第三話 万能機も良いけと近接戦特化とか遠距離射撃特化とか、特化型の機体ってロマンを感じるし萌えるし何よりかっけー
新しい機体が組み上がり、今度は太陽祭に備えた調整が必要になった。太陽祭ではヒュペリオンの国中から首都アポロンに人が集まる。そして審査自体は都外で行われる。
つまり今回は外に備えた調整が必要になるということだ。模擬戦の時とは違い、太陽祭の予選では環境に適した調整が必要となるので、こういった外での調整は必須となる。
《露店部門班》の方は順調に事は進んでいた。
まず手始めにアーケードゲーム製作に移り、筐体を製作し、肝心のゲーム部分は操作魔法や幻影魔法などを組み合わせる事で完成には至らないが徐々に形になりつつはあった。
とはいえ、授業がない第零科にMCD関連はともかく魔法関連の技術は難しいのでディオーネに任せる部分も多い(それ以外はクロードが行っているが、精度に関しては第零科においてディオーネの右に出る者はいない)。
今日は、《オリオン・ベテルギウス》の調整の為に健太郎は都外に出ていた。模擬戦で闘った荒野に機材を出し、《オリオン・ベテルギウス》が方膝をついた状態で鎮座していた。
コックピット内では健太郎とディオーネが機体の状況を確認して、調整に備えている。
《オリオン・ベテルギウス》もアケコン対応型ではあるが、今回は通常の操作に慣れるために本来の操縦捍での操縦に戻している。
「よし。こっちはOKだ」
「......こっちも問題ない」
「おい健太郎。今度はちゃんとしてくれよ?」
「わ、わかってますよ」
と、ホロパネルから前回のような失態を危惧しているのはテスカだ。
あの《壁面激突事件》以来、健太郎は学内でも《壁面男》として名を馳せている。
「つーかアレですか、壁面男って完全に顔の事言ってますよね。俺の顔をモロに壁面って言ってますよね」
「......まあ、その、なんだ。気にするな」
「否定してくださいよぉぉぉぉぉ! その《顔が多少壁面でも気にするな》的な慰めは止めてくださいよぉぉぉぉぉ! そこはちゃんと《そんなことない。お前の顔は壁面じゃないぜ》って壁面否定するのがフォローってもんでしょうよ!」
それから色々とあり、ようやく調整が始まった。
今回の調整は、あらかじめ決められたコースを歩き、首都アポロンまで戻ってくるというものだ。
まずは荒野を歩き、途中で森にへと入り、森の中の折り返し地点から再びまた同じ道を通って首都まで帰還する。
その道中で実際に外の環境で不備が出ないかなどを確認するのと、太陽祭の一次審査であるレースのコースの下見も兼ねている。あまり長い時間を要することが出来ないので全てのコースを見るわけではないが。
《オリオン・ベテルギウス》の調整であるこのウォーキングには勿論、技術スタッフも付き添い、機材を乗せた大型のトレーラーで付き添う。
「よし、始めてくれ」
「了解」
「了解」
テスカの合図に健太郎とディオーネは返事をする。同時に健太郎は機体を動かし、《オリオン・ベテルギウス》はゆっくりと歩き出した。
コースは魔獣や魔人が滅多に出ることのない所になっている。荒野を抜け、森の中に入っても、機体に不備は見られず、調整は順調に進んでいた。
健太郎もアケコン使用時程ではないが、機体の操縦にも慣れてきている。
全てが順調に進んでいた。
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エルナ・ヴェノーラは今年で十八歳になる。
綺麗な金色の長髪を後ろで纏め、その宝石のような輝きを持った碧眼を両親に誉められて子供の頃に嬉しがっていた記憶もある。
普通の家庭に産まれ、魔法に関しても普通に学園のカリキュラムをこなして、普通の成績を叩き出していた。
ある時、父親の友人である国王軍に所属している人からMCDの操縦を少し教わり――――そして完全に乗りこなせてしまった。
その時はまだエルナは十二歳で、思いがけない所で思いがけないその才能を発覚した。以降、天才MCDパイロットとしての才能を開花させてゆき、今に至る。
今はある事情、もとい、理由によって太陽祭の開催地である首都アポロンまでMCDを駆りながら移動していたのだが――――、
「くそっ。まさかこんな所で魔獣に出くわすなんて......!」
魔獣にはいくつかの種類に分類される。
獣型。
複合獣型。
幻想獣型
この種類は同時に魔獣の中でのランクを表しており、最下級の獣型、中級の複合獣型、上級の幻想獣型となっている。
更にそれぞれのタイプの魔獣はやがて進化を果たし、最上級の存在である――――魔人にへと進化する。
「しかも今、追いかけてきているのはよりにもよって複合獣型......これは一人でなんとかできる物じゃない......!」
魔獣を相手にして一対一で倒すには不可能ではないが、ある程度の機体性能とパイロットの技量が必要とされる。
獣型ならばそれらが揃っていれば出来ない事もないが、複合獣型に関しては本来ならば複数......その魔獣の強さにもよるが最低でもニ、三機のMCDが必要となる。
今、彼女の機体が疾走しているのは森の中だ。もうすぐ荒野にへと抜けるとナビは示唆しているが、それまで逃げ切れるか分からない。
敵の複数獣型はぱっと見は狼のような姿をしているが、背中の右片方だけ翼を生やしている。
大きさは約二十メートル程で、MCDよりやや大きい。だが、そのスピードはエルナの駆る愛機である《カトル・シャウラ》と同等――――いや、やや遅いが、振り切れる程度でもない。
更に魔獣は翼を振るう事で刃ような物を放って、尽く《カトル・シャウラ》を牽制し、《カトル・シャウラ》の自慢である機動性を封じてこようとする。
「せめてあと一機......あと一機、他の機体がこの場にいれば......!」
エルナはそう願いながら、必死に魔獣の追撃をかわしながら、森の中を駆け抜けた。
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調整も順調に進み、ようやく折り返し地点にまでやってきた所で、健太郎とディオーネはその異変に気づいた。
「......ん?」
「けんたろー......」
「ああ、分かってる。これは......」
と、二人が互いにその異変について眉を潜めていると、テスカがホロパネルの向こうから呼び掛けてきた。
「どうした二人とも。何かあったのか?」
「いえ......実は救難信号が出てるんです」
「救難信号だと?」
「はい。しかもその救難信号......ずっと動いてて、こっちに向かってるんです」
「そりゃどういう事だ?」
「さあ......」
「......もしかしたら、魔獣に終われているかもしれない」
「魔獣? しかし、この周辺には現れないはずだが......」
ディオーネの言葉に顔をしかめるテスカ。だが健太郎は、
「ちょっと見てきます。万が一、という事もありますし、救難信号も気になります。テスカさん達は戻ってください」
「分かった。気を付けろよ」
「はい。行こう、ディオーネ」
「......うん。行こう」
健太郎は機体を加速させ、救難信号のポイントまで向かった。信号は依然としてこちらに向かっており、その距離は近い。
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「あれは......?」
しばらくして、健太郎はこちらに向かってくる一機のMCDの姿を見つけた。距離はまだ離れているが、拡大すればその姿がハッキリと見えた。
騎士の鎧のような物を纏った姿をしたその機体は全体が赤黒い色を基調としており、右手にはレイピアを持っていた。鎧のような装甲は全体的にほっそりとしているが、右腕には何かの武装が施されており、左手も右手に比べてややゴツゴツとしている。
更に蠍の尾を彷彿とさせるような武装が装備されていた。
そして驚くべきはそんな騎士の背後から一匹の獣――――狼のような姿をし、背中の右半身には片方だけの翼を持った複数獣型の魔獣が騎士を追いかけるようにして疾走していた。
魔獣に関しては知識のみあった健太郎だが、こうして実際に見るのは始めてだ。
「あれが、魔獣......!?」
驚く健太郎に、突如コックピット内に通信チャンネルが開き、ホロパネルが展開される。そのホロパネルの向こうにいたのは金色の髪をした碧眼の少女だった。
「ちょっと、あんた、救難信号を見て来てくれたの!?」
「え?、あ、は、はい」
「よかった、ならコイツを倒すのを手伝って!」
「......はいっ!?」
「私一人じゃキツイんだってば! 相手の気を引くだけでいいから、お願い!」
「それって要するに囮かよ!?」
「けんたろー......どうするの?」
「......まあ、見捨てるのも気分悪いしな......それにこのまま逃げ切れるかも分からないし、やるしかない、か......」
「決まりね! ありがとう!」
そうこうしている間にすぐそばまで《カトル・シャウラ》がやってきた。振り返り、《オリオン・ベテルギウス》と共に並び立つ。
「私に策があるから、あなたたちは敵の足止めをお願い出来るかしら」
「......努力はするよ」
「わかった」
健太郎は機体の操縦形態をアケコン型にへとシフトさせる。まだこっちの方が戦いやすいし、生き残る可能性が高い。
「来るわよ! あの翼に気をつけて!」
「翼?」
瞬間、複数獣型の片方しかない翼が大きく振るわれ、その直後に光る刃のような物が放たれた。
「ッ!?」
健太郎はステップでそれをかわし、同時に宙返りを決めてニ撃目を回避する。地面に突き刺さった刃はすぐに砕けて消えた。
「魔法、か......!?」
「けんたろー、次が来る」
「ッ!」
地面が影に覆われたかと思うと、今度は魔獣が跳躍し、その鋭利な刃を持った腕を降り下ろす。
《オリオン・ベテルギウス》と《カトル・シャウラ》は同時に後方に飛び上がり、その一撃を回避する。ギャリィッ!! という音が炸裂し、地面が深く抉られたのが確認できた。
(あんなのに捕まったら、《カトル・シャウラ》じゃ耐えきれない......!)
《カトル・シャウラ》は大した遠距離戦用装備をもたない、言うなれば超近接戦用の機体である。
一気に相手の懐に飛び込み、レイピアで貫く。
そういった戦い方を最も得意とするが故に機動力を上げる必要があり、結果的に軽量化の為に機体の装甲も薄くなった。
(けど......)
だがそれでも、策はある。
しかし、それを実現するには敵の足止めを行わなければならない。
今、自分と共に戦ってくれている《オリオン・ベテルギウス》がどこまで出来るか分からないが、ここは信じるしかない。
エルナはこの状況を打破するその時が訪れるまで、耐えるしかなかった。
対する《オリオン・ベテルギウス》の健太郎は焦っていた。
「足止めっつったって......!」
現在の《オリオン・ベテルギウス》の手持ちの武装は《ダガーブレード》を二本と、あと一つの武装しか持ち合わせていない。強いていうなら後は追加装甲だけだろうか。
本来ならばあともう一つ種類の武装を追加する予定だったのだが、今日には間に合わなかったのだ。
「けんたろー......」
「......分かった。やってみる」
ディオーネもどうやら健太郎と同じ策を考えていたようで、二人の意思は合致していた。
健太郎は機体を加速させ、魔獣にへと突っ込んでゆく。
「ち、ちょっと! アンタ達、何をする気!?」
エルナの悲鳴のような声を背に、《オリオン・ベテルギウス》は尚も加速する。その期を逃す魔獣ではなく、翼から放たれた刃が放たれ――――、刃は一本残さず、《オリオン・ベテルギウス》を捉えていた。
串刺しのようになった機体をその宝石のような瞳に焼き付いたエルナは、ただただ絶望によってその心を塗り潰されるしかなかった。
今回登場した《エルナ・ヴェノーラ》と《カトル・シャウラ》は猫神 寝転さんが考えてくれた物です。
現在、活動報告にて《異世界落ちこぼれロボット学科》に登場させるMCDを募集しています。
詳しくは活動報告にて。




