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異世界落ちこぼれロボット学科  作者: 左リュウ
第二章 太陽祭編
20/38

第十一話 主人公より脇役の方がやたらチートなのはよくある事

 太陽祭三日目。

 第零科の出展した露店の《ゲーム》と《プラモデル》は好評だった。アーケードゲームだけでなくその後に売り出した携帯ゲーム機を、《家でもゲームが出来る》という名目で売り出したことで更に売り上げがアップした。

 最初にアーケードゲームでその面白さ、楽しさを存分にアピールし、その後に携帯ゲーム機を売り出すことで一気に爆発させる。

 その作戦は大成功で、それに加えてMCD部門での第零科の活躍もあり、売り上げだけならば今回の太陽祭の中ではダントツのトップとなった。

 あとは審査員の評価待ちといったところで、そっちの方もあまり心配する必要がなさそうだ、というのが現状の第零科の考えだ。

 こんなことになるのは第零科の面々は勿論、街中の人間が想像もしなかったことなので、今年の太陽祭はかなりの盛り上がりを見せている。


「このまま何もなければいいんだけどな」


 と、在庫からプラモデルを引っ張り出す作業をしているテスカが呟いた。そのテスカの呟きに健太郎が反応する。


「どういうことですか?」

「今までバカにされていた俺達が急にこんなにも目立って、今まで俺達を散々バカにしていた学園の連中が良いカオするか? って話だ」


 テスカに「第二予選であれだけ派手に第一科の生徒をボコボコにしてくれたしな」、と付け足されて健太郎は思わず黙る。

 そんなことをしでかした当の本人だけにこの指摘は痛い。


「要するに言いたいのは人間、誰しもいつどんな行動を起こすか分からないってことだ。だから今みたいな成功して上手くいっている時だからこそ警戒しといた方がいい。学園連中だけじゃなくても妬んでいるやつはいそうだしな」

「そ、そうですよね」


 健太郎が危惧するべきは自身の身の安全だ。健太郎はパイロットだし、どんな妨害を受けるか分からない。そもそも健太郎は喧嘩すらまともにしたことのないのだ。

 その上まともに使えるのは加速魔法一つだけ。

 第零科の面々はその多くが他生徒との喧嘩などのいざこざで第零科にくるはめになってしまったメンツが多いので、多少の荒事には慣れている。

 だが健太郎は違う。

 おそらく第零科の中で最も弱いのは健太郎といえるだろう。


「......健太郎、お前、大丈夫か?」

「それをあえて聞きます? 秒殺される自信が余りありますよ」

「ディオーネに護衛でもしてもらうか」

「あ、それいいですね」

「お前さ、ここは『女の子に守ってもらわなくても自分の身はじぶんで守りますよ』とか『女を守るのは男の役目だ』とか言わねえのか?」

「ハッ。笑止。俺がディオーネに敵うわけないじゃないですか。むしろ俺が足手まといになりますよ?」

「胸はって言うなよ」


 ため息をつきながら作業を終えると、テスカが思い出したかのように健太郎を呼び止めた。


「おっと忘れるところだった。健太郎、空中換装システムの方はもう大丈夫だぞ。あとはテストをするだけだ」

「さっすがチーフ。仕事が早いですね。AGEシ○テムも真っ青ですよ」


 露店に関しては現在の所、第零科の圧勝ともいうべき状況だった。《この世界の物とは思えない発想(アイデア)》によって、審査員の評価もかなり高い事が予想されるし、恐らく歴代初の学生の露店部門最優秀賞を獲得することが出来るかもしれないと囁かれる程だった。


 だが、事態はそう簡単に進むことはなかった。




 □□□




 ハルトは、両手に大量の機械パーツの入ったダンボールを運びながら細い裏路地を一人で歩いていた。表は太陽祭によって人が大勢いるために混雑しており、そこを通ると時間がかかる。よって、こうして路地を通ることにしたのだ。それにこちらの方が近道でもある。

 午後には第三予選が控えているので、急いで学園のガレージにこのパーツを運ばなければならない。


(ったく、機械屋のオヤジめ。もう少しぐらい値切ってもいいじゃんかよ)


 と、心の中で文句をたれながらもきびきびと歩を進める。時間がないのは嫌でも分かっているので、何だかんだ言いながらもこうして学園に向かって歩いていくしかない。

 空から降り注ぐ太陽がじわじわと体に染み込むように熱が貯まっていく。それと同時に汗も少しずつ吹き出してくる。


「こりゃもう少し急いだ方がいいなぁ......このままじゃ暑さでやられちまうよ」


 と、ハルトが駆け足になろうとしたとき。


「?」


 目の前に突然、人が現れた。

 男か女かは分からない。

 何故ならば目の前の人は、こんな暑い日に全身に黒いフードのようなものを身に纏っているからだ。そのせいか体格や顔もあまり分からなくなっている。

 太陽祭の仮装か何かか、と思ったその瞬間。

 ハルトの意識は闇の中に消えた。




 □□□




 テスカは健太郎、クロードと共に学園のガレージに戻っていた。《オリオン・ベテルギウス》の新装備の最終チェックと整備が残っているからだ。だが直前になって足りなくなった機械パーツの買い出しに向かわせたハルトが一向に戻ってこない。


「ったく。ハルトのやつ、何処で油を売っているんだ?」

「どうしたんですか? チーフ」

「ん? ああ、機械パーツの買い出しに向かわせたハルトが戻ってこないんだよ。もう戻っててもおかしくない時間なんだけどな」

「まあ、何人かハルトを探しに行ったんだろう? 気にすることはない。こっちはこっちで作業があるのだから」

「......そうなんだけどな。何か、嫌な予感がするんだよ」

「君の勘は当たるからな。不吉だ」

「俺だって外れてほしいよ」


 ため息をつきながら、テスカは作業に戻ろうとしたその時、ガレージの扉が勢いよく開いた。ハルトか、とテスカが振り替えると、そこにいたのはハルトを探しにいかせたメンバーだった。


「ち、チーフ」

「どうしたんだ。そんなに慌てて。ハルトの野郎はどうした」

「そ、それが、あのっ、」

「お、表通りの、路地裏に、こ、これだけが落ちてて」


 別のメンバーが運んできたのは機械パーツの入ったダンボールだった。ハルトがこれを残して姿だけ消すとは考えにくい。

 ましてや時間がないことぐらいは分かっているはずだ。


「どうやら、君の勘が当たったようだね」

「ちっ。みたいだな」


 ハルトの行方は気がかりだが、今は時間がない。午後には最後の予選が始まる。だが、そんなことはテスカにとって、いや、第零科にとってはどうでもいい。消えたハルトの安否の方が最優先だ。


「人員かき集めろ! 今からハルトを捜索する! 騎士団の方にも連絡しろ!」

「了解!」


 全員が一斉に作業を止め、ハルト捜索に向けて動き出そうとした。


「待って」


 しかしそれを、ディオーネの一言が呼び止めた。


「皆は予選の準備を続けて。ハルトを探す必要はない」

「......おいディオーネ。お前がこの太陽祭を大事にしているのは分かるが、俺にとっちゃ大会よりも仲間の方が大事なんだよ」

「チーフ。私もそう。大会よりも皆の方が大事」

「だったらなんで......」

「ハルトは私が探す」

「......!? けどお前、一人でどうやって......」

「一人じゃないですよ」


 振り替える。テスカの視線の先にいたのは、健太郎だった。


「お前、」

「俺はぶっちゃけ、もう殆どやることないですし。あっ、でも機体整備はお任せすることになりますが」

「私の方もプログラムに関しては既に作業を終えている。この中で今、動けるのは私達だけ」

「それにハルトが見つかっても自分のせいで不参加なんてことになったらアイツ、責任感じちゃいますよ」


 二人に言いくるめられてぐっ、と押し黙るテスカ。その様子をみたクロードがため息をついて、


「プログラムの方が済んでいるのなら問題はない。が、僕もついていこう。君達だけでいかせて何かあったらいけないからな」

「ありがとう」

「ありがとうございます!」

「おいおい、何勝手に決めてんだ!? 時間がねえんだぞ!?」

「作業を全て中断するよりかはよっぽどマシだ。それにここのところはずっと忙しかったからな。皆の技量や土壇場での実力も上がってるだろう? ここの連中は元々、根性だけはあるからな。何とかなるさ」

「おまっ......はあ、もう。いい。さっさと見つけて帰ってこい」


 テスカの諦めたような声に送り出され、三人はガレージを飛び出した。




 □□□




 三人がやってきたのはハルトが運んでいたはずの機械パーツの入ったダンボールが落ちていた路地裏だ。既にここに痕跡と呼べるものは何も残っていない。

 

「ここでハルトが行方不明になったんだな?」

「みたいですね」

「追跡魔法を使う」


 ディオーネが術式を展開し、高位魔法である追跡系の魔法を使用する。ボウッとディオーネの瞳に淡い光が灯る。

 

「反応がある。こっち」


 再び、三人は走り出した。ディオーネの後を追うようにクロードと健太郎は走る。道はどんどん奥の方に進んでおり、進むにつれて人けのないような場所になっていった。


「どんどん怪しくなってきたな」

「ですね」


 進んでいく事に街の外に向かっている。ハルトが何らかの事件に巻き込まれた可能性が更に高くなってきた。

 しばらく走ると、今度は街の外れの広場に出てきた。いや、広場というより廃墟、廃棄されたスペースというような表現の方が近いのかもしれない。辺りには瓦礫が散乱しており、廃墟も近くに見える。


「怪しい失踪に怪しい場所。それに加えて、」


 クロードが鋭く視線を辺りに向けると、そこには黒い布によって身を包んだ何者かによって囲まれていた。


「――――怪しい一味か」

「な、何ですかこいつら!?」

「......隠蔽魔法で姿を眩ましていたみたい。ハルトは――――あの廃墟の中に反応がある」

「そうか。なら、先に行け」

「クロードさん?」

「大丈夫だ。それに時間もない。グズグズしている暇もないぞ」

「......了解」


 ディオーネは一言返事すると、術式を展開。直後、辺りを眩いばかりの光が覆いつくした。目眩ましによく利用される閃光系の魔法だろう。光が収まると、そこには既にディオーネと健太郎の姿はなかった。


「貴様......」


 フードの人物の内の一人が呟いたが、クロードにとってはどうでもよかった。眼鏡をとり、学生のポケットに終う。


「やれやれ。まさかこんな所で(コレ)を使うとは思わなかったよ」


 黒いフードの人物達は構え、その内の何人かはディオーネと健太郎を追いかける為に駆け出していった。ただ駆け出した訳ではない。加速魔法を使っての《加速》である。

 刹那。

 ディオーネと健太郎を追いかける為に駆け出した何人かの目の前に、《既にクロードが回り込んでいた》。


「なっ......!?」

「遅い」


 ゴッ。という鈍い音が響いたかと思うと、数人のフードの人物達の体は宙に浮き、地面に叩きつけられていた。


「騎士団には既に連絡を入れてある。ここに来るのも時間の問題だが、どうやらその必要も無かったのかもしれないな」


 言うと。


「俺の後輩に手を出してくれた礼だ」


 クロードは自身のその()を解放する。


「悪いが時間がないんだ。全員纏めてかかってこい」




 □□□




「クロードさん、大丈夫なのか?」

「問題ない。あの人は十分に強いし、()もあるから」

「眼......?」


 クロードの眼といえば女性のスリーサイズを目測で完全に解析してしまうぐらいしか聞いたことが無かったのだが、果たしてそれが役に立つのだろうかと健太郎は一瞬だけ疑問に思ったのだが、今は時間もないし、心配していても始まらない。それに何よりディオーネが問題ないというのならば信じることにした。

 廃墟の中は思ったよりも広く、ディオーネの案内なしには確実に多くの時間を浪費しただろう。


「この部屋」

「ここに、ハルトが......?」

「そう」


 ディオーネは肯定するようにこくりと頷く。


「どうやって中に入る? 正面からいくか......それともなんか、こっそり潜入出来るような魔法とか?」

「勿論――――、」

「......え?」


 すると、ディオーネは右手の手のひらを正面に向けたかと思うと、その手のひらに術式が展開し、次第に紅蓮の光が収束していく。


「――――正面から」


 次の瞬間。

 轟音と共に健太郎の目の前の壁が派手に吹き飛んだ。


「ちょっ!?」

「!? 貴様らッ......!?」

「けんたろー、来る」


 ディオーネの予告した通りに、さっきの広場で自分達を囲んでいた黒いフードの人物達が目の前から襲いかかってきた。手には全員カットラスを手にしている。


「......うっ!?」


 反撃に出ようにも健太郎の武器は加速魔法一つしかない。どうする、と思った時に、健太郎はある違和感に気がついた。


(なんだこれ......動きが、遅い?)


 健太郎は無意識の内に加速魔法を発動。同時に相手の懐に潜り込み、拳を叩き込む。そして相手が倒れるよりも速く、次の相手の懐に潜り込み、拳を叩き込む。


「遅すぎる......!」

「このガキ!」

「......!」


 集中する。

 相手が振るうカットラスの軌道も、スローモーションのようにゆっくりと見える。健太郎はそれを軽々とかわし、反撃の拳を叩き込む。


「がはっ!?」

(あと三人......!)


 同じくカットラスを手に襲い掛かってくる三人の人物達に向かって健太郎は駆ける。いや、声からして人物というより男達だろうか。

 加速魔法を発動させた健太郎は一瞬の内に消えた。そして三人の男達の間に風が駆け抜けた。

 音もなく倒れる男達の背後には、健太郎が立っているだけだった。


「ぷはっ! な、なんだったんだ今のは......」


 健太郎本人はまだ知る由もなかった事だが、現時点において加速魔法だけならば健太郎は既にかなりのレベルに達している。

 そして体がその速度に慣れてしまった為に、集中力を発揮した際に、あの男達程度のスピードでは遅く感じたというだけだったのだ。

 

「いやぁ、お見事お見事」


 ぱちぱちぱち、と。

 部屋の中に拍手のような音が響き渡った。音のする方向に振り向くと、そこには一人の青年だった。歳は二十歳ぐらいだろうか。先程の男達と同じ黒い衣を纏っているが、フードを被っていない。金色の長髪を後ろで雑に束ねており、楽しそうな笑みを向けながら拍手していた。


「ガキの誘拐だと聞いたときは随分とくだらねぇ仕事だと思ったが、存外そうでもないらしい」


 ニヤリと不気味な笑みを向けるその青年に対して、ディオーネはただ一言。


「......ヴァイス・サターン?」

「お? 俺を知ってるのか? 痕跡は消せるだけ消したんだけどな」


 ヴァイスは面白い物を見つけたかのような表情(カオ)をして、ディオーネに視線を向ける。


「ヴァイス・サターン!? エルナの言っていた......!?」

「エルナのお友達か? ははっ。成る程。情報源はそこか」


 まあいい、とヴァイスは自分の近くにあるロッカーまで歩くと、その扉を開く。

 乱雑に開けられたロッカーの中から倒れるように出てきたのは、


「ハルト!? やっぱり、お前らが......!」

「そう熱くなるなよ。俺だってガキにこんなことをしたかねぇよ。それに何も今すぐ殺そうってわけじゃない。こいつは取引の材料に使うだけだ」

「取引......? 誘拐したり、学生相手に随分と大袈裟だな」

「まったくだぜ。だが、おまえらも学生にしちゃあ随分な物を持ってるじゃねーか」

「......?」


 健太郎は眉を潜めた。対するヴァイスはニヤリとしながら、告げる。


「こっちの要求はただ一つ。お前らの持っている《古代魔力融合炉(エンシェント・マナドライヴ)》と、このガキのトレードだ」






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