第二話 最近のネトゲにはキリトさんが溢れてる
ついでにいうとアスナさんと血盟騎士団も溢れてるらしい。
面にドラクエで。
太陽祭に向けての目標が定まり、第零科の面々は動き出した。まず、《露店部門班》と《MCD部門班》に別れる事にした。当然ながら、最優先は《MCD部門》になるのでそっちの方に人員を多目にさく。《露店部門班》は少数でもやれないことはないと健太郎が申告したので、健太郎を入れて十人で取り組む事になった(その中にはクロードも入っている)。とはいえ、部門別に別れたといって一切ノータッチ、というわけでもない。あくまでも、出来るときは手伝うというスタンスで挑む。
太陽祭まで三ヶ月。
健太郎達、《露店部門班》はなんとか出品する作品を作る、というわけではなく、どれだけ多くの作品を作れるかが勝負だ。
ディオーネ達、《MCD部門班》は模擬戦の時と同様、完成を目指す。しかし、太陽祭の《MCD部門》の審査は実践形式に近い。
審査は地上と水中で行われる。
一次審査は陸上でのレース。決められたコースを走り、タイムを競う。
二次審査は予め隠されたフラッグをいち早く入手するのを競う。
三次審査は水中で、二次審査の時と同じくフラッグを入手するのを競う。
そして最終審査は一次から三次までの審査で残った三機のMCD同士で模擬戦を行う。その中で勝ち残ったMCDが晴れて最優秀賞を得る事が出来る。
よって、今回の場合はただ作れれば良いというわけではなく、戦闘、地上、水中、そのどれにも対応出来なければならない。
実践では地上専用機、水中専用機などのMCDもあるが、今回の太陽祭では技術力も審査される。よって、審査の条件にどれだけの工夫を凝らして対応してくるか、も審査基準に含まれるのだ。
「《MCD部門》は大丈夫なのか? 何とかなりそうか?」
「大丈夫。ずっと前から構想はあった」
「そうか。ならよかった」
今、健太郎とディオーネがいるのは第零科のガレージである。現在、太陽祭に向けてMCD開発が行われており、ガレージ内は活気に溢れている。
あの時――――、健太郎が召喚された時にまだまだ作りかけ感の否めないフレームが露出されたMCDは《カリナス・カノープス》のデータも組み込まれ、順調に開発は進んでいた。
ホッとした健太郎はガレージを立ち去り、《訓練》の為に外に出た。倉庫裏までやってきた健太郎はここ最近行っている《訓練》を始める。
「集中、集中、集中――――、」
棒立ちになりながらブツブツとここ最近、既に癖になりつつある言葉を口にしながら文字通り集中する。
健太郎が今行っているのは加速魔法の訓練だ。
カッコいいから、という安直な理由で選んだ加速魔法だが、これが中々難しく、日々健太郎は苦戦しながら訓練に勤しんでいた。
「加速のイメージ......速くなる自分を思い浮かべて......」
魔法を扱うにあたって重要なのはイメージ力だ。
その魔法に必要なイメージを強く思い浮かべる事が最も大切な事であり、故に魔法は《心が生み出す奇跡》などとも呼ばれる事もある。
十分にイメージをしてから術式を構成し、発動。
そして、足を踏み出す。
「――――ッ!」
ジャリッ! と、ほんの一瞬だが、健太郎の体が通常の三倍程度に増加し、加速した。まだまだ持続時間、加速率も大した事はないが、日々微弱ながらも着実に成果は出つつある。
ほんの一瞬とはいえ、自分が《魔法》という異能の力を発揮できた事に喜びを感じ、健太郎は歓喜によって満たされる。
「うおー、すげー! 俺、魔法使ってるよー!」
発動する度に一々喜んでいるが、すぐまた訓練に戻る。その一つ一つの努力が実を結ぶのは――――、まだ先の話である。
□□□
訓練を終えた後、戻ってきた健太郎はミーティングルームにへと向かった。その中では、今回の太陽祭の《露店部門》に出品する作品製作に必要な下準備を行っている。
そんなミーティングルームの扉を開けると――――、複数の男達が、一斉にPLPの画面に向かってカチャカチャとゲームに勤しんでいた。
「せんせー! このバカが強機体ばっかり使って全く勝てません!」
「バカ野郎! 相手が強機体厨だからって諦めんな! 根性を見せろ!」
「はいっ!」
「せんせー! ビームラ○フルを連続して撃てません!」
「またお前か! いい加減ズンダぐらい覚えろ! ズンダはこのゲームの基本だ! BR>>BR>>BRで出せるっつってるだろ!」
「はいっっ!」
「せんせー! 一緒に組んでるやつが地雷過ぎるのでイライラします! ............この雑魚が。弱いくせにでしゃばんなよ」
「おいばかやめろ! お前みたいなのがいるから初心者お断りゲーとか言われるんだよ! そういうのは心の中に閉まっておけ! ............まあ、気持ちは分かるとだけいっておこう」
「せんせー! 強機体で初心者を狩るのがウマ過ぎます!」
「この初心者狩が! お前みたいなのがいるから(ry」
今回、第零科が出品するのは《ゲーム機》と《プラモデル》である。プラモデルに関してはある程度目処がついているのだが、問題はゲーム機の方だった。
MCD同士の対戦型アクションゲームを予定していた。健太郎が持ち込んできたゲームを元にして製作しようとしたのだが、クオリティの高い物を製作する為に、ある程度ゲームシステムを理解する、また、ゲームに対しての理解を深めるために一度、ある程度ゲームをやり込む必要があるという健太郎の方針により、《露店部門班》全員でゲームに取り組む事となった。
(まさか持ってきたPLP十個をフル稼働する事になるとはな......お陰で俺がゲーム出来ない......ロボゲーが......ギャルゲーが......)
この間、健太郎が行うのはゲームに登場させるMCDを選ぶ事だ。図書館から借りてきたMCDの図鑑のような物を参考にしながら考える。同時に、どういった技にするかも考えなければならない。
とはいえ、基本的には割と最近の物が多くなる。
映像資料が残っているのが最近の物が多いからだ。
色々と借りてきた資料を探っている内に、健太郎はある一つのページに目を止めた。そこにはMCDの歴史のような物が載っていて、最初期――――つまり、世界で一番最初に開発されたMCDの姿が載ってあった。
「世界最初のMCD......」
詳細は乗っていない上に姿が載っているのは絵だけだ。そもそも九百年前の機体なので情報が曖昧なのも仕方がないのかもしれないが。
人形のフォルムは今と変わらない。ただ、背中には巨大な太陽のような物が描かれている。
「――――《アポロン》。それが、その機体の名前だ」
と、健太郎が本を読む横でそう言ったのはクロードだ。
「今から約九百年前。この国は魔獣や魔人達によって人々は苦しめられていた。そしてそんな状況を打開するために当時の国王は《召喚魔法》を研究し、そして異世界から勇者を召喚する事に成功した。その勇者によって開発された世界最初のMCD、それが《アポロン》だ」
クロードはゲーム機に目を向けながらも、淡々と健太郎に《アポロン》について語っていく。
「初代勇者によって開発された《アポロン》は一万もの魔獣や魔人を殲滅し、この国を平和へと導いた後に、突如姿を消した。それ以降、《アポロン》が姿を現した記録は残されていない。歴史上、最強のMCDとして未だにその名を残している」
「最強の、MCD......?」
「まあ、伝説によれば一度の戦闘で一万もの魔獣や魔人を殲滅しているとされているからな。現代においてもそんなパワーを持ったMCDは開発されていない。それに、《アポロン》はオリジナルの魔力融合炉を有しているとされている」
「オリジナル? 今の魔力融合炉は違うんですか?」
「今の魔力融合炉は《アポロン》の持つ魔力融合炉のコピー......いや、劣化版といえる物だ。《アポロン》が姿を消した時点で残されていた技術ではオリジナルの再現は出来なかった」
「オリジナルの魔力融合炉か......一体、どんな物なんでしょうね」
「さあな。まあ記録によればオリジナルは《無限魔力融合炉》と呼ばれ、魔力精製スピードや魔力の出力などが無限に増大してゆくという物だったらしいが......まあ、真偽は定かではないけどね」
そのタイミングで、クロードの持つPLPの画面にWINという文字が表示された。
□□□
フォルセティ城の王室。王の玉座につくヘリオスに対して、一人の女性が駆け寄った。前回、健太郎とディオーネをこの場に案内した、フレアという名の女性である。
「どうしたフレア?」
「ヘリオス様、たった今、少し気になる情報が」
「なんだ?」
「......今年の太陽祭ですが......どうやら海賊が襲撃を企てていると」
「海賊? 太陽祭にか」
「はい。上位三作品のMCDを強奪しにくる、と」
「ふむ......」
ヘリオスは手を口に当てて考える。確かに海賊の襲撃は気になる。しかし......、
「海賊の狙いは......《本当に太陽祭の作品だけ》か?」
「そこまではまだ......奴らがアレの存在に勘づいた、とお考えに?」
「まあ、な......太陽祭の作品だけを狙うならまだマシだ。だが、万が一アレが奪われた場合......この国、いや、《世界が終わる》。用心するに越した事はない」
「どうします?」
「下手に警備を動かしてその流れを不信がられても困るしな。いざとなれば私が動く。そっちの方が速い」
「......分かりました」
国王に使える一兵士として、国王自らが動くという事に関しては言いたいことがあったが、《そっちの方が速いのは確実だ》。
彼女に出来るのは、極力そうならないように警備を強化することだけだ。
「今年の太陽祭は......一波乱あるかもしれんな」
ヘリオスは窓の外を眺め、波乱が来る事を予感しながら空を見上げた。
□□□
一ヶ月後。
第零科の《MCD部門》に出品するMCDが完成する。とはいえ、あくまでもまだ機体だけでまだ予定プランは二段階残されている。
合計三段階ある内の一段階目が完成しただけだ。
だが、この大きな山場である一段階目であるMCDの完成には到達した。
元々これは第零科が前々から取り組んでいた物だったので、機体自体は予定よりも早い完成となった。
ガレージに連れてこられた健太郎は、その姿を目にする。
全体的なカラーリングとしては、黒色が目立つ。黒い機体のラインはメタリックパープルにカラーリングされており、どことなく《シュトルム/トルンプフ》を彷彿とさせる(というよりもこのカラーリングとデザインは健太郎が考えた物だ)。
注目すべきはその機体の姿だ。
機体全体には追加装甲が施されており、その形状はロングコートに似ている。脚の部分に関してはコートが可動の邪魔にならないようにフレキシブルに可動するようになっている。右肩は紅色に輝く
結晶のような物が嵌め込まれており、更に頭部はハットの帽子を被っているような形になっており、明らかにこれまでのMCDとは外見的な意味で違う。
「ふう。何か作っといてなんだけどよ、本当にこんな外見でよかったのか、って思うぜ」
と、言うのはテスカである。
それに対して健太郎が、
「いいんですって。それにこれが今の流行りなんですよ。《ソー○アート・オ○ライン見てネトゲはじめました^^》とか言ってるやつがどれだけいると思ってるんですか。ド○クエⅩに至っては今や三百人以上のプレイヤーネームが《キ○ト》かそれの派生系なんですよ。それぐらいのビックウェーブなんですよ。乗っかれるだけのっかっときましょうよ。それに何だかんだ言って黒のロングコートなんていう厨ニアイテムとかカッコいいにも程があるじゃないですか」
「まあ、太陽祭の審査は何気に見た目も大事ッスからね。過去に奇抜なデザインと仕掛けのMCDが《アイデア賞》を貰った例もありますし」
と、ハルトが何気ない太陽祭の歴史を語っていると、健太郎はふと大事な事を思い出した。
「そういえば俺――――、まだこの機体の名前を知らないんですけど」
「名前はもう決まってる。いや......決まっていた」
ディオーネがようやく作り上げた機体を眺めながら呟く。
「――――《オリオン・ベテルギウス》。それが、この機体の名前」
「《オリオン・ベテルギウス》......」
健太郎は機体の名を繰り返し呟いた。
方膝をついた待機状態にある機体の紫色の両眼が、怪しく輝いたような気がした。
ようやく主人公機が登場!




