽々と防ぐだけじゃなく幅広い応用性、そして出力(パワー)。どれも現代の魔力融合炉(マナドライヴ)を遥かに凌ぐ力を持っている。そんなものがこの現代に、国に、たった一つあるだけで、どれだけ歴史が動くと思う?」


 と、そこまで言ったと同時にヴァイスは自身の発言に違和感を覚えた。


「そうだよな......どうしてこんなやつらが今まで《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を保有出来たんだ? 存在を知ってるやつらはほぼ必然的にかなりの武力を有しているはず......」


 ヴァイスのその先の言葉が紡がれる事はなかった。彼はふと窓に存在する《ソレ》に気づくとらニヤリと面白そうな、いや、面白い物を見つけたかのように不気味な笑み浮かべた。


「あァ、成る程。《アンタが護ってたのか》」

「......全く。第零科の全生徒には一人一人監視役兼護衛をつけていたはずなのだが、こうもアッサリとそれをふりきられたか」

「これで合点がいったぜ。どうしてあんな所に騎士団の人間がいたか、ってな」


 ヴァイスにつられて健太郎も窓の方を見る。

 心なしか室内の温度が上がっている気がした。

 心なしか閉められているはずの窓から風が流れ込んできている気がした。

 そして。

 いつの間にか窓が消えていた室内には、紅蓮の髪を風に揺らせる一人の小さな少女が立っていた。


「ヘリオス様......?」


 そこにいた少女は、この国を治める王だった。

 そして、その身を呪いによって封じ込めなければならない程の力を有した王だった。


「私の国で随分と好き勝手してくれたようだな」

「あァ、好き勝手やらせてもらったぜ」


 轟!!

 と、ヘリオスの小さな体から紅い風が舞った。いや、風、ではない。そんな生易しい物ではない。

 もっと激しく。

 もっと力強い物。

 熱風。


「お前達に拉致られたり、お前に殺された護衛に代わってお前を殺してやりたいのはやまやまだが、お前には聞きたいことがあるのでな。残念ながら命だけは残してやらなければならん」


 更に熱の風がその激しさを上昇させる。

 ヘリオスの心に同調するように。

 ヘリオスの怒りを具現化するように。

 だから、と。ヘリオスは前置きをして。


「覚悟しろクズ野郎」


 殺気。

 放たれた《ソレ》を肌で感じ取ったヴァイスは予告通り、ハルトの殺人を実行する。

 否。

 実行しようとした。

 だが、そこにさっきまであった、一人の少年の命を刈ろうとしていた刃は存在していなかった。あるのはただの柄だけだった。

 刃は――――溶けている。

 完全に。完膚なきまでに。一片の破片すら残さず。

 そう自覚した瞬間に、今度は足でハルトの頭蓋骨を踏み潰そうと足を踏み降ろそうとした。しかし、それよりも速く、健太郎の拳がヴァイスの頬を捉えていた。


「させるかバカ野郎ッ!」

「......! ハハッ!」


 だが、止まらない。ヴァイスは体制を崩したものの、そのまま足でハルトの頭蓋を踏み潰そうと足を降ろした。だが、そこには既にハルトの頭は無かった。あるのはただのコンクリートの床。

 別の方向を見てみると、ディオーネの目の前にハルトの体があった。


(浮游系魔法の応用? 学生でこのレベルの精度の魔法を?)


 その事に驚く間もなく。

 次が、来る。

 健太郎が再び拳を握りしめながらそれを放つ。先程は不意を完全に突かれたが、今度はそうはいかない。軽く体を傾けるだけでかわし、逃走をはかるために溶けて完全に跡形の無くなってしまった窓へと走る。だが、その瞬間にはもう、目の前には灼熱の焔の壁がヴァイスの前に立ちはだかった。


「関係ねぇなァッッッ!!」


 しかしヴァイスはその身を焦がすことをいとわずに躊躇うこともなく、焔の壁に突っ込んだ。流石のヘリオスもこれには少し驚いたが、もう遅い。

 ヴァイスは全身に火傷を負いながらも、窓から飛び降りた。そのまま地面を蹴りながら逃走する。


「なんてやつだ......まさか焔の壁に躊躇いもせずに突っ込むとは」

「ヘリオス様、どうしてここに?」


 ディオーネの問いに、ヘリオスは振り向き、


「ふむ。海賊が第零科の学生を拉致したと聞いてな。それに、相手が相手だったのでな。私も捜索に参加したのだ」

「あ、ありがとうございます。ヘリオス様」

「健太郎。礼はいい。それよりも、ハルト君が心配だ。意識を失っているだけだろうが、念のために医者に見せた方がいいだろう。すぐに到着するはずだ」

「あっ。そういえばクロードさんは!?」

「クロード君なら大丈夫だ。たった一人で外の連中を倒してしまったよ。まったく、大したものだ」

「そうですか......」


 ようやくほっ、とため息をつくことのできた健太郎はここで緊張の糸が切れたのかへなへなと床に尻餅をついた。

 こんな荒事は元居た世界でも未経験だったので、今までは虚勢を張るので精一杯だったのだ。


「......ヘリオス様」

「何だ? 健太郎」


 健太郎は、今までずっと気になっていた事、そして、さっきのヴァイスとの会話で更に膨らんだ疑問を晴らすべく、ヘリオスを見据える。


「......どうして、《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を俺達に?」


「......」


 ヘリオスの眉が僅かだが動いたのを健太郎は見逃さなかった。そのまま続ける。


「アレが貴重な物ぐらい、バカな俺にだって分かります。本来なら国の研究所で使われるのが当然でしょう? なのに何故、わざわざ第零科(おれたち)生徒一人一人に護衛をつけてまで俺達に託したんですか?」

「ヴァイス・サターンから何か聞いたのか?」

「国単位の価値があることぐらいは」

「そうか」


 ヘリオスは、ほんの少しの間、目を伏せた。

 そして、その小さな唇が微かに開く。


「《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》。あれは全部で三基存在し、第一世代MCDの存在していた時代の魔力融合炉。あれは《無限魔力融合炉(インフィニティ・マナドライヴ)》と同様、第一世代時代の封印された技術を使用して製造された物だ。故に現代の魔力融合炉を遥かに上回る力を持っている。だが、だからこそ、使い方を謝れば《再び》世界に災いをもたらす」


 ヘリオスのその言葉に、健太郎は違和感を覚えた。その言い方ではまるで、《古代魔力融合炉は、かつて世界に災いをもたらしたようではないか》、と。


「再び......?」


 思わずでた健太郎の呟きに、ヘリオスは静かに頷く。


「《デミウルゴス》」


 ヘリオスはその名を、口にする。


「デミウルゴス? それって貴族出身者で研究者っていう?」

「いや。そっちのデミウルゴスは関係ないよ。やつも『第一世代時代の事を知る人に名乗ったらよく勘違いされる』と嘆いているからな」


 苦笑し、


「デミウルゴス。それはかつて《三基の古代魔力融合炉を搭載し、世界を滅ぼしかけたMCD(かいぶつ)》の名前だ」

「三基の......《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を搭載した......!?」


 健太郎は思わず目を見開いた。まだ力のほんの一部しか知らない健太郎ではあったが、たった一基でもあれだけの力を発揮するのだ。それが三基集まった時のパワーは計り知れない。


「そうだ。元々、《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》とは《デミウルゴス》に搭載されていた物だ。かつて《デミウルゴス》を破壊した者がそこから三基の《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を取り出し、封印した」

「そしてそれが......再び掘り起こされた。でも、どうしてそれが俺達に託す事に関係するんですか? それなら尚更国に預けた方が......」

「いや。国で管理することは出来ない」

「どうして?」


 健太郎の問いに、ヘリオスは今度も目を伏せる。だが今度は、健太郎にはヘリオスが何処か悲しそうにも見えた。




「――――裏切り者がいるからだ」




「裏切り者......!?」


 繰り返すように呟く健太郎はその言葉の意味をゆっくりと考える。

 裏切り者がいる。

 故に《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を国で管理することは出来ない。

 つまり。


「誰かが三基の《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を使って、《デミウルゴス》を復活させようとしている......!?」


 それを肯定するかのように、ヘリオスは頷く。

 

「裏切り者がいる以上、国の研究所で管理すれば恐らく内部の犯行ですぐに奪われる。だが、外部ならばそう簡単には動けない。あれだけの物を強奪するとなるとMCDを必要とするからな。内部ならともかく外部の施設に対して強奪出来る程度のMCDを動かすとなれば目立つ。ならばあとは私が目を光らせておけばいい」


 この場合の目を光らせる、というのは恐らくヘリオスの使用する特殊な魔法か何かなのだろう。国で管理するにしても《目を光らせる》事が出来ないのは、内部であれば何らかの限定的な条件がかかり、不可能になるからだろうか。

 よくよく考えてみれば、殆ど未完成だった《オリオン・リゲル》が向けられた多くの敵を何とか退けられたのはヘリオスが《目を光らせていた》だったからなのかもしれない。


「......外部にも裏切り者がいる可能性はないのですか?」


 ここで、先程まで無言を貫き通してきたディオーネが口を挟んだ。


「ないな。いや、ない、と考えたい。預けたのはどれも私が信頼する所だからな」


 その中の一つに入っている事に誇りを持つ健太郎とディオーネだが、しかし健太郎としては託されたものの大きさに責任を感じてしまった。


「私は、それぞれ信頼する場に《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を預けると共に、いつか復活するかもしれない、復活させないための、《デミウルゴス》に対する対抗手段を構築したかった」

「対抗手段......」

「そうだ。お前達のMCD。今では《オリオンシリーズ》という名となっているものだ」


 いつか復活するかもしれない最悪の怪物。

 それを阻止するための対抗手段。

 オリオンシリーズ。


「三基ある《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》の内、搭載機二機が完成し、稼働している」

「二機? 俺達の機体以外にも、もう一機完成してたんですか?」

「ああ。現在稼働しているのはお前達の一号機と、別行動の三号機だ。《ノスタルジア》にあった二号機は襲撃事件の関係で作業が遅れてまだ未完成だがな」


 ヘリオスの想定した対抗手段は徐々に完成しつつある。

 だが、それで完全に驚異から逃れられているわけではない。今日のように狙われる危険性もある。


「健太郎。ディオーネ」


 名前を呼ばれ、二人はヘリオスのその何かを託すような眼差しを受け止める。


「《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》を、改めてお前達第零科に託したい。今の話を聞いた上で、私の我が儘を聞いてくれるか?」


 その言葉には「嫌なら断ってくれても構わない」というような物が含まれている。健太郎とディオーネは迷うことなく「はい」と返事をした。

 託されたものの大きさを、胸に刻みながら。

 

 その返事を聞いて、ヘリオスはただ素直に「ありがとう」と返した。そしてチラリと溶けて消滅した窓の外を見ながら、


「時に健太郎、ディオーネ。次の予選の準備は大丈夫なのか?」


 言われて気がついた二人は慌てて時間を確認する。

 

 第三予選開始まで、残り十分を切っていた。




 □□□




「俺だ」


 ヴァイス・サターンは裏道を走りながら、通信機に向かって話しかけていた。火傷が体を蝕んでいたが、その痛みも彼にとっては闘いによって出来たものであり、そうである以上、彼にはその痛みすらも快感となっている。


「......失敗したようだな?」


 通信機の向こうの男の声は明らかに不機嫌だ。だがそんなことはヴァイスにとってはどうでもよかった。彼にとっては闘いが出来ればなんでもよかったし、それさえ出来れば男の機嫌などどうでもよかった。彼とは、この国を、世界を壊すために手を組んでいるに過ぎないのだから。


「邪魔が入ったんだよ」

「招かれざる客というやつか?」

「招いていないのは確かだが、個人的には来てくれて嬉しかったね。ガキをいたぶるだけの仕事なんざつまんねぇからな」

「......ヘリオス、か」


 通信機の向こうの男がやはりか、という呟きを漏らしたのをヴァイスはききのがさなかった。まるで男はこうなることを予見していたかのようだ。


「で、どうするんだ?」

「決まっている。お前達が失敗した以上、警戒が強まるのは間違いない。ならば予定よりは早いが実行する」

「ようやくかよ。この数日、暇で死にそうだったぜ。まあ、そろそろ暇とも親友になれるトコだったんだけどな」

「だからそのストレスを発散する場所を与えてやろうというのだ」

「全部潰してもいいんだよな?」

「かまわん。ただし、《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》だけは確保しろ。あれは必要なものだ」

「へいへい」


 ヴァイスの顔は文字通り歪んでいた。

 これから始まるパーティに対して。

 楽しみで楽しみでしょうがなかった。


「太陽祭第三予選。そこに襲撃を仕掛ける」


 通信機の向こうの男の声を引き金に、パーティが始まる。


 悲劇という名のパーティが。









今回は少し早めに更新しました。


前に一ヶ月ぐらい更新出来なかったので。



本当に展開的に今までのノリでサブタイトルつけてると内容と空気違うみたいになってきた。



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